成り変わりカイザー理事の奮闘物語   作:CoCoチキ

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百三十六話 大食いにも程があるだろ

 

 「はぁ、昨日は散々だった。ゲマトリアのパワーバランスはアリウスが絡む時だけベアトリーチェが強いそんな知りたくもない事を知ったような気分だ」

 

 こう言う時はなんだかがっつりと肉を食べたくなる。やけ食いってやつだ。アビドスに新しく建てた焼き肉店の様子見ついでに食べに行くとするか。

 

 今日も硝煙の匂いが漂う都市を歩きながら喧騒に耳を澄ませる。これを聴いて日常だと感じる辺り、俺もキヴォトスに染まってきたなと染み染み思う。

 

 「ん?あれは、ミカとイズミ?それに、カヤ?ミカとカヤはともかくイズミとあの二人は接点なんてあったか?」

 

 と言うかあの三人あんなとこで何やってんだ。スマホ見ながらキョロキョロとしてるが、まさか迷子か?

 

 足を止めて三人の様子を見てるとどうやら俺に気付いたようで、近付いてきた。その時に表情はなんとなく「やっと人に会えた」みたいな雰囲気だった。

 

 「こんにちは、リジーさん」

 「こんにちは、こんなとこで何をキョロキョロとしてた?こんな珍しい面子で」

 「私は何故かハイネに「カヤ室長は働き過ぎ!休んできて!」と焼き肉半額クーポンと一緒に追い出されました」

 

 追い出されましたって、お前どんだけ働いてんだよ。まさか超人になる為にはなんて言って徹夜して働いてた…とかではなさそうだな目に隈がない。

 

 「偶にはお上品な料理じゃなくてみんなでワイワイ食べるご飯を食べたいな〜って思って下見に来たんだよ!」

 「新しい焼き肉の店が出来たって聞いたから来たんだけど。迷子になったからこの二人に着いて行った!」

 「……かく言う私たちも迷子だったのですが…現在地を確認しても見つからないですし」

 

 そうスマホの画面を見せてくると地図には今の風景と全く違う位置情報を表示している。いや現在地ではあるが地図と今の風景が一致しない。

 

 「あ〜、この辺は地図の更新がまだだったんだろ。アビドスは復興を始めてまだ間もない、その内ここの地図の内容も変わるだろ」

 「それでそれで?リジーはどうしてここにいるの?」

 「俺も焼き肉目当てだ。さ、そうと分かれば行くぞ」

 

 目的地が同じならと三人を連れて暫く歩いて行くと目当ての店が見えてきた。

 

 「あ、ありました。クーポンと同じ看板です」

 「やっと着いた〜!」

 「かれこれ一時間は迷子になってたもんね!」

 

 う〜む?何か忘れているような。焼き肉、美食研究会……まぁ良いか。

 

 「…おや、いらっしゃいませ、四名様でよろしいでしょうか」

 「あぁ」

 「ではお好きな席にお座りください」

 

 人が少ない、と言うよりも俺たち以外居なくないか?幾ら開店したばかりと言ってもここまで人がいないのはおかしくないか。

 

 「…本日って貸し切りだったりしますか?」

 「あぁ、いえ、すみません…実は先程カンパニーの方と暴徒が当店の前で銃撃戦をしていましたので、その影響でお客様が全て逃げてしまいました」

 

 おぉう。さっきまで日常だと感じてた銃撃音がそれだったのか。

 

 「提供する筈だった注文も全てキャンセル。このままでは赤字と言うところで貴方様方がいらっしゃいました」

 「それはなんとも…」

 「つまり今日は食べ放題?」

 

 ここら辺のパトロール要員を増員するか悩んでるとイズミが食べ放題と言う所に反応した。そして俺はその一言で忘れていた事を思い出した。

 

 「イズミ、この間の礼に今日は俺が奢ろう」

 「ほんと!?それじゃあ最初はどれから食べようかな!」

 「……ねぇ、リジー…良いの?」

 「もちろん、なんならミカもカヤも奢るぞ。二人にはサンクトゥム事件での防衛戦で助けになったから遠慮は要らんぞ」

 

 アトラ・ハシースで力を貸してくれた面々には別々にお礼を渡したりしたんだがそれでも全員に渡せた訳じゃない、特に美食研究会とかはゲヘナじゃ指名手配だし遭遇する事がまずない。

 

 「そうじゃなくてね?…イズミちゃんは」

 「決めた!塩タンと牛カルビ、ポークのハラミと豚トロと鳥の軟骨、それと牛ホルモンをそれぞれ二十人前と塩キャベツ五人前にご飯大盛り!」

 「…へ?」

 「畏まりました。塩タンと牛カルビ、ポークハラミと豚トロ、鳥の軟骨に牛ホルモンを二十人前、塩キャベツ五人前とご飯大盛りでよろしいですね?」

 「うん!」

 

 まさか、ミカが言おうとしてた事は遠慮じゃあなくイズミが大食らいだって知ってたからそれを止めようとしてた?

