※ジョエルの視点
「もう打つ手無しか?」
ヘルマンは、ジョエルが一度もサーヴァントを呼ばないことを訝しんでいたが、このような危機的な状況に陥っても尚、その素振りを見せないことから、むしろ未だサーヴァントを使役していないのではないかと考える。
――ならば、今が好機だ。
当初の目的は、この戦いに勝利した後に令呪を奪い、彼奴が召喚しているであろうサーヴァントと交渉し、聖杯戦争に参戦する予定だった。
だが、未だサーヴァントを呼んでいないのであれば、召喚に必要な触媒である聖遺物をこちらで用意し、己に身合った英霊を選ぶことができる。
そして『今回の聖杯戦争のルール上』、『あの方』と共に戦い、聖杯を手中に収めることも夢ではない。
――勝つのは、この私だ!
「魔術の尊さを顧みない愚か者は死ね!!」
部屋全体の酸素濃度を致死レベルまで下げ、完全にジョエルを死の空間へ閉じ込めた。
真っ直ぐ向かってくるジョエルから、無駄の足掻きと言わんばかりに散弾が飛んでくるも、前方に展開している空気の防御壁で遮る。
飛び散った弾は、やはり直進できずに壁の表面で静止するの見て、ヘルマンはニヤリと笑った。
――さあどうする? 目の前で足掻いて死ぬか! 逃げながら藻掻いて死ぬか!
勝利を確信したヘルマンは、前方の防御壁を維持しながら、ジョエルが逃亡しないように取り囲んでいる空気の壁をさらに厚くする。
ジョエルはショットガンの銃身下にあるハンドカバー(フォアエンド)を引いて、撃ち終えた弾を排莢しすると、この銃に備わっている『もう一つの機構』へと切り替えた。
ドパン、とまた銃声が鳴り、単なる苦し紛れと断じたヘルマンは空気の防御壁で防いだが、次の瞬間、驚きのあまり目を見開いた。
「んな――っ!?」
撃ち出された銃弾は散らばることなく、ひとつの大きな弾丸として着弾し、防御壁の厚みを半分まで抉っていた。
元々、ショットガンは鳥類や四足獣などの動物を狩猟するために作られた銃で、獲物のサイズに合わせて弾の種類を変えるのが特徴である。
鳥などの小さくて素早く動くものに対しては、バードショットと呼ばれる細かくて大量の弾丸が入っている散弾を使い、鹿など中型の獣に対してバックショットと呼ばれるバードショットと比べて大きい弾丸が少量入っている散弾を使う。
さらに、熊などの人間よりも巨大な存在に対して使われるスラッグショットは、弾丸が散弾ではなく一発の大きな弾が入っている弾薬である。
それは一発の力ならば、先程の兵士たちが持っていた突撃銃(アサルトライフル)の弾よりも遥かに上回り、前述挙げた熊を一撃で屠れるだけの威力を持っている。
「まずいっ!」
ヘルマンは、防御壁の強化に魔力を回す。
――壁の修復ともう一層追加するのに1秒。
これまでの観察から、ショットガンは強力な弾を撃つことができる反面、弱点が複数存在していると、ヘルマンは推察する。
まず戦いの中で定期的に銃自身に弾を込めていたことから装弾数が少なく、また一発撃つごとに持ち手を引いて弾を排出していたことから連射性に乏しい。その動きを見ていても、発射してからもう一度発射するのに、おおよそ1秒はかかっている。
――防御壁で守りを固めつつ、彼奴が弾切れを起こしたところで、空気弾で止めを刺す!
ジョエルは、ヘルマンの前までたどり着くと、ショットガンの銃口を防御壁へ突き立て引き金を引いた。
「はぁっ?!」
ドパン、ドパンと『連続』で銃声が鳴り、ヘルマンは目の前の状況が理解できず声を上げた。
――何がどうなっている! 彼奴の銃はそういうものではないのか!?
ジョエルの持っているスパス12という銃は、迅速な制圧力を求められる現代戦を想定して作られた、世界初の戦闘用ショットガンと言われている。
その特徴は、旧来のショットガンから採用されている弾を人力で排出するポンプアクション方式に加え、弾を撃った時の反動などを利用して自動で排出するオートマチック方式への切り替えが可能になっている。
しかし連射が続くと、動作不良が起こり内部で弾詰まり(ジャム)が発生し、緊迫した状況では命取りになるので、この銃は両方の方式を採用されている。
二つの方式が組み込まれたことにより、スパス12の重量は通常のショットガンよりも重くなってしまったが、ジョエルの強化された身体能力ならば何ら問題はない。
ヘルマンのような現代兵器に疎い魔術師にとって、この複雑な方式の銃を理解することは難しく、一対一の読み合いにおいて良いブラフとなった。
ドパン、ドパン、ドパンと絶え間無く撃ち込んだ必殺の弾丸は、最後の一発でようやく防御壁を貫き、ヘルマンの腹部へと命中した。
「おぶぁっ!」
圧倒的な対人効果(ストッピングパワー)で吹き飛ばされたヘルマンは、血反吐をまき散らしながら、その勢いのまま背後の壁面に激突する。
「まっ、待っで、待っで欲じぃ!」
絶え絶えになった息から声を絞り出し、ヘルマンは両手を挙げる。
それを見降ろしながらジョエルは、ようやくたどり着いた安全圏で深呼吸をし、素早く弾薬を再装填して銃口を突き付けた。
「お、お前は金で雇われた魔術使いなんだろ!? だったら、その10倍を払う!」
だから――、と言葉を続けるよりも早く、ドパンと鳴った銃声と共にヘルマンは頭部を撃たれて絶命した。