ようこそ現役ホストのいる教室へ 作:カスのホスト
────淋しさを埋めるのは唇で────
2週間の旅行という名の特別試験を終え、俺は懐を大いに潤わせて学校へと帰ってきた。
テキサスホールデムで負けたときはマジでどうなるかと思ったけど、何だかんだ小金持ちくらいにはなれたのではないだろうか。
「じゃあ、また適当な時に誘うね」
「おう」
衣服や化粧品が入ったキャリーケースを引っ張りながら寮に着いた俺は、一緒に歩いていた清隆君にあいさつをして帰宅する。俺が誘わないとどうせ暇だろうし、プールに連れて行ってナンパをしてもいいかもしれない。
そう思ったけど、清隆君には松下さんが居るから止めといた方がいいかな。というよりそもそも、学校という限られたコミュニティでナンパなんてできる訳もない。一応品行方正な爽やかイケメンで通ってるからね。
夏の楽しみが一つ消滅したことにげんなりしながら、カードキーで部屋の鍵を開ける。
「ん?」
玄関に入って靴を脱ぐと、誰も居ないはずの部屋から何やらの音が聞こえることに気が付いた。
キャリーケースを土間に置き、万が一に備えて身構えながら扉を開く。
「……いや、何してんの」
仕切り扉を開けると、中には部屋着姿でデカいクマのぬいぐるみを抱きながら、プロジェクターでドラマを見る有栖ちゃんの姿があった。
「あっ、おかえりなさい」
「いや、お帰りなさいじゃなくてさ」
有栖ちゃんがここに居るのもそうだが、所々インテリアが追加されてたり、部屋の匂いが変わっていたりと、色々とツッコミたいところが多い光景だった。
俺の問いかけに答えることなく、有栖ちゃんは杖を持たず壁伝いにこちらに寄ってくる。久しぶりに見たせいか家の中だからか、記憶よりも幾分小さく見える。
そして、体がくっつくほどの距離で立ち止まると、こちらを見上げて両腕を広げてきた。
「……ただいま」
その行動の意味が分からない程鈍感ではないため、有栖ちゃんの小さな体を正面から抱き寄せた。
体のラインが分かるほど薄く、しかし上等なものだと分かる寝巻に手を回し、そのまま抱き上げる。
「んっ……少し焼けましたか?」
「そりゃ一週間無人島いたらね」
お姫様抱っこをされた状態で俺の顔に手を伸ばし、するすると頬を撫でて来る有栖ちゃん。
「お疲れさまでした。試験の話、色々と聞かせてください……きゃっ!」
「いや、誤魔化そうったって無駄だからね」
なんかしんみりとした空気で誤魔化そうとする有栖ちゃんをベッドに投げ飛ばし、クマのぬいぐるみをお腹の上に押し付ける。
立った俺の腰ぐらいの高さはあるぞこれ。6畳1Kの部屋に置くには余りにも大きすぎる。
他にも棚の上には知らないスティックの芳香剤、机に小さな観葉植物、部屋のレイアウトと合わないパステルカラーのクッションとやりたい放題だ。
弄り回された部屋を見ていると、机の上に俺の部屋の番号が書かれたカードキーが置かれていることに気が付いた。
「……そういえば合鍵作ったって言ってたね」
清隆君も無断で須藤君たちに合鍵を作られたって言ってたし、学校の性質の割にセキュリティがザルすぎる。南雲先輩に言って是正してもらわないと。
「私と高辻君の関係ならさしたる問題は……ひゃん!」
あるに決まってんだろクソボケ女!
天才ちゃんの馬鹿な発言を脇腹をくすぐる事で妨害する。
「ひっ、やめ……んっ」
数十秒くすぐってノックアウトさせた後、机の上のカードキーを即座に回収する。
「これは没収。いいね?」
不満げにこちらを睨みつけて来る有栖ちゃんだが、流石にこれはライン越えなので容赦はしない。
瞳に涙、頬を赤らめて息を荒くする様はまるで事後のようだ。そんなえっちな顔をしても許してあげないからな!
