成り変わりカイザー理事の奮闘物語   作:CoCoチキ

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百話 終わらない物語

 

  「…お前も、俺も…先生には敵わんさ。お人好しで…計画性がなく、行き当たりばったりなのに、それがとんでもない奇跡を生み出す。ほんと、とんでもない大人だ」

 「……そうだね…先生は…そう言う大人だから」

 「先生には振り回されてばかり、唐突に現れては突拍子もない事をしでかすんだ」

 

 目の前のシロコも、僅かにだけど口元を緩めて苦笑を浮かべる。

 

 「うん、気が付いたら凄い事をやってきて、笑顔で帰ってくる」

 「こっちの心配も分かっていながら知らんぷり、生徒の為に命を懸ける大馬鹿者」

 「でも……」

 「そんな先生だからこそ良い……だろ?」

 

 いつまで経っても自分の命は後回し、これまで大きな怪我をしてなかったのが不思議で仕方がない。ま、それもアロナのお陰なんだろうけどな。

 

 「……どうしてこうなったのかなぁ………どうして……こんな…事に…なったのかなぁ」

 「…なんでだろうな」

 「…わたしの……わ、たし…のせいなの」

 

 シロコは腕で顔を覆い、今まで溜めて来た感情を吐き出すように声を絞り出していた。

 

 「わたしが、いるから、世界が……滅亡、した。そんな、こと、望んでないのに……!」

 「…あぁ」

 「……こんな結末、望んでなかった…」

 「…分かってる」

 

 シロコの頭を撫でながら、相槌をする。

 

 「先生を、殺したく、なかった……!ごめん、なさい……わたし、は、こんな……」

 「…今は少しでも多く泣くと良い、感情を溜め込も過ぎるのはあまり良くないからな」

 「うぅ……あぁぁ……」

 

 「うあああぁぁぁああああ–––––!!!!」

 

 子供をあやすようにシロコを抱き上げて背中をポンポンと叩く。彼女は俺の体が軋むぐらい力強く握りしめ、ただ泣き叫んでいた。その間にホシノたちが来ていたけど、俺と彼女の様子を見て困惑し、ホシノだけは納得したように頷いていた。

 

 「さむくて、おなかへってて……なんで、ここにいるのかも、分からなくて……でも、あたたかくて、あたたかい、から……もう、これ以上、さむいのは、イヤ、だから……」

 「…すまないな。俺は機械の体だから、冷たいだろう?」

 

 シロコは俺の胸に顔を埋めて首を横に振る。

 

 「ちが、う……私が、間違っていたの」

 「人間生きていれば誰もが間違う。だが、生きているだけで間違っている人間なんて誰も居ない」

 

 ほんと、この世界は子供に優しくないよなぁ。

 

 「お前は本当に先生を撃ったのか?」

 「……ううん、撃たなかった…だから、先生は色彩に…」

 「誰だって大切な人を殺したくはない、お前が先生を撃たなかったのは普通の事だったんだ」

 

 この子がどんな経験をしたのかは分からない。だけど、どれだけ苦しんでいたかは分かる…この子の時間はずっと止まったままなんだ。

 

 「“っ!リジー!プレナパテスが!“」

 「…なに?まだ立ち上がるのか?」

 

 クソ!こんな時に!……待て、なんだあれは?あいつは何を作り出している?あれじゃあまるでブラックホール。

 

 「“リジー!リンちゃんがウトナピシュティムの主砲でプレナパテスを攻撃する!だから出来るだけダメージを……“」

 「……」

 「“いや、あなたは出番が来るまで待ってて、あなたがやりたい事、何となく分かってるから“」

 「…すまない」

 

 俺はシールドを構えてシロコの前にしゃがむ。

 

 「なぁ、シロコ、お前は先生に生きていて欲しいか?」

 「…うん」

 「ならここから生き延びたら、うんと甘えてこい。今まで一人で頑張って来たんだからな」

 「……許して、くれるかな?」

 

