都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ   作:すかすかのタキ

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エーレ様、純情純愛ツンツンツンデレお嬢様②~恥辱と屈辱の歴史編~

 さあ、ここからが、理想とあまりにかけ離れた苦渋と失望の現実よ。

 

 五日前、一級魔法使い試験一次試験、グローブ盆地での隕鉄鳥争奪戦。わたしの相手は、紫色のロングヘアの、冷たい目をした女の子───フェルン三級魔法使い。わたしと同年代にして、最年少で三級に合格したという界隈ではなかなかに有名な人物だ。

 

 つまり、魔法使いとして上を目指していく以上、絶対に負けたくなんてない相手。

 

 しかもここは、都市から遠く離れた人手の入らない森の中。大小様々な石が、右にも左にもいくらだって転がっている。即ち、『石を弾丸に変える魔法』を得意とするわたしにとって、絶対有利の独壇場。この状況で、しかもヴィアベルがすぐ近くで戦っていて、もしかしたらとっくに決着は付いていて手並み拝見と見られているかもしれない状況で、真っ正面から瞬殺圧倒してやらなくちゃ意味なんてないじゃない。貴方のおかげで強くなれましただなんて、説得力が皆無じゃない。

 

 そう考えて、正々堂々近距離からの撃ち合いに臨んだら、一般攻撃魔法の速射と連射に一撃も入れられないまま瞬殺された。

 

 何よあれ、あんなのあるなんて聞いてない。反則じゃん。チートじゃん。完全に判断を間違えたわ。考えてみたら、あんなカロリーという概念すら知らなさそうな鈍重───いいえ、これは直截がすぎたわね。あんな屈強な戦士でも抱き上げるのに苦労しそうなぽっちゃり女、見ての通りに飛行魔法は苦手中の苦手でしょうし。

 

 無理に倒しに行くべきじゃなかった。敵を分散させた意味を、深く考えるべきだった。中距離からの牽制でその場に確実に縛り付け、ヴィアベルが隕鉄鳥を奪うのを冷静に待ち続けるべきだった。ええ、正直メチャクチャ落ち込んだけど、その分だけはキッチリ反省して学習したわ。もう傲慢なマネはしない。休息期間中に過去の試験傾向を洗い出し、何を課されようとも堅実かつ確実に対処してやる。べ、別にぽっちゃりもとい規格外の巨乳が羨ましくて、ボコボコにしてやろうとしたのが本心なんかじゃないんだからねっ!

 

 三日後、続く二次試験。『零落の王墓』攻略という課題は、奇跡的にももう一回、ヴィアベルとシャルフさんとのパーティーで一緒に挑む流れになった。女神様、度重なるご慈悲に感謝します。ゼンゼ様、年の割には小っちゃくて可愛らしい方ですが、もしやあなたは神がご降臨なさる器ですか? 今後は毎月教会に欠かさず寄付させてもらうので。

 

 さあさあ名誉挽回の大チャンス。今度こそヴィアベルに、わたしの真の実力を示して見せる。そう決意したのに、またもやわたしはやらかした。両親からも学校からも、まだまだ実戦不足だと指摘されてはいたけれど、ここでそれが浮き彫りになった。

 

 長く未踏破だっただけはあり、『零落の王墓』はかなり深くて広大なダンジョンだ。先人の情報は少ない。トラップは悪辣だし魔物も強力。前衛となる戦士もおらず、何処まで潜れば、どれだけ戦えばゴールなのか、誰にも見通しが立っていない。で、ある以上、各々のやり方で、魔力を節約しながら攻略に臨む以外他にない。

 

 例えば、人によっては無闇な広範魔法を控え、敵の急所に一点集中、ピンポイントで撃ち抜いたりするでしょう。

 

 他には、敵の攻撃をギリギリまで見定めて防御壁の面積を必要最小限に留めたり。魔法だけに頼らずに、戦士よろしく武具での攻撃を混じえたり、色々な手段が考えられるわ。

 

 で、わたしはどうしたのかというと、ヴィアベルも認めてくれていた通り、シンプルに火力の高さや魔力量ならちょっと自信があったのよ。別に全然自慢じゃなくて、例として実績を上げさせてもらえばね? 魔法学校在学中は、定期的に自分の魔力の限界値を知る為に、魔力切れを起こすまでひたすら一般攻撃魔法を撃たせ続けられたりするのだけれど。

 

