まとまったところまで書きあがり次第、続きを投稿します。
おかえり絶望学園① 日常の終わり
【未来機関第十四支部活動報告書】
20●●年秋
未来機関第十四支部周辺における未成年者保護。
定期周回中、4名の少年少女が絶望の残党に襲われているところを発見。
残党を撃退後、少年少女を保護。
少年たちは保護者及び住居を失っており、支部員の判断で保護を決定。
4名の少年少女とともに支部へ帰還し、彼らを特別避難民として申請する。
第十四支部支部員苗木誠
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「おい、苗木。これはなんだ」
金髪に眼鏡の青年、十神白夜がおとなしそうな青年に尋ねている。いや、尋ねているというより詰問していると言った方が適切かもしれない。
「なんだ、って言われても……報告書だけど」
おとなしそうな青年、つまりボクがそう返すと、十神クンは目を吊り上げて怒ったように続ける。
「報告書、だと?この中身のない日記を報告書とでも言いたいのか?」
どうやら十神クンとしては内容に不足があるようだった。助けを求めようと遠くのデスクにいる霧切さんに目線を向けるが、首を振られてしまう。
「残念だけど、今回に関しては十神君が正しいわ」
「この報告書には少なくとも2つの大事な情報が抜け落ちている、そうでしょ?」
さて、前門の虎、後門の狼ならぬ……といったところかな。
「うーん、正確な日時と場所の情報とかかな?」
そうとぼけるボクに対して、そばにいた葉隠クンが呆れたように呟く。
「どう考えても、その腕の怪我と子どもの正体についてだべ……」
まさか葉隠クンに論破される日が来るとは、なんて少し失礼な現実逃避をしつつみんなと向き合う。
「腕の怪我って言っても利き腕じゃないし、保護した子どもたちにしたって何か問題を起こしたわけじゃないよね」
ボクの苦し紛れの言い訳は果たして説得に値するか。
「ほう。その骨折した左腕について大した問題でないと言いたいのか?」
まぁそう言いたいわけだけど、どうやら説得には失敗しているらしい。
「その怪我による損失の尻拭いをするのは誰だと思っているんだろうな」
そう言って圧をかける十神クンに対して朝日奈さんが苦笑する。
「心配してるって言えばいいのに、相変わらず素直じゃないね〜」
「でも苗木、骨折したら言わなきゃダメだよ!骨折までしちゃうとドーナツ食べても治らないんだから!」
まるでもう少し軽い怪我ならドーナツで治るかのような言い方にボクまで苦笑していると、霧切さんが話を元に戻すように話す。
「それで苗木君、保護したっていう子どもたちについて何かいうことはあるかしら?」
「わざわざ危険を冒してまで彼らを保護した理由は、元超小学生級の少年少女を保護した理由は……」
「いえ、今はむしろ、元希望の戦士の少年少女と呼んだ方がいいのかしらね」
今まで誤魔化していた核心部分に触れられる。
そう、ボクが保護した4人の少年少女とは、塔和シティを支配していた希望の戦士たちだったのだ。
「うーん……」
「理由も何も保護した子たちがたまたま希望の戦士だったってだけなんだけどね」
これは本当だ。
「その言い訳を本部の連中が信じてくれればいいがな」
十神クンが言っているのは未来機関の中枢にいる人たちのことだろう。
「そもそもお前はあのプログラムの関係で監査対象になっているんだ」
「そんな中、さらに江ノ島側の人間を引き入れる危険性はわかっているのか?」
確かに十神クンの言う通り、ボクは未来機関の偉い人たちから目をつけられているし、今回の件はボクの立場をさらに悪くすることにつながるかもしれない。
「それでもだよ。それでも彼らを見殺しにする理由にはならないよ」
ボクの反論に、十神クン以外の3人は呆れたように笑ってくれている。
「チッ、せめてアイツらへの言い訳くらいは用意しておくんだな」
十神クンも呆れたのか諦めたのか、舌打ちを最後に追求をやめてくれた。
「そうだね、プログラムの解析もほとんど最終段階まで進んでいるみたいだし、そろそろみんなが例のものを持ってきてくれる頃合いだね」
