都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ   作:すかすかのタキ

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すいません、また消して書き直しました。23話まで更新予定…


ゼンゼ様、六話ぶりの登場なのにやっぱり酷い目にしか会っていない①

 ───さて一方。

 

 大陸魔法協会オイサースト支部の名物受付。もとい、都市の誰よりメガネが似合う、知的で清楚でただ今結婚を前提とした武才に優れる交際相手を絶賛募集中のクールビューティーお姉さんことモブリーナ(仮称にして自称)の手によって、受付カウンター下のスペースに投げ込まれたゼンゼがどうなったのかといえば、

 

 

 うわあああああんやだやだやだやだ怖いよおおおおおおおっ!!

 ごめんなさいごめんなさい! これ以上怒鳴らないでエーレ嬢! わたしがいるのにバンバン天板を叩かないで!!

 

 どうして本来引きこもりなこのわたしが! 大陸コミュニケーション協会万年九級にして超ド級のコミュ障たるこのわたしが! よりにもよって、どうして男女の修羅場なんかに居合わせなくちゃいけないのさああー!!?

 

 ヴィアベルを巡ってのエーレの暴走に巻き込まれ、頭を抱えて縮こまりガタガタガタガタ弱々しく震えていた。

 

 

 ───ではここから。

 

 一体如何なるプロセスを経て、ガタガタ震えて縮こまるゼンゼを目撃し『ぎゃっ、ぎゃわいいーーーーーーーっっ♡♡♡♡』とモブリーナが卒倒するに至ったか、ダイジェストにてご覧頂こう。

 

 まず、テンパったモブリーナの手によって、受付カウンターの内部へとぶん投げられてしまった当初。パネルに頭を打ち付けて軽く悶えてはいたものの、ゼンゼのメンタルにはまだブツブツ悪態をついていられるだけの余裕があった。

 

『まったくもー、まったくもー! 痛ったいなあモブリーナさんの見栄っぱり! おかげででっかいタンコブができたじゃないか恥ずかしい! しかも人をケガさせて放ったままで、ちゃっかり逆ナンまで始めるし! 図々しいことこの上ないよ! そんなだから高望みを改めれずに、ズルズルズルズル■■歳まで生き遅れちゃうんだよバーカバーカ! まああの銀髪ヤンキーは、凶悪そうな見た目に反して技術と知略で戦うタイプの魔法使いみたいだし? フィジカルゴリ押しスタイルのモブリーナさんからしてみれば、案外互いを補い合える理想の相手と巡り合ったのだとも言えるのかもしれないね? おめでとう、祝福するよ。長年撒き続けてきた屈辱の種から立派な花が芽吹こうとしているんだね。もっとも今から一年後には、『ヴィアベル様ごめんなさいもう無理です。我慢し続けてきましたが限界です。やはりわたしには、あなたに合わせた姑息な連携や頭脳戦など全く以って似合いません! 本日より、正々堂々気持ちのいい、正面からのステゴロタイマンスタイルに回帰させて頂きます!』なんてあっさり離婚を切り出す気もしないでもないけどね~あっはっは☆☆☆』…などなど、コミュ障らしい蚊やら蠅やらの羽音が如き小さな声ではあるものの、自称平和主義者にあるまじきエグくてゲスい毒舌を延々元気にぶちかましてた。

 

 それだけ文句があるのなら、とっととカウンターから這い出して外まで立ち去ったらどうなんだ? と、正論問い掛けたいところではあるのだが、そこはやっぱり超絶コミュ障ゼンゼ女史である。

 

 陽キャ男女がキャッキャウフフと談笑している場面へと、すっかり存在を忘れられてるっぽいのにも関わらず『う、うへへ、ちょっとごめんね二人とも☆☆ 二次試験官のゼンゼです☆ 盛り上がってるとこ悪いけど、わたしはお邪魔みたいだしここから出ていかせてもらうから…☆☆☆』と、コミュ下手由来の不気味な笑顔を浮かべつつ、巨大なナメクジよろしくにぬるりとカウンターから這い出してくる。実に奇矯な登場だ。見た者は必ずや『ひょわっ!?』だとか『びゃっ!』だとか、喉の奥から変な悲鳴が飛び出してくるだろう。そうやって恥をかいてしまうという悲しい確信があるからこそ、ゼンゼは愚痴りながらの待ちという消極的選択肢を選んだのだ。

 

 そして数分後、彼女は待ちという決定的な選択ミスを骨の髄まで思い知ることとなる。

 

 そう、言うまでもなくエーレの恋の暴走である。幼き頃より十数年、ヴィアベルだけを一途に想い、彼の隣に相応しい自分でありたいと、一途に修行を続けてきた。ゆえに、想い人を目の前で、よりにもよって安いナンパでかっさらわれるなど我慢が出来よう筈もない。

 

 一級に合格してからだとか何だとか、そんな悠長なこともう考えてられないわ。今すぐに、先を超されてしまう前にわたしの方から告白を───というのがエーレの深層心理であったのだが。

 

 悲しいかな、いくら澄ましていようとも彼女は強めのツンデレである。根強い人気はあるものの、不安定かつ面倒くさい人種の筆頭である。例え土壇場であろうとも、翻る直情をそのまま口に出すなんて素直に出来よう筈もなく。

 

 ネコが遊び散らした毛糸のように、感情がぐっちゃぐっちゃに絡まって───その果てに出てきたのが『バカバカバカバカヴィアベルのバカ! どうしてそんなに人の心が分からないのよ! そんなんで一部隊の隊長をやってるなんて信じられないわ!』などという、制御不能の激しい罵倒だった訳なのだ。

