少女の言葉と共に、屋外からこの半壊した店内に鳥や犬、狐といった動物が次々と入ってきた。
火薬や硝煙などの野生の獣ならば決して近寄らない臭いが充満しているにも関わらず、動物たちは我が物顔で居座っている。
その奇妙な光景を目にしたセナは、理解が追い付かず狼狽する。
少女は周囲を見渡してから、前が露わになったサイドスカートの端をつまんで優雅に一礼し、口上を述べた。
「――此度は、聖杯戦争に参加していただき、心より感謝申し上げます」
先程の道化のような軽薄な笑みから、作り物の人形のような無機質な表情へと変わる。
「万能の願望機に選ばれし『9人』のマスターには、この宣言が終わったと同時に、残り人数が2人になるまで殺し合いをしていただきます」
元祖にして最高峰と称される冬木の聖杯戦争でも、選ばれるマスターと召喚されるサーヴァントはそれぞれ7枠。その異常とまで言える今回の参加数を、マスターたちは正式に『運営側』から伝えられていた。
ジョエルも別ルートで入手していた情報だったので、別段驚きはしなかった。
「聖杯に注がれる英霊の魂は、冬木のモノと変わらず7騎となっております。各マスター様はご自身とフィーリングの合った同盟者を見つけてくださいますようお願い致します」
サーヴァントもマスター同様に、聖杯を使って叶える願いがあるから召喚に応じる。
冬木の聖杯戦争は、召喚したサーヴァントを全て生贄に捧げなければならない。
故にそれを知ったサーヴァントとの関係は瓦解し、マスターは絶対命令権である『令呪』を即座に切らざるを得なくなり、最終的に最大戦力を失うと同時に敗退が確定してしまう。
だが、今回の聖杯戦争において、その縛りは無い。
真の意味でサーヴァントとの良好な関係を築ければ、大きなアドバンテージとなるだろう。
「さらに、この聖杯戦争におきましては、『聖堂教会』の介入はございません。完全な部外者として扱っていただいて差し支えありません」
聖杯を求める者は魔術師だけに留まらず、その敵対関係にある『聖堂教会』も例外ではない。
最高位の聖遺物と称される聖杯は、世界三大宗教の一つである教えの創始者にまつわる杯の名で、その一派である『聖堂教会』も無視できない。
「こちらで情報統制および妨害工作をしていますが、もしも遭遇した場合は殺してしまってもペナルティにはなりません」
つまり参加者は魔術師のみで、極端に思想が異なった相手がいないということになる。
幼少期から魔術師と対抗すべく訓練をさせられてきたジョエルにとって、少なからず戦いやすくなる。とはいえ、これまで相手にしてきた魔術師と参加者のマスターとでは雲泥の差があるだろうが。
「運営側は外部勢力への対処に人員を割かなければなりません。そのため、内側で起こったことは各陣営の裁量にお任せ致します。目撃者の排除、魔術の隠蔽等も含まれておりますので悪しからず」
神秘の隠匿を第一とする『聖堂教会』はおらず、陣営同士のいざこざは自分らで解決しろと言う。
魔術師にとって魔術とは何よりも尊ぶモノであり、それを進んで非魔術師に見せることはない。
仮に見られた場合は、目撃者の記憶を操作したり、殺して処分することも厭わない。
「幸いにもこの町の住民は、皆、日陰しか歩けない罪人ですので、殺してサーヴァントの養分にするもよし、儀式の材料にするもご随意に」
膨大に魔力を消費するサーヴァントは、下手をすれば主人であるマスターの命さえも取りかねない。そのため足りない魔力を補う方法として、自分以外から魔力を収集するのが一番手っ取り早く且つリスクが少ない。
端的に言ってしまえば、他者の生命力を吸い上げて魔力の補充する行為――『人食い』をサーヴァントにさせればいい。
「以上が運営からの説明とさせていただきます」
最後に、と改まったように少女は口を開く。
「申し遅れましたが、私は聖杯戦争の監督役を務めさせていただきます、フランチェスカ・プレラーティと申します」
以後お見知りおきを、と再びスカートをつまんでから、お辞儀をして締めくくった。