「って、今は俺が悪党かどうかはどうでもいいか。早くこの木材退けてこの子を助けなくては」
「“それなら私の方でやっといたよ。リジーがクロカゲとフランシスの気を惹きつけてくれたお陰でね“」
おぉ、本当だ。いつの間にか先生が背中に背負っている。理由は分からんがクロカゲは俺に固執してるように見えるし。それもフランシスが何か干渉したのか。
「まだ終わりではない。たかが一撃を防いだ程度、お前たちの攻撃クロカゲに通用しない。弾も盾も尽きたお前に抵抗が出来るはずがない!」
「確かにクロカゲにダメージを通すのは難しいかもしれん」
「難しい?否…難しいのではない。不可能だ。お前たちは「証」を所有していない。「証」がこの場に存在しない以上お前が生き残るという未来は存在しない!」
証ぃ?こっちに来てからよく聞くな。百花繚乱の委員長に代々受け継がれてきたモノだったか。それがなければ幽霊のような怪異は倒せない、と。
「…プレナパテス、シッテムの箱持ってるか?」
「え?うん。此処に来る時もコンたちに指揮下に入ってもらって来たけど」
ならちょっと実験してみるか。
「先生、お前はお前でこう、なんか良い感じにやってきてくれ。クロカゲは俺で爪研ぎしたくて仕方ないらしくてな。動けそうにない」
「“…分かった“」
って、いつの間にかキキョウがこっちに来てる!?めっちゃ気不味いやつだこれ。初対面で悪役ムーブかましてたし絶対良い印象持たれてないって!あ、目を逸らした……見逃されたってことで良いのか?
先生たちが離れて行くのを見送ると、フランシスが苛立った様子で話し掛ける。
「…先生として生きたが故に嚮導者へと堕ちた愚者と物語にすら登場することがない名も無き存在共で何が出来る?」
「……いま、貴様……なんと言った?」
「愚者と名も無き有象無象で何が出来ると言ったのだ。お前たちは主人公である先生に勝利することは永久に訪れぬ敗北者!先生が居ずとも数々のネームドの足元にも及ばない!」
「てめぇ!アタシがヒナに勝てないって言ってんのか!」
なるほど、先生に勝てない敗北者か、確かに今のところ先生に勝てたのは将棋だのチェスだのボードゲームくらいだ。実際の戦闘指揮となると勝てないだろう。今はな、実験は一旦中断だ。
「俺の事はどうとでも言うが良い。所詮は戯言だと聞き流せば終わりだ。だが…プレナパテスを愚者と言ったこと。コンたちを有象無象だと言ったことを撤回してもらおうか?なぁ、フランシス」
「撤回?撤回だと?全て事実であろう。プレナパテスはアトラ・ハシースで完全に生き絶え。そこの有象無象は描写されることすら無かった謂わばモブ以下の存在。それが物語の流れを生み出す登場人物になる?思い上がりも甚だしい!」
こいつはどうやらシャーレで言った俺の言葉を忘れたらしい。
「貴様は馬鹿か?俺はついさっき物語を上書きしたと言った筈だ。貴様が用意した俺を殺す為だけのシナリオをな…いまこの場においての主人公はプレナパテス一人。そしてコンたちはプレナパテスと共に事件解決へと挑むメインキャラクターだ」
「その思い上がりが–––」
「思い上がってるのはどちらだ?」
奴の言葉を遮り、一歩一歩近づいていく。
「いま、この場面において状況を理解していないのは貴様の方だ。自分が絶対的で無敵な存在だとでも思っているのか?違うだろう?貴様も、俺も、所詮この世界で生きている存在に過ぎない」
繧ェ繧ゥ繧ェ繧ェ繧ゥ繧ゥ繧ゥ
「邪魔だ」
フランシスの危機を感じ取ったのかそれとも我慢の限界がやってきたのかクロカゲが噛みつこうとしてくるのを俺は“踏みつけ“地面に沈めた。
「な、なに!?クロカゲに触れただと!?」
「そんなこと今はどうでもいい。読者気取りの貴様は、一体誰の許可を得てプレナパテスを見下している?一体誰の許しを得てコンたちを見下している?」
「ぬ、ぐ!それが有るべき姿だからだ!」
「それはお前は決めたのか?それとも世界?」
クロカゲからゆっくりを足を退け、再びフランシスへと歩いていく。
「例え世界中の全てが彼らを見下すと言うのなら…そのような有象無象はこの俺が許さん。ぶっ飛ばしてくれる!」
「お前の許しなどなくとも関係ない。己の役割すら碌に演じることが出来ぬ愚者の言い分など聞くに値しない!」
「自分にやった行いに対しては棚上げか!ッハ!そいつはなんともご立派な役者様だことで」
気が付いて居ないようだな。あれだけ俺が説明してやったと言うのに…俺と言う存在を消すのに固執し過ぎた結果がそれか。哀れだな。
「貴様がこの世界に居ること自体が間違いなんだよフランシス。貴様さえ来なければこちらのフランシスは表に出て来れただろう。貴様さえ干渉しなければプレナパテスは百花繚乱編に関わることはなかっただろう。己の役割を演じることが出来てないのは貴様だ」
逃げようとした奴の、デカルコマニーの胸ぐらを掴み上げ俺の腕から逃れようと掴み返した際に落ちたフランシスを踏みつける。
「ぐぉ!」
「プレナパテスは己の命が果ててまで先生の役割を全うした立派な存在だ。コンたちは俺の大事な社員であり仲間だ。貴様如きが見下して良い存在ではない!」
「うぐぉおおお!」
怒りに身を任せ足をグリグリと捻りフランシスを踏み続ける。デカルコマニーの抵抗が激しくなるがしっかりと押さえ付けどちらも逃さない。
「何度だって言ってやる。神であろうと世界であろうと彼らを軽んじると言うのなら…地獄の果てまで追い回し、生まれてきたことを後悔させてやるぞ」
「な…ぜだ!何故お前は赤の他人にそこまで命を掛けることが出来る!」
「それが俺自身が、俺に定めた俺だけの在り方だからだ」
世界が敷いたレールではない。俺自身が歩んでいくための道。
「それすらも、お前自身の意思ではないと言うのにか」
「いいや、誰がなんと言おうとこれは俺の意思だ。否定はさせん」
フランシスは俺の言葉に絶句し押し黙った。絶対的だと思っている世界の決定を自分自身で決めたとこうも否定されたんだ。そうもなるか。
「あぁ、そうだ。貴様…なぜクロカゲに触れられたか気になっていたよな?」
「……」
「アリスの神秘だよ…」
「名も無き神々の女王の神秘だと?」
これはプレナパテスにシッテムの箱で俺のEXスキルを使用できるかどうか聞いてから試したかった事なんだがな。
「アトラ・ハシースの時、俺はアリスの負担を減らすためパスを繋げた。その時に俺とコンに少しだけだが神秘が流れて来たんだよ」
「…まさか」
フランシスも同じ結論に至ったのか震える声で俺を見た。
「そう、そのまさかだ。多次元バリアを打ち破った時の神秘が今の俺には流れている。まぁ…流石に生徒じゃないから弾に神秘を込めて射つなんてことは出来ないが。この肉体を経由して叩き付けることは出来たみたいだな」
ぶっつけ本番だから不安だったけど、百鬼夜行に来た時、シッテムの箱の指揮下に入れた事から神秘は間違いなくあると確信していた。それはアリスとの繋がりも意味するからな。
−−−ミレニアムの生徒には本当頭が上がらないとつくづく思う