「ど、どう?リジー…評判は」
「…うむ、俺が堅すぎること以外は概ね好評だった。これなら配信しても問題ないだろう」
「ほんと!?やったー!」
ただ聖園ミカと水無月スズカのこの楽しかったと言う感想はなんだ?いや別に良いんだけど何か改善点のような感想が欲しかったんだけど…まぁ、水無月スズカはゲームをやったことがないし。聖園ミカはお嬢様学校の生徒だからしょうがないのかもしれないな。
「ありがとうリジー!それじゃあ配信の準備するから今日はもう帰るね!」
「気をつけて帰れよ〜」
意気揚々とモモイが帰るのを見送ってから俺は会社を出て食事をすることにした。
「やはり大きな仕事を片付けた後の食事はここに限るな」
エデン条約の後、後始末やらなんやらで追われている時にこの際だと言わんばかりに柴関ラーメンをリニューアルさせた。ので大将にはまた店舗を経営してもらうことになった。
「いらっしゃい、一人かい?」
「あぁ、そうだな。今日はレモンラーメンを頼む」
「あいよ」
カウンター席に座ってラーメンが来るのを待っていると左の方から何やら視線を感じ、見てみるとそこには俺のことを凝視している黒服と先生が居た。
「……すまない大将、急用を思い出したのでキャンセル」
「まぁまぁ、少し私たちと話でもしませんか?アビドス傭兵団の海崎リジーさん?」
「それは嫌味か黒服ぅうう!」
俺は黒服に右フックをするがあの時と同じように一歩下がるだけで躱された。
「なんだ貴様!?なんで先生と一緒にいる!?なんで普通に柴関ラーメンで飯を食ってる!?なんでそんな堂々としていられるんだぁ!?」
「質問をしたいのは私の方なのですがね。まぁ良いでしょう。先生とは“偶然“ここで会いまして、少々雑談していたのです。なぜここで食事をしているかと言われると私もここで食事をすることがあるからですね。どうして堂々としていると言われましても私は特に犯罪を犯している訳ではないのでコソコソとする必要がないからです。ご理解頂けましたか?」
こいつしれっと言ってやがるが小鳥遊ホシノを誘拐してること知ってるのはここに二人も居るんだからな…俺の場合は通報した場合アビドスに襲撃を仕掛けた件もバレる諸刃の剣だけど。
「“良く言うよ。私がここに来るのを予め知ってて店の前に居たじゃないか“」
「はて?なんのことでしょうね?」
少し棘があるが先生も普通に会話はするんだな。
「さて、私だけ質問に答えるのも平等ではないですし。私からも質問をしてもよろしいですか?カイザーPMC理事」
「…良いだろう」
そもそもなんで今更黒服が接触してきたんだ?俺は既に手を切った筈なのに、それに先生に会いに来たみたいなこと言ってるけど目的完全に俺だろ。視線が明らかに探るような感じなんだよ。
「では、あなたはなぜアリウスの生徒を助けたのですか?あなたが先生に依頼されたことは桐藤ナギサの護衛だけ…依頼が済んだのなら既に用はないはずでしょう?」
どこでその話を知った。とは思ったけど黒服だからなぁ、知っててもおかしくないんだよな。
「俺が助けたかったから。それだけの話だろう?」
「理解が出来ません。なぜ?あなたは先生ではありません。それなのに、なぜ?無関係の生徒を助けるのですか?」
どうして俺が黒服になぜ?と聞かれる立場なのか逆に聞きたい。俺はただのオートマタだろう!?お前は先生にだけ注目してれば良いでしょうが!こっちはいつボロが出そうか怖いんだよ!
「そうだな。アリウスの生徒はあの時、俺が保護した時点で身内になった。その身内に対してあそこまで酷いことをされたマダムに報復するのはおかしいことではないだろう?」
「ですがその時のアリウス生徒はまだ保護したばかり、なぜそこまで肩入れするのです?」
ンン!!黒服は少し難しく考え過ぎじゃないですかね!?
