「あれが、昨夜のマスターか」
背中から伸びる異形の尻尾を操り、青黒い炎を纏う男の猛攻を凌ぐジョエルを、ランサーはじっと眺める。
左腕を負傷しているのか、時折庇うような動きを見せつつも、残る身体を使って上手く立ち回っている。
最早、対面しているセイバーへの興味が失せ、戦いの熱も冷めていく。
『貴女の結界は、宝具も防げるのではなかったのかしら?』
『来る者拒まず――戦に、乱入者は付きものであろう』
念話越しでも解る不服そうな自身のマスターの声に、ランサーは然もありなんとばかりに応じる。
『内は強固にしたが、外から見える者のために開けておいただけだ』
戦いに独自の美学を持つランサーへ、玲瓏館美沙夜は小さく溜息を吐いた。
『それより美沙夜。あのマスターと戦っている者は、サーヴァントで相違ないか?』
『――ええ、クラスはバーサーカーで間違いないわ』
ランサーと視覚を共有し、他者を嘲るような笑みを浮かべているサーヴァントのステータスを確認する。
能力値は、中から上程度――『狂化』のスキルによる補正を考えれば、本来の能力はそれほど高くない英霊なのかもしれない。
身に帯びる炎に遮られて細部まで判別できないが、服装はランサーの戦装束とは違い、現代に近い洋装をしている。
神秘が現代へ近づくほどに薄くなるのと同様に、その力を色濃く宿した英雄もまた古い時代に偏る。
このサーヴァントが現代ないしは近代の英霊であるかは分からないが、真名を推測する手がかりの一つになるだろう。
「おい、セイバー」
ランサーは視線をジョエルから外さぬまま、先程まで矛を交えていたセイバーへ声をかける。
「あのマスターをどう思う?」
不意に呼ばれたセイバーは、その意図を察し、如何ともし難い表情でジョエルを見つめた。
「そうだな、死に行く兵士を見ている気分だ」
迫りくる死に抗いながら戦うジョエルに、セイバーは否応なく憐憫の情を抱いてしまう。
その姿が、かつて共に戦場を駆け抜けた兵士たちと、あまりにも重なって映った。
「確かにな。足掻いてはいるが、あれは今回で死ぬ」
如何に異なる時代であろうとも、生死を分かつ戦場を生きた者同士の共感なのだろう――ランサーもまた、その見立てに同意した。
「だが、俺はそう思わない」
セイバーは静かに首を横へ振った。
「ほう、なぜだ?」
「根拠と言えるものはないんだが……」
疑問を呈するランサーに、自身の頬を掻きながら視線を下へと落とすセイバー。
「俺のマスターが、そう思っていなくてね」
視線の先にいるルヴィアゼリッタが、無言でジョエルを見つめていた。