都合が悪くば黙り込む、しょうもなくも愛おしい我が弟子へ   作:すかすかのタキ

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ここまでのまとめ
・ゼーリエガチ勢ゼンゼ様、フリーレンがあっさり師の結界を破った事実を認められない
・なんやかんや屁理屈つけて、『フリーレンさんはサポート特化、戦闘力では自分以下』という間違った結論を下す
・零落の王墓最深部まで行ったら、案の定ボスはコピーレン様
・あれ、なんかやばくない? わたしずっと、とんでもない思い違いしてた? とりあえずフリーレンさんの能力測ってみよ→ゼンゼ様、触れてはいけないモノに触れてしまう


ゼンゼ様、葬送

『探知』を付与した毛髪が、フリーレンさんの背に触れたその瞬間。

 わたしの前に、破壊と暴虐の大嵐が吹き荒れた。

 

 

 閃光が奔ると同時、広間の中に無数の雷撃が降り注ぐ。床が罅割れ天井へと向け激しく隆起。不可視の刃が踊り狂い、四方の壁に巨大な傷を刻み込む。

 

 猛る轟音、響く振動。ああ、何ということだろう。デンケン氏が。馬面さんが。お団子さんもでか女も。親友となった筈のフェルン嬢までもが。

 

 受験者達は何が起きたか知る間すらなく、哀れにも切られ潰され焼き尽くされた。

 

 この惨劇の中、どうして自分だけは無事なのか。

 

 分からない。奇跡なのか悪夢なのか、それらの判別すらも付けられない。 

 

 分かるのは、いずれにせよこのままでは、もはや数秒持たずダンジョンそのものが崩壊し生き埋めになるという未来だけ。

 

 死ぬ。わたしも死ぬ。先の受験者達と変わらない、無惨な肉片と化して死ぬ。恥も外聞もなく、直感と本能が今すぐ逃げろと金切り声で絶叫する。

 

 けれど、それも叶わない。足を翻そうとした途端、幾重もの光の輪によって身体はがんじがらめに拘束された。それと同時、くるぶしまであった長髪も、肩口からはらはらと無残に切り払われている。

 

 走れない。抗えない。叫び声すらも出ない。もはやわたしには、恐怖と絶望に放心し、みっともなく腰を抜かして膝をつく。そんな生理的な反応すらも許されない。

 

 天井が、床面が砕けていく。耳を劈く崩壊の音。明滅する雷光。狂い踊る土煙。何もかもが止んでくれない。視覚も聴覚も潰されて、一切の機能を果たさない。もう、こうして未だ自分の思考が働いてることすら不可解で。

 

 生きているのか、死んでいるのか。

 どちらにいるかすら不明となり、形を無くしその境へと、泥のように滑り落ち───

 

 

 

 んぶわあああああああああああああああああああああっっっ!!?

 

 なななななんなんなんなん何だったんだい今見た恐ろしすぎる光景は!?

 

 夢!? 現実!? わたしまだ生きてる!? 受験者達は!? ダンジョンは一体どうなった!?

 

 い、いいからとにかく落ち着くんだよわたし。頭は混乱の渦でぐちゃぐちゃだけど、クールに平静を装うのは感情を出すのが苦手なコミュ障たる者の専売特許。さっきの美少女らしからぬ汚い叫び声だって、あくまで脳内で上げただけだから問題ない。いや、わたしの場合は外見だけで、少女なんて年代はとっくの昔に過ぎてるのだが。

 

 ああもう余計なことばっかり考えてないでとっとと現状確認だ。

 

 まず自分の髪。ちゃんとある。魔力も通る。くるぶしの辺りまで、長毛犬みたくふっわふわのもっふもふ。一本たりとも切られてないし抜け落ちたりもしていない。

 

 手のひらを握って開く。足から伝わる地面の感覚を確かめる。何よりも、さっきから身体を内から突き破るくらい熱く激しく打ちつけてくる、鳴りやむことない胸の鼓動。

 

 ───大丈夫。わたしの身体と魂は、ちゃんと生きてここにある。死んだ事実に気付かぬまま、現世を彷徨う幽霊などでは断じてない。

 

 次に周りを見回してみる。天井、床面、四方の壁。ここまで通じた一本の通路。蝋燭は消えることなく、煌々と広間全体を照らしてる。倒壊に繋がる傷など何処にも一つも伺えない。

 

 当然ここまで辿り着いた受験者達───フェルン嬢。デンケン氏。馬面さんとお団子さん。みんな無事に生きていて、扉の奥の複製体にどう対処するかべきか、早くも話し合いを始めてる。

 

 ───よかった。やっぱりさっき見た光景は幻。

 フリーレンさんが本気で戦っていたらどうなるか。『探知』を通して強制的に行われた、ただのシミュレーションに過ぎなかったのだ。

 

 不信感など与えぬよう、わたしは深く静かに息を吐く。

 

 ああ、けれどそこのでか女。君にだけは言わせてほしい。他はともかく君だけは、世の小柄な女性全員の為に一発裁きの雷が命中していた方がよかったのではなかろうか。

 

 君は今、フリーレンさんの複製体を倒す為、大元であるフリーレンさんに拘束魔法が通用するか提案して検証してる。それ自体は全然いいよ。

 

 でもさ、検証するなら手掌を差し伸べるだけでいい筈だよね。いちいち抱きしめる必要ある? 絶対ないよね? 他に使える人がいない状況にかこつけて、自分の欲望を満たしてるだけだよね?