 不安そうにする彼女の頭を撫でる。俺には表情が無いから、笑顔の代わりに出来るだけ優しく。

 

 「許すも何も、先生は怒ってない。お前もわかってるだろ?先生の性格」

 「………あなたが……私の世界にも、居てくれたら……みんな…死ななかったのかな?」

 「…分からん。だが、俺は俺に出来る全ての手を使ってでも守るだろうな。それがどんな汚い手であっても、それが俺と言う人間だから」

 

 大切だと思うから、大事だと思うから、俺は俺で居られる。カイザーPMC理事に成った時は、ただ自分が生き残る為に必死だった。

 

 「…いつからだったか、俺には大切に思うモノが出来ていた」

 「……ホシノ先輩たちみたいに?」

 「そう、俺にとって最初に出来た大切な人はリオだった。もちろん、最初から大事だったわけじゃないさ」

 

 俺が直接話を聞きに来る事を見越しての依頼だった。自分の危機が終わったと思ったら今度はキヴォトスの危機なんだもんな。この世界何回も危機に陥り過ぎて何度呆れたことか。

 

 「続きが気になるだろう?」

 「………」

 「無言の肯定だと受け取っておく、続きが聞きたいなら生きて帰る事だ。お前も、お前の先生も」

 「…できる、の?」

 「出来る。俺は不可能な事は言わない」

 

 今までも俺は成功すると言う確信を持って事に挑んできた。大きな事をして失敗したのは、先生と敵対した時くらいだ。

 

 「少し伏せていろ」

 

 先生たちとは反対側に居たから、飛んでくる主砲が良く見えた。それに備えてシールドを両手で支えた後、プレナパテスに主砲が直撃する。威力はかなり高かったようでこの場所の壁を吹き飛ばしていった。

 

 「…危ないな、普通に」

 

 俺も一緒に吹き飛ぶんじゃないかとちょっとビビったぞ。

 

 「え!?船で脱出するんじゃないの!?」

 「…お姉ちゃん、脱出のセリフがそれで良かったの?」

 「えと、帰ったら、ゲーム…しましょう」

 「アリスはこのリレ⚪︎トで脱出してますね!」

 

 アリス!その名前は色々と危ないからやめなさい!

 

 そうツッコミたかったけどゲーム開発部は一瞬で消えるように脱出した。あれがエンジニア君たちが用意してくれた別の脱出方法なんだろうな。

 

 「今度猫カフェに寄らせてもらいますわ」

 「量は少ないですけど、味は美味しいですし猫ちゃんも可愛いですしね〜!」

 「楽しみにしてるね!」

 「あそこの料理、いつも普通に食べれるから、すっごく楽しみ!」

 

 美食研究会の約一名は悲しい事を口走っていたが普通に脱出…ジュンコには今度、割引のクーポンを渡してやろう。

 

 「後の事はお願いしますね☆!」

 「ん……待ってる」

 「そっちのシロコ先輩も、何が何だか分かんないけど諦めないでよね!」

 

 

 残っていたアビドス復興委員もホシノ以外は全員脱出した。残った彼女はゆっくりとこっちを向いて、俺の後ろにいるシロコに微笑む。

 

 「…リジー、「シロコちゃん」をよろしくね」

 「……っぁ…ホシノ…せん、ぱい」

 「…それじゃあ、また後で会おうね〜」

 

 言いたい事を言ったらホシノも脱出した。残ったのは俺とシロコ、プレナパテスと先生だけだ。

 

 「“ねぇ、シロコ…プレナパテスが……伝えたい事があるみたい“」

 

 爆発の音、瓦礫が崩れ落ちる音、箱舟の落下による風を切る音、その全てが聞こえなくなり、先生の声が聞こえてくる。

 

 「あなたのせいじゃないよ、シロコ」

 

 ボロボロになった体で、声すらも出せないような大怪我にも関わらず、彼の声が響き渡る。

 

