都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ   作:すかすかのタキ

14 / 40
新章突入的な


第二部
魔法協会受付様、モブというにはあまりにキャラが濃すぎます①


 厳寒を耐え忍び、険しい山々を乗り越えて。よくぞここまでいらっしゃいました冒険者様。本日は大陸魔法協会オイサースト支部にどのようなご用件でございましょう?

 

 ───成程、パーティーメンバーをお探しですか。三級以上の資格があり、どちらかといえば攻撃魔法より補助魔法を得意とした方をご所望であると。承知致しました。オイサースト近辺に居住されている方に何名か心当たりがありますので、早速手紙を送っておきましょう。

 

 そちらは二級試験のお申し込みですね。では、大陸魔法協会会員証と五級以上の資格証明書の提示をお願い致します。…はい、間違いございませんね。試験は今日から二か月後に実施予定となっておりますが、その間生活の目途は立っておられますか? オイサーストでは長期滞在される協会員様の為、宿泊所や仕事の提供も行っていますので、必要とあらばいつでもお申し付け下さい。

 

 次、そちらの方は───…はい? わたくしの丁寧な対応や、知的で静謐な瞳が気に入った? 是非名前を、そして今日の業務が終了後、ディナーをご馳走させて頂きたい?

 

 あらあら、いけませんよお客様、手など握ったりしては。カスハラという言葉、ご存じありません? 昨今、不特定多数と接する受付は、自分の身を守る為、名札を付けることも厳禁となっておりますの。

 

 ですがわたくしこと、仮称・魔法協会受付のクールビューティーお姉さんモブリーナが見たところ、お客様はなかなかどうして紳士なお方であるようですし───…そうですね。では、こちらの支部の二階には、小さいながらケーキの美味しいカフェが併設されておりまして。そちらでお話するくらいなら、わたくしも決して吝かでは───

 

 

「ねえ~モブリーナさん~。わたしお腹が空いたから~、二階のカフェからサンドイッチでも運んできてくれない~?」 

 

 

 ───などと益体のない現実逃避。いいえ、受付のお姉さんとしてお客様からの如何なる要望にも応えられるようあれこれシミュレーションを重ねてたのですが。

 

 今より一時間前ほど前。協会にひょっこりやって来て、ロビーの隅に寝転がりそのまま動かなくなっていた謎の小柄なもさもさ物体。もとい、一級魔法使いゼンゼ様の傍若ぶりに、冷静沈着かつ懇切丁寧であるべきプロ受付のわたくしも、いい加減堪忍袋の緒が切れました。受付と一級では地位が違いすぎますし、お客様の奇異の目を含めあえて見て見ぬ振りをしていましたがもう限界。幸い今は、お客様も一人としていらっしゃいません。うふふ、そういう訳でこれ以上の遠慮は無用。営業妨害絶対撲滅は全商売人の共通認識。受付カウンターから楚々とした仕草で歩み出て、クセの強い一級の中でも殊更酷いダメ人間代表の元まで一直線。では、これにてプロの顔は一時解除。次いで、抑え込んでた殺意も解除。右手で髪をグイっと掴み、強制的に顔面引き起こしてやりました。

 

「ちょっ、痛い痛い痛いよ~。いきなり何するのさモブリーナさん~」 

 

「いきなり云々はこちらの台詞ですよこの合法ロリ! どうして協会に来るなり床に寝転びだすんですか意味不明かつみっともない! 休むならまっとうに自分の部屋に帰ってからにしてくれない!?」

 

 思わずため口が出ちゃったけれど、もう知ったことじゃあありません。右に左に、酔って吐くなら吐きやがれというヤケクソな気迫を以ってぐわんぐわんと激しく頭を振り回し、どうしてこんなことをしてるのか話を強制的に引き出します。それによると、

 

「いやね~? 二次試験も終わったし、最後に試験管理部のとこにまで、報告に行かなきゃとは思ってたんだけどね~?」 

 

 ───はあ。

 

「何せわたしはこの通り~、重度のコミュ障にして、高位の人見知り女じゃん~? 知らない受験者をいっぺんに、しかも十八人をも相手にしたら、終わった後に疲れが一気に押し寄せてきちゃって~」

 

 わたしには関係ないですが、マジでどうしてこんなのが、五回も一級試験官を務めているんでしょうかね。謎すぎます。

 

「試験中もさ~。同伴者のアイテム整理とか~。ボス攻略会議の見守りとか~。休む機会はいっぱいあったんだけどさ~。ダンジョンて、床は固いわ埃っぽいわ、ジメジメ湿気ってカビ臭いわで、ちっとも身体が休まらないでしょ~? 

