都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ   作:すかすかのタキ

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魔法協会受付様、モブというにはあまりにキャラが濃すぎます②

 ───ああ、ヴィアベル様は大変に素晴らしい男性ですね。

 

 聞けばあの方の本職は、北部魔法隊隊長であられるとか。魔族残党との戦いにおける、大変重責ある立場です。合否がどうあれ、一級試験が終わり次第すぐに前線へと舞い戻らねばならないでしょう。

 

 だからこそ、自身が依頼を引き受けた、フレッサーの討伐に手落ちがないか。

 討ち漏らした個体が付近で暴れ回ってなどないか、わざわざここまで確認しに来て下さったのです。

 

 粗野な見た目や口調に反し、何という細やかなお気遣い。出世とは、正しく彼のような人間の為にある言葉。使命感や責任感に溢れ、自身の手足を動かすことを厭わない。そのような方こそが、国家の繁栄や市民達の幸福の為、栄光ある階段を登り果たしていくべきなのでしょう。

 

 恥ずかしながら本音を言わせて頂きます。わたくしヴィアベル様を、伴侶としてがっぷり掴まえときたいです。受付なんて退職します。最強の子を産みます。そして、いずれは鍛え上げた我が子と共に、相手が如何なる重武装であろうとも堂々ステゴロで挑み続けたあの日々に回帰したいと願います。懐かしき、血と喝采に満たされた輝ける過去。

 

 ───ああ、ですが。この世界の広大さに比べれば、高々一人の乙女の描くあまりに慎ましやかな夢なれど、叶えることは不可能のようでした。

 

 わたくしが、多くの戦士の死に際に。そして、散りゆく魂が魅せる、最後の激しい煌きに。

 

 古今東西の戦場で、幾度も幾度も接してきた、経験豊富な恋する受付であるゆえに分かるのです。

 

 会話をしながら見つめてた、ヴィアベル様の鋭利な瞳。用を終え、協会ロビーから去っていく、責ある者の大きな背中。そこから感じ取れたのは、一つの諦念でありました。

 

 今更叶うことはない。決して報われることもない。自分でも馬鹿馬鹿しいと、一番欲しいものはもう取り戻せないのだと知りながら。

 意地を張って、不敵な笑みで、今日も戦場へと立ち続ける。

 

 何も言えずに見送ったのは、そんな誰にも言えない諦念を秘めた、哀しく孤高な背中でした。

 

「───悔しいですねえ」

 

 再び無人となったロビー。プロらしく、背をしゃっきりと伸ばすのを一時止め。

 少し前屈みになって、カウンターに肘をつくと、思わずため息が漏れ出した。 

 

 ───試験で組んで、共に戦い切り抜けた仲間でしょうか。ヴィアベル様の後ろには、白いコートを身に付けた黒髪の男性ともう一人。如何にも強気でツンデレな、焦げ茶の髪をショートボブにした、年若い少女が寄り添っておりました。

 

 対抗意識むき出しで、無駄にギャンギャン噛みついて。

 適当にあしらわれたり、呆れられたりからかわれたり。

 

 誰の目にも、思わず笑いが浮かぶくらい、ヴィアベル様が気になってるのは明白なのに、ちっとも素直になれていない女の子。

 

 ───わたくしが、あっさり諦めた領域へ。

 

 無遠慮に強引に、無理矢理にでもこじ開けて、土足で踏み込もうとしている女の子。

 

「あれは、苦労するでしょうねえ」

 

 きっと、無為な思いに囚われる。尽くすだけ尽くし、振り回されるだけ振り回されて、そうして得られたものは何一つなかったと───項垂れ、後悔する日がいつか来る。

 

 一級第三次試験まで勝ち残って来れる子です。誰でも越えれる訳ではない、荒く険しい絶壁を、最後まで上りきろうとしてる子です。だから、それが予測出来ないほど、鈍い人間だとは思えません。

 

 だけれど、構わず行くのでしょう。恐れを知らず、怯えを知らず。若さという特権に乗り込んで、自分自身の欲望の為、傲慢なまでに突き進んでいくのでしょう。

 

