五十四話 はぁ……また依頼か…
「理事…連邦生徒会からの依頼です」
「はぁ!?今度は連邦生徒会だと!?」
体の修理がようやく終わって色々な事柄が解決したところで傭兵である俺宛に依頼がやってきた。
「…また直接話しておかないといけないパターンか。行ってくる」
「あの……理事、今回は少々いつもと違うような気がするのですが」
「いつもと違うって…何が?」
「…連邦生徒会は前々より理事の提案に乗った先生によって仕事が回ってくるようになりました。連邦生徒会はそれで少しは余裕があり、同時にシャーレも落ち着きを見せています…そんな中で突然、あなたに依頼なんて…おかしいじゃないですか?」
言われてみれば、おかしい気がするけど。でも無視するのも良くないしなぁ。
「それとこれは海崎リジーではなくカイザーPMC理事へと届いてます」
「…なに?」
連邦生徒会が傭兵ではなくカイザーPMCとしての俺を呼んでいるだって?マジでこれは怪しいな。
「……だが、それでも連邦生徒会を無視するのは良くないな。俺は行くぞ」
「…そうですか……ではあなたが留守の間は私がこの場を預かっておきます。依頼で留守の時は私が代理してましたし」
「ほんっとにすまん、今度からは事前に知らせるから」
「そうしてください。連絡くれればいつでも上を誤魔化すことが出来ますから」
いやほんとに優秀だねエンジニア君、PMCのエンジニアにしておくのが勿体無いくらい。
【 連邦生徒会 】
俺は呼ばれた場所に移動して、依頼人が居るところへと辿り着いた。だが、ここは連邦生徒会が拠点にしているところから少し離れた場所にあるビルなのがやはり怪しいな。
扉を開けると目の前には肌触りの良さそうなソファに座ってコーヒーを飲んでいる少女が居た。
「…初めまして、防衛室長不知火カヤ、知っているとは思うだろうが私はカイザーPMC理事だ」
「これはご丁寧にありがとうございます。カイザーPMC理事、私は防衛室長の不知火カヤと申します」
んん?なんだ彼女は?今まで色んな表情を見てきたが、まるで作り笑いのようななんて言うか。冷たい印象を感じるな。
「どうぞ席にお掛けください」
「では失礼する」
俺もソファに座り、目の前に用意されているコーヒーを手に取って飲む。
「…ほう?これは美味いな…不知火カヤ、キミはどうやら良い目をしているようだ」
「ありがとうございます。管理などは徹底しておりますので品質も殆ど落ちていないのが自慢です」
うん、俺は紅茶の方が好きだけどコーヒーもコーヒーでまた違った美味さがある。うん、ケーキが欲しいな。
「それで?私に仕事の依頼とはなんとも物騒なものじゃないか?PMCは戦場に関する仕事をメインにしていることは知っているだろう?」
「…えぇ、だからこその依頼なのです。カイザーPMC理事」
う〜ん、連邦生徒会が必要とする軍事関連の仕事ってなんだ?
