都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ 作:すかすかのタキ
ある程度書き溜めたので見直してからちょくちょく更新再開します…
十万以上の髪の毛が、寄り集まって幾十幾百の蛇となり。
蛇が更に寄り集まり、敵を殺す九の首持つ竜となる。
───やってしまった。この少年らが如何に、バカでクズでクソ生意気でこの世は自分らこそを中心に動いていると埃一片分すら疑わない思い上がった勘違い野郎にしてわたしの悲惨な少女時代を思い起こさせてくる憎々しい存在であろうとも、あくまでそれとは関係なき、罪なき普通の子供達なのだ。
平和主義者の一級として、有事とあらば最優先で守ってあげなくてはならない、人の世の未来を担う輝かしい存在なのだ。
───それを、わたしは三人纏めて一息に、紛うことなく殺そうとした。
ゼーリエ様に、厳しくも根気よく手を添えられて、共に鍛え上げてきたこの魔法を、よりにもよって子供を手に掛けることに使用した。
オイサーストの大通り。晴天にはそぐわない惨劇。エアポケットを形作る市民から、悲痛な悲鳴と絶叫が上がる。纏わりつけた髪により、全身の骨を砕き折り。肺も肝臓も心臓も、何もかもを纏めて潰し、口内から髪の毛を侵入させてそれらをぐっちゃぐっちゃにかき混ぜる。そんな、あまりにも残酷なイメージが、これまでの戦闘経験を元として明瞭に脳髄を駆け巡り───。
「じ、じゃあゼンゼさん? くすぐったかったり触れられるのが嫌だったなら、遠慮なく言ってよな…?」
「う、うむ。(コミュ障だけど)善処する」
どういう訳だかわたしは今、シュタルク君という赤毛の優しそうな少年に、汚れきった髪と服を拭き清められることとなっていた。
───さて、ここで時間を数日ばかり遡る。
一級魔法使い試験一時試験終了後。魔法都市オイサーストの、高級ではないけれど、取り立てて古いような訳でもない、ごくごく一般的な宿。
「シュタルク様。わたしが何を言いたいか、ちゃんと分かってられますね?」
「はい。それはもうとてもよく…」
届かぬ月へと挑むような、根無しの野犬の遠吠えが夜更けの街へと響き渡る。
その夜、戦士シュタルクは、滞在中の居室にて。
同パーティーの、金銭及び炊事洗濯家事全般の管理人───即ち、フェルン三級魔法使いに睨まれて、ただただ無言の眼光のみで折り目正しい正座を強制させられていた。
───戦士シュタルクは思う。まあ、俺達そんなに長い付き合いでもないけどさ。
フェルンはね、時々俺をゴミを見る目で睨んできたり、ウンコが好きなガキ扱いはするけれど、別に全然悪いやつじゃないんだよ。
ただ、ちょっと無口で愛想がなくて、誰にでも礼儀正しいようでいてちょくちょくすごく口が悪い。お金にめっちゃ厳しくて、人の生活全般を規則正しく管理しなくちゃ気が済まない、ある意味お母さんみたいなやつ。
そんでいざ戦闘になれば、怖くて震えて進めないでいる俺に『大丈夫です。シュタルク様はやれば出来る人だって、わたしだけはちゃんと知っていますから』と綺麗に微笑んで見せた後、前線へ向け無言でお尻を蹴っ飛ばしたりもするけれど───まあ、基本的にはしっかりしていて勇敢な、頼れる旅の仲間と言っていい。
「いいですか? やはり一級試験はかなり過酷な内容でした。わたしはまだまだ未熟ですし、フリーレン様は魔法の腕は凄くても人格面がすちゃらかです。精一杯頑張りますが、必ず合格出来るという保証はありません。
つまり、次の試験までの三年間、ここオイサーストに足をつけ、生活を営んでいかなきゃならない可能性も決して低くはないのです」
───まあ今日に関しては、完全に俺のせいでブチ切れちゃってるんだけど。