 わたしはただの一度だけ、今試験でも無駄なケンカばっかりしてる愚かで恥ずかしい雌猿のような同期二人、即ちカンネとラヴィーネが、

『うふふふふ、どうしちゃったのかなラヴィーネちゃん? 目が虚ろだし、呼吸も乱れきってるじゃん。辛いなら、とっとと負けを認めてベッドに寝かせてもらったりゃ?』

『はっ、うるせーってんだよカンネ。テメーこそ足がガクガク震えてるし、呂律も回ってねーじゃねーか。今だったら、ピーピー泣きながらママに助けを請いたって、見て見ぬフリをしてやるぜ?』とかなんとか、可憐な乙女にあるまじき汚い罵倒を応酬をしつつ限界の限界を超えて撃ち続けわたしの方が一発分だけ早く白目で気絶したのを除いたら一度たりともトップを譲ったことはなかったわ。

 

 他にはアレね。魔法学校卒業年度、中規模ダンジョンを二人一組で踏破する、極めて実戦的な課題。同級生らの大半は、まだ時機尚早だったと息絶え絶えで帰ってくるか、無理に進んで二進も三進もいかなくなって、教師に保護を求めるかのどちらか。

 

 そんな中、二級にして学園主席たるわたしだけは単独で攻略へと挑み、優雅に華麗に課題を達成。『あら先生、もしや手が足りていないので? わたしはまだまだ動けますので、よろしければ救助のお手伝いをしましょうか?』なんて挙手出来るくらい、余力も十分あったしね。

 

 ベ、別にカンネとラヴィーネのバカ二人に、

『お前もう、誰から見てもあからさまにフラフラじゃねーか! いいからわたしに任せて下がってろ!』

『はあー!? ラヴィーネだってとっくに魔力切れ寸前で、何処からどう見てもヘロヘロじゃん! わたしが前に出るから休んでて!』とかなんとか、窮地であろうと互いが互いを思い合い限界以上の能力を引き出していく。そんな、熱血少年マンガそのものの親友ムーブを見せつけられたのが悔しくて、当てつけで単独攻略を成し遂げたとかそういう訳じゃないんだから! 学生として過ごした六年間、勉強と修行ばかりにかまけてて、気付けば親友どころか友人すらもろくにいない、一度しかない青春が灰色に染まりきっていた事実が悲しかった訳じゃ全然全くないんだからねっ!

 

 ───い、いけない。話が盛大なまでに逸れてたわ。忘れましょう。黒歴史は忘れましょう。鉄の克己心を以ってして、光届かぬ記憶の最下層へと沈めましょう。

 

 …よし、消した。さっきのは何もなかったことになった。それじゃあ回想を戻すわね。しかもほら、わたしが自分の魔力量に絶対的自信があっただけじゃなく、零落の王墓攻略に限っては、ゼンゼ一級魔法使いから脱出用ゴーレムを授かっていたでしょう? 

 

 つまり、復路に関しては特に考えなくてもいいじゃない。人並み以上の魔力を秘めているわたしなら、ちょっとくらい無駄遣いも許されるって思うじゃない? 

 

 だから、ヴィアベルとシャルフさんが、慎重に核を見極めて対処しようとしてた防御力特化の魔物ガーゴイル相手にも、『わたしに任せて! だありゃああーっ!』って無駄に全力の一撃を打ち込んで、そんなことを調子に乗ってついつい何度も繰り返していたら、最終的に一級相当の実力者、デンケン宮廷魔法使いの複製を迎撃しなくちゃならない流れになって───。

 

 くうあっふぁあああー! あの瞬間の、一番肝心な戦いの最中に『あ、もうダメ、魔力切れ』ってバタンと倒れ伏しちゃって! そんなわたしを見下ろしてきたヴィアベルの、死んだ魚そのものな虚ろな目! もう傲慢なマネはしないっていう、昨日の決意は何だったの!? バカバカバカバカわたしのバカ! 穴があったら入りたい! うずくまってガンガンガンガン額を地面に打ち付けたい! もしわたしが、おじいちゃんにも負けないレベルの武闘派魔法使いだったなら!

 

 まずは魔力を溜めに溜め、極大貫通魔法で地底五十メートルまで穿ち抜く!

 

 そして作り出した空間に、一人孤独に引きこもる! この恥辱と屈辱が! そしてヴィアベルの、わたしに関する記憶が! 何もかもが、一片残らず風化するその日まで、十年でしょうと二十年でしょうといくらだって引きこもる!

