『結局その依頼も受けたのかよ理事』
「仕方がないだろ。話を聞いてしまったからには無視できないんだからな」
先生め重要情報をポンポン話しやがって。俺を巻き込む気満々じゃなねえか。
体育館のパイプ椅子に座り、足を組んで待ち構える。
−ドカン!
遠くの方で爆発音がする。ここら辺には俺の部下を配置しているから例え妙な騒音がしたところで気にするやつはいない。そう言う風にしたから。
外の方から複数の足音が近づき体育館に入ってきた。
「っ!?男だと?こんな情報、無かった。お前は何者だ!」
「………」
「何者だと聞いている!」
俺はその問い掛けには答えず、銃が突き付けられる中椅子から立ち上がる。
「…ようこそ、アリウス分校の生徒諸君、俺はしがない傭兵をしている。海崎リジーと言う者だ。以後、お見知りおきを」
大袈裟にお辞儀をして、周囲を見渡し態とらしく首を傾げる。
「おや?キミたちのところに聖園ミカは居ないのかね?」
「っっっっ!?」
おっと、どうやらドンピシャだったらしいな。俺は成り変わりをしたからちょっとメタ的視点で相手を見ることが出来るからな。昨日聞いた話で白洲アズサが二重スパイだと言うのなら。トリニティ総合学園にとっての裏切り者、先生からの話を元に考えると補習部の者たちはありえない。そして桐藤ナギサが狙われると言うことは彼女が裏切り者と言うこともありえない。なら残るのは誰だと言う話になる。
「そしてカマを掛けて見たのが。ここまで良い反応をしてくれると言うことは、聖園ミカが真の裏切り者と言うことで良いようだな」
「まさか外部の人が入り込んでるなんてね。思っても無かったよー」
アリウス生徒の間を余裕の笑顔で歩き進み、俺の目の前まで彼女はやってきた。
「先生からのキミは桐藤ナギサと仲が良いと聞いていたのが。なぜこんなことをしてるのかね?」
「私がそれに正直に答えると思う?」
「おっと、紅茶を用意していたんだ。キミたちの口に合うと良いんだが」
「え、無視?」
俺は傭兵に人数分のお茶を椅子を用意した。
「さぁ、立ちっぱなしも疲れるだろう?座りたまえ」
「…何か仕込んでいないと言う証拠は?」
生徒の一人が疑うことは分かっていたので紅茶の入ったポッドを持って来させて、それを俺が飲んだ。
「これが証拠だ。そこのカップに入っている紅茶は先程このポッドから淹れたもの、毒などは入ってないから喉を潤すと良い」
「じゃあ遠慮なく!」
聖園ミカは堂々と、他のアリウス生徒はおずおずと言った様子で座った。
「…それで、どうして私がこんなことをするのか、だったよね?」
「うむ」
「それはね。ゲヘナが心の底から嫌いだからだよ。あんな角付きなんかと仲良くするなんて、絶対に裏切られるもん」
…ゲヘナが嫌いね。
「ならばキミならもっと手っ取り早く桐藤ナギサを片付けられただろう?キミは桐藤ナギサに信頼されているのだから」
「……」
「ゲヘナを滅ぼしたくて滅ぼしたくて仕方ないと言う割には復讐に向けるドロドロとした感情が些か足りない気がするな。俺なら桐藤ナギサの不信を煽り、孤立させたところで自殺を装い排除する」
「…っ!」
いま、全員動揺したな?
「どうした?ゲヘナが憎いのだろう?滅ぼしたくて仕方がないのだろう?ならば戸惑う必要なんて無いはずだ、アリウス生徒諸君、聖園ミカ…キミたちはそれをするだけの正当な理由があり、力があるのだから」
俺はザワザワとしている彼女たちに気付かないフリをして紅茶を飲む。
「なんなら、金を積んでくれたら俺は今からでも喜んで桐藤ナギサを殺してこよう、今の状況なら正体不明の存在に桐藤ナギサは襲撃され、その時に命を落としたとでも言えば、なんら不自然は「ダメ!!!」」
これでようやく本題に入れるか?も〜こう言う生徒の説得は先生の役割だろうに!
