宇宙人のセールスマンから夜空の星を買った大学生の話

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グレイ・クレイヴ・ブレイク・スターズ

「そこのお兄さん、星おひとつどうですか?」

 

 そいつは明らかに怪しいやつだった。いや、正確に言うならば怪しい宇宙人だった。

 小学生くらいの背丈の体をワイシャツスーツで固め、風船みたいなデカい頭を乗せている。連行される写真が有名なグレイ型というやつだろうか。ベロンベロンに酔うまで飲んだにしても随分とイカれた幻覚だ。

 たしかに最近、世界各国で宇宙開発が盛り上がっているが、流石に宇宙人はまだ発見されてない。そもそもなんだって宇宙人がわざわざ地球で変な商売をしてるのだろう。

 

「なにをだって?」

「星ですよ」

「星っていうとあの夜空の?」

「星がほしい!って思ったこと、ございません?」

「ございませんねェ」

 

 営業スマイルなのか、自分のダジャレに自信があるのか、真意のわからぬニコニコ笑い。なんとも表情豊かな宇宙人を見ていると、その真偽など馬鹿らしくなってきた。

 

「しかし宇宙人は商売のセンスがないな」

「と言いますと?」

「どうせ言葉遊びするのなら、俺ならば恩を売るね」

「恩を押し売りしたところで買って貰えるのは喧嘩くらいですよ」

「恩と喧嘩を両方売ればいい。プラスとマイナスで結果はゼロだが、料金は2倍取れるからな」

「私は良い宇宙人なのでそんなアコギな商売致しませんよ。不良品なんて売った日には全額返還ですとも」

「大した社会人だな。それで何を売るんだっけ?」

「星ですよ。お客さん酔ってます?」

「或いは酔っているのかもしれないな……星を買えると言う栄光に……」

「お酒にですよ」

「或いは失恋した悲劇に……」

「振られて深酒ですか。可哀想に」

「いいや!振られてない!なにせあの娘は完全フリー!諦めない限りチャンスは無限大!」

「そ、そうですか。ところで我が社の星はそんな恋愛下手にこそオススメなのですが」

「ふん、いかにも話し上手のセールスマンが言いそうなことだな」

「お客さん、よく聞いてください。気になる女の子と良い雰囲気で二人っきりの時、夜空を指差しこう語りかけるんです。『なあ見てくれよ。実はあの星、俺のなんだ』ってね」

「するとどうなる?」

「大体の娘はイチコロですよ。一撃必殺、一字千金、一石二鳥!星のお陰で冴えない僕にも彼女が出来ました!」

「……参考までに聞くがお値段はお幾らほどで?」

「星は本来時価でして、大富豪でもない限りとても手が届くようなものではないんですが──」

「ですが?」

「なんと今なら貴方の貯金全額ピッタリと超々々安くしておきましょう!」

「買ったァ!次こそ口説き落としてやるぜぇ!」

「素晴らしい。良い星ライフを!」

 

 

 なんて夢のような、というか夢であって欲しい出来事が一週間前のこと。翌日、二日酔いでガンガンと痛む頭を抱えながらATMで確認すると預金が本当に0になっており、別の意味で頭を抱えたものだ。これでは大学の学費どころか今月の家賃すら危うい。

 いつのまにか見知らぬアカウントから「星ご購入アフターケアの問い合わせについて」なんてLINEが来ていたので、信じたくはないが現実だったのだろう。そういえば酔った勢いで高笑いしながら変な書類とかも書いた気がする。

 そして気になるあの子に対して夜空を指差しながら「実はあの星、俺のなんだ」と囁いて、かなりガチめの「は?」を食らったのが昨日である。

 

 

「急に問い合わせが来たと思ったらそんなことですか」

「そんなことではないだろう!詐欺だぞ、詐欺!」

 

 俺は宇宙人を居酒屋に呼び出して当たり散らしていた。実に一週間ぶりの深酒である。というか実は毎週土曜はこうなっている。気になるあの子とは金曜深夜にバイトのシフトが被るのだ。

 

「私はちゃんと『大体の娘は』と言いましたよ。きっと貴方が狙っている娘は相当の変わり者なのでしょう」

「そんなはずあるか!……そんなはずあるのか?」

「ですので私の商売は決して詐欺ではありません。実際ウチの惑星ではそれで大体落ちます」

「うぅむ、そうか」

「まあ、地球ではどうなのか知りませんが」

「やっぱり詐欺じゃないか!」

「詐欺ではございません。セールストークです」

「お前そんなこと言うならあの子と恋人になれるまで呼び出し続けるからな!」

 

 

 なんて会話が発端だっただろうか。俺はこの日を境に本当に毎週宇宙人を呼び出した。居酒屋や家飲み、カラオケでオールしたこともあったか。一人で深酒するよりも、誰かに愚痴りながら深酒する方がよっぽど楽しい。それだけのことである。

 

 