 

 フリーレンさんもさ、いい匂い云々は知らないけれど自分から抱きつきにいくべきじゃあ絶対ない。その女、絶対めちゃくちゃ調子に乗る。『あらあら、それではフリーレン様。二次試験が終了後、わたくしの部屋までいらっしゃいませんこと? もっともっと、天国みたいに香しい一時を堪能させてあげますわ☆☆☆』ってベッドの中に誘ってくるから。

 

 うわ、とうとうハグから引き剝がしたフェルン嬢までターゲットにしだしたぞ。あの『あらあら』は絶対やばい『あらあら』だ。フェルン嬢の若く微笑ましい独占欲を思う存分おもちゃにしたい。そんな不埒な欲望が、極彩色に花開いた『あらあら』だ。怖い、見てるだけで鳥肌が立つ、マジで関わり合いになりたくない。どうすればいいんだこの変態。

 

 ───仕方ない。逃避先も潰されたし、もういい加減今最も向き合うべき本題へと立ち還ろう。

 

 ねえフリーレンさん、あなたが本当の力を隠してるのは薄々分かっていたけどさ。自分の都合で勝手に読み取っちゃったのは悪かったけどさ。

 

 だからって何なのあの古代の禁呪クラスの大魔法の連発は!? この広間全体を覆いかねない巨大な魔力の広がりは!? 化け物じゃん! あんなのもう、ほとんどゼーリエ様と同じレベルの腕じゃんか! なんか『戦略練って協力し合えばどうにかなる』みたいな流れになってるけどさ、そこはあなたがいの一番に止めようよ! 周りとのレベル差が分かってないの!? 死ぬじゃん! 絶対戦っちゃいけないじゃん! これが今流行の、無自覚系最強主人公ってやつなのかい!? なんて害悪な存在なんだ! 心の中でだけだけど、こんなのキレて当然だよ! 無駄にハイテンションも継続するよ! そもそも最初にフリーレンさんの実力を見誤り、こんな事態を招いた戦犯は何処の誰だというんだい!? 今すぐ名乗り出たまえよ!

 

 はいすいません。このゼンゼこそが元凶です。いい大人であるにも関わらず、ゼーリエ様への敬愛を上手にコントロール出来なかった。それが全ての間違いの始まりです。

 

 けれど、決意だけは。二次試験の中止を宣言するのだという決意だけは、目論見通りこれで完全に固まりました。

 

 今度こそ、コミュ障だとか口下手だとか、甘えた言い訳は許されない。うっかりを装って、脱出用ゴーレムの全開放コードを発動させるような真似もしない。

 

 試験官たる者の誇りを以って、断固として言うべきことを言い遂げるのだ。未来ある有望な若者達の、夢と命を守る為に。

 

                   

 

 ───こうして、無駄に長い紆余曲折を経て。

 

 現在零落の王墓にいるメンバーで、誰より一番めんどくさくてクセが強い大人子供ゼンゼ女史。彼女がこれまでの人生において、最も偉大で困難な一歩を踏み出そうとした、正にその瞬間である。

 

 唐突に彼女の脳内に、十余年ほど前の古い記憶が甦った。

 

                   

 

 

 北国の短い夏が終わりを告げて、人々が長く厳しい冬に向け一つずつ準備を整えていく。そんな折の出来事だった。

 

 ゲナウ、ファルシュ、レルネン。他、一級がみな任務でオイサーストの魔法協会支部を外しており、ゼンゼ以外に動ける実力者がいない。

 そこでやむなく、協会の長であるゼーリエ自身が直々に。

 彼女と組んで、とある魔族の討伐へと乗り出した。

 

 任務自体は言うまでもなく、彼女の圧倒的魔法によって何の波乱もなく終わる。ただ、その魔族が、黒い塵へと還る間際、ゼーリエを見てこう言葉を残していったのだ。

 

『エルフの女の魔法使い。城塞すらもたかが単騎で落としかねん、底が知れぬ魔法の技量。そうか、貴様が葬送の───』と。

 

 ゼンゼには、それが何のことだか分からなかった。そもゼーリエが、『わたしとあのバカとを混同するな。不愉快だ』と、あからさまに歪めた顔で残骸を踏み潰してしまったから、とてもとても訊ねてみるなど出来なかったのだ。

 

 精々が、『葬送という二つ名。誰のことだか知らないけれど、ずいぶん物騒な名前だな』なんて感想を抱いただけで、数日後には綺麗さっぱり頭の中から消し去っていた。

 

 

 ───だが、今の彼女なら分かる。

 

 シュピーゲルの複製体に精神操作は有効か、デンケンと意見を交わしているメトーデ。リヒターもラオフェンも、メトーデから奪い返したその人を、しっかと抱きしめているフェルンも。

 全員の目線と意識が、デンケンとメトーデの二人のやり取りへと向けられている。

 

 だから、ゼンゼ以外に誰一人───その人から、彼女へ向けて突き付けられた眼光に、誰一人気付くことすら出来ていない。

 

 殺意。それ以外、ありとあらゆる感情が、凍結しきった無情の瞳。

 殺意。達人の槍の如く、彼女の命だけを貫き壊す、収斂された翠緑の眼光。

 

 今のゼンゼ女史ならば、分かる。『葬送』とはつまり、数多の同胞を葬られてきたゆえに魔族の間で伝わった、畏怖と蔑視と呪いの名。

 

 勇者と共に、主たる魔王を打倒してのけた───魔族にとって史上最低最悪の、エルフの女性の魔法使い。それこそが『葬送のフリーレン』。

 

 

 憎き魔族を欺く為に、常に抑制されている彼女の魔力。その深奥に、土足で踏み込んでしまったゼンゼ女史は今。

 

『葬送』の怒りに射抜かれて、今度こそ恐怖と絶望に指先一つも動かせなくなっていた。

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