「ルヴィア!」
新たに出現したサーヴァントから放たれる尋常ならざる気配に、セイバーは自身のマスターを守るべく前へ立った。
ルヴィアゼリッタは、威風堂々たる姿で宙に浮かぶ存在を、怪訝そうな表情で見上げていた。
「……なぜ、このタイミングで?」
戦略的に考えれば、あのような四方から狙われかねない場所で、悠然と留まっていること自体が常軌を逸している。
すでに四陣営が交戦状態であるにもかかわらず、単身で戦場に出てくる理由がわからない。
そこから導き出される結論はひとつ。あのサーヴァントは、少なくとも四騎を同時に相手取るだけの実力を有している可能性が高い。
セイバーの失態と新たに乱入してきた三陣営によって、このままではランサーとの戦闘も流れてしまうだろう。
目立った戦果も挙げられぬまま撤退することは、エーデルフェルトの名を持つ者としてあってはならない。
せめて、初見のサーヴァントたちのクラスとステータスだけでも把握しなければ。
だが距離が遠いせいか、あるいは身に纏っている風のせいか、マスターの眼で相手を確認できない。
前に出ようとしたルヴィアゼリッタだったが、セイバーに肩を掴まれて阻まれてしまう。
「ええい! 放しなさいセイバー!!」
「正気か君は!? これ以上先に進めば、俺でも守り切れない!」
それでも言うことを聞かずに振り払おうとしたため、業を煮やしたセイバーは、ルヴィアゼリッタを無理やり抱きかかえ、そのまま後方へ飛び退き距離を取った。
ランサーもまた、新たなるサーヴァントから目を離せずにいた。
『美沙夜――私の目を使って、あれの情報が視えるか?』
『……難しいわね。あの風がスクリーンになって、読み取れないわ』
自分よりも遥かに優れた視力を持つランサーの目を用いても視えないとなると、あのサーヴァントが身に纏っている風自体が、ステータスを隠蔽するスキル、あるいは宝具によるものなのだろう。
しかし、そんな美沙夜の言葉を聞いても、ランサーは落胆する素振りも見せず、むしろ戦意を高めていく。
『懐かしい感じがする。あれは、どこぞの神の一柱だ』
不敵な笑みを浮かべ、握った槍に自然と力が入る。
傍らまで来ていた黒毛の大型犬が、やれやれと言わんばかりに目を閉じて首を左右へ振った。
『……それが正しければ、神霊がサーヴァントになっている――ということかしら? そんなこと、ありえるの?』
本来、聖杯戦争で召喚される存在は英霊に限られ、それよりも上位の存在である神霊を呼び出すことはできない。
そもそも、この儀式の表向きは、魔術師が『根源』に到達するための計らいであり、『根源』そのものと接続している神霊が呼べてしまえば、戦う意味すらなくなってしまう。
『大幅な制約は免れんが、伝承の中で人間へと身を堕としたか、あるいは転生したことのある者であれば見込みはあるだろう』
『だとすると、神霊としての『権能』は振るわれないと見ていいのかしら?』
『そう見積もって問題はないだろうな』
世界をも造り変えてしまうような力を持っていれば、手の出しようもなくなる。
もしそうなら、やりようはある。
『対策は?』
『聖杯戦争の定石と変わらんよ。まずは、どこの神なのかを暴く――が……』
見上げていた対象が、ゆっくりと降下を始める。
その降下先を察したランサーは、持っていた槍を消すと、腕を組んで見守ることにした。
『今はやめておくとしよう』