※ヘルマンの視点
爆薬と銃弾の雨によって半壊した酒場の前で、複数の兵士が次の行動へ移ろうとしていた。
「始めに活きのいい声がしていたな、念のためチェックしろ」
リーダーの男が、周りにいる部下の隊員たちへ指示を出す。
隊員たちは、自分らで薙ぎ払った店内を眺めながら、すでに満足し切った様子で行動を開始する。
「目標は裏手から出ていないな?」
通信器を使って、裏に配置している別動隊へ確認を取る。
「――よし、そのまま次の指示まで待機」
異常無しの報告を受け、自身の後ろで待機している仕立ての良い背広を着た男をじろりと睨んだ。
「ヘルマンさんよ、そっちの索敵は? 」
「……魔術を使った痕跡はありません」
ばつが悪そうに証言すると、リーダーの男は鼻で笑った。
「空振りの可能性は?」
「無い筈です。それはアーチ……いえ『ロード』からの確かな情報です」
「そう、その自分をロードとかぬかす依頼人の推薦で、お前を隊に入れてやってるんだ」
心底うんざりした態度で、ヘルマンを指差すリーダーの男。
「そもそも、お前ら『魔術師』とかいう胡散臭い連中が、この業界(ビジネス)に入り込んで来るから、ややこしくなる」
「……」
ヘルマンは、リーダーの男からの侮辱を俯きながら聞いている。
「俺らの間じゃあ、お前らが陰でこそこそ何かしてるのは知れてる。ここ最近の戦争にも一枚絡んでるのもな」
向けている指をそのままヘルマンの胸に押しつける。
「いいか、勝手な行動は慎め。俺が変な行動をしたと思えば、すぐにあそこで転がってる奴らと同じ挽き肉にしてやる」
「……イエッサー、ボス」
終始反論しないヘルマンに、リーダーの男は唾を吐いて店内に入っていった。
その後ろ姿を忌々しく睨みながら「劣等種が」と呟き、顔に付いた唾をハンカチで拭った。
※ジョエルの視点
店内に侵入してきた兵士たちは、室内掃討(クリアリング)の要領で手早くチェックし終えると、床に転がっている死体をあさり始める。貴重品を盗っているようには見えず、何か文句を言いつつ、爆発や銃弾によって四散した死体の一部を集めているようだった。
少し遅れてもう二人入ってくると、兵士たちはうんざりした様子で、その二人の内のリーダーと思しき男に状況を報告する。
「――死体の手に『例の刺青』は無かった」
報告を受けたリーダーの男は、入り口付近にいる背広を着た男に向かって、ぞんざいな態度で言い放つ。
「これ以上続けるようであれば、追加の報酬を要求する」
「そんなっ!」
宣告された背広姿の男はリーダーの男へ近づいて抗議するが、その返答に銃を突き付けられた。
「言った筈だ、勝手な行動はするな。お前は黙ってクライアントへ連絡を取れ」
「くっ……」
何か言いたげに、しかし口には出せずに詰まった声を上げる背広姿の男。
その様子を他の兵士たちが嘲りながら野次を飛ばす。
次の瞬間――ガラスの割れた音が、一際大きく店内に響いた。
「「「――っ!!」」」
兵士たちは敵の存在を予期して、音がした入り口付近の方角へ一斉に銃口を向ける。
しかし、そこには床に落ちて割れたボトルが床に転がっているだけだった。
張りつめていた緊張の糸が安堵によって緩みだし、兵士たちは構えた銃を下ろそうと、手に籠っている力を弱めた。
その刹那の間、彼らの外敵への意識が散漫になっていくのを感じとったジョエルは、再び警戒を強められる前に行動を開始した。
隠れていたカウンター裏の戸棚から一気に飛び出し、両手で構えた散弾銃(ショットガン)を手前にいる兵士へと向ける。
ドパン、と重たい銃声が鳴り、撃たれた兵士は勢いよく後方へ倒れ込んだ。
遅れて兵士たちは仲間がやられたことに気付き、視界の中に入った黒いフードを被るジョエルへ、殺意と共にありったけの銃弾を叩きつける。
数発の弾丸がジョエルの胴体に命中しても尚、兵士たちは引き金から指を離さず、血走った眼で対象を地獄の底まで落とさんがために、指へ力を込め続ける。
――その間に、何か金属同士が擦れるような音が聞こえたことすら気付かぬままに。
それはたった一人の人間に向ける暴力ではなく、過剰殺人(オーバーキル)といって差しつかえない表現だろう。