Fate/stay alive   作:伊良部修平

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38話 2日目 第2戦 1stウェーブ
セイバーVSランサー戦の続きとなります。


2日目 第2戦 2ndウェーブ

 

剣を握るセイバーの両手から、金色の光が溢れ出す。

夜闇をかき消す程の輝きが無数の帯となり、装飾剣を包み込み、仮初の聖剣を造り出す。

「ちなみに、この結界はどれくらい耐えられるんだ?」

崩れた建物を一瞥し、無人と化した世界を見渡しながら、ランサーに問う。

「お前がどの程度の英雄かは知らんが、少なくとも私の宝具を一発は防げると保証しよう」

「そうか、ありがとう。これで民衆に迷惑をかけずに済みそうだ」

騎士としての礼を済ませ、セイバーは己を切り替える。

王道から、覇道へと――。

「永久に遠き勝利の剣(エクス――カリバー)!」

宝具の真名と共に、束ねた光をランサーへ放つ。

黄金の光は一条の斬撃となり、獅子の咆哮にも似た轟音を伴って、一直線に奔る。

対してランサーは、臆することなく冷静に指を前へ出した。

「――アルジス、エイワズ、スリサズ」

迫りくる光の斬撃に向けて、呪文を唱えながら宙にルーンを刻む。

そして浮かび上がったルーンが障壁を形成し、セイバーの宝具を正面から受け止める。

激しい衝突音が結界内を震わせる。

「ふむ、即席の盾ではこの程度か」

盾のルーンの限界を即座に見極め、早々に横へ飛び退く。

直後、硬質な破砕音が響き、障壁がいとも容易く突破された。

「まさか、『彼の聖剣使い』と相間見えるとはな」

これも聖杯戦争の妙であるか、と光の斬撃を感慨深く見送りながらランサーは呟いた。

――エクスカリバー。

騎士道の誉と謳われ、ブリテンの伝説的な君主であるアーサー王が手にしたとされる聖剣。

英雄が持つ宝具には、神剣、魔剣、名剣と様々な呼ばれ方をする剣はあれど、その中でも聖剣は、他の剣とは根本から異なる役割を持っている。

聖剣とは、人や魔物、さらには神へ振るわれるものではなく、この星の外にある存在を討つために、星自らが鋳造した兵器である。

かつて、ランサーが生きていた時代よりも遥か昔に、この星へ降り立ち、人や文明だけでなく神々すらも蹂躙した『白き巨人』を討ち払った剣こそが、後に生み出されていく『聖剣』の原型となった。