アイツらとかみんなとか呼ばれている仲間たちがやってきたのは、この問答からわずか数時間後のことだった。
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「それで、保護した子どもたちってのが……」
どこか悩ましげな顔をした日向クンが、事務所のソファに座る4人の少年少女に視線を向ける。
「どうも、元希望の戦士の新月渚です」
手前から順に、元超小学生級の社会の時間である新月渚クン。
「同じく元希望の戦士、大門大と……」
次に、元超小学生級の体育の時間である大門大クン。
「……煙蛇太郎と、」
それに続くのが、元超小学生級の図工の時間である煙蛇太郎クン。
「空木言子ちゃんでーす!」
そして、元超小学生級の学芸会の時間である空木言子さん。
彼ら4人こそがボクが保護した4人の少年少女だった。
「全然小学生に見えねえな、コイツら!」
荷物を運びながら入ってきた終里さんが言う。
「そりゃそーだろ。事件から何年経ってんだって話だしな」
同じように作業機器を運んでいる左右田クンが説明している。
そう、希望ヶ峰学園史上最大最悪の絶望的事件及び人類史上最大最悪の絶望的事件当時小学生だった彼らも、今や当時のボクらくらいの年齢なのだ。
「まぁ!事件以来学校に通われていないということは、お勉強の方はあまり進められていないのでは……?」
タブレットで何やら操作していたソニアさんが顔を上げ、心配そうに呟く。
「ま、大丈夫だろ。苗木はそのためにも保護したんだろうしな」
一番最後に入室した九頭龍クンが安心させるように言って、ドアを閉めた。
77期生のみんなが入れ替わり立ち替わり話している間、元希望の戦士の4人は初めてみる77期生の姿を警戒しつつ観察しているようだった。
「あなたたちが……絶望の残党、あの狛枝凪斗の元仲間か」
新月クンがまるで有名人に会ったかのように(もしくは犯罪者に会ったかのように)、声をかけた。
「いや、狛枝は
作業を続けながら日向くんが答える。
「狛枝は俺たちの仲間だよ、今でもな」
それを聞いた新月クンの顔はなんとも言えないものだったが、少し驚いているみたいだった。
「ところで、狛枝サマのお仲間の皆サマは、何を運んだりしていらっしゃるのでしょう?」
そんな新月クンを尻目に、さっきから慌ただしく搬入を続けていた77期生のみんなに対して、空木さんが疑問を投げかけた。
「あぁ、これか……」
言い淀む日向クンがこちらに視線をやる。
それはおそらく、彼らの運んでいるものが機密にあたるものだからだろう。
「たしかに
と、言いつつボク自身も自信がなく、霧切さんや十神クンの方を見てしまう。
霧切さんは笑いながら肩をすくめ、十神クンは不機嫌そうにそっぽを向いている。
つまり、問題ないということだろう。
「まぁ、そういうわけだから説明しても大丈夫だよ」
日向クンの方へ向き直り、搬入していたものについての説明を続けて大丈夫だと伝える。
「そうか、それなら簡単に説明するか……」
日向クンが思案顔で説明を始めた。
「まず最初に断っておくが、ここにあるものについては他言無用で頼む」
「それは、ここにあるもの自体が機密であり、これらについての話もまた機密だからだ」
真剣な顔で伝える日向クンに対して、子どもたちも神妙な面持ちで頷く。
「ここにあるもの、その名前は【新世界プログラム再始動プログラム】だ」
「長いからな、俺たちは【再始動プログラム】って呼んでいる」
そう、みんなが運んでいたのは【希望再生プログラム】である【新世界プログラム】、それを再始動させるためのプログラムだったんだ。
彼らの「強制シャットダウン」直後には考えられなかったものだが、日向クンの才能と、サルベージされた
「説明途中にすみません、【プログラム】と言うなら別にここに運び込む必要はないんじゃないですか?」
疑問に思った新月クンが質問をする。
たしかに、自然と思いつく質問だろう。
「そうだな、尤もな疑問だ」
「それについては……」
「左右田、お前から説明してくれ」
日向クンが奥で作業中だった左右田クンに声をかける。
「オレか?!」
突然話を振られた左右田クンが驚きながらこちらを向く。
