Fate/stay alive   作:伊良部修平

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2日目 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト⑤

※ボイジャー陣営

セイバー陣営の二人が去ったのを確認してから、ジョエルは何事もなかったかのように、黙々とテーブルの上の食器を片付け始めた。

ボイジャーから重ねられた陶器の皿を受け取り、調理場のシンクへ運んでいく。

カウンター席で頬杖をつきながら、その様子を眺めていたセナが、ふいに声をかけた。

「いいの? あのまま行かせちゃって」

「問題ない。戦いにならなかっただけで上等だ」

「ふーん、あっそ」

そう言ってセナは席から立ち上がり、ジョエルたちのいるテーブル席へと歩み寄って、片付けを手伝いだした。

「何をしている?」

「アンタ、まだ疲れ残ってるんでしょ?」

この無法者の町では、一瞬の油断も命取りになる。

一度でも弱みを見せれば、あっという間に身ぐるみを剝がされ、そのまま殺されてしまう。

昨日まで親しかった相手と、次の日には騙し合う関係になることだって日常茶飯事だ。

だからこそ、どんなに疲れていようとも、気丈に振る舞わなければならない。

そんな町で、幼い頃から他人の顔色を伺いながら生きてきたセナにとって、たった一日しか共に過ごしていないジョエルの表情を読み取ることは容易だった。

「ここはアタシがやっとくから、休んでなよ」

「……ああ、感謝する」

ジョエルは店の片隅に身を沈めると、背中を壁に預けるようにして、静かに目を閉じた。

セナはその様子を横目で見ながら、今朝まで使っていたソファで休めばいいのにと内心で思ったが、まだ警戒心を解いていないのだろうと察し、何も言わずに後片付けを再開した。

「はい、セナ」

「うん、ありがと。ボイジャー君」

どうやら、ボイジャー君が引き続き手伝ってくれるらしい。

まるで手のかかる友達と、気立ての良い弟が一度にできたみたいで、思わず笑みがこぼれた。

 

※セイバー陣営

照りつける陽光の下、ルヴィアゼリッタは独り、優雅な足取りで進んでいく。

中東特有の肌を刺すような強い日差しが容赦なく彼女に降り注ぐが、当の本人は意にも介さず、不敵な笑みを浮かべていた。

「まずは、ランサー陣営から落とします」

見知らぬ通行人が耳にすれば、独りで物騒な言葉を口にする危険な女にしか映らないだろう。

しかし、本来返ってくる筈のない問いかけが、ルヴィアゼリッタの脳内に直接響いた。

(――ふむ、その心は?)

「過去の記録を鑑みても、ランサーのサーヴァントは、白兵戦と敏捷に優れた英霊が召喚されています」

ならば貴方の敵ではないでしょう、と言い切ってみせると、脳内から喜びに満ちた吐息が聞こえてきた。

(ハハ、そんなに期待されては答えないわけにはいかないな!)

念話越しではあるが、セイバーの口角が上がっているのが分かるような声音がする。

「現在『お供の魔術師様』のご助力により、強化された私(わたくし)の使い魔が、この町の観測域を広げています。遅かれ早かれ、他陣営の拠点も判明するはずですわ」

(それは大いに助かる。ニミュエさんも、ルヴィアのことを将来有望だと言っていたよ)

「お褒めにあずかり光栄ですわ。私もまさか彼の妖精から、直々に手ほどきを受けられるとは思いもよりませんでしたわ」

大変良い経験ができました、とルヴィアゼリッタが思い返していると次の瞬間、突然周囲の空気が凍てつくような錯覚を覚えた。

(ルヴィア――)

「ええ、幸先が良いとはこのことですわね」

獲物が食らい付いたのを確認し、不敵な笑みをさらに吊り上げた。

――周囲に魔力の残滓を感じられません。

つまりこれは、魔術師からの干渉ではなく……。

「サーヴァント……で、よろしいのですよね?」

行き交う人混みの中、黒いコートドレスを着た長髪の女が、こちらを見つめながら佇んでいる。

距離が離れているためか、マスターの眼が機能せず、クラスやステータスを把握できない。

それでも彼女から放たれる『存在の重み』、あるいは『魂そのものの格』とも言える威圧感が、否応なくサーヴァントであることを物語っていた。

(ああ。だが今はまだ、こちらを窺っているような気配だな)

「こうまであからさまにされたら、誘っているとしか思えませんわ」

(然りだな――しかし魔術の気配ならともかく、よくこの殺気に気が付けたな)

「伊達に修羅場は潜っていません。いくらなんでも、現代の魔術師を舐めすぎではないですか?」

(これは失礼した! ではどうする? このまま誘いを断り、自陣で待ち構えるか?)

「御冗談を。売られた喧嘩はきっちり買い取る主義ですのよ、私」

吠え面かかせて差し上げますわ、と意気揚々に言い放つルヴィアゼリッタに、セイバーもまた生前と遜色ない血の滾りを感じた。

(頼もしい限りだ、マスター! ならば俺たちの戦を始めるとしよう!)

群衆のざわめきが遠のいていくと共に、新たな戦端が開かれようとしていた。

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