都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ   作:すかすかのタキ

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ゼンゼ様、フリーレンパーティー全員と裏で邂逅を果たしてた②

 ───そんな訳で、フェルンの命に従ってオイサーストの大通りへと出たシュタルクは、おばあさんの荷運びを手助けしたり、朝から酔い潰れてしまってる知らないおじさんを介抱したり。

 

 商人に挨拶をして適当に世間話をしたりとか、たまたま出くわした暴走馬車をとっさに食い止めてみたりとか、いつも通りにあれやこれやと人助け全般を行いつつ、自分の顔を売って回っていたのである。回ったところでシュタルクは、馬二頭をそれぞれ片手で石畳の上に抑えつつ不意に自分にツッコんだ。

 

 ───いや待って。暴走馬車て。改めて見ると、さすがは北部最大の魔法都市。通りも広くて整備されてて、人の数もお店の数も、地方に比べて格段に多い。その分小さないざこざが、色々増えちゃうのは分かるけど。

 

 だからといって、馬車ってそうそう暴走しちゃうもんなのか? 

 

 放っておいたら危ないし、反射で食い止めちゃっててなんだけど、こんなタイミングで都合よく、戦士としての名を売れる人死に級のイベントが、起こってくれたりするものなの? 普通起こったりはしないよね? あんまり都合が良すぎない?

 

 驚異の身体能力と、人外の域にある膂力。一連を目撃した、市民のどよめきにも気付かずに、シュタルクは置かれている現状を考える。

 

 ───あ、思い出した。大事なことを思い出した。そういえばちょっと前、オイサーストに来て一月以上は経った頃。街をぶらぶら適当に歩いていたら、暗緑色の髪をしたなんだか怪しいお姉さんに『ねえ少年。君、なかなかどうして強そうだし鼻も勘も利くでしょう? だから聞いておくけどさあ。わたし、この都市にたちの悪~い賊が入り込んでるらしいから、見つけ次第処してくれって依頼で動いてるんだよねえ。もしそれらしいのを見かけたら、お姉さんに知らせてくれると嬉しいな☆☆ 君の斧でヤるよりずっと、スパって綺麗に処しちゃうから☆☆☆』って声をかけられたんだけど、それが関係しているの??

 

 微妙に危ない人だったし、あんまり関わりたくもなかったから『そういえば郊外で瞑想をしていたら、マントで顔を隠した人達がこそこそ話し合いをしていたよ』って素直に教えておいたけど、それが巡ってこんなことになってるの???

 

 そんな疑問をよそにして、いよいよ押し黙っていた周囲から、やんややんやと爆発的な喝采と称賛の口笛が飛んできた。

 

「うおおー、すげーなあ兄ちゃん! 助かったぜえ!」「え、いや、その」「どこかの有名な戦士様?」「よく馬を殺さないまま抑えられるな!?」「この都市の衛兵隊に入らないかい? もちろん高給は約束する!」

 

 いや、ちょっとやめてみんなやめて? なんかマッチポンプみたいなんだけど。痛い。心が痛い。お姉さんが何者かは知らないけれど、俺が迂闊に答えたりしなければこんな騒動起きなかったかもしれないんだよ?

 

 讃えないで褒めないで。罪悪感がちくちく胸に刺さってくる。本当に、これって許されていいものなの? この街で、仕事を貰えるように顔を売る。当初の目的は果たせたけれど、素直に喜んどいていいものなの?

 

 シュタルクは師匠アイゼンと二人きり、十に近い年月を山での修行に費やしてきた。それゆえに、人一倍素朴かつ野心のないメンタリティに育ってきたといっていい。

 

 彼からすればこの状況は、偶然の産物であり棚からぼた餅に過ぎはしない。つまり、全く以って丈には合わない称賛だ。

 

 居心地が悪すぎて、顔を上げれず背を丸め、どうにかここから立ち去らせてはもらえないかと乏しい知恵を必死に回し───。

 

 まあいいか。誰もケガとかしてないし、みんな喜んでるならまあいいか!

 

 と、あっさり自分を納得させた。

 

 フェルンから『は? 一日ぶらついていただけで、何の成果も得られませんでした? シュタルク様、あなたはやはり、日常生活を維持することの難しさを何も理解してはいませんね。ゾルトラークをぶっ込みます』とかなんとか、氷の瞳で睨まれたりとかしたくないし!

 

 色々と葛藤はしたけれど、起こり得る恐怖を前にしてシュタルクはあっさり心を売っていた。───そう、この成果なら、フェルンを怒らせるんじゃなくちゃんと喜んでもらえるぞ。ぷりぷりしたまま口を利いてくれなくて、気まずい思いもしなくて済む。食べたい好物を当てるまで、延々屋台巡りもしなくて済む。それってめちゃくちゃサイコーじゃんか!

 

 ───などなど、彼は自分自身へと向けて、強く強く何度も言い聞かせてみせる。

 

 すると、彼の胃をキリキリさせていたストレスが、霧が風に吹き散らされるようにして綺麗さっぱり消え去ってくれていた。

 

 ああー、胸と腕と足が軽い。つまらない表現と言われても、事実全身が羽みたい。

 

 やっぱ俺、フェルンから放たれる重圧にずいぶん苛まれていたんだなあ。前みたいに、ザインと二人で分散されたりしないからなあ。けれどもう大丈夫。今晩は三人で、素直に美味しくディナーを楽しむことが出来そうだ。

 

 思考を前向きに振り切ったシュタルクは、頬を緩め市民達の喝采に応えきり、足取り軽く宿へ帰還───しようとしたのだけれども。

 

『シュタルク様、お腹を注視すれば分かります。お仕事探しも大事ですが、ここ最近、修行もサボっていますよね? 絶対サボっていますよね? 最低二時間、出来れば三時間以上。しっかりハードトレーニングもこなさなければ、帰ってきてはいけませんよ?』

 

 頭に強制的に割り込んだのは、いつも通りのジト目のフェルン。淡々として、言い訳の余地をくれない硬い声。

 

 堕落を見切られ、しっかり言及されていた、考えたくないその事実をはたと思い出してしまっていた。

 

 緩んだ頬が萎れてゆき、軽やかだった足取りもあっさり重いものへと逆戻り。

 

 ───とほほ、すっかり忘れてた。もう少しの間だけ、悩みも恐れも何もない幸福に浸らせておいてほしかった。フェルンてば、頭も良ければ勘もめちゃくちゃ鋭いし、ウソついたってすぐばれる。もう怒られるのはヤだ。ひと汗かいてからじゃなきゃ、とてもじゃないけど帰れない。

 

 浮かれ状態から一転、また半泣きのシュタルクは、踵を返しとぼとぼと、郊外にある高台へと向けて歩を進め───大通りのど真ん中、人が捌けたエアポケットの中心に、茅色の髪の小柄な少女を目撃した。

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