「あー、なんだ」
考えをまとめるように天を見上げたあと、咳払いをして左右田クンが説明を始める。
「ここに機材を運び込んで作業する理由は2つある」
左右田クンがピースをしながら子供たちと向き合った。
静止画で見ると少しおかしな場面だが、真面目な話をしているのだから笑うべきではないだろう。
そんなことをボクが考えているなんて知るはずもない左右田クンが説明を続ける。
「1つ目はセキュリティの問題だな」
「なんだかんだ言って未来機関の技術力は高いわけで、物理的にも情報的にも守りが強えんだわ」
「だから最高機密扱いの【再始動プログラム】の起動は、未来機関の施設内でやりたい」
「これが理由の1つ目だな」
なるほど、と頷く子供たちに釣られたのか葉隠クンや朝日奈さん、終里さんも頷いている。
いや、彼らの場合は子供たちに釣られたわけではないのかもしれないけれど。
「そして、2つ目の理由……こっちが特に大事なんだが……」
「【再始動プログラム】の起動には、被験者毎に割り振られた起動用パスコードを同時に入力する必要がある」
「つまり、被験者であり、【新世界プログラム】に取り残されている10人を救うには、同時に10人以上の手が必要だってことだな」
そう言いながら左右田クンがボクらを見渡す。
そう、その10人以上の手というのは、ここにいる77期生5人と78期生5人のことなのだ。
「そういえば、あの三つ編みネガティブ眼鏡のお方は?」
再び空木さんが疑問を尋ねてくる。
もしかしなくても、それは元超高校級の文学少女である腐川冬子さんのことだろうか。
「フン。ヤツなら貴様らが荒らした街の治安維持を中心に活動中だ」
「まぁ、そのうち話をする機会でもあるだろう」
「そのときには……」
そのときには、に続く言葉を遮るように空木さんが尋ねた。
「ということは、あの苗木こまる様もここにはいらっしゃらないということなのでしょうか?」
「そうだね。こまるも腐川さんと塔和シティで活動してるから」
そう答えると事情を知らない77期生の皆がザワつく。
「苗木こまる、って誰だそれ?」
「いや、苗木の妹だって前にビデオ通話で話しただろ!」
「それは違いますよ、左右田さん。あのときは、わたくしと左右田さんと日向さんしかおりませんでしたからね」
「そうか、苗木にも妹がいたんだな……」
ガヤガヤと騒がしくなる部屋の中で、元希望の戦士のみんなも緊張感が薄れたような、少し安心した表情を見せていた。
いや、話を遮られた十神くんだけは例外的に不機嫌そうな顔をしているか。
「ハハッ、騒がしくてごめんな」
日向クンがボクら78期生の方へ謝ってくる。
「フン。あの厄介者共の世話は貴様らがやるんだな」
十神クンは完全に機嫌を損ねてしまったようだ。
「あら、天下の十神家跡取りの貴方でも子供の世話はできないのかしら?」
霧切さんが薄く笑いながら問いかける。
「安い挑発だな、霧切」
「そもそも……」
反論しようとする十神クンを遮るように、朝日奈さんと葉隠クンが続く。
「えー、できないんだー」
「できないんだべ!」
「貴様ら……」
そして、言い争いはヒートアップしていく。
それを横目に、ボクと日向くんの会話が進む。
「いやー、なんというか、平和だね」
「そうだな、平和だな」
そう、これはまさしく平和だったんだ。
平和であり、日常であり、そして何より希望だったんだ。
「希望」はみんなを照らす光であり、そして、人々の夢なんだと思う。
だけど、往々にして人の夢は儚いものなのかもしれない。
そう、ボクらの平和は儚かった。
まるで砂の上の楼閣のように。
あるいは、非日常の中の日常のように。
ボクらの日常は儚かったんだ。
まるで真夜中の線香花火のように。
あるいは、絶望の前の希望のように。
突然の襲撃、サイレン。
モノクマヘッド、絶望の残党。
毒ガスか薬品か、倒れていく仲間とともにボクの視界も暗転する。
ただの暗闇。
それが始まり……。
そして、日常の終わり。
3話まではすぐ投稿します。
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