2日目 各陣営の動向①
某所――資料の山が散乱する一室。
今まで等間隔で聞こえていた丁度良い物音が途絶え、男は微睡みから目を覚ました。
革張りのソファから起き上がり、音が止んだ方へ視線を向けると、部屋の奥から見知った相手が出てきた。
「あれ、起こしちゃったかな?」
プレラーティはショーツを穿いたまま、上半身を包帯に身を包んだ奇抜な格好で、男の前までやってくる。
「ん……もういいのかい? 旦那」
「うん♪ ごめんねー部屋借りちゃって」
「構わねえよ」
それにしても、と男はプレラーティの首から腹部まで巻かれた包帯を眺める。
先程まで自身の治療に勤しんでいたので、所々血が滲んでいる。
さらにその包帯の隙間から、長さにして20センチほどの縫合痕が見え隠れしていた。
「腹に大穴開けられて、頭も潰されたのに、よく生きてるな……それも魔術なのかい?」
「そうだよー♪ どう? 少しは魔術に興味出た?」
痛々しい外見に反して、プレラーティはひどく上機嫌に答え、上目使いで包帯を捲り上げながら傷口を見せつける。
「中、見たい?」
「ん――ああ、そういうのはいい」
見慣れてる、と手を挙げて断る。
「魔術のことは知らないが、人間の身体を使っているってことは、中身もそれに近い構造をしているか、またはプラスアルファで何か入ってるかのどっちかだろ? 余程の目新しいモノが入ってなければ遠慮するよ」
「むぅー確かにそうなんだけど、なんか悔しい!」
頬を膨らませて地団太を踏むプレラーティ。
大きな傷口を無理矢理に塞いでいるためか、彼女が動くたびに縫合痕から血が漏れ出している。
見兼ねた男はタオルを投げて「血出てるぞ」と促した。
「そういえば、シェイマス君はどうしてるのかな?」
渡されたタオルで傷口を拭いながら、その名前を口にすると男はうんざりしたような表情で、ソファへともたれ掛かった。
「あの糞アイルランド人(ファッキン・アイリッシュ)かい? 部下の話じゃあ、宛がってやったセーフハウスに籠って、ずっと酒をあおってるよ」
「アハハハッ! 想像に難くないね♪ 初戦でサーヴァントを本当に失うなんて、前例無いんじゃないかな?」
まあ前例と言えるのも冬木の第三次からしか無いけどね、と血を拭い終え、男が座っているソファと対面するもう一つのソファに寝転んだ。
「旦那が何故『あれ』を、まだ協力者として扱うのかは知らないが、ただのお荷物にしかならないと思うがね……」
そこで何かを思い出したように、男は視線を天井へと向ける。
「――協力者と言えば『こちら側』のマスターも一人、別件で勝手に押(お)っ死(ち)んだらしいじゃねえの」
「お、耳が早いね♪ スポンサー枠で入れてあげた子だったけど、技量は並みだし性格もアレだったから、大方シェイマス君と同じでサーヴァントとソリが合わなかったんじゃないかな?」
嬉々として話すプレラーティを尻目に、男は思案顔になる。
「だとすると、サーヴァント自体は召喚しているのか」
「うん、『霊器盤』にもそう書いてあったね」
今回の聖杯戦争の運営および監督を取り仕切る彼女は、公式の聖杯戦争でも用いられる、召喚されたサーヴァントを把握できる『霊器盤』を所持している。
「そのサーヴァントが魔力切れで消えてないなら、余ってる『あれ』と再契約させるつもりか?」
「一応その予定だったんだけどー、実はもう聖杯が他にマスターを決めちゃったみたいでさ」
残念ながら色々とおじゃんになりましたー、とプレラーティが両手を広げながら肩を竦めて見せると、男はケタケタと笑い出した。
「カハハハ、序盤から雲行き悪すぎだろ! それも聖杯戦争の醍醐味なのか?」
「まあそういうこともあるよねーって言いたいけど……クゥフフフ、さすがに想定外だよ!」
キハハハハッ、と腹を抱えて笑いながら、プレラーティは足をバタつかせる。
それからしばらくの間、プレラーティと男はこれから起こりうるであろう事、または無い事をネタにして、互いに笑い合っていた。