 「自分の生を、悔やんだり——責めないで」

 

 決して大きい声ではない、それどころか、囁くような小さな声だ。

 

 「幸せになりたいと願う気持ちを——否定しないで」

 

 だが、彼の声は確かに、俺たちに届いている。

 

 「生きる事を諦めて、苦しみから解き放たれた——なんて悲しい事を言わないで」

 

 シロコの姿は見えてない、だけど、彼はシロコを真っ直ぐと見つめている。

 

 「苦しむために生まれて来た——なんて、思わないで。そんな事は絶対に無いのだから」

 

 顔は見えないけど、彼は確かに微笑んでいる。彼女を安心させるように。

 

 「どんな生徒(子供)も、そう思う必要は無いのだから。子供の「世界」が、苦しみで溢れているのなら……」

 

 ボロボロと体が崩れ落ちながらも彼は言葉を紡ぐ。

 

 「子供が、絶望と悲しみの淵でその生を終わらせたいと願うのなら——そんな願いが、この世界のどこかにまだ存在するのなら——」

 

 「それは——」

 

 次の瞬間、俺は彼の本当の姿を見た。幻のように薄い存在だけど……彼だった。

 

 「この「世界」の責任者のせいであって、子供が抱えるものじゃない——世界の「責任を負う者」が抱えるものだよ」

 

 ……プレナパテス、お前は偽りの先生なんかじゃ無い。

 

 「たとえ罪を犯したとしても、赦されない事をしたとしても——」

 

 「生徒(子供)が責任を負う世界なんて、あってはならないんだよ」

 

 「いつ、いかなる時であっても───」

 

 お前にその名は相応しく無い。お前は尊ぶべき、先生だ。

 

 「子どもと共に生きていく大人が背負うべき事だからね」

 

 だからこそ、お前は……

 

 「……責任は、私が負うからね」

 

 プレナパテスは先生へと向き直り、頭を下げる。

 

 「生徒たちを……よろしく、お願いします」

 「“………“」

 

 先生、言わなくても分かってる。こんな終わりは認めない。こんな悲しい結末はあってはならない。

 

 「俺はどんな手を使ってでも、守るさ。それが…自然の理に反する行為であったとしても」

 

 あいつから貰っていた。ありとあらゆる物質を複製する事が出来るミメシス。これを使わなくて良かった。

 

 「対象…プレナパテスの「シッテムの箱」、複製を開始する」

 「…あなた、なに、を?」

 「付属機能、生徒募集システムとセレクトチケット、募集対象「プレナパテス」へと設定、複製開始」

 

 シッテムの箱なら知っている。それがどう言うモノなのか、どう言う機能を持っているのか。

 

 プレナパテスのシッテムの箱が青白い光に包まれて二つに増える。複製の方はユスティナ生徒たちのように青白く発光し、今にも壊れそうだったけど、一回だけ使えればそれで良い。

 

 「それは、先生にしか使えない…!」

 「……コン、居るんだろ?アシスト頼む」

 『はい、私に任せて下さい』

 

 俺を経由してコンにシッテムの箱に入ってもらう。

 

 「…我々は望む、ジェリコの嘆きを……我々は覚えている、七つの古則を」

 『起動パスワード認証、擬似シッテムの箱の起動を確認』

 「…シロコ、確かにこれは先生にしか使えない、だけどな……俺もアリウス学園の先生なんだよ」

 「…アリウス、学園?」

 

 そう、先生と言う立場があり、そしてここが多次元解釈によって歪んでいるからこそ出来る荒技だ。

 

 「生徒募集システムを起動、セレクトチケットを消費し、「プレナパテス」を任意募集」

 『了解、【ピックアップ募集】『偽りの名を与えられし真の教育者』☆3生徒、プレナパテスを募集します。ここにサインを』

 

 出てきた封筒にサインを入れて、残っていたもう一つのミメシスをプレナパテスに向ける。

 

