「――ああ、それはそうと、ひとつ頼まれてくれない?」
一通り笑い終えてから、プレラーティの方から男へ頼み事を口にする。
それはジョエルの召喚したサーヴァントについて調べて貰えないか、という内容だった。
「ジョエル・フリードキンってのは昨日のあれだろ? アサシンと一騎打ちかました、頭のおかしなマスターの」
まあ同じ『競争相手』だから調べるが、と言って男は懐疑的な視線を向ける。
「用意してくれた『鏡』で観ていたが、そいつと旦那は知り合いなんだろ?」
聖杯戦争の初戦が始まると聞いて、テレビ感覚で観戦したいと要望してみると、プレラーティから『遠見の鏡』を渡され、昨夜の一部始終を目にした。
アサシンが消滅した後に行われた『開会式』の中で、彼女自身がそのジョエルという男に馴れ馴れしく接していたら、手痛いしっぺ返しを貰っていた。常人ならば一撃で絶命する攻撃によって開けられた傷が大穴となって、今でもプレラーティの胴体に巻かれた包帯の隙間から窺える。
「ずいぶんと仲が良さそうだったから、旦那が頼めば案外教えてくれるんじゃないか?」
あてずっぽうに答えると、当の本人からは「君のそういうとこ、ホント好き♪」と逆に好印象を与えてしまった。
「昨日一度会ったからね。次に会う時に、成長したジョエルの姿を見たいから、今度にしたいの♡」
「愛だねえ」
男は膝に頬杖をついて、顔を赤らめるプレラーティを眺めながら、昨夜のことを思い返す。
「あの『鏡』でアサシンを見ても、『マスターの眼』とやらは働かなかったからな。直にジョエル・フリードキンのサーヴァントを視るしかないか」
面倒だ、と呟くとプレラーティの耳がピクリと動いた。
「んいや、視覚共有したサーヴァントの目ならいけるよー、魔術的な技術は必要だけどねー」
「だったら俺には無理だろ」
魔術の教育を受けてこなかった男にとって、自身の体の内にある『魔術回路』が如何に上等な物でも無用の長物でしかない。
そもそも男は魔術というものに対して必要性を感じておらず、それどころか現代の科学や医学で再現ないしは代用できるものを、どうしてわざわざ『命の危険』を冒してまで使おうとするのか理解できないでいる。
本来、魔術師や魔術使いが魔術を使う際に、必ず自身の魔術回路に接続するのだが、それは『神秘』を発生させるために一度自らの身体を作り変える行為に等しく、それ相応の危険が伴う。
代表的な例として、骨が軋むような痛みや、筋肉が裂けるような痛みといった、体内から苦痛を生じるものが多い。
魔法を使うのにMPだけでなくHPも減るんじゃあ、クソゲーにも程がある。
「――というか、旦那にはその『霊器盤』とやらがあるんだから、サーヴァントの情報なんて簡単に解るんじゃないのか?」
「あれはそんな便利な物じゃないよ? 解ったところで精々が召喚された『数』と『クラス』くらいなものだねー」
「あーそうかい」
ひらひらと片手を振りながら男は、失望の籠った言葉を口にする。
「で、そのサーヴァントの何が知りたいんだ? さすがに『真名』や『宝具』だと、絞り込むのに時間がかかるぞ」
「大丈夫大丈夫♪ そこまで求めているわけじゃないから」
プレラーティは期待に目を輝かせながら、男に依頼の詳細を告げた。
「……はぁ、今なんて?」
内容を聞いた男は、そのあまりにも間の抜けた依頼に思わず呆れてしまい、つい訊き返してしまった。
対してプレラーティは身をよじりながら、ぼそりと呟く。
「だから、ジョエルのサーヴァントが……男か女か知りたいの……」
「そうなのかー」
イマイチ反応の薄い男に向かって、痺れを切らしたプレラーティは大きく前のめりになる。
「だってほら! 好きな男の子のサーヴァントが女だったら、嫉妬で気が狂っちゃうでしょ♡」
「……乙女だねぇ」
意中の相手を想う少女のような顔をするプレラーティに、男は若干引きつつ苦笑いをするしかなかった。