 で、それに比べたら、ゼーリエ様の空調結界が行き届いた協会内はもう天国! モブリーナさんが、毎日丹念に磨き抜いてる床面は、緑萌える草原そのもの! そう感じたら最後、報告するのも自室に戻るのも面倒臭くなっちゃって~。せめてあんまり目立たないようすみっこで、ゴロゴロ疲れを癒してた訳なんだけど───…」

 

 超・ゆるゆるダウナーにしては珍しい、拳を握りこんでの熱い力説。ですが、言葉を言い終えるより前に。

 

 わたくしは、右手でもさもさの額を握り、小さな身体を天井へ向け高く真っ直ぐに掲げ上げてやりました。

 

「痛い痛い痛い痛いマジで痛い! も、モブリーナさん今度のは本気でシャレにならないくらいに痛いんだけどー!?」 

 

 ゼンゼ様が手足を無様にばたつかせ、無人のロビーに弱々しい叫びが響きます。

 

 うふふふふ、そりゃあ痛いでしょうともね。緒が切れるどころじゃありません。気遣う点がずれすぎていて、堪忍袋そのものが『ぱあん!』と破裂しちゃいましたので。この仮称モブリーナ、今でこそ家庭の事情の悲喜こもごもで協会受付として働いておりますが、実は三級魔法使いの資格持ち。それも二級昇格は時間の問題、いずれは一級も夢ではないと将来を期待された、特にフィジカル強化を得意とするゴリゴリのステゴロインファイターであったのです。───とまあ、もう取り返せない過去は脇に置かせて頂いて、

 

「…つまりですよゼンゼ様。あなた、その薄汚いダンジョンから帰った後に、服も着替えず髪も身体も洗わないまま、よりにもよってわたくしの日々の仕事を理解しているその上で、ロビーで好き勝手に寝転んでたと?」

 

 ああ~道理でさっきから形容し難い異臭がする筈ですよ。未踏破ダンジョンと引きこもり美少女の混合臭なんて、歴史上わたくし以外に何処の誰が体感してるというのです。髪の毛も微妙にゴワゴワで、いつもの空気感やら艶やかさも足りていないと思いました。ゲナウ様の素晴らしい仕事に感謝なさい。

 

 ───あら、全身に髪の毛が絡みついてきてる。反撃ですかゼンゼ様。けれど、一級随一の狂犬と名高い貴女にしてはずい分としおらしい抵抗で。ふふふ、やはりわたくしの読み通り、コミュに疲れてかなりパワーダウンしてますね。今ならば、得意の接近戦であるならば、二級相当のわたくしでも明らかに出力は一歩上。今ならば、日頃のやりたい放題し放題のツケを、余さず全て支払って頂けるということです。さてさてどうしてくれましょう。はしたなくもこのプロ受付モブリーナ、高揚の余り涎が垂れそうになっておりますよ。ってああもう暴れないで下さいってば。いくら空調結界があるといえ、この上更に汗をかき異臭を一段レベルアップさせる気ですか。…ふむ、決めました。やはりここは、その真白のロングスカートと紺のボレロに隠されたとても■■歳とは思えない可憐な蕾のような肉体を、お姉ちゃんがきれいきれいしてあげるところから始めさせてもらいましょう。お着替えも、ゼンゼ様にもっともっと似つかわしい、リボンとフリルでいっぱいのメルヘン全開な一品を用意して───…

 

 

「あー、お嬢ちゃん方。楽しくじゃれ合ってるとこに悪いんだが、こっちの用事も聞いちゃもらえやしないかい?」

 

 

 んきゃあああああああプロ受付たるこのわたくしが何たる失態! いつの間にかすぐ傍に、お客様がいらっしゃっていましたあああああああ!

 

 絡みついた髪の毛を一秒かからず振り解き、次の一秒で受付カウンターへと爆速帰還。背筋を伸ばし顔を上げ、営業スマイルを作ったら一礼しつつはい一言!

 

「おはようございますお客様。大陸魔法協会オイサースト支部へ、ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でございましょうか?」

 

 自分の失敗はすぐ忘れ、いけしゃあしゃあと普段通りに振る舞って見せる。それもまた、プロとして欠かせない重要な資質なのでございます。あ、もちろんゼンゼ様も一緒に運び、カウンター下のスペースに放り込んでおきましたのでご心配なく。ちょおっと乱暴になっちゃったけど、悪運だけは最高峰なこのお方のことですしたんこぶ一つくらいで済んでいるでしょう多分☆☆☆

 

 …ってあら? あの銀色の髪と、狼みたいに野性的で鋭い瞳。

 

  確か先日、試験の合間にも関わらずフレッサーの討伐依頼を引き受けて頂いた、二級魔法使いのヴィアベル様───?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。