都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ 作:すかすかのタキ
はっはっは。いやあ、わたしはずいぶんテンパっちゃっていたようだね〜。
今回の受験者の一人、ゼーリエ様の古い弟子であるという、エルフの魔法使いフリーレンさん。
そのフリーレンさんの弟子であり、史上最年少での合格実績を持つという、実に将来有望な三級魔法使いフェルン嬢。
同性で、物静かで穏やかで───一緒にいても全然苦痛にならなさそうな、同行するには理想的な二人組。
切り裂き魔とかバトルマニアヤンキーとか、身長がでかすぎて幼女趣味を拗らせきった女とか。とにかく濃ゆい人が多すぎて、失礼ながら存在をすっかり見失ってしまっていたよ。
だけどもう大丈夫。君達となら、実に精神的にお気楽に、零落の王墓最深部まで辿り着くことが出来そうだ。
───そうして三人、適当に選んで踏み込んだ、十近くある王墓の入り口のうち一つ。等間隔に設置された、燭台の上の蝋燭。魔法によって維持されているのだろう。永久に消えないそれにより、朧に照らされた石通路。わたし達は、歴史に眠る王族に敬意を払うようにして、口を開くことなく歩を進める。
それにしてもフリーレンさん、やはりゼーリエ様の弟子にして、名高い勇者一行の魔法使いだけはある。探索魔法一つにしても、実に堂に入ってる。
踏んではならない床、触れてはならない壁。入った瞬間閉じ込められて、押し寄せる天井に潰されてしまう部屋。未踏破ダンジョンに相応しい、濃密な悪意によって設けられた、幾多の緻密なトラップ達。それらを迅速かつ正確に発見し、着実に最善のルートを選んで行く。
いやはや、人見知りのわたしにとって、最も精神的に楽なパーティーを選んだだけであったのだが、これは恐ろしく勉強になる。フェルン嬢も、幼少からこの方に師事していたというのなら───成程、最年少での三級合格も大いに頷けるというものだ。
と、伝説と共に歩めるということに、痛く感動していたのだが。
「大丈夫、これは絶対に貴重な魔導書だよ。わたしの魔法使いとしての経験がそう告げている」
途中フリーレンさんが、ミミックなんて欲をかいたダンジョン初心者くらいしか引っ掛からない低能トラップに何故か分かっていながら突っ込んで『暗いよ~怖いよ~! ふぇる~んお願いだから助けて~!』ってバカみたいに泣き出した。
どうしてそうなってしまうのか。さっきまでの感動は何だったのか。エルフとは宝箱を見ると、マタタビを与えられたネコの如く心狂わされてしまう種族なのか。まさかゼーリエ様も、宝箱を前にしたらこんなバカげた判断ミスをしてしまうのか。『うひょ~』とか欲丸出しの声を、思わず上げてしまうのか。フリーレンさん、あなたは『ヒンメルの嘘つき~。やっぱり宝箱にロマンなんて仕舞われていないよ~』とも叫んでいたが、これは後世の夢とか人心の安定の為にも聞かなかったことにした方がいいのだろうか。僧侶ハイターや戦士アイゼン。偉人達が、今の彼女と同様の醜態を、揃って晒していたということはさすがにちょっとあり得ないよね。ああダメだ、ゼーリエ様と勇者様御一行が並んでミミックにかぶりつかれ『たすけて~!』ってバタついているアホな絵面が強制的に浮かんでしまう。わたしはさっきから何という罪深い妄想を。頭がおかしくなりそうだ。この時ばかりは『着いていく人達間違えたかな』『試験官権限で、脱出用ゴーレムを強制発動させるべきかな』と真剣に悩んだよ。その後も五回は引っ掛かって、その都度同じことで迷ったよ。
なあ、フェルン嬢。わたしは試験官という立場上、助言も手出しも許されてはいなかったけど。
何も言葉にしなくとも、あの時のわたしと君は、目と目で思いが通じ合う親友になれていた気がするな。
即ち『フリーレン様はバカ』という一点で。