「リジー、今夜は飲みませんか?ゲマトリアや先生も既に集まっているのであなたも折角ですのでどうかと思いまして」
「お前らいつの間に…まぁ、偶には良いか」
……待て、先生に俺の家って教えてたか?
「黒服…お前さては先生に俺の家教えたな?」
「えぇ、飲み会をするにしても場所がなければ出来ません。シャーレで飲もうにも先生が我々をシャーレに立ち入らせることに難色を示す。我々の拠点も現在は廃墟同然。であるならば話の流れによって必然的にあなたの家になりましたので」
俺が場所を教えるのに難色を示すと思わなかったのか。思わなかったんだろうな。ゲマトリアにですら嫌な顔しながらも受け入れてくれるだろうな的なノリでやってきたんだから。正解だよこんちくしょう。
リビングに行くと既にマエストロ、ベアトリーチェ、デカルコマニーとゴルコンダ、先生、プレナパテスが集まっていた。普通に考えれば異色過ぎるメンバーだな。悪い大人集団と元悪役、別世界の主人公にこの世界の主人公って。あぁいや…プレナパテスももうこの世界の主人公か。
「“お邪魔してるよ“」
「おう、迷子にならんようにな」
「“確かにこれだけ広いと迷いそうだよね。一人でずっとこんな良い家に住んでたの?“」
「まあな。家の掃除はお手伝いロボがやってくれるから苦労はないが一人で住むには広過ぎると言う難点がある」
見栄っ張りだったんだろう元の理事は。
「お酒なんて久しぶりだな〜今だったら私も生徒と一緒で神秘があるからよりお酒に強くなってるかもね」
「ほう?神秘の影響が身体組織への働きにも影響があるか。実に興味が唆られる事柄ではありますが……止めておきましょう。今宵はただの飲み会ですので」
あの黒服が実験よりも人付き合いを優先しただと!?
「それでは皆さん、乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
「そういうこった!」
この時の俺は気楽に雑談しながらチマチマ飲んでいけば良いかと思っていた。まさか…ほんの数十分程度であんなことになるなんて
【 30分後 】
「でぇすからぁ〜ありうすのこたちのえがおがこのよしんりなんですよ〜きいてますかりじじ〜さん!」
「あぁ、あぁ聞いてる。それと俺はジジィじゃない」
俺の左隣は肩に肘を置かれ呂律の回らない喋りでアリウス生が如何に崇高かだの天使かだのを力説しているベアトリーチェが居た。こいつ凄く酒癖が悪いぞ!
「本来であるならば男性には宿らないとされる神秘、経緯は違えどこのキヴォトスにはあなたと、プレナパテスに宿った。方や色彩の力を宿し方や名も無き王女の神秘を宿している。クックックックック!興味深いとは思いませんか!手が届かないと思われていた現象、概念がいま人の身に宿っていると言う事実が!」
「あぁ確かに興味深いなお前の手に持ってるそれはワイングラスじゃなくて生ハムだ。生ハム傾けても酒は出て来ないぞ」
右隣は研究者としての側面が大いに現れて上機嫌になっている黒服。こっちも酒癖が悪い!
「タイトル、「酔っ払いに絡まれた英雄」」
「“あっはははははw!似てる似てるw!物凄い特徴捉えてるw!“」
「酔ってるのに凄い絵上手いな」
マエストロは突然目が据わった(雰囲気的に)かと思えば鉛筆と紙を持ってきて絵を描き出したし。先生はそれ見て笑ってるしプレナパテスは…全く酔っ払ってないな。絵の上手さに感心してるわ。
「おやおや、まさかここまでとは私も想定外でした。一つだけ言っておくならば普段からこのように酔う訳ではありません。ここまで酷いのは私も初めてですので」
「そういう…ヒック!こった!」
「デカルコマニー貴様口が無いのに飲めるのか!?」
驚きのあまり貴様口調になってしまった。ゲマトリアと過ごした中で一番の驚きだ。
「なんだか凄い事になっちゃったねリジー」
「先生は笑い上戸って事は…お前も?」
「うん、それも酔ってた時の記憶が残るタイプだよ私は先生…この後大変だね……そう言えばリジーも全然酔ってなさそうだけど?」
「あぁ、俺…生まれてこの方酔ったことないんだ」
ほぼ記憶は薄れてしまってるが前世の飲み会では他の面子が酔い潰れてる中で一人チマチマと飲んでた記憶がある…割としょうもない記憶が残ってるな。
−ピンポーン
「んあ?ベアトリーチェ、黒服、俺は少し出るから離れろ」
「えぇ〜?しょうがないですねぇ〜」
「戻ってきましたら次は恐怖とは何かを説明致しましょう」
「はいはい」
なんとか抜け出せた。こんな時間に訪問者ってのもおかしな話だが今回ばかりは助かった。あのまま酔っ払い共に絡まれたままなのはちょっと。あれ?インターホンの画面が点かないな。故障か?
