第一話がまだの人はどうぞ第一話からお読みください。
歪んだ視界が光を取り戻したとき、そこに映っていたのは見慣れぬ、しかし見覚えのある風景だった。
黒板、掛け軸、監視カメラ、そして鉄板。
「ここは……いや、まさか……」
「そんなはず……っ?!」
そこは、希望ヶ峰学園の教室だった。
しかし単なる教室ではない、単なる教室であるはずがなかった。
鉄板と監視カメラと黒板、その異常な組み合わせはボクにとって懐かしいものだった。
いや、懐かしいなんて言葉では表せない。
あのコロシアイ学園生活を象徴するその組み合わせは、ボクの冷静さを殺した。
「みんなは……!」
「ここはどこなんだ?!」
心の底では答えを知っている問いを投げかけるボクに、ソレは話しかけた。
「ここはどこーー?」
「ボクはだれーー?」
その声は。
「うぷぷ、知ってるくせに」
「聞かなくてもわかってるじゃーん」
嘲笑うように能天気で、
「ねぇ、どこだと思ってるのさ」
突き放すように明るい、その声は。
「久しぶりだね」
「元気してたー?」
「モノ……、クマ……ッ!!」
声の主、モノクマは教壇に立ち、旧友に会ったかのように親しげな様子で手を挙げていた。
「どもども」
「じゃーん、モノクマでーす」
「久しぶりなのに相変わらずノリが悪いねぇ」
モノクマはそう言うとボクへ向かって紙を投げた。
――――――――――――――
【入学あんない】
あたらしいがっきがはじまりました。
しんきいってん子の学えんがオマエラのあたらしいせかいとなります。
――――――――――――――
「懐かしいでしょー?」
まるでぶりっ子のように両手を口元に添えたモノクマが煽る。
ボクが茫然としていると、モノクマが背を向けた。
「じゃ、そういうことだから」
「玄関ホールでみんな待ってるよー」
言いたいことだけ言って姿を消したモノクマへ伸ばした右手が空を切る。
「おいっ!」
「待てよ!!」
「みんなって、みんなって誰なんだよ!」
「……クソッ!」
空を切った右手をそのまま机へ叩きつけるが、状況は何も変わらない。
「行くしか、ないのか……」
赤くなった拳が白くなるまで強く握り込み、目を瞑る。数秒後目を開くが、当然、この悪夢のような現実に変化はない。
そう、ここから動かなければ何も変わらないのだ。
行動しなければ何も変わらない、それがこの学園での生活だったじゃないか。
「ふぅ……」
「ボクは負けないぞ」
「希望は、絶望なんかに負けないんだ!」
前に進む決意をし、教室を出る。
廊下は予想通り、というよりも記憶通り、サイケデリックな蛍光色で照らされていた。
趣味の悪い廊下をぬけ、目的地への扉の前に着く。
そう、玄関ホールへと続く扉の前だ。
「この先にみんながいるのか……?」
もし仲間たちがいるのなら、状況を報告し合い脱出するための行動が開始できるかもしれない。
そんな希望を抱きつつ扉をくぐったボクを待っていたのは、やはりどうしようもないほど悪辣な絶望だった。
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扉の先には、未来機関第14支部にいた9人の仲間たちと、5人の子どもたちがいた。
そう、子どもは5人いたのだ。
車椅子に乗った少女、招かれざる客であるはずの彼女がそこにいた。
その彼女を前にして平然としている他のみんなを見て、考えたくもないような最悪を予想しつつ、ボクは声をかけた。
「……や、やぁ」
「こんな所に集まってどうしたのかな……?」
「オメーもここの新入生か……?」
葉隠クンが信じられない、信じたくないような質問を投げかけてくる。
「これで、15人ですか」
「キリも良いですし、みなさん揃ったのかもしれませんね!」
「……15人ってそんなにキリが良い数字か?」
ややぎこちない態度でソニアさんと日向クンが話しているのを横目に、状況を確認する。
「えっと……」
「ここに集まっているみんなは、希望ヶ峰学園の新入生で、みんな初対面ってことなのかな……?」
確認したくない、できれば目を背けたい。
「すごいねー!」
「当たりだよ!」
「なんでわかったの?!」
驚いた顔の朝日奈さんが大きく頷いてくれる。
ボクは、再び冷静でなくなっていく自分を自覚しつつ、愛想笑いをした。
いや、もしかしたらただ顔を引き攣らせただけだったのかもしれない。
「いや、誰がどう見たってそうだろうが!」
無邪気な朝日奈さんに左右田クンがツッコミを入れる。
たしかに、状況的には「みんな新入生」と考えられる状況だ。
しかし、ボクらは決定的な矛盾を抱えているはずだ。
まずはその点について追及すべきだろう。
「あのさ、この中の半分以上の人が20代前半くらいに見えるんだけど……」
「本当にみんな"超高校級"の新入生なのかな?」
そう、元々未来機関にいた10人の元超高校級のボクらの年齢は、すでに20代前半なのだ。
「あー、またその話か」
左右田クンが頭を掻きながら呟く。
もしかしたらすでに同じ話題を繰り返しているのかもしれない。
「私とか終里ちゃんは世界大会の関係で入学が遅れちゃったんだ……」
「オレとか他の連中は……まぁ、ざっくり仕事関係で一度入学を辞退してんだ」
「オメーもそうなんだろ?」
朝日奈さんと左右田クンが事情を説明してくれるが、そんな事実はどこにもないはずだ。
ボクらは10代後半で入学をしているし、希望ヶ峰学園に中途入学のような制度があるなんて聞いたことがない。
そもそも、人類史上最大最悪の絶望的事件が起きた以上、「ここ数年のうちに活動した」という記憶や記録すらどこにもないはずなんだ。
おそらく、……いや、確実に、みんなの記憶は操作されているんだろう。
そして、その元凶はボクの目の前にいる。
「きっと混乱してしまっているんですね!」
「こんな異常事態に巻き込まれてしまって……」
花が咲いたような笑顔、その後に庇護欲を誘うような悲しんだ表情。
計算されているだろうその少女の顔は、それに気がつけない周りを味方に変えていく。
「そうだ!」
「みなさんで改めて自己紹介をするのはどうでしょう?」
まるで名案を思いついたかのように手を叩き、自己紹介を提案する。
それがボクらの話を誘導するための罠であると思いつつ、ボクはその提案に乗っかった。
「……そうだね」
「こんな状況だからこそ、お互いのことをよく知るべきだと思うよ」
十神クンや九頭龍クン、左右田クンあたりが眉をひそめているのを横目に続ける。
「それに、お互いのことを知らないとなんて呼べば良いのかもわからないしね」
いつかセレスさんが言っていたことを思い出す。
果たしてあの時彼女はなにを思っていたのだろうか。
数年前の自己紹介を思い出しながら、ボクのことを忘れたみんなへ二度目の自己紹介を始める。
第三話も本日中に投稿します。
頑張って投稿していくので、高評価やお気に入り登録をぜひお願いします!
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