【 スズカ視点 】
「……酷い熱ですね。暫くゆっくり休んでください。マダムには私から報告を上げておきます」
「ご、ごめんなさい」
「これもリーダーとしての務めですので気にしないでください」
以前、私の部隊を含む多くの生徒が風邪を引いた事がありました。ただの風邪でも、病院に行く事が出来ない私たちにはとても辛い事でした。
「…スズカ隊長、マダムに何と報告するのですか?風邪を引いた生徒の中には薬が無ければ危ない状態の子もいます」
「ありのままを報告しますよ。下手な誤魔化しをすればどうなるかなんてあなたも分かっているはずですよ」
「………」
そんな時、看病をしている私たちの所にマダムが来ました。
「…あら、あなたは…」
「…っ!マダム、なぜこのような所に?それに、スクワッドの人たちまで」
「丁度良かったです。あなたもこれを生徒に飲ませなさい」
「こ、これは、薬瓶?」
本当に運が良かったです。私の出来ること全てをしてでも薬を頼み込もうと思った矢先だったので。
「ただの風邪薬です。ここで生徒たちの人数が減るのは不都合ですので、私自らが看病してしているのです、貴重な時間をこのような事に割いているのですから、風邪が治り次第、役に立ってもらいますよ」
「で、ですが風邪の看病なんてした事が……」
「スープでお腹を満たした後に飲ませなさい。その後はタオルで汗を拭いておくのです」
マダムはそう言うと興味を失ったかのようにその場を離れていきました。もちろんスープは冷たいものでしたし、体を温めるための布も頼りないものでした。けれども、あの風邪で誰かが死ぬ事はありませんでした。マダムからすればどうでも良い事だったのかもしれません。ただ戦力を減らしたくないだけだったのかもしれません。
「…それでも、マダムのお陰で救われた命もありました。それは無意味ではありません。無価値ではありません。罰が欲しいと言うのならしっかり向き合ってください、私たちから逃げないで下さい」
「……」
彼女はよく私と話してくれるようになりました。それでも目線を合わせる事はありませんでした。だから私は彼女の顔を押さえ無理矢理視線を合わせます。もしここで合わせなかったらきっと後悔するから。
「良いですか?確かにマダムの教育で死んでしまった子もいるのは事実です。ただ、それ以上にあなたは多くの命を救いました。ヘイロー破壊爆弾なんて物も使いませんでした」
「…あれは所詮脅しの道具でしかありません。あなたたちを捨て駒にする為の」
「では、今まで犠牲になった子の事を忘れていますか?」
「………えぇ、名前すら覚えていませんよ」
「はい!嘘ですね!」
私が即座に否定したらマダムは驚き目を見開く、きっと『なぜそう確信を持って言えるのか』と思っているはず。
「これは何でしょうか?」
「あ!それは、なぜスズカが持っているのですか!?」
「この間、声を掛けた時に落としていましたよ」
私が取り出したのは一枚の紙です。これには、私たちアリウス分校の生徒の名前が全て記載されていました。“全て“です。
「…それは過去に黒服に頼まれていた事をリストかしただけに過ぎません」
「だったらどうして肌身離さず持っていたのですか?」
「………」
彼女は何か否定しようと口を開いたり閉じたりして視線を彷徨わせている。否定する為の言葉が出てこないのでしょう。
「無理に否定しないでください。昔のあなたでしたら「こんな紙がなんだと言うのです?」と言ってビリビリに破いてましたよ」
私のあまり似ていないモノマネを見てマダムは笑って、私の頭を優しく撫でてくれます。
「………私の歩んだ道は、空虚ではなかったのですか?」
「はい!」
「…なら少しでもマシだと思える大人になれるように努力しましょう。もう二度とあのような事はしないと、彼女たちに、そしてあなたたちに誓います」
こうして穏やかなマダムを見ているとマダムの過去に何があったのか気になります。いつかきっと話してくれますよね。
「お〜い、話が終わったなら掃除手伝ってくれないか?流石にきつい」
「もう少しだけ待っていてください!…それでは行きましょうか」
「分かりました!」
花の入ったバッグを受け取り中身を見るとそこには沢山のバーベナとタツナミソウが入っていた。姫様に聞いたら、この花の花言葉も分かるんでしょうか?
−−−私はフワリと揺れる花を見ながらそんな事を考えた