都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ   作:すかすかのタキ

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都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ②

 つい二時間足らず前。汚れていじめられてたのを見かねてと、手を取られてはオイサーストの街路を駆け抜けて、気付けば連れ込まれていた小さな宿屋。

 

 その一室で、『すわ、これはもしや、わたしの救出を名目として密室にまで閉じ込めて、ねちゃねちゃにとにと不埓な行為を思う存分成さんとする、邪悪なロリコンの計略では!?』と、四割くらいは疑い続けていたものだけど。

 

 いやはや、反社会的性癖保持者め、実行即反撃だ! などと、殺意を向けてて申し訳ない。よもやこんな経緯であっさりと、虐殺停止の確かな目処がしかと立ってしまうとは。

 

 三白赤毛戦士君───じゃあなくて、わたしの顔へと向けられている、シュタルク君のちょっぴり気弱な人なりの、誠実かつ真っ直ぐな視線。

 

 わたし、どうしようもない人見知りにしてコミュ障だし、特別イケメンではなかろうと、自分よりずっと若い男の子の顔なんて全然直視が出来ないけれど───重い前髪をとび越えてくるそれからは、見返りが欲しいとか、協会に食い込みたいなどという凡俗な胴欲は、一切読み取れなどしなかった。

 

 シュタルク君、心中改めてお詫びしよう。ロリコンもとい、反社会的性癖保持者とか考えちゃっててごめんなさい。イメージの中でだけだけど、手の平を重ね合わせ、礼儀正しくぺこり。

 

 ああ、そしてこれは確信だ。心底より望みながら、絶対不可能だって諦めかけてしまってた。人命も、血の一滴すらも零れ落ちることは決してない、平和的解決が可能だという確信だ。

 

 彼ならば───布団に潜れば少なくとも目覚めまで、将来だとか苦手な人間関係だとか、嫌なリアルを惰眠の内ですっかり忘れていられるよう───人として、わたしと同じ平穏を愛するだろう者として、間違うことなく信が置ける。

 

 それと同時。不意打ちで、レルネン一級魔法使いの狂気と怒気を、総身に浴びてしまって以来、ずっと蟠っていたストレスが。

 

 全身に血を浴びたかのような、赤黒くって重い不安。刺すかのような自責。星明かり一つ、マッチの一本すらもない、夜道のような不確かさ。一級除籍、平和主義者失格という、声にならない嗤いと嘲り。蟠り、蝕んで、わたしを追い詰めていたその全てが、初めからなかったみたいに霧消した。

 

 霧消と同時に力も抜けた。膝から下が脱力をして、うっかりシュタルク君へと寄りかかりそうになった。

 

 けど、出会ったばかりの男の子へと、野花のように身を委ねるなんてハレンチ行為、この未経験コミュ障にはとてもじゃないが耐えきれる気がしなかったので、どうにかこうにか力を捻り出して耐え抜いた。

 

 ───さあ、という訳で。

 

 我慢して、身体を委ねたりしなかった自分へのご褒美だ。この件はもう全て、フリーレンさんとシュタルク君へ、全面的に委ねちゃうこととしよう。

 

 わたしのようなコミュ障は、余計なことなどすべきじゃない。愛すべき後輩達、未来ある若者達の身命は無事助かる。ならば、自分の犯した失態は自分でどうにかするなどと、変にこだわるべきではない。

 

 ただ、この機にあの白マント───変態でか女ことメトーデだけはどうにか誅したかったとこだけど、そこまで望むのはきっと贅沢というものだ。わたしはただ、レルネン一級魔法使いと立ち会う時に、隅でちょこんと眺めていればそれでいい。

 

 てゆうかさ。本音を言えば、わたしはもう疲れたよ。木の枝で蟻の巣を突付いた如く、偶然掘り当ててしまった温泉が如く、どばどばーっと疲労が湧き出てきている真っ最中さ。

 

 思えば二級試験開始以来、協会ロビーでちょっとごろごろしただけで、ろくに休みもしていなかった。孤独が友のコミュ障なのに、あまりに人に囲まれすぎてしまってた。

 

 だから、もう帰ろう。この世の何処より安らげて、ただただ自分の為だけにある、神聖不可侵な我が居室にまで舞い戻ろう。適当に、好きなパンでも買い溜めて、ささやかな出番の到来まではだらだらごろごろして過ごすんだ。

 

 小柄にして童顔。肩から腰までをすっぽり覆う、宵のような葵いボレロ。思考も感情も伺わせない、月の如くに静かな瞳。見た目だけで判断すれば、ゼンゼは十代半ば頃の、儚くミステリアスな美少女である。

 

 そんな彼女を支えていた、平和主義者としての矜恃、一級魔法使いとしての気力など、シュタルクの案により空っぽそのものにまで抜けきっていた。針を刺され、萎れて地面にへばりつく、ゴミ箱以外に行きようがない無様な風船そのものな有り様。

 

 ───だがゼンゼは。

 

 それを、渾身の気合いで以って、無理矢理にでも縫い合わせては膨らませ、

 

「シュタルク君、済まない。君の案は、これ以上はないくらい最良のものだと分かっているが。

それでもこれは、わたしがわたしの力だけで。誰にも知られず、自力一つで解決すべき問題なんだ」

 

 明確な自覚の元、純然たる好意を踏みつけて、道理に適わぬ決断を口にした。

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