そして世界に点在した数多の聖剣の中でも、エクスカリバーは頂点に位置している。

待ち望んでいた好敵手を得た高揚も束の間、不意に感じた違和感にランサーは片眉を吊り上げた。

「いや――どういうわけだ、これは……」

さらに次の瞬間、背筋を撫でる悪寒。

振り向いた先に、躱したはずの光の斬撃が眼前に迫っていた。

「っ!」

ランサーは、ルーンの刻まれた石を放り投げ、防御姿勢を取る。

宙に刻んだ即席の盾とは違い、この盾はあらかじめ作成しておいた、数段強固な守りである。

再び激しい衝撃音が鳴り響くも、ランサーの見立て通り、ルーンの防壁で光の斬撃を防ぎ切った。

「連射もできるのか」

辺りを見渡すランサーは、正反対の方角から来た攻撃のカラクリを理解する。

異なる方向から放たれた斬撃の先に、セイバーの姿がない。

耳を澄ませれば、周囲から聞こえる足場を蹴る音。

地面から、家屋から、街路樹から、瓦礫から――。

先程見せた、並みの英霊では到底追いつけないであろう速さ。

そこから、あの斬撃を何度も繰り出されるのだから、十分脅威になる。

「なるほどな、これで得心がいった」

ランサーの赤い瞳は、今も尚、縦横無尽に駆けるセイバーの動きを捉えている。

「――お前は、アーサー王ではないのだな」

宝具の一刀を正面から受けて確信する。

「その剣には、星の息吹が宿っていない」

世界屈指の聖剣の名を口にしながら、その残滓さえ感じられないのはありえない。

その指摘に、建物の上で立ち止まり、セイバーは目を見開いた。

「本当にすごいな、君は! たった二度で俺の宝具の本質に気付くとは!!」

嬉々として語るその様子に、マスターであるルヴィアゼリッタは一抹の不安を覚える。

「アーサー王は、我が祖王にして最も尊敬する王だ。今風に言えば、リスペクトってやつだな」

上機嫌に深紅のマントを翻し、セイバーは高らかに名乗りを上げる。

「我が名は、獅子心王リチャード! ノルマンディーの君主にしてイングランドの王である!」

「……」「……」

一瞬の静寂が通り抜ける。

ルヴィアゼリッタとランサーは、敵同士でありながら同じ感情を抱いていた。

真名の開示は不要だと、あれほど言ったにも関わらず。

「ま、まあ……」

ルヴィアゼリッタは曖昧に言葉を濁す。

先程のやり取りを見る限り、遅かれ早かれバレていただろう。

セイバーもそれが解っていて、この場で名乗ったのかもしれない。

「業腹だが、名乗られた以上は、名乗り返すのが戦士の礼だ」

ランサーは、冷ややかな視線でセイバーを見上げながら、槍の石突を地面に打ちつけた。

「我はスカサハ――影の国の女王スカサハだ」

直後、大気が震え、ランサーの周囲で赤雷の如く魔力が爆ぜた。

「さあ仕切り直しだ。存分に死力を尽くし合おうぞ」

その宣言と共に、槍を大きく構え、鋭い穂先をセイバーへ向ける。

槍から漏れ出す濃密な魔力が、血煙のように揺らめいている。

ルヴィアゼリッタは、これより先は宝具の撃ち合いになると予感した。

宝具の連続使用に伴うセイバーへの魔力供給で、下手をすれば自身の命まで持っていかれ兼ねないと判断し、魔力を十全に練り上げる。

「……うん? どうしましたか、セイバー?」

すでに臨戦態勢へ入ったランサーとは対照的に、セイバーは棒立ちのままだった。

心なしか、その肩は小刻みに震えている。

「――これが、聖杯戦争か……!」

なぜか恍惚とした表情で、天を仰ぎながら呟くセイバー。

すると何か閃いたように、パッと無邪気な笑みをランサーへ向ける。

「なあ、戦闘は一旦止めにしないか?」

再び、その場に沈黙が流れるかと思いきや――

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

間髪入れずに、ルヴィアゼリッタの絶叫が響き渡った。

「まずはどうやって彼女に師事を仰ぐかだが……クソ、こんな時だというのに口説き文句が浮かばない……ああ、困った」

ああでもない、こうでもないと、セイバーは戦闘の最中そっち退けで、ぶつぶつと思案を巡らせ始めた。

「セイバー、貴方――」

その態度に堪忍袋の緒が切れた。

「一度ならず二度までも、躾のために使わせるつもりですか?」

ルヴィアゼリッタは、令呪の刻まれた右手を前に出した。

「ん? どうしたんだ、ニミュエさん――あ……」

心ここに在らずのセイバーだったが、突然従者の一人から掛けられた言葉で我に返った。

怒髪天のルヴィアゼリッタを前に、血の気の引いた表情を浮かべた。

「あ――いやいやいや違うんだ、ルヴィア。アルスター伝説は、アーサー王伝説の次に好きな物語なんだ! 影の国は、一つ間違っていたら追い求めていたかもしれないくらいには――」

狼狽えながら、苦し紛れの言い訳を重ねていく。

「そうだ! 昼間にジョエル・フリードキンと交わしたように、会食を設けて交流を深めよう! 聖杯戦争といえど、何も殺し合うだけでは味気な――」

と、その直後――

紅い光の雨が、セイバーの立つ屋上へ降り注いだ。

さながら面で制圧するように、無数に分裂したランサーの紅槍が絶え間なく浴びせられた。

着弾時には、金属を引き裂くような、けたたましい轟音が鳴り響き、建物があった場所は一瞬で更地になってしまった。

「過去の聖杯戦争において、セイバーは最優のクラスと聞いていたが」

ランサーは左右の手に、槍を一本ずつ携えたまま、ゆっくりと近づいてくる。

その姿からは、隠そうともしない殺気が滲み出ていた。

「蓋を開けてみれば、ただの腑抜けとはな」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

セイバーが慌てて弁明するも、すでに呆れを通り越して無表情となったランサーには届かない。

むしろ火に油を注ぐ行為でしかなかった。

「最早言葉は要らん。貴様はここで死ね、セイバー」

ルヴィアゼリッタは、ここが死地だと覚悟し、右手の令呪へ念じる。

「セイバー!! 全身全霊を以てランサーと戦いなさ――っ!?」

最後の言葉を口にしようとした時だった。

ガラスが割れるような音と共に、空を覆っていた結界の一部が砕けた。

そこから出てきた二つの影――

「ジョエル・フリードキン!?」

数時間前に、停戦協定を結んだはずの男が空から降ってきた。

その後を追うように、青黒い炎を纏った怪人の姿があった。

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