Fate/stay alive   作:伊良部修平

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1日目 第1戦 2ndウェーブ①

※ジョエルの視点

「そういうお前は、マスターだな!!」

ジョエルは、背広姿の男から伝わってくる敵意が、より濃くなっていくのと同時に、その中から様々な感情が入り混じってくるのを感じ取る。

棘のような侮蔑に全身をチクチク刺され、火のような嫉妬で右手の甲をじりじりと焼かれる錯覚を覚える。

背広姿の男は、防御に用いていた魔術を攻撃へと転用する。

両手に集めていた空気の壁を、手のひらサイズまで圧縮し、空気の球を形成する。

幾重にも重ねられた空気の層は、光を屈折させ、魔術師の目にも映らない不可視の砲弾と化す。

――先程の銃弾から身を守った『強化』の魔術や、『透過』の魔術の使い方には肝が冷えたが、魔力の通っていない銃やナイフ、絡繰り仕掛けのワイヤーなども使っていることから、自身の魔術に重きを置いているようには見えない。

さらに戦場慣れした身のこなしや、的確に意表を突いてくる戦術などから、由緒ある魔術師の戦い方ではない。

「現代兵器と魔術を併用する、その戦い方――真っ当な魔術師ではないな?」

背広姿の男の問いに、ジョエルは淡々と答える。

「自分が魔術師だと思ったことはない」

「ああ、そうかい! ならこれは誅罰だ!」

突如、全身を刺していた侮蔑の感情が嫌悪感へと変わり、そのまま腹部に集中していく。

咄嗟にジョエルは身体をひねると、自身の真横を殺意の塊が通るのを感じた。

空気の球はそのまま店の内壁にぶつかり、円状の空洞を作って直進していった。

続けて2回3回と同じ魔術を放ってもジョエルに悉く交わされ、背広姿の男は奥歯を噛み締めて訝しんだ。

――このような暗がりで、正面切って私の魔術を何度も避けられるのは明らかに異常なことだ。

先程の言動から、彼奴が忌むべき『魔術使い』なら、品位の無い戦術も頷ける。

しかしそれだけじゃない、何か別のものが彼奴にはあると思えた。

「まさか……」

嫉妬の熱が右手の甲だけでなく、両の目にも伝播し、ジョエルは反射的に目を擦る。

その仕草が逆に誤解を招き、背広姿の男を早合点させる。

「やはり『魔眼』持ちか!」

相手の手札をまた一つ暴いたと、背広姿の男は不敵な笑みを浮かべた。

ジョエルは散弾銃(ショットガン)を構えて牽制に撃つも、先程振るったナイフ同様に見えない空気の壁に止められる。

――バックショットでは無理か。

 

「お前のような『魔術使い』がいるから! 我々『魔術師』も同類に見られるんだ!」

最早、鬱憤を晴らすように、不可視の空気弾を次々放っていく背広姿の男。

殺意が言葉と共に口から発せられ、それを受け取ったジョエルは次の攻撃を予知し的確に避けていく。

本来、視覚で捉えることのできない魔術だが、ジョエルからすれば相手の敵意そのものを知覚しているので、躱すことは造作もなかった。追尾性もなく弾速も銃火器と比べて遅いため、一定の距離を保っておけば、まず当たることはないだろうと推測する。

しかし唯一問題があるとすれば、ジョエルがいくら散弾銃(ショットガン)で撃っても、背広姿の男の魔術に防がれてしまうことだろう。発射時に散らばった複数の弾が空気の壁に触れると、慣性を殺されて目標へ当たる前に止まるのだ。

背広姿の男は自身の魔術越しに、ジョエルが持っている銃を観察していると、一発撃つごとに銃身の下にあるハンドカバー(フォアエンド)を引いて、弾を排出しているのに気づく。

――確かあれは、猟銃を改造した対人用の銃だったな。兵士たちの訓練キャンプで似たようなものを見たことがある。どうやら、あの持ち手の部分を引かないと撃てないようだ。

武装は両手に持っているあれと、大型のナイフが一本、ワイヤーは先程切り離していたが予備があるかもしれない。

魔術的な要素として『透過』と『強化』の魔術を使用。それと魔眼についてだが、これまでの彼奴の動きからして『未来視』か『感情視』だろうと予測できる。

現在から先の事象を見通すことのできる未来視。

対象の心情を読み取ることのできる感情視。

どちらも厄介極まりないが、そもそも魔眼というものは視なければ始まらない。

古来より、人の世が成立するよりも前から、魔眼はこの世に存在していて、それに対する防衛策も長年講じられてきた。

「……なんだ?」

ジョエルは、背広姿の男から向けられる感情が周囲を覆うように広がっていくのを感じた。

突如、裏手の方で銃声が鳴ったのに気づき振り向く。そこにはオルハンがいて、銃を撃っているようだったが、その音も微かに聞こえてくるだけで、弾もすんでのところで止まっている。

傍らにいるセナもこちらへ何やら伝えようとしているが、ただ口をパクパクとしているだけで声が聞こえてこない。

「囲まれたか」

状況からして背広姿の男は、防御に使っていた空気の壁をこの一室全体にも張り、さながら鳥籠のように閉じ込めたのだろう。

しかしそれだけで終わるわけがないことは、ジョエルはすでに知っている。

「……おい、ヘルマン……テメエ、何……しやがった……」

先程の一合で難を逃れたリーダーの男が、苦しい表情を浮かべながら、背広姿の男改めヘルマンに向けて訴える。

ジョエルはリーダーの男が言わんとしていることを理解しながら、先程とは打って変わって息苦しさが目立ち始める。

「この部屋一帯の酸素濃度を下げています。あの白髪の男が死ぬまで続けますので、どうにかして生き残ってください」

ヘルマンは目標であるジョエルから目を離さずに、リーダーの男へ無慈悲な助言を押しつける。

言わずもがな、ヘルマンは空気を操る魔術を得意としており、気流の操作ならば分子レベルまで干渉できるほど洗練されている。

生物が生命活動を維持するのに、最低限必要なものとして挙げられるのが、食べ物と水と空気の3要素である。

その内のひとつである空気――厳密には酸素といわれる物質を、呼吸することで体内に取り込み、生命活動に必要なエネルギーの材料になる。

では、より多くの酸素を取り込めば良いというわけではなく、通常、空気中に含まれる酸素量は全体の約20パーセントと言われ、その割合が高くても低くても生物の生態系に悪影響をもたらしてしまう。

例として人間の場合、空気中の酸素量が10パーセントを下回ると身動きが取れなくなり、さらに6パーセントを下回ると6分で死に至る。

現状、店内はまだその域まで達していないが、その割合も徐々に減りつつあり、ジョエルも眩暈を覚え身体をよろめかせた。

「意識を鈍らせてしまえば、いかに魔眼とて他愛もない!」

ジョエルは息を止めた。

これ以上、酸素の薄くなった空気を肺に入れてしまうと、前方で動けなくなっているリーダーの男と同じ末路を辿るからだ。

周囲を見渡すと、未だヘルマンの殺意が及んでいない所――つまり魔術が行き届いていない個所を見つけ、そこへと逃げ込んだ。

そして大きく深呼吸を繰り返し、新鮮な空気を肺に取り入れながら、散弾銃(ショットガン)に新たな弾を装填する。

徐々に充満していく猛毒と化した空間の中で、ヘルマンの周りだけが殺意を感じられず、まるで薄い被膜のようなものに覆われドーム状になっているのを目にする。

そこが安全圏だと判断し、ジョエルは再び息を止め、ヘルマンに向かって走り出した。

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