 

 そして何度も、くどいくらいに何度も繰り返し言ってるが。

 

 ゼンゼとは、人と人とが手を取り合っている眩しく尊い光景こそを至上の物とこよなく愛す生粋の平和主義者───であるにも関わらず、口も悪くば考えてることも毒々しい、対人関係が嘔吐するほど苦しく苦手な矛盾だらけの超絶厄介コミュ障である。

 

 そんな彼女であるゆえに、間近で吹き荒れる痴話喧嘩など精神的に許容不可。

 

 両目を固くぎゅっとつむり、両手で両耳もしっかと塞ぎ。

 ハムスターとかフェレットだとか、か弱い小動物そのものに震えつつ『ごめんなさいごめんなさーい!!』と慈悲を乞うていたのだが、運命とは彼女にとってとことん酷薄なものだった。

 

 耐えても耐えてもエーレの怒りは一向に鎮まらず、バンバンバンバンカウンターを引っぱたく。ゼンゼが取り残されているなどと、露ほども気付いてなんてもらえない。響く振動、苛む怒気。ゴリゴリ削られていくメンタル。

 

 ああ、どうしてわたしはもっと早く、ナメクジとなる覚悟を決めてここから脱出しなかったのか。誇りを捨てて、ミミズの如くにのたうちながら進んで行こうとしなかったのか。

 

嘆いたって、後悔したってもう遅い。くるぶし辺りまで伸ばされた、総身を包み込めるかのように柔らかな髪の毛も、彼女にとってマイナスに働いた。とうとう怒声に耐え切れず、ゼンゼはぱたりと床に向けて倒れ込む。普通ならばその音で、周りに気付いてもらえたかもしれない。しかし、魔法の媒体でもあるゆえに、いくら手入れが面倒だって絶対切れない髪の毛が、いい感じにクッション代わりとなっていた。

 

 音など全て吸収し、振動一つも伝わらせなどしない。ゼンゼ女史、重ね重ねとことん不幸。こうして誰かに気付いてもらう、最後の機会も失われた。

 

 瞳は虚ろ。狭くて暗いカウンターの内側で、ゼンゼの四肢がびくんびくんと小さな痙攣を繰り返す。『あ、あ、あ…』と泥のような呻きが漏れて、よだれすらもが垂れるままとなっている。やがて、少しずつ痙攣が治まりだすのと並行し、心の蔵もその働きを止めていく。

 

 細い四肢の末端に。脳に、血液が行き渡らなくなっていく。

 

 ゼーリエも、ゲナウも。フェルンもフリーレンもデンケンも。誰一人とて、彼女を助けになんか来てくれない。本当に、ゼンゼが死ぬ。安らかに眠りへ落ちるかのように、一応現代最高峰である稀代の魔法の才能が、こんな下らないことで永遠に失われようとしている。

 

 ───が、ここで。

 天の国の彼女の祖父が、愛する孫の命の為に女神と交渉した如く一つの奇跡が舞い降りた。

 

 冷めて死にゆくゼンゼの肉体。その中心───■歳以降全く成長の見られない、板チョコみたいに平坦な胸部から、するりと彼女の魂が抜け出してきた。

 

 その仄かな輝きは───超一流の魔法使い、あるいは一流の僧侶でもなくば観測出来ないものだけど───極度のコミュ障であるゆえの、息苦しくて世知辛い現世より解放された、晴れ晴れしさと穏やかさに満ちている。

 

 ただ一つ、口下手なんて気にも止めず、純粋に才能のみを評価して伸ばしてくれた、大魔法使いゼーリエへと向けた恩。そればかりは、簡単に手放すことが出来なかったのか。しばらくは、元の肉体の胸の上を、ふよふよ円を描くようにしてゆっくり漂っていたのだが───。

 

 やがて諦めたかのようにして。迎えに降りた、天使に手を引かれるかのようにして。

 ゼンゼの淡い魂が、その場で彷徨うことを止め真っ直ぐ浮かび上がっていく。

 

 遥か高き空へ向け、現世の物質に過ぎないカウンターの天板を、形無きものとして何の抵抗もなくすり抜けて逝く───正に、そのタイミングで。

 

 自己嫌悪やらモブリーナへの嫉妬やらの込められた、まだまだ未成熟なれど天賦を秘めたツンデレエーレの手の平が、カウンターの上部へと向け『バアン!!』と全力で振り下ろされた。

 

 つまり、浮き上がってきていたゼンゼの魂も巻き込まれ『バアン!!』と全力で叩かれた。

 

 これにより、ゼンゼの魂は奇跡的に元の肉体へと帰還。もとい、流星もかくやという勢いで、在るべき肉体奥深くへとどきゅんと一気に突き刺さり───『ふぅわぁあああああー!?』と、最早恒例である無音の絶叫を叫び上げ、奇跡的にもその意識は復活した。

 

 そして同時に、ここまでずっと荒れ狂ってたエーレの恋する精神も。

 

 無自覚ながらゼンゼの魂に触れてしまったことにより『いつもクールで落ち着いていて、その上強く優しくカッコいい。ゼンゼ様のような、素敵な一級魔法使いにこそわたしはなりたい』などなど、盛大に勘違いしてしまってる───けれど、あえて訂正しないでおいた方がよさそうな目標を、自力でうまく思い出し自力で勝手に沈静化。

 

 なんやかんやでヴィアベルとも仲直りして、シャルフを連れて三人で魔法協会から去っていったのである。

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