※ヘルマンの視点
何の生産性も無い惨状を目にしながらヘルマンは、今も集中砲火を受けている対象が聖杯戦争のマスターならば、目的の令呪は手に入らないだろうと悟った。
「……殺ったか?」
辺り構わず銃を乱射した所為で、兵士たちはマズルフラッシュの閃光に眼をやられ、視界がチラついて見えている。
呆れて物も言えなかったヘルマンは、一縷の望みをかけて、先程店の入り口前で使ったものと同様の魔力の残滓を追う魔術を展開したが――
「んっ?!」
どういうことだ?
あれほど探しても見つからなかった魔術の痕跡が確かにある。
「まずいっ――」
周囲の兵士たちに警告しようと口を開いたが、それよりも早くまた銃声が鳴った。
目の前で倒れ伏す兵士を余所にヘルマンは、上の方からガチャンと音が聞こえる。
暗視の魔術を用いて音が鳴った方向へ目を向けると、今度こそはっきりと敵の姿を捉えた。
「上だっ!」
ヘルマンが叫ぶと、リーダーの男を含めて兵士たちは、一斉に顔を上げる。
そこには、天井付近にある横に伸びた建物の骨組みを足場にしている、黒いコートを着た男の姿があった。
先程あれだけ銃弾を撃ち込まれたにも関わらず、特に負傷している様子はなく、それどころか捕食者のような眼光で静かに見下ろしている。
兵士たちは得も言われぬ恐怖を覚え、密集していると危険だと本能的に判断し、バラバラに動き出した。
兵士の一人が近くにあったカウンター方へ逃げ込もうとするも、暗がりながらも正確な射撃で撃ち抜かれ、勢い余って床を滑るように転がった。
その隙に兵士たちは、黒いコートの男の視線から逃れるようにテーブルなどの遮蔽物へ隠れると、空になった弾倉を入れ替える。
ヘルマンも大きなテーブルに飛ぶ込むと、そこにはリーダーの男がすでにいて、顔を合わせるなり忌々しげな顔をされた。
「あの白髪野郎が標的か?」
「……まだわかりません」
マスターの証である令呪はまだ確認できていないが、あの男は間違いなく魔術を行使した。
銃弾は確かに体に命中していたのに、あの一見ただの薄いコートには穴一つ空いていない。
どうやって身を守ったのか、どういった系統の魔術を使ったのかは分からない。
初歩なら『強化』だが、『錬金術』や『元素変換』まで使えるのなら厄介だ。相手がマスターであろうとなかろうと、ここで叩いておかなければ、逆にこちらが食い殺されかねない。
「追加報酬なら私から出します。あれを排除してください」
「はっ! 当然だ! でなけりゃお前を八つ裂きにしてやる!」
この期に及んでも尚、命と金を秤にかけられるのは流石と言えなくもない、と感心するヘルマン。
自身の手の内を晒さず、すでに残り半分まで減った兵士たちを使い切ってでも、相手の戦力を把握する。
「それに――」
仮にあのコートの男がマスターだと確認できれば、『あの方』が動かれる。
※ジョエルの視点
足場にしている天井の骨組みから、ジョエルは店全体を俯瞰する。
店内には、未だカウンター裏の戸棚に潜り込んでいるセナとオルハンの他に、遮蔽物に身を隠してこちらへ敵意を向けている存在が四人。
下手に追撃をしないで第二波に備え、銃身(バレル)下にあるハンドカバー(フォアエンド)を引き、ガチャンと排莢をし終えた散弾銃(ショットガン)に追加の弾薬を込めていく。
兵士たちから反撃の意思が消えていないことに注意を払いつつ、意識を屋外へと向けた。
ジョエルの知覚する世界には、自分へ『悪意』を向ける存在が明確に映し出されている。
それは視覚だけに留まらず、ジョエル本人が望むと望まざるとも、全ての感覚に止めどなく押し寄せてくる。
――裏手に別動隊が三人、それとは別にこちらを視ているのが一人。
前者の三人は店内の兵士とは違い、まだこちらを視認していないので、敵意が散漫に伝わってくる。逆に後者の方は明確にこちらを捉えているが、攻めてくる意思が感じられず、静観の構えをしている。
この襲撃が他のマスターによるものならば、状況的に考えて威力偵察であろうことは推測できる。
仮にこれが突発的ないざこざであったとしても、しばらくこの町に滞在しなければならない身として、全力で撃退するのは後々の戦況に支障をきたす。
どちらにせよ、現状を乗り切るのに、必要最小限の戦力が最適だと判断する。
――来るか。
直後、店内にいる兵士たちから伝わってくる反撃の意志が濃くなったのを感じ、ジョエルは屋外への索敵を中断して素早く行動へ移した。
「撃てっ!」
ワンテンポ遅れて号令が響くと共に、銃撃が再開された。
ジョエルは骨組みから骨組みへと飛び移っていき、相手が撃とうとしている射線を確認しながら次々と避けていく。
「何だ! あいつは!?」
上に向けて撃っているとはいえ、一発も命中しないことにリーダーの男が声を上げる。
「分隊突入! 敵は一人だ!」
無線機を使って仲間を呼ぶ声が聞こえると、屋外にいる三人が動き出すのを感じ取った。
――別動隊が来る前に何人か減らしておきたい。
ジョエルは散弾銃(ショットガン)の負い紐(スリング)を肩にかけて背負い、腰のベルトに装備している巻取り式のワイヤーロープを、孤立していた兵士に向けて投擲する。
真っ直ぐ進んでいったワイヤーの先が兵士の首に絡まるの確認し、ベルトのスイッチを押すと内部の装置が作動し、金属が擦れた音と共に勢いよく巻取りを開始する。
首を絞めつけられた兵士は、堪らずワイヤーに手をかけて外そうとするも、ジョエルが引っ張り上げてそれを阻む。宙吊りになり懐からナイフを取り出して切断を試みても、ワイヤー自体が硬質な金属で出来ている所為で刃が通らない。
藻掻き苦しむ兵士を助けるために、リーダーの男ともう一人の兵士は援護射撃を行うも、常に動き続けているジョエルを捉えることができない。
「何で当たらないんだ!」
兵士たちからすれば、こちらの攻撃を先読みしているかのような奇妙な動きに、ただただ驚愕するしかなかった。