 ───再度、ため息が漏れてしまう。

 閑古鳥が鳴いている。お客様は、相変わらず一人としていらっしゃらない。

 少し離れた大通り。喧騒の欠片が、ロビーにまでも届いてくる。

 

 叶わない少女の恋。泥のように苦い結末。それが見えているのにも関わらず、わたくしは羨ましくもあるのです。眩しくて、目が眩むくらい。胸を掻き毟りたくなるくらい。同時に心配でもありますし、お見苦しくも舌打ちしたくなるくらい、嫉妬も覚えてしまってる。

 

 自分でも、自分がどうしたいのかが掴めない。雑踏の中、手を引いてくれる母の手が、不意に解けてしまったかのような。泣くことも、探し歩くことも出来ず、ただただ呆然と立ち尽くす。そんな、幼子のような心持ちに、ずっと囚われてしまってる。

 

 …ってうぐぐぐぐ。何なのでしょうねさっきから。この意味分かんないくらいポエミーで、センチメンタルでセンシンティブで、解析不能な感情は。

 

 似合わないなあ。恥ずかしいなあ。若さにあてられちゃってるなあ。ここらで一度わたくしも、人生の軌道修正を図ってみるべきなのでしょうかねえ。

 

 具体的にはそう、拳と拳を堂々衝突させる方向とか。巨漢でしょうが小兵でしょうが、がっぷり四つに組み合う方向とか。相性一切関係なしで、磨き抜いた基礎だけが優劣を決める、全魔力をつぎ込んだゾルトラークとゾルトラークの尋常なる撃ち合いだとか。ちゅどーん。

 

 なんて、くどくど考え続けていたその時でした。

 わたくしの足元───受付カウンター内側にあるスペースから、不意にごとりと音が鳴った。

 

 夢想にのめり込んでいたせいで、思わず身体がびくーっ! と跳ね上がりかけましたけど、何ていうことはありません。ヴィアベル様が来られた際、思わずゼンゼ様を放り込んでしまってたのを忘れていただけでした。引きこもり気質なあのお方のことです。閉所に押し込められたら思いの外心地がよくて、うたた寝してたらうっかり頭を打ったとか、大方その程度のことでしょう。

 

 鼻をつまみ、やれやれと屈んで覗き込んでみます。さっきまで、ぬぎぬぎさせてお風呂で一緒にあわあわしたいという欲望がギンギン滾ってたのですが、いつの間にかどうでもよくなっておりますね。知らず、失恋の痛みと共に浄化されていたようです。まったくゼンゼ様は、本当に悪運の強い合法ロリでありますこと。

 

 ただし、足元にこれ以上異臭が溜まってしまうのはさすがに勘弁ですからね。

 協会の名誉の為、ひいてはわたくしの給与とか職場環境、いずれ世界を股にかけ好き勝手に暴れ回れるだけの資金の為。ゼンゼ様には魔法使いの顔役として、最低限身なりを綺麗にして頂いて───…って、え?

 

 馬鹿な。あり得ません。これは一体、どうしたことだというのです。

 

 動揺を押し殺し、両目を強く擦ってみます。ハンカチを取り出して、眼鏡も念入りに拭いてみます。だけど目に映るものは変わりません。

 

 爪先で頬を、ぎゅーっとつねっても同じ。髪の毛を、えいやと一本引き抜いても同じ。

 

 夢ではない。紛れもない現実。いざ戦闘となれば、百の魔物が相手だろうといつもの無表情で突っこんでいくあの狂犬ゼンゼ様が。

 

 薄暗いカウンターの下、涙目で頭を抱え、追い詰められた子リスみたいにガタガタ震えていらっしゃる───!?

 

 

「ぎゃっ、ぎゃわいいーーーーーーーっっ♡♡♡♡ ギャップが胸にキュンキュンくりゅううーーーーーーーーーっっっ♡♡♡♡♡」黄色い絶叫を響かせて、協会の名物受付ことモブリーナ(仮称)は後頭部から卒倒した。




続き書いてたけど5000字全ボツ。定期更新は難しい…
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