突如、短い爆発音が鳴った直後に、無数の金属片が飛び散り、店内にいた者たちを蹂躙していく。
爆発による余波で照明が割れ、暗くなった店内には硝煙と血肉の焦げた異臭が立ち込める。
這いずる音と呻き声が聞こえると、すかさず第二波の手榴弾が複数投げ込まれ、さらには銃弾の音も続けざまに鳴り響く。
「な、何なの! これぇ!?」
間一髪でカウンターの裏側に潜り込んだセナは、気が動転し、悲鳴と怒号が入り混ざった声で叫ぶ。
そんなセナの口を無理矢理に手で塞いだジョエルは、「騒ぐな」と至極冷静に攻撃が止むのを待ちながら、周囲の索敵を始める。
店の前には、すでに武装した複数の兵士が、絶え間なく攻撃を続けている姿が感じ取れた。
「裏手はどこだ?」
ジョエルは、同じくカウンターの裏側で様子を伺っているオルハンに尋ねた。
オルハンは、戸棚から取り出した散弾銃(ショットガン)の調子を確かめながら、目線だけを送る。
「つきあたりを右に真っ直ぐだ」
そう言って銃口をジョエルに向けた。
「あれは、お前さんの仲間か?」
「違う」
じっとジョエルを睨め付け、彼の言動に一点の曇りも無いことを認めて、溜息を吐いた。
「なら追い払うのを手伝え。酒代だけじゃあ割に合わん。それに裏手へ逃げたとしても、おそらくは――」
「わかっている。敵の侵入経路を確認しただけだ」
オルハンが言おうとしていることを正確に理解しながら、ジョエルは店の裏で挟撃の合図を待つ敵勢力に意識を向ける。
それが共闘の証だと受け取ったオルハンは、ジョエルに向けていた銃口を外した。
「しかし、よくカウンターに鉄板仕込んでたの解かったな」
背にしているカウンターを小突くと、その奥には未だ止まない銃弾の雨を防いでいる重厚な鉄の塊がある。
「銃を持った人間がうろつている町の酒場で、それぐらいしていないのは不自然だ」
「はっ、確かにな」
依然と危機的状況なのは変わらないが、オルハンは新たに戦友ができたような錯覚を覚えて苦笑する。そして今までジョエルに口を塞がれていたセナは、ようやくその手を退けることに成功し、大きく息を吐いた。
「アタシもやるよ。銃なら撃てる」
セナの顔を見て、そこに生き残ろうとする強い意志を感じたジョエルは、オルハンに「銃はまだあるか?」と尋ねる。
オルハンは戸棚からまた銃を引っ張り出して、セナへ渡した。
セナは、受け取った拳銃(ハンドガン)の形状を見て、慣れた手つきで弾倉(マガジン)を抜き、スライドを前後させて、トリガーを引けるのを確認する。
「M9の……FSでいいよね?」
「ああ、メンテは今朝やってる」
そう言ってからオルハンは、改めてジョエルの方を見た。
「――それで、どう切り抜ける? 表と裏は抑えられたと見て間違いないぞ」
「このまま銃撃が終わるまで待つ。カウンターの装甲はどこまで耐えられる?」
「50口径までなら持つと思うが……相手が使ってこないとは限らないだろ?」
「使うなら一番最初に使っている。襲撃は短時間で最大戦力を投入するのが基本だ。それに50口径の弾を乱射すれば、下手をすれば裏で待機している部隊にも当たる」
確かにそうだが……、と自身の店が木造のボロ屋であることに感謝しながら、オルハンは顎に手を当てて考える。
しかしそれを余所に、セナが身を乗り出してジョエルに訴える。
「一方的に殺られる前に、こっちから攻めた方がよくない?」
セナの疑問に、ジョエルは首を横に振った。
「相手は目標を殺したかどうか確認するために、一度店内に入ってくる」
「だから、そうなる前にさ……って、ああ――!」
ジョエルの意図が理解できたセナは、目を丸くした後、すぐにキッと舌っ足らずな張本人を睨んだ。
「しっかり説明しなさいよ、バカ」
オルハンはフッと軽く微笑んでから「決まりだな」と呟く。
「合図はどうする?」
「言い出しっぺがしてよね」
死線の只中とはいえ、ゆきずりの相手に期待の眼差しを向けるセナとオルハン。
ジョエルは持ってきていたダッフルバッグから散弾銃(ショットガン)を出す。
形状はオルハンの持っている物と同じ銃種ながらも、一回り大きく重厚なデザインをしている。
「お前たちは動くな。表の部隊はこちらで対処する」
そして二人からの期待とは、明後日の方向へと口火を切る。対してセナとオルハンは反対するも、ジョエルは取り合わず、そうこうしている間に長く続いた銃声は止んだ。