ウィザーディング・ワールド・オブ・リコリス・リコイル 作:峰霧 澪
この話から独自設定が入ります。
いつも通り誤字・脱字などありましたら誤字報告お願いします。
ハリーへの嫌がらせが終わった後も、スネイプ教授のグリフィンドール生への攻撃はやまなかった。
例のマルフォイ少年はどうやらスネイプ教授のお気に入りらしかったが、それ以外のほぼ全員――特にハリーは執拗に――教授の攻撃にさらされた。
ネビルが手順を間違えて大鍋を溶かすのを
だが、魔法薬学が終わってみれば、あとはわりあい楽しい授業ばかりだった。
いかにもファンタジーらしかったのは「占い学」で、丸眼鏡を掛けた神秘的――に見せようとしているらしい――トレローニー先生が、いちおう体系的にまとめられた体裁の占いを実演して見せていた。もっとも二人の目から見れば、彼女の〝占い〟は、カップに残った紅茶の葉に難癖をつけているだけにしか見えなかったのだが。
「ふぃーっ、とりあえず一日終わったね……あー疲れた……」
すっかり陽が落ちてから寮に戻った千束が、ベッドに倒れこみながら言った。――そして、胸の下からしたクシャッ、という音に気づいて身を起こした。
「新聞でしょうか?」たきながのぞき込んで言う。
「別に頼んでないんだけど」休息を妨害された千束が、ぶつくさ言いながら皺だらけになった新聞を取り出す。「えーと……『
「空港でも駅でも見ませんでしたね。なになに――『グリンゴッツ侵入さる』? グリンゴッツってなんでしょう……」
二人が未知の単語の羅列に戸惑っていると、不意に後ろからハキハキとした声がかかった。
「グリンゴッツ魔法銀行よ。英国魔法界唯一にして難攻不落の銀行ね」
二人が振り返ってみると、魔法薬学の授業でスネイプ教授にガン無視されていた、くだんの物知り女子生徒だ。
「私はハーマイオニー。ハーマイオニー・グレンジャー。あなたたちの……名前は?」
「錦木千束だよ。よろしく!」
「……井ノ上たきなです」
「そう! よろしく! で、グリンゴッツについてなんだけど……」ハーマイオニーは二人にはあまり関心がないといった感じで、千束の持った新聞をのぞき込みながらグリンゴッツに話をもどした。
「グリンゴッツは英国魔法界唯一の銀行で、みんながあそこに自分の金庫を持ってるわ。だから警備がとっても厳重なの。そこに侵入事件があったから大騒ぎになってるってわけ。でも盗られたものはなかったみたいね」
「じゃあ私たちが持ってる現金を預けるのはやめといた方がいいかな?」
「大丈夫よ! グリンゴッツだって警備をもっと厳重にしてるはずだわ」
「うーん、そうでしょうか……」
ハーマイオニーは楽観的だが、たきなは不安そうだ。
「どっちにしても今学期中は預けられないわよ。許可がないと外出できないらしいし。だから財布は肌身離さず持っておくことね。――じゃあ私は寝るわ。おやすみ!」
言いたいことだけ言い終わると、ハーマイオニーは風のように自分のベッドに戻って、布団をかぶってしまった。
「……嵐のような人でしたね」
「私たちも寝ようか」
早くもハーマイオニーの布団からは静かな寝息が聞こえてきた。――元気そうだった彼女も、実はなかなか疲れていたらしい。
二人は生徒たちの寝息の合奏を背に明日の着替えを用意すると、いそいそと布団に潜りこんで目を閉じた。
*
翌朝、二人が大広間で朝食を食べていると、いつものようにふくろう便が一斉にやってきた。――普段は二人の近くにふくろうが寄ってくることはないが、今日だけはなぜか一羽の黒梟が、千束の膝に手紙を落としていった。
「手紙ですか?」
「みたいだね。差出人は――バリー・アレン? 誰だろう……」記憶にない名前に混乱しつつも、千束は封を切った。丁寧に折り畳まれた羊皮紙に、端正な文字が並んでいる。
「『チサト、久しぶり! ホグワーツに入学したんだって? 兄さんは誇らしいよ。そうだ、もし暇だったら、今日の昼休みに会えないかな? ちょうど東塔五階のG教室が空いてるんだ。せっかくだし、タキナ君も連れてきてね』……だって。たきな、心当たりある? 私、兄弟なんかいないんだけど」
「いえ、ありません。しかし、人違いではありませんよね……偽装文書でしょうか」
「……とりあえず、行ってみようか」
「やア。待っていたよ」
二人が薄暗い教室に入ると、魔法使い然としない、カチッとしたダブル・スーツを着た紳士が片手を挙げて彼女たちを呼んだ。どうやらこの男が手紙の主らしい。――グラスに注がれたバター・ビールの泡はすっかり消えているが、中味はほとんど減っていない。
「お待たせしました――ええと……ミスター、アレン?」
「サーストンだ。〝
「ありがとうございます。サーストン卿」
短く挨拶を済ませ、二人もサーストンの向かいに座る。――彼が杖を一振りすると、バター・ビールで満たされたジョッキが二人の前に現れた。
