都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ   作:すかすかのタキ

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ゼンゼ様、無自覚に孫オーラが強すぎる

 …ねえ、いい加減まともな人も出てきてくれはしないかな? 心が折れてしまいそうなのだけど。

 

 ええと、あの髭が立派で片眼鏡のおじいさんは───有名な、宮廷魔法使いのデンケン氏か。年配だけに落ち着いた静かな方に見えるけど、海千山千の政治家でもあるらしいんだよなあ。わたしもこれで、名誉も実績も多くあるベテラン一級魔法使いだし。迂闊に近付いたら最後、権力闘争に利用されそうで嫌だ。

 

 それにしてもあの───わたしを見つめるデンケン氏の、妙に優しい眼差しは何なんだ? あの人とは間違いなく初対面。会話を交えた記憶すらないというのに何故。

 

 …けれど、不思議なことに。

 あのでか女に見られるような、不快な気持ちは全く湧いてなどこない。

 

 それどころか、時の流れに色褪せて、もう何年も思い返すことすらしなかった大好きなおじいちゃんとの思い出が。

 

 暖炉の火みたいな温かさを伴って、わたしの中で鮮明に蘇り始めていた。

 

 

 

 ───ああ、わたしの大好きなおじいちゃん。

 

 人見知りで、言葉も表情も乏しくて。

 大人の手を煩わせないことだけが、誇れもしない小さな取り柄。

 

 一緒にいてもつまらない、人形みたいに生気のない、子供らしさのない子供。

 

 ───そんな、小さなわたしの手を取って。

 

 村全体を見渡せる、遮るもののない小高い丘。

 憶病なわたしでも怖くない、冷たく澄んだ浅い水流。

 

 森の中に建てられた、救世の勇者ヒンメル様の像。

 

 讃えるように、守護するように。

 台座の周囲目一杯に植えられた、木漏れ日を透かす青い花。

 

 身体もあちこち痛いだろうに、時には肩車までしてくれて。

 

 わたしを小さな世界から、色んな場所へと連れていってみてくれた。

 

 疲れたのなら、ベンチで膝枕をしてくれた。

 夜は眠りに落ちるまで、ベッドの傍で物語を読んでくれた。

 

 ───ねえ、天の国の女神様。

 

 わたしの愛するおじいちゃんは、無事あなたの元まで着けましたか。

 

 寂しさなんて何もなく、幸せに過ごせてられますか。

 

 ゼンゼがいい子で、ちゃんと人の役に立つ生き方ができたなら。

 

『よくがんばったね』と、誇らしい笑顔で迎えられ。

 

 あなたの下で、また抱きしめてもらうことができますか───

 

 

 

 …ってわたしは試験中に、何を夢想に耽ってるんだ!?

 

 ダメだダメだダメだ、流されてしまってはいけない。わたしにとってのおじいちゃんとは、天国にいるおじいちゃんただ一人。デンケン宮廷魔法使いなどでは断じてない。

 

 ほ、本当だからね!? 無理なんてしてないし、ふらふら吸い寄せられてって抱きつこうなんてしてないからね!? お団子頭の女の子とか、馬面のおじさんとかが醸し出す、おじいちゃん大好きな孫オーラに当てられてなんか、全然ちっともいないんだから!

 

 ああもう、一体何なんだあのご老体一行は。軍叩き上げの武闘派とか、手段を選ばず上を目指す冷酷な政治家だとか、そういう黒い噂はどこに飛んで行ったんだ。実態との乖離が、あまりに激しすぎるじゃないか。ある意味ここまでで一番怖い。キャラが崩壊しそうだし、金輪際近寄らないでおこ…。

 

 

 ───そうしてこれで、受験者十八名中異常者は、とうとう七名にもなった。

 

 もうダメだ、絶望だよ。膝が震えて折れちゃいそう。例年にないどころじゃない、悪い意味での大豊作。多分、大陸魔法協会樹立以来、最もヤバい受験者共がここに集結しているよ。

 

 ───ふ、ふふふ。ふはははは、あーっははははははは! あーあー、いいよいいよもういいよ、わたしはこれで諦めた。潔く何もかもをも受け入れた。全てはゲナウの大バカが、ここまで来てくれなかったのが悪いんだ。

 

 根暗は根暗、人見知りは人見知りに相応しく。

 じめじめ薄暗い最深部にて、一人寂しく泣きながら、君らの無事な到着を膝を抱えて待つとしよう…。

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