「これは風の噂でお聞きしたことなのですが。カイザーPMC理事、貴方は傭兵業や水産物、ガラスの製造や水族館など、飲食店、それに学校の先生にまで手を伸ばしているそうじゃないですか?」
「…流石連邦生徒会、私が立ち上げた事業のことは全て把握済みだったか」
う〜ん?何が言いたいんだ?俺の事業についてただ雑談したい訳じゃないよな?それならこんな遠回りなことをしなくて良いはず……ダメだな。今回は連邦生徒会に今まで接触していなかったから何を目的に近づいたか見当もつかない。
「そこで一つ相談なのですが。私と手を組みませんか?カイザーPMC理事」
「……なんだと?…それは連邦生徒会とか?」
「えぇ、より厳密に言うならば私と一緒にキヴォトスを支配しませんかと言うお誘いです…そうすればカイザーコーポレーションが探しているアビドスの兵器と言うのも探しやすいでしょう?」
こいつ、一体どうやってその情報を手に入れた?俺が成り変わった時にはその情報は既に本社に送られてパソコンからはデータが無くなっていたはず。
「……キヴォトスを支配してどうする?」
「それを聞いてどうするのですか?」
「大事な事だから聞いているのだ」
「そうですか…そうですね。キヴォトスを支配したら」
彼女はそこで言葉を区切り、コーヒーを一口飲むと、あの嘘臭い笑みをやめて目を開き俺に告げる。
「このキヴォトスを……導く事です」
彼女はその目に、自分は正しい事をしていると言う自負と、理想を追い求める強い瞳をしていた。
「……そうか…ならばこの場では断らせてもらおう」
「っんな!?」
「悪いが理想を求めるだけでは生きてはいけないのでな。この依頼は受けない」
不知火カヤは自分の提案が断られるとは思っていなかったのか驚愕した表情で俺を見る。
「な、なぜ!?貴方にも悪い話ではない筈です!連邦生徒会と言う後ろ盾があれば!」
「権力なら充分持っている。今更後ろ盾なんて要らんよ」
「で、ですが連邦生徒会の後ろ盾があるのとないのでは活動範囲に大きな違いがあるんですよ!?」
「悪いが俺は好き勝手するためにこの権力を手にした訳じゃない」
ただ力を振るうだけじゃ何も守れないからな。
「貴方の志は私と同じ筈でしょう!?だから傭兵団を立ち上げアビドスやミレニアム、ゲヘナにトリニティの治安維持を行っていた!そしてシャーレや連邦生徒会に来ていた書類の一部を引き受けた!それなのになぜ!?」
不知火カヤは俺が彼女と同じキヴォトスを導く事だと思い込みこの依頼を出した。だけど実際は俺は俺の守りたいモノのために動いていた結果そうなっただけに過ぎないんだよ。つまりこれは過程でしかなかった。
「今は私しか超人は居ないのです。だから私が彼女の代わりにこのキヴォトスを導き、より良い社会を創らなければいけないんです!知っているでしょう!?連邦生徒会長が居なくなったことによってキヴォトスの治安は一気に低下して…ですが貴方の会社がアビドスを購入してから全てが変わりました!アビドスの治安は一気に良くなり、それに連鎖するようにミレニアム、ゲヘナ、トリニティと治安の改善が見られた。私はそれはもう歓喜しましたよ!私と同じ志を持つ人がいる。このキヴォトスの未来を憂いている人が居る事に!どうして!?キヴォトスを支配してしまえば全てが思い通りに行くんですよ!?私たちの望んだ超人による完璧な管理がされる世界に!」
不知火カヤは激情し、酷く焦った様子で捲し立てる。
「……全てが思い通りに行く事なんて早々ある事じゃない。不知火カヤ、キミはまだこちらの世界に足を踏み入れるべきじゃない」
「こちらのと言いますが。貴方も私もキヴォトスの平和を願っている者同士ではないですか、何がダメなんですか?何が悪かったと言うんですか?」
「…現実はそんな理想で終わる話じゃない。PMCに依頼すると言うことはそれは恐怖による政治だろ?歴史を辿れ、そうして恐怖によって縛り付けてきた者たちの末路を」
理解した。理解してしまった。この子もきっと原作では先生と敵対する生徒だ。しかもリオとは違って、やっていることを悪い事だと分からない。自分が正しいのだと思っている。
「なら、キヴォトスを支配した後はどう統治する?」
「…そんなもの法によって市民を雁字搦めにして犯罪を減らし」
「それでは反発されるのは目に見えている。確かに犯罪は減るだろう。だがそれは自由が無いのと同じじゃ無いか?」
「…ですがそれもキヴォトスの為には必要なことで」
俺は不知火カヤの後ろ側に隠れている彼女たちに注意しながら会話を続ける。