「こんな馬鹿デカいぬいぐるみ買いやがって……ちゃんと持ち帰れよマジで」
ひよりちゃんとか清隆君とはまた別の理由で、有栖ちゃんと居ると素の口調が出やすくなる。
もう取り繕う必要も無くなってきたのも大きいんだろうな。店で客として出会ってたらまた違ってたんだろうけど。
「……分かりました」
自分がやっていることを客観的に見れない程、有栖ちゃんも馬鹿じゃない。俺が信用しているのはそういう頭の良さがあるからってのもあるんだろうね。
だからって拗ねてぬいぐるみで顔を隠すのは止めて欲しいんだけど。
……まあ、2週間一人ぼっちだったら寂しくもなるか。この子先輩に友達とか居なさそうだし。
「ほら、おいで」
仕方ないので慰めてあげようじゃないか。素直に寂しいって言えばいいのにね。
そういうところも可愛いんだけどね。妹とかいたらこんな感じになるのかな? 顔めっちゃ良くて甘えん坊なのはポイント高い。生意気なのもむしろスパイスになる。
「寂しかった?」
隣に座って手を広げると、有栖ちゃんは無言でこちらに顔を埋めてきた。天才だとか何とか色々言われてはいるが、こうしてみると普通の女の子だね。
「……別に、そういう訳じゃありませんっ」
上品な柔軟剤の香りがふわりと漂う。あまりにも小さすぎる体は、強く抱きしめると折れてしまいそうで少しだけ怖い。
「じゃあやめる?」
「……意地が悪いですよ」
このぐらいの照れ隠しは可愛いものだが、流石に有栖ちゃんにだけは言われたくない。
「ふふっ。ごめんね」
よく手入れされた、絹のようなサラサラの髪の毛に指を這わせながら、薄い服越しにお互いの心音を確かめ合う。
背中を抱き寄せる腕の力を少しだけ緩めると、有栖ちゃんは体をそっと離して上を向いた。そして、唇を少しだけつんと出して、宝石のような瞳を瞼で隠す。
長く整ったまつ毛がやけに印象に残った。
そして、俺はその頭に手を伸ばして唇を落とした。
「んっ……」
口紅の甘い香りと、唇の柔らかい感触が体を温める。
暗く閉ざされた視界の中、残った手で有栖ちゃんの右手を探し、その子供のような手に指を絡めて重ね合わせる。
「はむっ……ん、むっ……」
唇を重ねるだけでは物足りなくなったのか、有栖ちゃんの方から舌入れてきた。
キス上手くなったな。今までとは大違いだ。頭の良さはそういう方面でも働くんだろうか。
そのまま数分程互いの舌を蕩け合わせ、ゆっくりと唇を離す。今まで数十と繰り返されてきた中で、最も長いキスだった。
目を開けてまず映るのは糸を引いてベッドの上に垂れる二人の唾液。
「はぁ、はっ……」
続いて、真っ白な頬を赤く染め、息を荒くする有栖ちゃんの姿が目に映った。
「かわいい」
「っ……」
自然と口からこぼれ出た言葉に有栖ちゃんが驚いている間に、不意打ちで再度キスをする。
結局、それから一時間ほど唇を重ね続けるのであった。
有栖ちゃんは間違いなく俺という存在に溺れているが、もしかしたら、それは俺から見ても同じことなのかもしれないね。
せめて一線だけは超えないようにしようと、内に滾る欲情を抑え続けるのであった。
────仮初女王とメッキの王子────
夏休みも残り短くなってきたとある日、俺は一人自室にてイヤホンをつけながら夕食を作っていた。
いつもなら耳に悪いという理由で、ホームシアターのスピーカーにスマホを繋いで音楽を流しているんだけど、そうもいかないのには理由がある。
「調子はどう? もう皆にポイントは返せた?」
「うん。ちゃんと返せたよ。試験の後だったし、違和感とかは持たれなかったかな」
電話の相手はひょんなことから仲良くなった軽井沢さんだ。
最近買ったこの高級イヤホン、凄まじいノイキャンで油の跳ねる音も完全に消されている。声に集中できて凄く良い。
「そっか。Dクラスはポイント皆で分けたんだっけ」