「今日もですか」

「今日も今日とて口説き失敗大失恋!おっと正しくは昨日だったな失念してた!って失礼なこと言わせんじゃねえぞこの宇宙人が!」

「もうかなり出来上がってますね。ポリ袋とか用意しときます?」

「必要ない!俺はまだまだ元気ヴォエ!」

「うわ、やめてくださいね。スーツにかかるので」

「スーツ!そうスーツだ!お前のスーツが気に入らない!」

「これはこの星の正装であると聞きましたが、違いましたか?」

「それは合ってるけど似合ってない。小学生の不細工なコスプレみたいだ」

「一応我々でも着こなせるように細工がしてあるはずなんですが」

「そうだ、子供の頃の古着をやろう!お洒落になれるぞ恩に着ろ」

「着るのは貴方の古着では?」

 

 

 付き合わされる宇宙人も初めは嫌がっていたがどうやら次第に楽しくなってきたらしい。いつのまにか呼ばなくても勝手に来る様になり、一緒に酒も飲む様になっていた。

 火星戦争よろしくアルコール免疫がなくて死ぬんじゃないかと心配していたが、あの宇宙人はぶっちゃけ俺よりも酒に強い。しかも飲んでも顔色が灰色のままなので酔っていてもわからないのだ。

 

 

「どうも、今日も飲んでますか?」

「鍵閉めてた筈なのに当たり前に入ってくるな」

「我々の技術は地球よりも凄いのでアパートの鍵くらいちょちょいのちょいです」

「その技術で俺に彼女を作って欲しいんだがな。つまみはチータラでいいか?」

「造ることならできますよ、一週間で死にますけど。あ、カルパス持ってきましたよ」

「蝉か!俺の彼女は!」

「というかまだ彼女出来ないんですか?私そろそろ星に帰りたいんですけど」

「昨日もフラれたよチクショー!もうこんな世界嫌だー!俺の星を地球に落として地球滅亡とか出来ないのか!?」

「残念ながら星の動きって全部決まってるんですよね。地球では解明出来てないかも知れませんが隕石とかも全部あらかじめ決まってるんですよ?」

「はん、流石の宇宙人様も星落としは出来ないか」

「出来ますよ?出来ますけど上司からめちゃくちゃ怒られるので」

「いいじゃないか、ちょっと叱られるくらい。むしろちょっと叱られるくらいがちょうどいいんじゃないか?」

「嫌ですよ。星を落としたいならばまず私をオトすことですね。まあ半年も気になる子にフラれ続けてる貴方では無理でしょうが」

「よしこっちに来い。締め落としてやるぞ風船頭」

「脅すんじゃなくてオトすんですよ?」

 

 

 なんて具合にしょうもない話をしながら毎週だらだらと宅飲みをする。それが俺たちの奇妙な日常だった。

 日常だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 だから、俺は深く考えたことがなかった。

 

『緊急速報です。緊急速報です』

 

 なぜあの宇宙人がわざわざ地球にセールスにやってきているのか。どうして最近、世界各国が宇宙開発を異様なほどに急ぐのか。どんな理由で星の値段が暴落していたのか。

 

『隕石落下に伴い、緊急会見が開かれました。会見によると予測被害地域は地球全土』

 

 テレビから馬鹿みたいなニュースが流れてくるまで、俺は気が付かなかったのだ。宇宙人とずっと一緒にいたのに少しも気が付かなかったのだ。

 

『繰り返します。もうじき地球は終わります』

 

 

 

「はあ、それで土曜日でもないのに呼び出されたんですか?」

「単刀直入に聞くが、あの隕石はお前たちの仕業なのか?俺が星を買ったから地球まで星をデリバリー、なんて具合に」

「もちろん違いますよ。というか前も言いましたけど星や隕石の動きって我々でも中々変えられないですから」

「じゃあ、地球が隕石で滅ぶのは…」

「運命ですね。我々が来なくてもこの惑星は滅んでました」

「そう、なのか」

「我々の目的は滅ぶ予定の惑星から資源を回収することなんです。商売だって資源を買い漁るための資金集めですし」

「じゃあ地球滅亡はもう……」

「地球から見ても数年前からわかってたことのはずです。世界各国もそれを承知で宇宙開発に励んでいたのでは?」

「なんだよそれ……知らねぇよ……」

「それと、我々はもうじき撤収します。きっと今週末に集まることはないでしょう」

「は?」

「“潮時”と言うことですよ。隕石が落ちて来るのは……今週の金曜日です」

 

 銀色の風船頭がふらふら揺れる。いや俺の視界自体がぐわんぐわんと揺れている。宇宙人とはもうかれこれ半年以上の付き合いだ。こいつは紛らわしい言い方はすれど嘘はつかないと知っている。

 

 全ては、どうしようもないほど本当のことなのだ。

 

 

 

 

