都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ 作:すかすかのタキ
その後もフリーレンさんは、トラップは秒で封殺する一方で、宝箱を追い求め一つの階層を完璧にマッピングするまでは絶対先に進まないという合理と非合理の両極を行く実に個性的なダンジョン攻略を展開していった。
ああ、この人二次試験が終わったら、別ルートの探索まで始めちゃいそうだなあ。零落の王墓って、入口が十個くらいあったよね。普通なら絶対めんどくさくなって辞めるけど、このエルフさんだったら完全踏破もやりかねない。さすがは数千年を生きる種族、無駄に根気が強いというか時間感覚がおかしいというか、勇者様もどんだけ過剰なロマンを植えけられていったんだ。まさかこの人、よりにもよって二次と三次の休息期間に完全踏破へ出向いていったりはしないよね。そんでミミックに捕まって、一人で脱出出来ないまま、うっかり試験をすっぽかす。そんな前代未聞の失態を、彼女なら絶対やらかさないとは言い切れない。フェルン嬢よ、お願いだから彼女をかたーく管理していてくれたまえ。
…などなど恐るべき想定に震えながら、わたしは彼女達と歩を進め───やがて辿り着いたのは、統一王朝時代伝統のエキゾチックな紋様が、四方に描かれた大広間。
その奥にそびえ立つ、見る者を威嚇し追い払うかような、威厳溢るる巨大な門。
間違いない。この先こそ、未踏破ダンジョン『零落の王墓』最深部にして支配者たる悪魔の座。
自身の領域への侵入者。それらの記憶や能力を解析し、完璧な複製体を創造。自身の忠実な手足とし、ダンジョン各所から襲撃させる恐るべき太古の魔物。
通称水鏡の悪魔『シュピーゲル』が陣取っている。
受験者諸君。君達はみな優秀で、まだまだ多くの伸びしろを残してる。
しかし今の実力で───この先で待つだろう、シュピーゲルの護衛たる最強の複製体を倒すのは、相当至難の業となる。
だからこそ、今一度自身の持つ弱みと強み。両方に、臆することなく客観的に向き合ってもらいたい。
どうすれば、己の弱所を補えるのか。
どうすれば、己の強所をより強く引き出せるのか。
どうすれば、思い描く理想の自分が成り立つのか。
ここで出会った受験者達と恥じることなく話し合い、互いに助け合って実現し、未踏破という試練を堂々乗り越えてもらいたい。
それこそが、コミュ障にして平和主義者たるこのわたしから、未来の一級魔法使いたる君達へ望んでいることなんだ。
…さて、現時点で広間に辿り着いてる受験者は、わたしとフリーレンさん、フェルン嬢を除いて計四名。
一人はとってもいい子なわたしの為に、女神様が遣わしてくれたおじいちゃんの生まれ変わり───じゃなくてデンケン宮廷魔法使い。一次試験でも同じパーティーであったらしい、馬面さんとお団子さん。
あ、幼女趣味のでか女は、ここにはいないでほしかったな。相変わらずわたしを見つめる目が怖い…。
まあ今はそれは置いといて───。
この広間に入った瞬間より、ずっと纏わりついてきた。
今この状況から読み取れる、違和感の正体は何なのだ?
まず四人とも、ここに着くまでに消費したであろう魔力は十分回復してる。目に見えて戦いに支障をきたすような傷もない。二次試験は早い者勝ちでは決してなく、シュピーゲルとその護衛を撃破して、時間内に王墓最深部まで辿り着けば合格なのだ。
仮にこれ以降、他の受験者が到着せずに戦力増強を図れなかったとしても、既に一級相当のデンケン氏がいる。彼を筆頭に協調すれば、例え苦戦は避けられずとも『
───にも関わらず。
嫌な空気に敏感な、コミュ障なわたしだからこそ分かる。
彼ら四人から漂っている、絶望的な倦怠感と濁り切った閉塞感。
そうだ。二次試験突破を目前にしてるのに、どうしてそこまでささくれ立った心理に陥ってしまうのか。
「───『
この先に、何が待ち構えてるのか。
デンケン氏が、扉の隙間を覗き込めと。
自分の目で確かめてみろと、厳しく張り詰めた目で伝えてくる。
フリーレンさんはそれを受け、瞳に好奇心を光らせながら。フェルン嬢は、現状をあるがままに見定めるよう淡々と。
デンケン氏に言われるまま、重厚な扉の前に近寄っていく。
ああ、待ってくれたまえ二人共。慣れない人に囲まれるのは嫌だけど、わたしも二次試験の試験官だ。何らかの異常、想定にない事態が起きているのなら、確実に把握しておく義務がある。
わたしはちんまいなりにつま先を伸ばし、二人の背中の間から同じ物を見ようとする。
ってああもうこのでか女、ここぞとばかりに近寄ってくるな!『あらあらまあまあ何て微笑ましいのでしょう☆☆☆ 僭越ながらゼンゼ様、不詳、長身だけが取り柄のわたくしが、見やすいようにたかくたかーく抱き上げて差し上げましょう☆☆☆☆』とかいう風のヤバい目線を浴びせてくるんじゃない! 近すぎて思考が強制的に伝わってくる! 鼻息がかかって超キモい! これ以上やらかすのなら、試験官権限でゴーレムを発動させて強制失格に───って、え?
想定外の、光景。
キモさの爆撃にも関わらず、一瞬頭が停止した。
「───ふうん」
水鏡の悪魔『シュピーゲル』の守り手は、
「面白くなってきた。ダンジョン攻略はこうでなくちゃ」
何故かテンションが上がってる、ワクワク顔な
一体どうしてこうなっている?
わたしはもしかして、ずっととてつもない読み違いを。