Dクラスが優待者試験にて獲得したプライベートポイントは240万。本来ならお互い6グループずつ指名する予定だったので、8グループ指名したDクラスは60万ポイントをCクラスに支払った。
その残りである180万ポイントを平等に、一人辺り4万ポイントちょっとかな? 中々良いお小遣いにはなったのではないだろうか。
「うん。でも何かあったときの為に、100万ポイントは残しておこうって話になって、一人2万ポイントだけ貰ったの。残した分は平田君が管理する感じ」
「へぇー。よく皆それで納得したね」
1ポイントでもお小遣いが欲しいDクラスからすれば、割と強い理性が必要な判断だと思うだけどね。平田君に残った分を管理させるっていうのもそうだし。
「最初は須藤君とか反対してたんだけど、堀北さんに説得されて渋々って感じ? まあ、ポイントのおかげで退学にならなかったなら文句は言えないよね」
「退学?」
思わず聞き返してしまったが、軽井沢さんは少し悩んだ後に詳細を教えてくれた。
「……まあいっか。どうせ伝わるだろうし。須藤君、一学期の中間テストで赤点取っちゃったの。だけど、堀北さんがこっそりポイントで点数を買ったから何とかなったんだって」
あたしもそんな使い方初めて知ったよ。と続ける軽井沢さん。ポイントの思わぬ有用性に驚いているようだが、一方で俺は別方向の驚きが勝っていた。
マジかよ……中間テストって過去問あったよな? Dクラスの成績見る限り過去問は渡されてるはずだし、それで赤点とかヤバいだろ。
「堀北さんすごいよねー。最初はクラスでも浮いてたのに、今じゃ平田君と並ぶリーダーだもん。ポイント貯める話も、みんな堀北さんが言うなら良いかなって」
無人島試験、優待者試験とDクラスが戦ってこれたのは堀北さんのおかげになってるからね。特に優待者試験で彼女を認めたという人は凄く多いだろう。
そのほとんどが清隆君の指示なんだろうけど、堀北さんも結構柔軟になってるっぽいし、敵に回したら中々厄介な組み合わせだ。
「あの子の実力があれば遅かれ早かれそうなってたと思うよ。……でも軽井沢さん、あんまりクラスの内情って言わない方が良いんじゃない?」
フライパンに敷いた油が跳ねる音と共に、俺のささやかな指摘が部屋にこだまする。
「やばっ、確かに」
「堅苦しいよね。そういう世間話もできないんだから」
別にここで話を広げてDクラスの情報をすっぱ抜いても良いんだけど、軽井沢さんにそれをやるのは少し気が引ける。
仲良くなる方法が方法だけに、この関係をクラス間闘争に利用したくないんだよね。
帆波ちゃんとか桔梗ちゃんはゴリゴリに利用してるのに、軽井沢さんだけ特別というのは何とも都合がいい話だが、そんな真面目さは持つだけ損だ。
俺は俺のやりたいようにやればいいし、その過程で他人が不幸になるのは仕方がない。そういうスタンスは入学当初から変わってない。
なるべく皆楽しくやれているのが理想なんだけどね。この学校のシステム的に、どうしても割り切らないといけない時もある。
「そっかー……今更だけど、ほんとこの学校ってだるいわね」
「あはは。本当ならこうして電話してるのも色々とマズいんだけどね。ちゃんと履歴は消すこと、いいね?」
これに関しては学校は関係ない話だ。いくらそれが仮初とはいえ、友達の彼女と二人で電話は流石にマズい。
「はーい」
「よろしい」
「ふふっ」
子供のような能天気な返事をして、小さく笑う軽井沢さん。
「なんか、こうしてあんたと喋ってるのが面白くて。前の私に言っても絶対信じてもらえないわよ」
どうしたのと聞き返すと、それはそれは機嫌が良さそうな言葉が帰ってきた。
「そう?」
「うん。だって、あたしあんたのこと嫌いだったもん」
「……そうなんだ」