「さて――自己紹介がまだだったね」二人がジョッキに口をつけると、サーストンが口火をきった。「私はウィリアム・サーストン。こういう者だ」
そういって彼が差し出した名刺には、英国王室の紋章と「William James Thurston」、そして「Ministry of Defence(英国国防省)」の文字が並んでいた。役職名を探したが、どこにも見当たらない。二人が不審に感じながらも黙っていると、彼は話を続けた。
「チサト君とタキナ君……君たちのことはDAから聞いている。優秀なエージェントだそうじゃないか。それに――
「DAから?」千束が訊き返すと、サーストンは驚いたようにいった。
「おや、聞いていなかったかい? 元はといえば、DAに君たちを派遣するよう要請したのは私なのだよ」
今度は二人が驚く番だった。日本でミカが話していた〝局長に内密に依頼を出した〟人物というのは、つまり彼のことだったのだ。
「……それで、そのお偉いさんが何のご用事で?」千束が強張った笑顔を貼り付けて訊くが、サーストンの答えは拍子抜けするものだった。
「なに、単なる依頼内容の説明だよ。その様子だと何も聞かされていないのだろう? ふくろう便は機密文書を運ぶのにはえらく不向きだからね。私が現場の視察も兼ねて直接出向いたというわけだ」
「ふーん……」それを聞いてもなお、千束は怪訝そうにしていた。だがそれには構わず、彼は言葉を続ける。
「君たちは〝例のあの人〟という言葉を聞いたことがあるかね? むろんあるだろう。何しろ超のつく有名人だからね」
「有名人?」
「そうとも。もっとも悪い意味で、だがね。魔法省では特A級に分類されているテロリストだ。――いや、この言い方は正しくないな。テロリスト
「だった……ということは、逮捕されたのですか?」
「いいや、
二人は無言で肯定の意を表した。
「〝例のあの人〟――ヴォルデモートは確かに死んだ。だが彼は組織の
「そいつらを全員しょっ引けってこと?」いかにも面倒そうな話を聞いて、千束が不満をあらわにする。だが、サーストンはかぶりを振って言った。
「むろん違う。魔法省の闇祓い局が総力を挙げてもなお捕まえられん相手を、いくら優秀とはいえ2人だけで捕まえるのは流石に無理というものだよ――すくなくとも、魔法省は2人の敏腕
「では、なんのために私たちを?」今度はたきなが当然の疑問を口にした。
「半年前、
「復活?」
「方法はわからんが……そうだ。ヴォルデモートが復活したのなら、最初に標的にするのは自分を殺したハリー・ポッターだろう。次は英国魔法界最強のアルバス・ダンブルドアだ。そこで終わればいいが――一度英国魔法界を支配した奴のことだ、二の舞は避けられまい」彼は一度言葉をきって、唇をしめした。「そこで君たちの出番というわけだ。奴は魔法にかけては達人の域だが、人間の武器や戦術に関してはズブの素人だからな……つけ入る隙があるやもしれん」
「なるほど……すくなくとも、不可能ではなさそうですね」
「よし。では情報共有が終わったところで――指令だ。君たちにはホグワーツ魔法学校の中で、ヴォルデモートの復活を目論む勢力を可能な限り妨害し、有事の際には我々の援護をしてもらいたい」
「拝命しました。……しかし、どうやって敵対勢力を見分ければ?」たきなが訊くと、サーストンは少し苦々しげな顔をして言った。
「まだわからん。――が、不審な動きがあればマークしておいてほしい。それまではこの学校に溶け込み、魔法の基礎知識を学習するのが任務だ」
「わかりました。連絡方法は?」
「今朝のふくろう便に書いてある住所に当たり障りのない文章を書いて送りたまえ。返事の手紙と一緒に入っている種の数を使った
「五つの種なら五単語ごとに読めばいいってことね!」
映画のスパイが使いそうな連絡方法を聞いて、千束が目を輝かせながら割り込んできた。
「そうだ。あとは……これを渡しておこう」千束の反応を見てふっと笑ったサーストンが、思い出したようにいった。「これを取っておきたまえ」
千束が受けとってみると、渡されたのは革の小さな巾着だった。開けてみると、サラサラとした緑色の粉が一杯に詰まっている。
「えっと……これは?」
「
「その『合った杖』というのはどこで買えるのですか?」たきなが口をはさんだ。
「ダイアゴン
「なるほど……」二人が瞬間移動の方法を聞いて驚きつつも感心していると、扉の向こうからバタバタと足音が聞こえてきた。
「おっと」サーストンは杖を取り出してジョッキとグラスを消し去ると、立ち上がって服についた埃を払いながらいった。「そろそろ授業が始まるのを忘れていたよ。――ああそうだ、『ダイアゴン横丁』は一字一句間違えずに、はっきり言うのだよ。でないと別の場所に飛ばされてしまうからね」
そう言うと、サーストンは自分の頭を杖で軽く叩いた。すると、彼の姿はチョコレートが溶け落ちるようになくなってゆき……生徒が入ってくる頃には、彼は跡形もなく消え失せていた。