「すっかり夜だな」
「ほんと、一日二日じゃ周りきれない程広いわね」
屋台で買ったたこ焼きを食べながらセリカが呆れたように言うが、さっきからご機嫌そうにしてるのは見えてるからな。
「夜は明かりなどでライトアップされていて、見てるだけでも楽しいですね!」
「なんて言うか、幻想的でもあるね。アビドスでこんな景色を見れるようになるなんて」
過去の俺が見たら驚愕するだろうな。
「久しぶりの息抜きになったな。最近は復興作業や依頼であまり休みも取れてなかったからな」
「“あれ、リジー昨日は快眠だって…“」
「もちろん快眠だ!だが休みが取れたとは言ってない」
会社職員総出で取り掛からないといけない程に仕事が増えて、混乱に乗じてゴロツキやチンピラが暴れて鎮圧するのに時間が掛かった。それだけあの事件の被害が大きかったのもあるが、カイザーコーポレーションの起こした事件のせいで多くの組織が機能しなくなったのが痛かった。それもしばらくすれば機能するようになったんだけどな。
「2ヶ月の間リジーのところの人たちが忙しそうにしてたよね。ところで、そろそろ帰るんだよね?どうしてここで立ち止まってるの?」
モモイが遊園地の広場で突然足を止めた俺に聞いてくる。アリスもモモイの真似をして首を傾げて俺を見る。
「…この時間帯に何かあるのですか?」
「ある。そろそろの筈なんだが、時間を間違えたか?」
遊園地の真ん中にある時計塔を見て時間を確認すると時間はあっていた。なら機械の故障か?と考えていると側に居たモモイとミドリが声を上げる。
「すご〜い!」
「色んな場所から水が噴き出して、景色が輝いて見える!」
お、どうやら上手くいったみたいだ。良かった良かった。試験運用した時はちゃんと動いたがトラブルが起きないとも限らないからな。
広場の中央から端まで一斉に水が噴き出し、遊園地の明かりが霧状になった水を照らしていく。俺たちの立っている場所に円形の水溜りが出来上がり、鏡の様に俺たちを写し出した。
「これは…」
「こんな綺麗な景色が見れるなんて…」
「アリウスに居た頃は考えられなかったか?」
サオリたちアリウス組は目を見開いて水面や周囲を見渡す。正直今回の休みでサオリたちが来てくれてほっとしてる。彼女たちには色んな事を経験してほしいからな。
「…ありがとう、リジーのお陰で私たちは今まで知らなかった事を知れた。こうして、サオリちゃんたちやみんなと同じ景色を見る事が出来た」
「どういたしまして、だが、色々あってまだ完成はしてないが、これからは学校にも行けるようになる。一々お礼なんてしてたらキリがないぞ?」
「気にしないで、私がただ言いたくなっただけだから」
「……そうか」
突然お礼を言ってくるアツコに対して、若干気恥ずかしくなった俺は視線を外すと、俺たちと離れた所で嬉しそうに、少し寂しそうな顔をして空を見上げるクロコとプレナパテスが視界に映った。
「あれ?クロコさんとプレナパテスさんは?」
「あそこだ」
スズカと一緒にはしゃいでいたコンが姿の見えなくなった二人について俺に聞いてくるから二人の居る場所を指差した。
「…今はそっとしておきましょうか」
「だな、今は二人だけにしておこう」
あの二人がどれほど長い事、運命とやらに翻弄されてきたかは想像も出来ない。彼らの苦悩や苦労を、安易に分かるだなんて口が裂けての言えない。
「だけど、今まで散々辛い目にあった分、うんと幸せに生きて欲しいと俺は思う、例え別世界の先生たちとは言え、俺の友人である事には変わりがないのだからな」
「それを直接あの二人に言えば良いじゃないですか、きっと喜びますよ」
「こんなの恥ずかしくて言えるか!」
「いつもノリと勢いであんなセリフやこんなセリフを言ってきたのにですか?」