 

 「いや、まぁ金に余裕はあるから全然構わんのだがそれ食べきれるのか?」

 「?もちろん!」

 「…あなたもあなたですけどあの注文を聞いて驚かない店員も中々ですよね」

 

 俺は値段よりもあの量を食べるって事に驚いたのに、普通に接客してたもんなあの店員。

 

 「そういや、ミカはイズミと一緒で平気なのか?ティーパーティとしてのアレコレとかその他」

 「うん!条約を結んでからはそこそこの交流はあるからね。でもゲヘナの子と一緒に居るのを見られると余り良い顔はされないけどね☆!パテル派の子たちはゲヘナ嫌いの思想が特に強いし……悪い子たちではないんだよ?」

 

 色々あったんだろうなぁ、条約を結んだ後でも喧嘩越しだったり少しでもゲヘナ生と会話してたらあんなのと話したら野蛮さが移ります!的な事を言われてたのかもしれん。ちょっと遠い目をしてるぞ。

 

 「ご注文の品をお持ちしました。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください」

 「わ〜い!ミカの分も私が焼いてあげるね!」

 「あ、イズミちゃん!折角だから私が美味しいって思ってる焼き加減で食べて欲しいな!だからお肉は私に焼かせて!」

 「ほんと!ありがとう!楽しみにしてるね!」

 

 店員が数人掛かりで運んできた肉を早速焼こうとしたイズミのトングをミカが先に取り、少し慌てた様子で肉を焼き始めた。

 

 「どうした?別にトングは二つあるんだからお互いに」

 

 焼いて食べれば良いじゃないかと言おうとしたらミカが人差し指を口に当て「シー」とやっていた。どうしてそんな慌てているのか理解できないでいるとミカが耳打ちをしてきた。

 

 「イズミちゃんにお肉を焼かせたらね?偶に炭になってるの」

 「…それは普通に失敗したからとかか?」

 「そうじゃなくって、その、イズミちゃんは味覚が独特で美味しい料理だけじゃなくてゲテモノ料理も好きなの」

 「……おぉう」

 

 今の一言だけで何が言いたいのか分かった。イズミは大食らいなだけじゃなくて、味覚の許容範囲がとてつもなく広いようだ。しかもイズミの発言を考えるとその『美味しい』を分かち合いたいと言う考えなようで…下手したらとんでもないゲテモノを食わせられるってことか。

 

 「…イズミ、俺も肉の焼き方には拘りがあってな、きっと気に入ると思うから是非食べて欲しいんだ」

 「リジーも!?食べる食べる!」

 「ふぅ、なんとか危機は回避出来たかな」

 

 と言うかミカ、お前イズミの味覚や性格を知ってるって事はそこそこ一緒に食べてたな?一緒に食事してないと知らない事まで知ってたんだが。

 

 「…でも貰ってばかりだと悪いし私も焼くね!」

 「っえ!?」

 「じゃじゃ〜ん!美食研究会どこでも焼き肉セット〜!」

 

 俺とミカ二人でトングを持ち焼き始め、それをジーっと見ていたイズミは懐からトングを取り出して肉を焼き始めた。これはミカも予想外だったようでどうしようと言った表情でカヤと俺を見る。

 

 「え、えっと〜…イズミさんはいつもそのトングを持ち歩いているのですか?」

 「うん!こうやってみんなで焼き肉する時にあったら便利でしょ?」

 「そ、そうですね。もしよろしければ私もお肉を焼きたいのでそのトングを貸して頂けませんか?」

 「う〜ん、ごめんね。私もお肉焼いてる最中だからちょっと無理かな」

 「……それなら仕方ないですねー」

 

 カヤが引き攣った笑みのまま申し訳なさそうにするイズミに気にしないように伝える。この様子だとカヤもイズミのゲテモノ料理を知ってたようだ。

 

 「俺は少し固いくらいの焼き加減が好きでな、ほらイズミ皿を出せ」

 「私はレアくらいの焼き加減かな、はいイズミちゃん!」

 「私はしっかり焼いた程良い固さが好きですね。はいイズミさん」

 「みんなありがと〜!頂きま〜す!」

 

 俺たちはとりあえずイズミに肉を食べさせて焼く事よりも食べる事に集中させる事にした。そうすれば食べてる間に俺たち三人の誰かが炭になる前に肉を引き上げることが出来るからだ。

 

 「じゃあ私からも、はい!」

 

 ダメでした。肉を食べてる間もイズミは自分が焼いてる分の肉を確保していて全く手が出せなかった。その結果、本当に食べれるのかどうかも怪しい真っ黒コゲの肉を差し出された。

 

 「あ、ありがと〜……そ、そうだ!折角だから食べさせてあげる!はい、あ〜ん」

 「あ〜ん!…もぐもぐ、みんなで食べると美味しいね!私からも、はい、あ〜ん!」

 「う……あ、あ〜ん」

 

 どうにか黒コゲ肉を食べないように済むよう時間稼ぎをしたミカは見事に同じ事をされて引き攣った笑みを浮かべながらも食べた。カヤは無言で俺の皿に乗せて自分はシレッと普通に焼いた肉を食べている。

 

 「カヤ……」

 「すみません、これだけは、これだけは本当にダメなんです」

 「…仕方ないか」

 

 カヤの分も纏めて口に入れるとコゲた肉独特の味が口いっぱいに広がり思わずしかめ面になる。こう言う時ほど表情のないオートマタで良かったと思う。

 

 −−−この後もミカがコゲ肉回避をしようとして結局はイズミに食べさせられたり、カヤがひっそりと俺の皿に移して俺がそれを食べるを繰り返した。ちなみに店のメニューは殆どイズミが食べ尽くした

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