怖い。言葉が淡々としている分、怖さが三割増しになっている。油断してた。この期に及んでフェルンへの、理解が足りていなかった。暴飲暴食、夜更かしという名の自由。半日を寝て過ごすという自堕落が、こんな結果を生んじゃうなんて全然思ってもみなかった。
「まあまあ、フェルンはあれこれ大げさだなあ。三年なんて、次に備えて修行してればあっという間に過ぎ去って───…」
「フリーレン様、そういうところです。人間の三年は長いのです。余計な口を挟まないで下さい」
「はい…」
横で見ていたすちゃらかさん。もとい、エルフの少女フリーレンが、おっとりのんびり助け舟を出してくれた───のであるが、ぴしゃりと言われて黙り込み、それ以上何も出来はしなかった。後ずさり、部屋の隅で正座をし、小さな身体を更に小さく縮こまらせる。毎度のことだが安定安心の千歳児、師の威厳が全くない。
───うん、でもそんな風になっちゃうの、俺にはよーく分かるぜフリーレン。今の目はやばかったもんな。大粒の雪が降ってきて、見える範囲があっという間に白く埋め尽くされていく。極寒体験そのものの、昏くて深い恐怖の両眼だったよな。
頭も肩も、雪がじわじわ積もっていって、全身丸ごと押し潰されていく感覚。毎回毎回これに耐えてる俺らって、お貴族様より偉いよなフリーレン?
「ではシュタルク様。お話の続きです」
───なんてシンパシーに浸ってたけど、やっぱりこっちに切っ先が向いた。
ああ、分かっていたよ。フェルンは頭が切れるから、うっかり話を有耶無耶になんてしてくれない。浅はかな希望を打ち砕き、地獄のお説教が再開される。
「いいですか? シュタルク様の、わたしとフリーレン様にはない長所。それは卓越したコミュ力です。知らない土地の、知らないコミュニティにもすぐ馴染み、割のいいお仕事を幾つも集めてくださいます。それは、旅を続けていく上で不可欠な、何物にも代え難い能力です。
───だというのに、ここ二か月の体たらくは何ですか。ここオイサーストは、旅の目的地オレオールへの中間地点といってもよい場所です。目的の半分を達成し、多少気が抜けるのも分かります。ですが、わたし達が修行で忙しかったのをいいことに、ずっとダラダラしていたのは許せません。
改めて言いますが、受験に落ちてしまった場合、わたし達は三年間オイサーストで生活していかなければなりません。体感してみて分かった通り、その可能性は決して低いものでもありません。よってシュタルク様には、お持ちになってるその才を存分発揮してもらわなくては困るのです。
だというのに、やってることは何ですか。大して労働に勤しみもせず、夜更かししてはジャンボカフェを貪り食べる、贅沢自堕落スローライフ。許せません。ゾルトラークを撃ち込みたい。わたしだって食べたいのに。路銀の為に泣く泣く我慢してるのに。よりにもよって、わたしの目が届かないと高を括った状況で、それをやってしまうだなんて。
ええ、わたし達が合格しようとするまいと、最早関係なんてありません。シュタルク様には試験中徹底的に稼げる仕事に励んでもらい、必ずやその穴埋めを───…」
無口なフェルンがめちゃ喋る。拳を握り、私情を交え、ゾルトラークがどうこうとか、物騒な言を交えて力説&説教をする。怖い。過去一怖い。お金と甘味の恨みとか、マジであまりに怖すぎる。
「───まあ、程々にがんばってね」
フリーレンがぽんぽんと、憐れむようにシュタルクの肩を叩いてくる。
叩いてくる間にも、延々止まない長広舌。とにかくお金を稼ぎ出し、生活を安定させろというフェルンからのなかなかハードなご命令。ズレたフリーレンが察せるくらい、断る権利はシュタルクに一切残されてなどいなかった。