イタズラが成功した子供みたいな笑みを浮かべてコンが揶揄ってくるが、俺だっていつもノリと勢いに任せている訳じゃない…よな?ちょっと不安になっってきたぞ。今までの事の殆どがコンに録音されてるんだろ?俺の知らない所でその録音が聴かれてるとかないよな?リオの時だけでもかなり恥ずかしいセリフを言ってたんだけど。
「……一応聞くんだが。コン、リオ以外にあの録音聴かせてないよな?」
「…ふふふ、どう思いますか?」
なんだか知らない方が良いような気がしてきた。
「少なくともリオさんには好評でしたよ!リジーのセリフ集は!」
「俺のセリフ集!?なんだそれ誰得なんだよ!?」
俺の知らない間にコンが切り抜き動画のような事をしてる事に驚きを隠せなかった。
「安心してください!リオさん以外は知りませんので!」
「安心出来る要素がどこにも無いんだが?俺のセリフ集が出来てるって時点で俺の精神に大ダメージを与えているんだが??」
最初の無機質な感じから感情豊かになってくれたのは凄い嬉しいけどさ。なぜ録音をしてる。
「私は好きですよ!リジーのありのままの想いを聴くことが出来て、リジーのノリと勢いが、皆さんを助けたんです!だからリジーは恥ずかしがらずにドーンと胸を張って構えてください!」
「それが出来れば苦労しないんだよなぁ。大の大人が感情に任せて怒りをぶつけてるだけなんだぞ?格好悪いにも程があるだろ」
ある意味この世界で一番後悔した事だな、もうちょっとこう、冷静になれなかったのだろうか俺。
「いいえ!リジーは格好良いですよ!リジーの事を一番近くで見続けた優秀なAIである私が言うんです!間違いありません!」
「……そこまで言ってもらえるのは素直に嬉しい、嬉しいが…照れ臭いからそんなに褒めないでくれ、調子に乗りそうだ」
俺の体が機械で良かった。人間の体のままだったら間違いなく赤くなった顔を見られてたから。
「それだけの事をしたのですからちょっとは調子に乗っても良いんじゃないですか?」
「どれもこれも、傭兵たちやコン、先生たちの協力のお陰なんだ。俺が我が物顔で誇るのは、ちょっと違うだろう?」
「…むぅ、相変わらず自己評価が低いですねぇ、ここはやっぱり録音を聴かせてリジーがどれほど凄い事をしたのかを再度認識してもらう必要が…」
「やめてくれ!それだけは勘弁してくれ!あれをずっと聴かせられるとか新手の拷問か!?」
実際そうだったんだから何もおかしな事言ってないだろ!?なんでそうなる!?
「先生には自分がどれほど重要な人物なのか自覚しろと説教をするのに、リジー本人にその自覚がないのですかね?」
「いや、そんな事はないぞ?コンやリオたちの大切だと思われてるのは理解している」
「本当ですか〜?」
なんでそこで疑うんだ。理解してるから出来るだけ怪我しないようにしてるんじゃないか。
「…分かっているなら良いんです。リジーは平然と無茶をするから心配なんですよ」
「反省はしている。もっと安全にできたんじゃないかとな」
「全くです!」
いや〜我ながらアホな事を考えたよ。EMPなんて俺たち機械からすれば自殺するのと変わらん物を平然と爆破させたんだから。
「はい!お説教も反省もここまでです!噴水も止まってしまいましたし、帰りましょう」
「そうだな、お〜い!帰るぞー!」
いつの間にか少し離れた所にいたみんなを呼んで出口に向かう、出口ではキープしておいた例の魚を受け取り、遊園地を出たところで解散した。
「…色々とトラブルはあったけど、結構楽しかったな。コンは?初めて友人と遊んだ遊園地、どうだった?」
「そんなの決まってます!」
俺の前を歩いているコンが、立ち止まって俺の方を振り返り笑う。
「凄く、凄く楽しかったです!また皆さんと一緒に遊びに行きましょうね!」
−−−それはもう、楽しくて仕方がないと言わんばかりの満面の笑みだった