 ───と、言うのが俺が隕石落下日を知ってる理由だ。わかったかなマイハニー?」

「とりあえずそのマイハニーって呼び方やめてほしいんすけど」

「ハニーと呼ばないで、か。アメリカだと恋人の喧嘩の常套句らしいな」

「かれこれ半年以上振り続けてるんすからそろそろ諦めません?」

 

 客が来ることない深夜のコンビニ。いつもなら多少は客が来るのだが、今日は特別客が少なかった。それも当たり前のことだろう。なにせ今日こそ地球滅亡の日なのだから。

 

「というかさっきの話が本当なら思ってたより想いが重くて引くんすけど。地球滅亡が今日だって知っててシフト入れたんすよね」

「引いて惹かれて……これが恋の綱引きか。奥深いな」

「先輩が一方的に寄ってきてるだけじゃないスか」

 

 地球滅亡がいつやって来るのかという情報は、ほんのついさっきまで伏せられていた。やけになった人々が暴れる時間を少しでも減らすために敢えてぎりぎりまで隠していたのだろう。

 そのお陰で彼女のように地球最期の時にシフトを入れてしまった悲劇の被害者が出ているわけだが。しかし当の本人はその境遇に嘆くこともなく、レジの中で大人しくスマホをいじっている。

 

「実のところ、最期の日に君と少し話がしたかっただけなんだ。だから俺はもう満足。仕事は俺に任せて君は友達なり家族なり会いに行った方がいいんじゃないか?」

「そんなこと言われてもウチって特に仲良い人とかいないんで。家族とも上手くいってないし」

「そうだったのか、知らなかったな。ふふ、そんな秘密を話してくれるとは俺たちの仲も縮んだということだな」

「いや別に隠してないっす。それより先輩、なんかもう空に隕石が見えるらしいすよ。見に行きません?」

「なんだと?思ってたよりも早いな。よし、酒とツマミを奢ってやろう。星見酒だ」

「わー、先輩のそういう太っ腹なところは好きっす」

「今から急いで大食いすればワンチャンあるってことか」

「誰も太い腹が好きとは言ってないすよ」

 

 酒とツマミをありったけ持ち出し、コンビニ駐車場に陣取る。流石のコンビニでもレジャーシートは置いていなかったので地べたに座り込んだ。狭い駐車場だが車なんて一つも停めてなく、俺たちだけの貸切だ。きっと最期の時をコンビニで過ごそうなどと言う俺たちは、相当の変わり者なのだろう。

 

「うわ、ほんとに見えますよ。なんかアレすね。『君の名は。』でこんなの見たことある」

「なんだそれは」

「有名なアニメ映画っすよ。知らないんすか?」

「君の名前なら知ってるけど『君の名は。』は知らないな」

「でっかい流星を女の子と二人で見てるイイ雰囲気の時に、そんなクソみたいな駄洒落言うから先輩はダメなんすよ」

「なんと。そういうのはもう少し早く言って欲しかったな」

「いやだって口説くの下手すぎてずっとそう言うジョークだと思ってたんで。まさかガチで口説いてきていたとは」

 

 どうにも相手にされないと思っていたらそんな理由があったのか。となると俺の気持ちが本当だってわかった今なら口説き落とせるチャンスなのでは?だがそうは言っても俺の口説き方は下手すぎるらしい。アドバイスが、俺以外の人の意見が欲しいな。

 そう考えた俺は彼女にバレないようにこっそりとスマホを取り出し、LINEを開く。実のところ、俺が恋愛相談できる相手なんて一人しかいないのだ。

 そして、気がつく。宇宙人からいくつか通知が来ていることに。

 

『半年間お付き合い頂き、ありがとうございました。本日をもって星購入アフターケアサービスは終了いたします』

『またそれに伴いお客様の意見を取り入れた新しいサービスを開始しました』

『恩を押し売りしておきます。初回サービスとして値段は無料です』

『それでは、良い地球ライフを!』

「あ?」

 

 よくわからないことが長々と、つらつらと書かれている。その意味を理解する前に、隕石を見ていた彼女が歓声をあげた。

 

「あ、先輩見てくださいよ!隕石が!」

 

 ハッとして夜空を見上げた俺の視界に入ってきたのは、煌めくような“もう一つの流星”。そして“二つの隕石”がぶつかって粉々に砕ける姿。

 宇宙人の真意を察して、変な笑い声が出る。

 言いたいことはいっぱいあった。

 ああ、全く勝手に人のモノを壊すんじゃない。不良品も良いところじゃないか喧嘩売っているのか。恩と喧嘩を同時に売られちゃプラマイゼロで何も言えないではないか。

 けれど宇宙人がここにいるわけでもなく、今一度スマホを見ると宇宙人のアカウントは綺麗さっぱり消えていた。ごちゃ混ぜの感情と半年間の記憶が頭の中を巡る。

 ただこの事を誰かに話したくて、誰かと共有したくて。唖然とする彼女に対して、夜空を指差し語りかけた。

 

「なあ見てくれよ。実はあの星、俺のなんだ」

 

 

終わり

 


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