 

 …とまあ、もうそれくらいまで追い詰められた心境なんだけど。さすがに都市の真ん中だし、実際に奇声とか上げるほど落ちぶれてる訳じゃないけれど。

 

 どんな失態を犯そうと、合格と言われたなら合格。ヴィアベルに背負われての形でも。わたしが納得いかなくても。

 

 パーティー三人で、協調しての最深部到達であった以上。

 平和主義者ことゼンゼ一級魔法使いの決定が、覆ることは絶対ない。

 

「ああもう、わたしはどうしたらいいんだろ…」

 

 さっきまで、激しい怒りと苛立ちに心が煮えたぎっていた。けれどそれも通り越し、らしくもない澱んだため息が漏れてしまう。通りを歩む足が重い。春らしい軽やかな空気の中、わたし一人がそれを乱す、あってはならない異物のよう。

 

 異国の衣類を纏った商人。年若く、まだまだ初々しさの残る冒険者。地元の貫禄あるおばさんや、通行人の隙間を縫って駆け回る、やんちゃ盛りの子供達。

 

 多くの人と、すれ違っては追い抜かれる。俯いて、とぼとぼ歩くこのわたしを、誰も気にかけてくれる様子はない。道行く人同士の会話。お客を呼び込もうとする、露天商の野太い声。活力ある筈の喧騒が、不快に胸を締め付ける。春とは言えど、やっぱり北国は北国だ。ほんの一瞬、ごうと吹き抜けた風が、殊更冷たく感じられ───もう、何もかもが、どうでもいい気分になってしまった。

 

 忙しい中で時間を作り、あれこれ指導してくれたおじいちゃん。まだ時期尚早だと食い止めつつ、最終的には信じて送り出してくれた、両親や学園の恩師達。期待してくれたみんなには、本当に申し訳ないって思う。

 

 だけどもう、限界だった。悔しくて、情けなくても限界だった。一級魔法使い試験最終試験。それが誰に、どんな試練を課されるものであれ。

 

 今のわたしでは、基礎だろうと得意技だろうと関係なく、全てにおいて失敗するイメージしか浮かばない。憧れの人の目の前で、思い上がった凡人らしい見るに堪えない愚鈍な醜態を晒し出す───そんな最悪の未来しか浮かばない。それをするくらいなら、ほら見たことかと嘲笑われたって、呆れと憐憫の目を向けられたって、尻尾を巻いて棄権した方がまだマシだ。

 

 魔法使いの世界とは、イメージこそが全ての世界。自分を信じ、揺るぎない成功のイメージを維持しなきゃ、大業なんて成せはしない。だというのに、わたしの頭は明らかに、失敗と遁走と、恥を上塗るイメージに支配されてしまってる。時間をかけたのならともかく、たった三日のインターバルじゃ、それらを払拭出来る気がしない。臨んだ未来が手に入るって、無垢に信じられていた自分には、今更どうしたって戻れない。

 

「───じゃあ、どうしようかな」 

 

 立ち止まって独りごちる。そして空を見上げて思案する。とりあえず実家へ戻り、また三年後に出直すか。或いは、友達のいない身軽な女に相応しく、誰にも告げずに何処かの実力主義なパーティーに入れてもらい、自分を鍛える旅に出るか。どんな明日を選ぶにせよ、今回の試験を諦めるのは、わたしの中で決定事項。

 

 ───ああ。こうやって、まるで自分みたいな空っぽの空を見つめていたら、ようやく頭が澄んできた。これからどう行動するのがベストであるか、主席らしくエリートらしく、錆び付いていた脳髄がジワジワと回転し始めてくれている。まずは気分を高めるべく、昨日の口直しを兼ねてお気に入りの菓子店に───…。

 

「ようエーレ。何だか知らねーけどさっきから、退屈そうにしてるじゃねーの?」 

 

「前衛抜きの魔法使いが三人。偏った組み合わせではあるが、半端な戦士職を引き入れるよりお前の方が余程いい」

 

 って、ん? ちょいちょいちょいちょいちょっと待って? 何なのこれは? 一体全体どういうこと?

 

 右腕と左腕。大通りの喧騒に紛れたのか、何処からかひょっこり湧き出してきた、憧れの恩人と微妙に乙女チックな戦友───即ち、ヴィアベルとシャルフさん。

 

 二人がわたしの背後から両の腕をガッシリ掴み、何一つ説明しないまま勝手にズルズル引きずり始めたのだけれどもーーーーー!!?

 

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