「そこまで言うのなら俺がどうしてアリウス生徒を助けたのかの理由を細かく教えてやる!質問は最後だ!!」
俺はビシッと黒服に指を突き付けてしっかりと言い聞かせてから話す。
「まず、最初に違和感を覚えたのはアリウス生徒の憎しみだ!確かにゲヘナやトリニティは嫌いなんだろう。しかしその目にはドロドロとした暗い感情がまるで見えなかった。俺がほんの少し未来のことを想像させただけで戦意喪失を起こす。そこで話を聞くと全ては虚しいモノだと教えられたそうじゃないか?隙間風の入る寝床、栄養を満足に摂れない冷たい食事、生きることすら困難で昨日までの友人が死んでいるかもしれない環境、痩せ細った体付きを見ていたらほっとけなかった!」
思い出しただけでも腹立たしい!ベアトリーチェは絶対に許さん!
「保護したアリウス生徒は暖かい食事を食べただけで涙を流していた……そんな子供がまだあのベアトリーチェと言う存在の元に残っていると思うだけで反吐が出る!」
しかも聖園ミカも利用されていたしなんなんだあいつ!あの子はトリニティで居場所を失うところだったんだぞ!?
「俺がアリウスを助けた理由はこれだけだ……黒服、貴様は先生と敵対するつもりはないと言ったな?…もし調印式の時のようなことをしてみろ。先生ではなくキヴォトス中にいる俺の傭兵たちを全て敵に回すことになるぞ」
手に持っているコップに罅が入ったことに気付き。力を緩める。
「…すまん大将、コップ代は後で弁償する」
「いや、気にしないでくれ。あんたも何か事情があるんだろう?」
「……助かる」
罅の入ったコップは袋に入れて大将に渡す。そこで黒服が顎に手を当てて言葉を発した。
「…なるほど、あなたの行動原理は“怒り“ですか。恐怖とも愛情とも違う、異なる感情……マエストロがあなたを憤怒の代弁者と言っていた理由が分かりました」
あぁ、そう言えばマエストロも俺が憤怒の代弁者だとか、神秘を宿さぬ機械仕掛けの器とか言っていたな。
「実に興味深い……ヒエロニムスは本来…先生の持つ「大人のカード」でしか対処出来ないほどの相手…ですがあなたは“怒り“だけでその戦闘能力の差を覆し、たった一人でアリウスの中枢にまで喰らい付いた…ヘイローの持たないあなたが、ヘイローを持つ生徒たちと匹敵する力を有しているのは実に興味深いです」
…ヘイローを持ってない人とヘイロー持ってる人との戦力差は本当に凄いからな。先生の指揮なしでもアビドスの生徒はPMC兵よりも強いのは訓練で証明されている。
「…貴様は恐怖と神秘について研究しているのは聞いたが…それなら恐怖以外の感情も理解するべきだ。研究者ならな」
「…ほう?恐怖以外の感情…それは好意などと言った感情の話でしょうか?」
「分かってて言っているだろ?もっと単純な話だ。喜怒哀楽…嬉しいことがあれば喜ぶ気持ち、腹立たしいことがあれば怒る気持ち、悲しいことが悲しむことができる気持ち、気分が上がるような楽しむ気持ち」
俺は表情が全く変わらない体になったからそれを見るのが楽しみだったりする。特に嬉しいと思う気持ちや楽しいと思う気持ちの表情を見るのが。
「…感情と言うのはバカに出来ないぞ?感情があるからこそ人は自身の実力以上の力を発揮できる。誰かを守りたいと言う想い、誰かに対して怒る想い、誰かのために泣ける想い…全ては感情があるからこそ出来ることなのだからな」
彼女たちの想いには驚かされてばかりだ。
「想いですか。ならばあなたは?あなたはどのような想いでその引き金を引くのですか?」
「そんなの決まっているだろう?」
丁度ラーメンが来たので割り箸を割りながら黒服に答える。
「俺は俺の身内の為にこの引き金を引く。彼女たちのことが大切だから」
「……なるほど…責任とも、義務とも違う…大切だと思うからこそあなたは戦うのですね」
–−−当たり前だろ?もしうちの子たちを泣かせてみろ。胸ぐら掴んで殴り飛ばしてやるからな?