「なぜ?なぜダメなのか聞いても良いかな?」
「そ!…れは……」
「無いのだな?アリウス生徒諸君は?彼女を殺してでも良いと思っているのだろう?」
「え…いや、それは」
うん?ゲヘナを恨んでるって割には戸惑ってるな。
「なんだ?お前たちはゲヘナを滅ぼすと言う意味を理解してなかったのか?」
「そ、そんなことは、私たちは今までゲヘナを滅ぼすために耐えて!」
「なら手段を選ぶ必要なんてないだろう?情報操作、隠蔽、暗殺、どんな手段を使ってでも目的を果たすべきだろう?」
こ〜れ大丈夫か〜?俺、なんか怯えられてる気がするんだけど。
「例えばの話をしよう。聖園ミカ、キミがティーパーティーホストになりゲヘナを滅ぼした後はどうする?」
「…え?ほ、滅ぼした後?」
俺は椅子から立ち上がり、身振り手振りを加える。
「ゲヘナをキヴォトスから抹消し、第二のトリニティ総合学園でも設立するか?ふははは!そうすれば第二のアリウスの誕生だな!」
「…第二のアリウス?…!」
聖園ミカもその意味が分かったようで顔色を悪くする。
「気が付いたようだな!聖園ミカ!そうだ!貴様がトップとなりアリウスの時と同じように弾圧によってゲヘナが消滅すると、その生き残ったゲヘナ生徒たちが恨みを募らせ、今のようにトップを殺害し、トリニティ総合学園を滅ぼそうと思うのだろう!そうすればイタチごっこだ!学校を無くした生徒は傭兵として生きるか、恨みを糧に復讐するか、その恨みを抱えたまま餓死するか!はたまたそれ以外の何かか!!そうやって互いに滅び滅ぼしをした結果、最後には名前すら残らないほど、何をどうして恨んでいたのかさえ忘れて自滅する!平凡な日常なんて二度と訪れない!これは傑作だなぁ!居場所を奪われた者が居場所を奪う側になり、そうしてまた奪われる側になるのだから!」
後から到着したと思わしき増援もどこから聞いていたのか分からないけど、唖然として立ち尽くしていた。
「復讐に身を投じた結果、隣にいる友が明日には冷たくなっているかもしれない」
「……」
「守りたいと思っていた存在が、同じく、守りたいと思っていた存在を奪われた者に奪われる」
「…っ!」
一人に指で銃の形を作り撃ち抜くフリをして、椅子に座る。
「…さて、これを聞いた上で聞かせて欲しい、聖園ミカ、アリウス生徒諸君……貴様たちはそうまでしてゲヘナを滅ぼしたいのかな?」
「……そんなこと…出来るわけないじゃないか!」
「…ゲヘナは恨んでるけど、それでも殺したいかと言われると」
「…ご飯が食べられない苦しさは知ってた筈なのに」
むむむ?なんだか意外な展開になって来たぞ?アリウス生徒の戦意がどんどん沈んでいく。いやほんと何でだ?私たちはそれほどゲヘナが憎いんだ!って展開になってドンパチするかと思ったんだけど。
「…私は………ただ」
「……偽りの怒り、偽りの復讐心か…くだらん、全くもってくだらん。貴様らに自分の意思と言うのはないのか?それともなんだ?洗脳でもされていたか?」
……待って自分で言ってて難だけどあり得そう。なんだかこの子ら無理矢理ゲヘナを憎んでる感じだったし。
「私はただアリウスとトリニティが仲良くなれればって思って」
「…だが結果は?百合園セイアは倒れ、アリウス生徒諸君はこうしてここに攻めて来た……貴様も桐藤ナギサも、子供の癖に大人のように振る舞い、全てを背負い込もうとするからそうなるのだ」
リオもそうだった。演算と検証を繰り返して、キヴォトスを救うために一人罪を背負おうとしていた。
「…私、どうすれば良かったのかな…こんなことする筈じゃなかったのに。私…セイアちゃんを殺しちゃって…ゲヘナへの恨みをって誤魔化して…」
「ミカさん!」
…うん、まぁ出てくると思ってたよ。どうせ俺じゃあ悪役っぽいことしか出来ないし。
「ナギちゃん…私」
「…ミカさん、私の話を聞いてくれますか?…私はミカさんのことが好きです。大切な友達だと思っています。でも……私はそんな友達であるミカさんにすら一線を引いてしまって、権力や派閥を気にするようになってしまいました。見るもの全てを疑ってしまい…会話することを棄てて補習授業部を作ってまとめて捨ててしまおうなんて愚かなことをしてしまいました」
俺は黙って話を聞いて、ことの成り行きを見守る。
「それを言ったら私だって、いつもナギちゃんやセイアちゃんを困らせてたし、政治的なことだって苦手で、勝手に行動した挙句こんなことしちゃったし!」
先生たちが入って来たのを見て俺は人差し指を立てて口元に当てた。それだけで理解してくれたようで彼らも静観してくれるようだ。
「私たちは、本音で話し合うことを怠ってしまいましたね…本心を話すことを忘れた結果、私たちは互いにすれ違ってしまったのですから…」
「そうだね…でも、私、本当に取り返しの付かないことを」
ここで俺が口を挟む。
「それなんだが、浦和ハナコが言ってたんだが百合園セイアは生きてるらしいぞ」
「……え?」
「簡単に言うと死んだフリをして安全なところで保護されてるらしい」
「…うそ」
「この顔が嘘を言ってるように見えるか?」
俺が聞くとポカンとした顔のまま聖園ミカは桐藤ナギサを見て、彼女の穏やかな笑みを見て泣き出した。
「…良かったぁ」
「はい、本当に良かったです…これからはちゃんと相談してくださいね」
−−−まだ根本が解決してないが。この二人は先生に任せて今度はこっちの問題を解決するか