Fate/stay alive   作:伊良部修平

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1日目 第1戦 3rdウェーブ⑧幕間

※ジョエルの視点

アサシンの消滅を確認し、ジョエルは背中から生えている尻尾へ消えるよう念じる。

すると尻尾自体もそれに応えるように赤黒い煙となって霧散し、ジョエルの身体の中に帰っていった。

――心臓は、問題なさそうだな。

胸に手を当てて、アサシンから受けた宝具のダメージを確かめると、心臓は未だ早鐘を打ち続けてはいるが、正常に動いているように思えた。

あの瞬間、アサシンの魔手に触れられ、心臓が握り潰されると悟ったが、どういう理由(わけ)か破壊されずに済んだ。相手に向けられる悪意を正確に感受できるジョエルは、戦いの最中、自身より強大な存在であるアサシンの思い描く殺すイメージが、直接幻痛となって届いていた。

しかし、現実はそうならなかった。

実際に宝具を受けて、自身の心臓が内側から握られたような圧迫感もあったが、潰れるまでには至っていない。結果、今まで感じていた幻痛のおかげで物怖じせずに、間一髪ながらもアサシンを屠ることができた。

どうしてこの状況になったのかは、当のジョエルも理解できずにいる。

もし説明できる者がいるとすれば、それはジョエルを『今の状態』にした本人くらいだろう。

「うっく……っ!」

度重なる戦闘で、いよいよ体力の限界に達し、一瞬だけ意識が飛びかけた。

反射的に地面を踏みしめて、ガクガク震える膝が崩れぬよう必死に耐える。

――ここで弱みを見せるわけにはいかない。

周囲には、まだ他陣営が斥候として放った使い魔が複数いる。

彼らは今もこうして勝ち残った陣営から、少しでも有益な情報を得るために存在している。

だが、この戦闘が始まってから今に至るまで伝わってきていた、こちらを探るような気配が少しばかり散漫になっていると感じられた。それはおそらく、ジョエルが単身でサーヴァントを撃破したことに、他陣営も少なからず驚いているからなのだろう。

――なら、どうする?

ジョエルにとって、これ以上継続して戦う余力は残っていない。

次に襲撃を受ければ、確実に敗北する。

もちろんサーヴァントという切り札は持っているが、サーヴァントを運用するには膨大な魔力が必要になる。

本来、人類史から呼び出された存在であるサーヴァントは、要石としての役割を持つマスターの存在と、肉体を維持するための魔力がなければ、現世に留まることができない。

戦闘となればマスターからの魔力供給が必需となり、それ無しで戦えばあっという間に魔力が枯渇し、先程のアサシン同様に光となって消えてしまう。

魔術世界では当然のことだが、現代を生きる者が魔力を得る場合、自然界から得られる『マナ』と自身の生命力を変換して得られる『オド』の二種類あり、ジョエルは後者しか扱えない。

ジョエル自身、それを生成する魔術回路が貧弱であることを自覚しているので、サーヴァントを本気で戦闘させれば今度こそ死にかねない。

 

 

「――ちょっと、大丈夫?」

気付くと、心配そうにこちらへ近づいて来るセナの姿があった。

「近づくな!!」

ジョエルは怒鳴り声を上げた。

未だ自身の周りを漂う赤黒い瘴気は、サーヴァントだけでなく人間にも害を及ぼす。

むしろサーヴァントが正気を失う程のモノを、人間が触れれば有無を言わさず死に至るだろう。

怒声が響き、ビクリとセナが体を震わせて立ち止まると――、

「そうそうー、今の彼に触れたら……」

突如、何処からともなく、白髪の少女が現れた。

白と黒を基調とした、19世紀パリの高級娼婦を思わせる艶めかしい服装で、さも嬉しそうにジョエルとセナの間を割って入る。

「君ぃ死んじゃうよー?」

長い髪を揺らして腰を曲げ、嘲るような笑みを浮かべながらセナに警告した。

セナは一瞬、目の前のにいる少女が歓楽街から迷い込んできたのかと思ったが、外から見ても銃撃があったと確認できる荒れた建物に入ってくるわけがないと、即座に考えを改める。

少女の笑みは一見悪戯っぽく笑う子供ように見えなくもない。

だが、その奥に潜むドス黒いモノは、ならず者が絶えず蔓延るこの町の人間でも浮かべない醜悪さを内包している。

「あんた……、何なのよ……」

少女はセナの問いに意を介さず、ジョエルの方へと向き直る。

「二年ぶりだね、ジョエル♡」

「……何をしに来た?」

ジョエルは顔を顰めながら問う。

「何を――って、君を称えに来たのさ!」

大袈裟に両手を広げて少女は高らかに謳う。

「人がサーヴァントに勝つということはね、偉業と言っても過言じゃないくらいに凄いことなんだよ! 過去に行われた聖杯戦争の中でも、マスターが単身で撃破した例は殆どなくってね。まあそもそも、サーヴァントと生身でやろうと考えないからね♪」

嬉々として少女は、ステップを踏みながら語る。

「一番の理由は、サーヴァントの肉体に宿る神秘を突破する術が無いというのが要因なんだけど、君の中にある『それ』は致命傷を与えられる――とは言っても、当たらなければ意味がない! 戦力差で例えるなら、旧式のRPG(ロケットランチャー)一丁で最新鋭の戦闘機に勝っちゃうぐらいにイカれてるよ♪♪」

のべつ幕無しに続けていると、何かを思い出したか、ハッと我に返る。

「あぁ~いけないいけない♪ 君を前にしていると、色々と我慢できなくなっちゃよ♡」

パンパンと場を切り替えるように手を叩いた。

「さてと♪ 心躍るデモンストレーションはこのくらいにして、そろそろ開会式と行こうじゃないか!」

「……開会式?」

「そう! 折角の聖杯戦争だからね♪ アサシン君は先に負けちゃったけど、こうして他のマスターさん達も見に来てくれたんだし」

少女がそう言うと、今まで隠れ潜んでいた他陣営の使い魔たちが一斉に動き始めた。

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