そういうのは思ってても言わないものだと思うんだけどね。酷い女だな全く。
仲良くなれた裏返しということで喜んでもいいのかな? だとしてもなんだか複雑な気持ちだ。
「こういうとき、素のあんただったらどういう反応するわけ?」
「素の俺?」
「うん。だって、あんたも相当猫被ってるタイプでしょ」
「んー……」
「今更隠そうったって駄目だから。あたしのトラウマを散々ほじくり返したの、まさか忘れたの?」
そう言われるとちょっと弱い。あの日の行動が自己満足なのは間違いないし。
……軽井沢さんなら言いふらしたりはしないか。素の自分という心臓を握りあう関係も悪くないかもしれない。
「まあ、ぶっちゃけ染みついてるからそんなに変わりはしないけど。あえて言うなら口調ぐらい?」
限りなく素に近いであろう、両親と喋るときの口調と雰囲気で喋ってみる。……やばい。違和感が凄い。
「うわ、全然イメージないんだけど」
「……だから嫌だったんだよ。ギャップデカすぎてキモいし」
長らく人前でこのキャラを出してこなかったため、何というか、形容できないふわふわした感覚が胸に走る。
気持ち悪さは確かにあるのだが、何故か意外と悪い気分でもなかった。
「別に? こっちも男らしくて良いと思うけど。あたしはこっちの方が好き」
「……あっそ」
素の人格を褒められたことはほとんど……それこそ小学生ぶりとかかもしれない。
心に仮面を被っていないということは、言葉の良し悪しがダイレクトに伝わるということ。
そんな今の俺に、軽井沢さんの言葉をすぐに飲み込めというのは酷な話だった。
「えっ、照れてる? 嘘でしょ?」
「照れてない」
「照れてるじゃん。うわっ、高辻君の素ってそんな可愛いキャラだったんだ。超意外なんですけど」
「うざ」
思わずそんな声が漏れ出てしまう。多少からかい合うことこそあれど、女子にこうして正面から煽られるのは初めての経験だった。
「あたし、あんまりギャップとかそういうの感じたこと無かったけど、こういうことを言うのね。あんた、あたしと二人で喋るときはこっちで喋りなさいよ」
オタク達が言うのも分かるわ~。なんてしみじみと呟きながら、そんな無理難題を押し付けてくる軽井沢さん。
「やだ。キモイからもうやんない」
「でもあたし笑っちゃうわよ。素がそんな感じだって知っちゃったんだし。別に言いふらしたりしないから」
「……じゃあ、ちょっとずつね」
仕方ない。これ以上言っても聞かないだろうし、ここは大人である俺が引き下がるとしよう。
「あはは。意外と子供っぽいとこもあるんだね」
皆の知らない俺の一面を知れたからだろうか、軽井沢さんは随分と嬉しそうだ。
彼氏じゃない男と隠れて楽しげに電話する軽井沢さんは、傍から見たらとんだビッチだろう。更にその相手が俺で、付き合ってるのは平田くんときた。
彼女の状況を見るに、俺の素の性格が漏れる可能性はゼロに等しい。そう判断しての行動だったけど……
「もっと聞かせてよ。あんたの小さい頃の話とか。あたし高辻君のこと何も知らないし」
もしかしたら、その判断は間違いだったのかもしれない。
「良いよ。ちょっと待ってね」
胸に走る言い知れぬ感覚にもどかしさを抱えながら、少し焦げた料理を皿に盛り付けるのであった。
どこを重点的に見たいですか?(ヒロインは1章ごとに1,2人増やす予定です)
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主人公とヒロインの絡み
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主人公と龍園、綾小路等との絡み
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バチバチのクラス間闘争