「誰だ?」
『…私よ。リジー』
「リオ?どうしたんだこんな時間に」
『明日、あなたの会社に試作品の配膳ロボを試験導入するでしょう?偶然、近くに来たから少しだけ打ち合わせをしようと思ったの』
こんな夜遅くにアビドスに?珍しいな…でもまぁリオなら有り得るか。最近セミナーの仕事を頑張ってるし。
『それで、入れてもらえるかしら?』
「良いぞ。いま開けるから待っててくれ」
玄関の扉を開けてリオを迎え入れる。外は真っ暗で扉の前に居るリオの目が赤く光っていたので一瞬ビクッとしてしまった。
「うぉ!そんな側に立ってたのか」
「…驚かせたのなら謝るわ」
「気にするな。俺が勝手に驚いただけだ…そうだな、流石に何も出さないのもあれだしコーヒーでもと言いたいが…時間も時間だからホットミルクで良いか?」
「えぇ、寧ろ気を遣わせてしまって申し訳ないわ」
「だから気にするなって…それとちょっと酔っ払いが居るから気を付けてくれ」
酔っ払いと聞くとリオは首を若干傾げたが特に聞いてくることは無かった。俺が一緒に居る大人ってのが限られるから聞く必要もなかったんだろう。
リオを連れてリビングに戻ると缶ビールやら酒瓶が転がっているだけで先生たちの姿が見えなかった。
「あん?どこ行ったあいつら…客が来たからって事でプレナパテスとゴルコンダが気を利かせたか?」
それでもあの短時間の間にベアトリーチェと黒服、そして先生を連れ出したのか…かなり力技を使ったな。今度あの二人にはお礼をしとこう。
「足元に気を付けて座ってくれ。すぐ淹れるから」
リオに座るように言ってからキッチンに向かう。そう言えば彼女、体が冷えてたのかして顔色が悪かったような?夏とは言えアビドスは砂漠、夜は滅茶苦茶寒いからな。ハチミツ入れて持っていくか。
一人分の牛乳を温めてリビングに戻るといつの間に電気を消したのか薄暗い部屋の中でジッとこちらを見つめていた。
「…電気はどうした?」
「勝手に消えたわ」
「なんだ?今日は設備の不調が多いな。さっきもインターホンの画面が点かなくて誰か分からなかったし」
「良ければ明日、点検するわよ。本格的な打ち合わせはあなたの家でする事にすれば私が点検出来る上にホットミルクのお礼も出来て合理的よ」
「久しぶりに聞いたわその合理的って発言。じゃあ頼む」
ハチミツ入りのホットミルクを手渡し、リオが飲むのを確認したら俺も座る。
「…あら?随分と甘いようだけど」
「お前の顔色が悪かったからハチミツを入れてきた。外は寒かっただろ?」
「…そう、ありがとう」
「打ち合わせをした後は俺がミレニアムまで送っていこう。女子が一人で居るのは危険だから」
そう言ったら何故かリオは驚いた表情を見せて目をパチクリとさせた。なんだその顔、俺がこんな事言うのは意外か?
「…いえ、そこまでは良いわ。トキが迎えに来ることになっているから」
「そうだったか」
「でも、気持ちは受けっておくわ。ありがとうリジー」
それでも二人かとは思うもののトキだったら安心だなと言う気持ちもある。トキがアビ・エシュフ呼んだらもう無双だ。
この後、本当に少しだけ明日の打ち合わせをしていると電話が掛かってきた。
「ん?ちょっと待ってくれ。もしもし?」
『私よ。夜遅くにごめんなさい。明日の打ち合わせについてなのだけど』
「え?リオ、お前いま家に来てるじゃないか…なんで目の前に居るのに電話を…」
『?………おかしいわね。私はあなたの家を知らない筈よ?』
…え?じゃあ俺が今まで会話してたリオだと思ってた相手は一体。
正面に座っていた筈のリオはいつの間にか姿を消していた。電話をするのにほんの数秒程度しか目を離していないのに。
「……あ〜酔っ払って勘違いしてたみたいだ」
『あなたがお酒を?』
「先生たちとちょっとした飲み会をしててな。明日は家で打ち合わせで良いか?ちょっとインターホンと電気の点検をして欲しいんだ」
『…分かったわ。それじゃあ明日はあなたの家で会いましょう』
「あぁ、またな」
リオと会話を終わらせて、正面を向く、やっぱりそこにはリオらしき存在は居なかった。
「…さて、どうしたもんか……」
やつが座っていた場所に近寄り何か証拠みたいなのはないだろうかと探していると飲み干されたホットミルクの隣にメモが置いてある。メモには赤い文字で「ホットミルクをありがとう」と書かれていた。
「……ガチもんの怪異じゃねえか」
翌日、プレナパテスとゴルコンダ、マエストロが酔い潰れていた三人を連れて部屋に戻りいつの間にか寝てたらしい。その事について二人には謝られたが俺としてはあの怪異が二人を眠らせたのでは?と疑っている。
−−−あれも黄昏からやってきた怪異だったのだろうか