「頭から抑え付けてしまえはいつか不満が爆発する。それは大人も子供も同じだ。俺のことを知っているのなら。アリウスでの一件も知っているだろう?」
「………あ」
彼女もその事に気付いたようで顔を青ざめさせてソファへとへたり込む。
「…それじゃあ私がしようとしたことはただ無駄にキヴォトスを荒らしてしまうだけ?」
「良かったな。実行する前に気付けて」
「………いえ、それでも超人である私なら何か良い手が思いつく筈です」
「…なぁ、その超人と言うのはやめないか?」
「ダメです。これだけは認められません。連邦生徒会長になるのは「超人」でなければならないんです。そうでなければあの人の理想に辿り着けない!」
……この子も一人で背負おうとするのか。背負う必要のない責任を…はぁ、キヴォトスの生徒はみんな不器用過ぎるだろ。
「完璧な超人なんて世界のどこを探しても居ないさ。今は行方不明の連邦生徒会長も最初から超人だった訳じゃない」
「私があの人に幻想を抱いていたとでも!?」
「違う、最初から超人は居ないと言ったんだ。連邦生徒会長が居なくなっただけでキヴォトスの治安は悪くなった。それだけ彼女はキヴォトスの安定剤になっていたと言うことだ」
会ったことすらないけどな。
「理想を追うのは良いことだ。だけどその過程を忘れてはいけない。キミがその理想を求めるに対して様々な困難が立ちはだかるのだから、それはもう理解しただろう?」
「…それは……えぇ、考えていた案が愚かだと思う程には」
うんうん、素直なのは良い事だ。素直過ぎるのは心配だけどね。
「超人だと言うのなら、自分だけの超人になれば良い」
「……私だけの?」
「そうだ。連邦生徒会長になることは誰も出来ない。それは彼女はただの赤の他人でしかないのだからな。不知火カヤ、キミはキミ自身について行きたいと思わせるようなキミだけの超人を目指すんだ。連邦生徒会長ではなく、「不知火カヤ」と言う超人に」
先生が言っていたな。生徒に寄り添うことが大事なんだって、なら俺は今の独りぼっちな彼女に寄り添う事にしよう。彼女に悪いこととはなんなのかを教えてあげる友人が居ないなら俺が彼女に教えてあげよう。
「キミはどうしたい?連邦生徒会長のような超人に成りたいか。それとも連邦生徒会長とは違う。自分だけの超人に成りたいか」
「………私は」
この子は連邦生徒会長に憧れるあまり、自身も超人にならなければ、正しくならなければならないと言う強迫観念に囚われてしまった。だから人を頼ると言うことをしなかったし、失敗することを何よりも恐れたんだろう。
「…人は失敗する生き物だ。機械ですら完璧ではない。もしも不安ならば俺が気が済むまで手伝おう…依頼なのだからな」
「…え?ですが先ほどは受けないと」
「さっきのままならな。だが今のキミならばちゃんと人の意見を聞くことが出来るだろう?自分で出来ると自己完結するんじゃなくてな」
彼女は目を見開いて口を開いては閉じたりを繰り返す。まだ言いたいことが纏まらないんだろう。
「……私、私は、あの人に認められるような超人になりたいです。あの人が帰ってきた時に、褒めてもらえるようなそんな超人に……でも、何をしたら良いのか分からないんです。あの人のことは近くで見てきた筈なのに、どうしてもあの人のように出来る気がしなくて」
ぽつりぽつりと呟くような声で話す彼女は如何に連邦生徒会長が凄いか、それに憧れたか、一緒にキヴォトスを導きたいかなどを語ってくれた。
「……どうしたら良いんですか?私にはあの人のように愛される性格じゃない。あの人のように誰かを惹きつけるカリスマがない。これじゃあ、あの人が帰ってきた時に顔向けが出来ません」
「…俺は連邦生徒会長に会ったことがないから言えることはないけど。少なくとも…キミを助けたいと思っている人はここに居る」
怪訝そうな顔をして俺を見る彼女に俺は自分自身を指差して言う。
「俺はキミの想いを知って助けたいと思っている。何も人を惹き付けるのはカリスマや愛される性格だけじゃない。想いも大事だ。キミのキヴォトスの平和を願う気持ちが本当だと分かるから俺も手を貸したい」
不知火カヤは戸惑いながらも、俺の手を取ってくれた。
「…私を助けてください。私はあの人が帰ってきた時に安心して任せてくれるような。そんな超人になりたい。その為には貴方の力が必要です」
「…その依頼、承った。カイザーPMCの理事として、傭兵団の社長、海崎リジーとしてその信頼に応えよう」
−−−まだまだ不安は残るけど、それでも一歩を踏み出せたんだ。きっとキミならキミが望む超人に成ることが出来るよ。