都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ   作:すかすかのタキ

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都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ①

 あの、詳細なんて絶対思い出したくなんてない、シュタルク君との黒歴史満載騒動から三日。即ち、一級魔法使い試験最終試験当日の朝。

 

 どういう訳かこの日、普段は協会最奥の間にて、独り研究に勤しんでおられるゼーリエ様が突然受付にまで降りてきて。

 

「───少し話したいことがある。これより一時間以内にだ。今、オイサーストにいる一級を、全員協会内にまで集めてこい」

 

 いつもの通りの低い声。余計なことは言わないし余計な言も挟ませない、傲岸たる絶対者の振る舞いで、わたし達に招集をかけられた。

 

 ふわああ〜それにしたって受付さん羨ましい〜。

 

 引きこもって予行演習してたから、残念ながらわたしは見るべくもなかったけれど。

 

 けどそれでも、わたしだって許されるのなら不意打ちで、ゼーリエ様から冷たく命令されてみたかった〜。

 

 想像しただけでシビれるよ。きっと腰から力が抜けて、口から魂は漏れ出るくらい、激しい衝撃と悦楽にボディを撃ち抜かれたに違いない。コミュ障だけど、現場に立ち会った職員さんには是非とも詳細を聞いてみたい。モブリーナさん、お好きなお酒を飲みたい分だけ奢るから、仲介役は頼んだよ。

 

 とにかくこの一言により、レルネン一級魔法使い、ファルシュ一級魔法使い、ゲナウのクソバカ、そして最後にこのわたしゼンゼ。

 

 該当者四名は、試験の準備もプライベートも放り出し、急遽として中央会議室にまで足を運んだ。

 

 

「…おいゼンゼ、うっとうしいぞ。貴様は何をさっきから、そわそわそわそわ無駄に身体を揺すってるんだ。ゼーリエに会えて嬉しいのなら、いつも通りに痛いノロケをぶつけられた方がまだマシだ」

 

 四人揃って集まった会議室の中央。急遽磨き抜かれた大理石の床。突貫で設えられた、触れてみたらまるで雲みたいに柔らかい、ゼーリエ様専用の豪奢なソファー。

 

 それを中心として、左手側にはレルネン一級魔法使いとファルシュ一級魔法使い。右手側にはわたしとゲナウ。それぞれ直立不動となって、師が伺われるのを無言かつ厳かに待っていた───のであるが、

 

「うるさいなあ。わたしにだって色々事情があるんだよ。てゆうかゲナウ、いつものことだが呼び捨てだとか不敬だよ。きちんと様を付けて呼びたまえ、様を」

 

 全くこの七三め。この空間に満ち満ちた、厳粛たる空気が読めないのかい。

 

 喋ったりしたらダメだろう。物音を立ててもダメだろう。毎度毎度どういうつもりか知らないが、わたしがいると場も状況も弁えず、嫌味を零さずいられない質らしい。

 

 しつっこくて陰湿で、お陰でわたしもこの通り、コミュ障ながら受けて立たざるを得なくなる。

 

「は? 貴様風情を恭しく、『ゼンゼ様』と呼称せよと? 俺より遅れて一級になった分際で? 意味の分からん依頼といい、相も変わらず放置をすれば天までだって増長しかねない女だな」

 

「わたしじゃないよ。ゼーリエ様をゼーリエ様と、きちんと呼べってことなんだよ。この世に様と呼ぶだけの価値なんて、あの方以外に誰が有しておられると言うんだい。大体君は、一介の弟子風情でありながら、毎回毎回ふてぶてしさが目に余る。今回こそはこのわたしを見習って、ゼーリエ様への生涯変わらぬ愛と忠義と忠誠を───…」

 

 この通り、ゲナウはどうしようもなくムカつく人間ではあるけれど、それでも今回に限ってはなかなかいい仕事をしたと思う。業腹ではあるけれど、ちょっとだけなら認めてやらなくもないとこだ。言い返すのは止めないけれど。

 

 ───と、そこで、

 

「…ねえ。二人とも、もうその辺にしましょうよ。またゼーリエ様に、『ほう、貴様ら揃って実に元気溌剌だな。どうだ? 二人がかりでも構わんから、このわたしが直々に、本気の稽古を施してやってもいいんだぞ?』って睨まれて、半殺しにされますよ…?」

 

「ぐ…」

「む…」

 

 あまりにも尤もすぎる、向かいの同僚ファルシュからの忠告だった。

 

 いくら尊敬している師といえど、半殺しになど遭いたくなくば、目前で醜態を晒すのだって勘弁だ。ゲナウも同時に渋面をして、振り上げかけてた言葉の矛をそっと懐にまで仕舞い込む。

 

 てゆうか、そもそも今はバカをやってる余裕なんて片時分すらないんだよ。

 

 これが先達の余裕というものか。蟠ってる殺意など微塵たりとも窺わせずに、澄ました顔で師の到着を待っている、敬愛すべき我が兄弟子レルネン一級魔法使い。彼の顔を、ちらりと一瞬目に収め、わたしは再び己が裡へと没頭する。

 

 ───シュタルク君が見たという、わたしの知らないヤツの顔。その印象を、確かなものだと裏付ける、ゲナウからの報告書。それらを元に、虐殺を考え直してもらえるだけの完璧な説得を作り出す。

 

 コミュ障だってきちんと喋りきれるよう、何度も何度も頭の中で読み上げては調整し、また繰り返して読み上げる。

 

