Fate/stay alive   作:伊良部修平

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2日目 クルト・バザール

※セナの視点

市場(バザール)までやっくると、ジョエルは辺りを散策し始めた。

昼時から少し経っているので、今は夜の店を営む人たちが、仕込みを始めるために食材を調達しにやってくる時間だ。

治安の悪い町ではあるけれど、こういった人が多く集まる場所は割と平和で活気がある。

というのも、この一帯は九垓さんの『黒龍幇(ヘイロンパン)』が見ヶ〆(みかじめ)をしているので、無作為に問題を起こす者は少なく、商売も盛んなのだ。

ここはクルト・バザールと呼ばれていて、ウーデンという町が生まれてから最初に出来た市場であり、3箇所ある市場の中で一番住民に親しまれている場所でもある。

ちなみに富裕層向けがアスラン・バザール、一般層向けがこのクルト・バザール、貧困層向けのタウシャン・バザールとそれぞれあり、貧富の差が激しいウーデンで無用な小競り合いが起こらないよう配慮されていたりする。

ジョエルは一度、食材を売る露店を軒並み巡ってから、再度もうひと回りし、目的のものを買い揃えて戻ってきた。

「……さすがに買い過ぎじゃない?」

両手には、張り裂けそうなくらいパンパンになったレジ袋を、5つもぶら下げていた。

パッと見だけど、袋の中には肉や卵、野菜、油や調味料が大量に買い込んでいるのが窺えた。

おまけにカップ麺なんかもあり、料理初心者が失敗した時の予防線にしか見えなかった。

「今回だけじゃなくって、ちょくちょく拠点変えるつもりなんでしょ? 買い溜めはあんまり効率悪いんじゃない?」

思わずお節介で忠告してしまったが、ジョエルは話の趣旨が解らないようで首を傾げている。

「これで2人分だ」

「いやいやいや、どう見たって10人分はあるわ!」

仮にボイジャー君の分を合わせても食べきれる量じゃない。

こうなったら是が非でも自分が料理を作る、と切り出そうと思ったのだが――。

「……」

しかしジョエルは反応を示さず、明後日の方向を向いたまま佇んでいる。

「――どうかしたの?」

ジョエルが『ある方向』を見つめたまま、何も言い返さないでいたので、嫌な予感がして尋ねてみた。

すると「他のマスターを感じる」と呟き、アタシたちが来た道を早足で戻り始めたのだ。

「ちょっ! ちょっと待ってよ!」

「お前はついてくるな」

後を追いかけようとするのを見抜かれて、先に釘を刺されてしまう。

負けじと、ジョエルへ嫌な予感の正体を尋ねる。

「あんたが見てた方角って、アタシん家の方だよね?」

「ああ」

特に隠す気もなく、すんなり認めたジョエル。

自分の家の方を見つめて、且つアタシに「ついてくるな」と警告しているのだから、嫌でも想像できてしまう。

「もしかして、そのマスターは今アタシの家にいるの?」

「そうだ」

「――っ!!」

それを聞いた瞬間、自然と身体が動いたが、これもジョエルに見透かされ呼び止められた。

「お前が行っても、どうにもならない」

ただ死ぬだけだ、と無慈悲に告げられ歯噛みする。

脳裏に浮かんだ、髑髏面の怪人とジョエルの戦いを思い出して身を震わせる。

あのような只中に飛び込んだら、間違いなく生きて帰れないことは容易に想像が付いた。

「でも……家には、じっちゃんがいるんだよ!」

見捨てるなんて出来ない、と自分自身に言い聞かせるように叫ぶ。

だけどジョエルは、こちらの話を全く聞かず、また同じ方角を見ながらボソボソと呟き始める。

「――ヨセフは、まだ何もされていない」

「えっ?」

「相手のマスターに敵対する意思はない。単純にこちらの行方を探っている動きだ」

「何で解るの?」

徒歩で約10分はかかるであろう距離にいる人物の動きを、なぜジョエルが知り得ているのか不思議でならない。

ましてや人の頭の中で考えていることも知っているかのような、ある種キチガイじみた言動に不気味さを感じる。

「ヨセフを使ってどうこうする気も無いようだが、お前の家に居座るつもりだ」

「だから、何でそんなことが解るの!!」

込み上げてきた不安が積り、憤りを口にすると、ジョエルはパッとこちらへ顔を向けた。

「理屈は解らないが、気付いたら、こういうことが出来るようになっていた」

「……そう、なんだ」

ここで言い争っても何も事態が解決しないのに、自分は何をやっているんだと自己嫌悪してしまう。

曖昧過ぎてよく解らないし、魔術だか魔法だか知らないけど、今はそれがジョエルの力なのだと頭の中で無理やり納得させる。

今は……じっちゃんのことだけを考えよう。

「それでも……アタシ行くよ」

「なぜだ?」

眉間に皺を寄せ、心底信じられないものを見るかのような目を向られる。

アタシは、その目をしっかり見つめ返して答える。

「じっちゃんが、たった一人の家族だから」

「家族とは、自分の命を危険に晒しても助けるのなのか?」

「分かんないよ、そんなの……でも大切だから助けたいんだよ」

それを聞いたジョエルは、眉間の皺をさらに深め「好きにしろ」とだけ言った。

「……ありがとう」

自然と感謝の言葉が出たが、すぐに「勘違いするな」と諫められた。

「礼を言われる筋合いはない。仮に戦闘に入ったら自力でどうにかしろ」

言っていることは至極真っ当で、理由はどうあれ、自ら進んで渦中に飛び込もうとしているのだから、自己責任なのは当然だ。

「うん、わかってる――」

アタシは、これから自分でジョエルの戦いに関わろうとしている。

昨日見た、常人では目で追うことすら適わなかった殺し合い。瞬く間にジョエルが切り刻まれ、血だらけになっていた。

もしもそのような相手が、自分に矛先を向ければ、一秒もせずに命を刈り取られるだろう。

それでも――、とアタシは、震える手を握りしめて歩き出した。

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