 「プレナパテス、お前は素晴らしい人間だ。生命活動を終えて尚、その責任を全うしようとした。だが、シロコはお前が死ぬ事を望んでいない」

 「……それは」

 「だからこそ、俺は悪役として、主人公の背中を引っ叩いてやる。お前が先生を選んだのなら……「主人公」と言う役割を選んだのなら。その後押しをするのが俺の役割だ!」

 

 悪役とはいつも主人公の踏み台となり、成長を促す存在だ。だから俺は今ここで、その役割を全うする。

 

 「主人公(先生)ヒロイン(生徒)の絆をより深める為にな。対象、「プレナパテス」の肉体を複製」

 

 生徒募集システムは、先生がシャーレへと生徒を呼ぶ為の機能、大人のカードで呼ばれる生徒たちはその全てが生徒募集システムによって呼ばれた生徒たちだ。存在そのものを呼び寄せる事が出来るなら、魂だって出来る!

 

 「さぁ!プレナパテス!お前の物語は終わっていないぞ!お前は確かに教師だが、教師が生徒ではいけないと言う理由はない!!」

 

 ミメシスをプレナパテスの体に押し付けると同時に、空中に浮かんで出てきた封筒の中身を取り出す。

 

 取り出した瞬間、視界が光に覆われるが。その光が収縮し、人の形を作り出す。

 

 「“ほんと、あなたって規格外だよね。私なんかよりよっぽど奇跡を起こしてると思うけど?“」

 「奇跡?いいや、これはありとあらゆる可能性から手繰り寄せた、必然だ!」

 

 決して奇跡ではない。俺は奇跡を起こせるようなそんな立派な人間じゃあない、だから出来る限りの準備を進めて、成功率を高めていくんだ。失敗しないように、大切なモノを守れるように。

 

 「……まさか、こんな事が」

 「………せんせ、い……せんせい!!!」

 「…シロコ…待たせてごめんよ」

 「…いいの!生きててくれただけで!それだけで私は……!」

 

 新たに出来たプレナパテスの体は、まさに先生そのものだった。二人揃って並べるとどっちがどっちか分からなくなるくらいには。

 

 「…でも、良かったの?私たちがそっちの世界に行くのは」

 「世界の都合なんざ知らん。色彩なんて傍迷惑なやつを生み出した癖に、実際にそれのせいで滅んでしまった別世界の住民を受け入れないなんて勝手過ぎるだろ。文句があるなら俺は神であろうとぶん殴る」

 「“アリスとの合体技のせいで凄い説得力あることを自覚してね?“」

 

 あ、そういえば俺のRGの名前はクラウ・ソラスだったな。

 

 「それじゃあ脱出するぞ、船はもう出ているだろうし、残っているのは脱出シーケンスだ。コン、残っているか?」

 『イエス、人数分の脱出シーケンスを用意していますので有り余っています』

 

 まだ形の残っている疑似シッテムの箱を使って、先生を先に地上に帰す。

 

 「…ありがとう、海崎リジー」

 「礼をするなら、今まで頑張っていたシロコを甘やかしてやれ。その子の先生はお前しか居ないのだからな」

 「…うん」

 

 プレナパテスとシロコを地上へ帰した後、俺はゆっくりとパワードスーツに乗り込む。

 

 『では帰りましょうか』

 「そうだな」

 

 脱出シーケンスを使ってすぐに、地上へと戻った。戻った先には先に脱出した生徒や、船には乗らず、キヴォトスの防衛をしていた生徒が楽しそうに会話をしている。

 

 「…リジー」

 「ん?リオか、どうだ?ちゃんと全員で帰って来れただろ?」

 「えぇ、そうね。お帰りなさい」

 

 僅かに口の端を上げて笑う彼女に俺も言葉を返す。

 

 「……あぁ、ただいま」

 

 −−−帰りを待ってくれている誰かが居るのは、結構嬉しいものだぞ?プレナパテス

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