百六十九話 俺の知らないアビドスの過去か
「すみません、こちらに海崎社長が居るとお伺いしたのですがお時間よろしいでしょうか?」
「…誰か会う予定してたっけか、入ってくれ」
大体この執務室に来る相手は会社の取引先か先生や生徒なんだが、今回のは初対面か取引先かのどっちかだろう。
「ご無沙汰しております、海崎社長」
「お前は…ネフティスの、前回の取引からそこまで日は経ってない筈だがどうかしたか?」
「いえ、そちらの方はなに不自由無く。今回は別の事でご相談したい事がありまして」
相談?あんまり他企業の事情に口は出したくないんだが。
「…聞いて良い話なら聞くだけ聞くが、まぁ座ってくれ…お茶でも淹れよう」
「ありがとうございます」
しかし変だな。他企業が会社に来た場合は俺に連絡してくれと言い聞かせてるんだが誰からもそんな報告は聞いてない。ほんとに急に来た。
「それで?」
「はい、勝手ながら先日アビドス高校を訪ね。ある書類を発見した事を伝えそれをどのように扱うかお聞きしました」
「書類?」
「こちらとなります」
どれどれ…売主「セイント・ネフティス」と買主「アビドス生徒会」は砂漠横断鉄道の施設使用権を100万で売り渡し…乙は契約金の一部として1万円を即時支払うことを約束する。本契約の締結後、2年以内に残金を全て支払い。乙が本契約に基づく支払いを遅延した場合、乙は甲に対して遅延損害金を…アビドス生徒会長、梔子ユメ?
誰だこの梔子ユメって…卒業生か?書類には2年前の日付が書いてあるから当時の3年生であるのは確かのはず。ならホシノの先輩になるのか。うん?でもホシノからは一切その話は聞いてないな。それに2年前ってなると…待て、理事のデータにも入ってないぞ2年前、なんで2年前のデータがピンポイントで空白になってんだよおかしいだろ!
「意図がまるで分からん。俺にこんな書類を持ってきてどうしてほしいんだネフティスは?これが本当ならこれはアビドス高校が決めるべき事柄で俺は関与しちゃいけないと考えるが」
アビドス高校の所有権はアビドス高校のままだからな。
「それはご尤もな話ですが。海崎社長にも2日後にある中央駅旧庁舎で行う総会に出席してほしいのです」
「なに?」
「彼女たちの債権者である海崎社長も無関係ではございません。2日後の総会で現アビドス生徒会長が契約継続の意を示せばこちらの横断鉄道の施設使用権をどうなさるかを決定する権利が海崎社長にはございます」
「…あぁ、そう言う」
アビドス高校は俺に対して借金を抱えた上でネフティスにも契約金を支払う必要がある。物凄く単純に考えればアビドス高校が俺に対する借金100万増えるわけだ。なんせ側から見ればアビドス高校は莫大な借金があるから契約金を払う資金力がないと思われてるから……まぁ、態々彼女らが稼いでる額と今の借金を教えてやる必要はないか。向こうが勝手にそう思い込んでくれてるならそれに乗っかるだけだ。
「なら2日後の総会に俺も参加させてもらおう。アビドスが契約継続をするならそこで俺が今後その鉄道をどうするかの会談の日程でも組もうって事だろ?」
「ご名答でございます。そうしていただけるならば私共としても幸いです」
いやぁ、なんだろうな。普通の会話しかしてない筈なのにさっきから胡散臭さを酷くて感じるんだ。執務室の前に居るであろう警備の声も聞こえないし。予定外の客が来た場合必ず連絡するエンジニアくんからも無線ないし。
「それでは本日はこれで…2日後の総会にてまたお会いしましょう」
「おう、砂漠の夜は冷えるから気を付けてな」
俺はネフティスの幹部が執務室の外に出てからしばらく待って、もう会社から出ただろうなと言うタイミングで執務室の外を見てみる。
「…居ないな。普段ならここでゲームしてるんだがあいつら」
俺が予想してた通り警備は二人とも居なかった。これなんか始まったな。今までの経験則からして今回はアビドスが舞台になったか。梔子ユメ、砂漠横断鉄道…恐らく全て過去の話だろうが…
−−−なんで今になって過去の問題が浮き彫りになったんだ?