 成すべき時に完璧な仕事を成す為に、わたしはイメージトレーニングを繰り返す───…。

 

 

 

 時は今より三日前。ゼンゼがシュタルクを押し倒さんばかりに迫ってた、犯罪すれすれな場面にまで遡る。

 

 ───さあ、わたしと来てくれシュタルク君。

 

 報復の時へ向け、愛憎の牙を鋭く砥ぎ続けているであろうレルネン一級魔法使いの元にまで、共に来てくれシュタルク君。

 

 ふふふ、ちゃあんと分かっているよ。君は心優しいお人好しだが、同時に優れた戦士でもあるだろう? いくら洗い落としていようとも、臭うモノはどうしようもなく臭うんだ。背負った戦斧に、幾十幾百の魔物の血を、君はたっぷり溺れる程に幾度も吸わせてきてるだろう? ゆえに、無抵抗な人の首一つ落とすなど、極めて容易い仕事の筈だ。

 

 ───そう。このわたし、ベテラン一級魔法使いゼンゼの首を以ってすれば、レルネン一級魔法使いの暴走も高い確率で止められる。こんな無能の首一つ、ただそれを差し出すだけで、将来有望な若者達の命と未来が救われれる。こんなに割のいい取り引きが、他に一つでもあるだろうか?

 

 断言しよう、絶対ない。これ以上の方法なんて、百の賢人、百の参謀を争わせても捻り出せる筈がない。

 

 だからさあ、わたしを殺してシュタルク君?

 

 怖がらなくていいんだよ。遺書にはちゃんと、合意の上って書いとくから。罪に問われなんてしないから。憎き魔族にとどめを刺してやるみたく、軽〜い気持ちでわたしの首をざっくりと───

 

「ストップストップ、ゼンゼさんストップー! 多分試験で関わってると思うけど、俺はフリーレンの仲間! フェルンとも、一緒にフリーレンの世話を焼いている仲間! そんで、レルネンさんともちょっとだけ! ほんのちょっぴりだけだけど、話をしたことあると思う!」

 

 ───なんだって?

 

 その言葉に、小さな身体でつま先立ちし、座ったままのシュタルクへ向け今にものしかからんばかりであった、ゼンゼの動きがピタリと止まる。シュタルクも、この機を逃してはならないと、詳細なんてろくに考えてもいないまま大急ぎで言葉を紡ぐ。

 

「多分だけど、もしかしたらだけれども、ゼンゼさんも受験者さんも、誰も死なずにレルネンさんを落ち着かせることが出来るかも!

 

だから一回落ち着いて、俺から離れて話を聞いてくれないーーーっっ!!?」

 

 

 

 

 フェルン嬢という、若くて将来有望な、目を離せない輝きを放つ魔法使い。その隣には、燦然たる才能に相応しい、若き戦士が自然と並び立つものなのか。

 

 朦朧とした暴走。今日会ったばかりの人に、自害を委託する愚考。皮肉にも、それによって明かされたのは、シュタルク君はフェルン嬢とフリーレンさん双方の仲間であったという事実。思いもかけぬ衝撃により、わたしは運良くその状態より目覚めることが出来ていた。そも、わたしをそんな状態へと追いやったのは、シュタルク君の気持ちが良すぎるマッサージのせいだけど、まあ身体を汚したままで放っておいたわたしの責も二割前後はありそうだし、一応不問としておこう。わたし偉い。見た目に反して心はでかい。えへん。

 

 その後、シュタルク君から次から次へと語られた、ちょっと詳細は憚られる、フリーレンさんの情けなすぎるエピソード。試験中、その片鱗を散々見せつけられてたわたしとしては、彼は確かにフリーレンさんの仲間であると、全面的に信じざるを得なかった。

 

 さて、そんなシュタルク君曰く。ここオイサーストへ来た当初、フリーレンさんはフリーの身ゆえ魔法使いとして無資格で、一級試験を受けたくっても受けられず。

 

 どうしたものかと困り果て、『聖杖の証』という、遥か昔の資格証明物らしい骨董品を差し出してみたのだが、案の定受付は誰も価値が分からずに、門前払い寸前になっていた───らしいのだが、そこに助け舟を出したのが、件のレルネン一級魔法使い。

 

 彼は最古の一級として、羨ましくも誰より長く濃密に、ゼーリエ様より指導を賜り生きてきた。その姿勢は、老境の域に達した今でも尚変わらずに、知識と技術共々に更なる高みへ至らんと日々研鑽を重ねてる。

 

 その様な方ゆえに、誰一人として分からなかった『聖杖の証』の持つ価値を一目見ただけで看破。下手をしたら、自身の権威を濫用してしまっているのだと、組織の中でマイナスに取られかねない。それでも彼は、恐れることなく明らかな敬意を以ってして、フリーレンさんが一級試験を受けれるよう試験管理部にまで取り計らってくれていた。

 

 それが今日より二ヶ月前。シュタルク君が目撃した、思わず恩義を抱かずにはいられない、偉大にして重厚なレルネン一級魔法使いの背。

 

 ───そうして彼は、このわたしへと、誠実と確信の目を向けて。

 

 誰一人として傷付かず、誰一人として死にもしない、最良にして確実な案を口にした。

 

 

『つまりさ、レルネンさんが規則を曲げても助けを出してくれるくらいフリーレンを尊敬してるっていうんなら。

 俺とフェルンでお願いをして、フリーレンに仲介してさえもらえれば、案外あっさり矛を下ろしてくれるんじゃ───?』

 

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