七十七話 何か妙だな?
「ん?」
「どうかしましたか?リジー」
「いや、ちょっと気になる事があってな。なぁ、ベアトリーチェの使っていたそのミメシス?だったか、それは俺も使えるのか?」
俺はつい気になってゲマトリアのメンバーに聞いてみるとそれに答えたのはマエストロだった。
「うむ、基本的には使い方さえ覚えれば簡単に使うことが出来るが。条件が必要となる」
「条件?」
「複製するための触媒が必要となる事だ。ユスティナ聖徒会の複製が可能だったのは規律を守護せし者の血統…アツコと言う少女がその血統だった故だ。無から何かを複製することは出来ぬ」
なるほどな、触媒があったからあれだけのユスティナ生徒が居たのか。
「何故そのような事を聞く?」
「手札は一つでも増やしておきたくてな。無論タダでとは言わん、何か欲しいモノがあればそれと等価交換だ」
「……ふむ、悪くない条件ではあるが我々は居候の身、家賃の代わりとしておこう」
この能力があれば手榴弾とか増やせそうだし、何かと便利そうだよな。
「これを使うが良い」
「…これは?」
「
なるほどね。これを使えば複製出来るのか。切り札になるかもしれないし取っておくとしようか。
−ゾワッ
「っ!…なんだ、今の悪寒は」
「どうした?リジー」
「い、いや…何でもない」
何なんだ、この違和感、いつもと同じキヴォトスの筈なのに。何かが違う。
「皆さん、どうやら集まっていたようですね」
「…黒服?どうされたのですか?そのように怖い顔をして」
「至急、会議を開く必要が出ました」
会議?一体どう言うことだ。そもそもそれって俺が参加して良いのか?
「少々前の事ですが、「無名の司祭」の遺産が観測されました」
「……不勉強で申し訳ないのですが「無名の司祭」とは具体的に何を意味するのでしょうか?ベアトリーチェが保有する、ロイヤルブラッドを保護する技術。そして、古聖堂を破壊する筈だった巡航ミサイル——これらは無名の司祭による技術だとわたくしは解釈しています」
「はうあ!?」
「………すみませんベアトリーチェ。わざとではないのです」
ヤバいな、無名の司祭とやらはベアトリーチェにとってトラウマを刺激する話題じゃないか。
「…話を続けよう…彼らは極端に言うなら、キヴォトス以前に存在していたこの世界の主のことだ」
「「名もなき神」とそれを崇拝する「無名の司祭」——彼らはキヴォトスの神秘の下に推積し、痕跡だけが残る筈だった存在」
「!?…待て!名もなき神だと!?まさかそれはアリスにも関係するとか言うんじゃないだろうな!?」
「…えぇ、彼女もまた無名の司祭による遺産の一つです」
まさかこんなところでアリスの存在を知るとは思ってなかった。
「「名もなき神」——それは大地、海原、天災といった……所謂、太古の昔より存在する「神秘」や「恐怖」——とでも申しましょうか。彼らは自然を模った形で顕現するとされています。そしてそれらを崇拝する「無名の司祭」。彼らが何のために巡航ミサイルなどのオーパーツを生み出したのかは定かではありませんが——淘汰されし旧き人は、現代のキヴォトスに対して友好的ではなかったでしょう」
いや、流石に、アビドスの砂漠化の原因がその名もなき神と言うわけじゃないよな?俺の考え過ぎか?
「ですが観測されたのはそんな凡庸なものではありません」
「「方舟」が観測されたのです。一瞬でありましたが」
方舟?いや、それよりも観測されたって何だ?それは実物じゃないって事なのか?
「なぁ、それは現象なのか?実体の無い何かって事なのか?」
「それは…」
「興味深い質問ですね。私も「方舟」は実在する物質であると考えておりましたが……どうやらそうでは無いようで」
おい黒服、探究者としての血が疼いたのかもしれないけど俺はゴルコンダに話を聞いてたんだぞ。
「カイザーグループに砂漠を調査させておりましたが……全て無駄骨でした」
「お〜い!?まさか砂漠に埋まってる兵器ってその方舟だったって事じゃ無いよな!?そんなもん見つけても俺の手に負えないぞ?!?」
「………続けましょう」
こっちを見ろぉおおおお!!
「「方舟」が、全ての神秘を併せ持つ抽象的な概念であるならば——いえ、これでは論点がずれてしまいますね。リジーにさっさと本題を言えと叱られます」
「よく分かったな。デカルトの時のことも見てたか?」
全く、こいつはどこまで知ってるのやら、
「消えていく筈の「無名の司祭」の兵、そして遺産が再び観測されたこと、これらは確かに我々の想像を上回りました。シャーレの出現、キヴォトス最大の神秘の確保失敗、唯一残されたアリウス領の剥奪「ふぐぅ!」………デカグラマトンの死——そして無名の司祭の遺産である「箱舟」の観測」
「…ベアトリーチェ、キツイなら退席しても良いんだぞ?」
「…い、いえ、私の責任ですので。最後まで聞いていきます」
お、おう、そうか。無理はするなよ?…真面目な会議の筈なのにベアトリーチェがアリウスに関連する事を聞くとダメージを受けて絶妙に集中できん。
「計画通りであれば、起こり得る事が無かった事態。遠い未来でさえ到達することが——いえ、訪れることすらない現象だったかもしれません。制御不能の変数によって、私たちが迎えた現在は……元の計画からあまりにも逸脱してしまいました。それだけではありません——」
天文学的な確率でその事態が起こって、今は危うい状況と言うことか?まさか俺が原作を改変しまくったから?リオや、アリウス生徒、カヤや今のゲマトリアみたいに。それで何か修正力みたいなのが働いたとか。
「「色彩」が我々の居た場所を発見した。そう、あの場所だ…理由は不明だが」
「色彩を呼び寄せる可能性がある人物はベアトリーチェだったのですが。現在の彼女がそんな事をするとはとても思えません」
「待て!色彩ってなんだ!俺にも説明してくれ!」
「あぁ、そうでしたね。あなたは色彩を知らないのでした」
次から次へと新しい情報は入ってくる。アリスが無名の司祭の遺産?巡航ミサイルもそうだったし、その上俺の知らない色彩とか言う単語が出てきやがった。
「…色彩とは解釈されず、理解されず、疎通されず――ただ到来するだけの不吉な光であり目的も疎通もできない不可解な観念と私は認識しています」
「そして、先生にとっても本来の敵であると言うことです。これに接触してしまえば「神秘」を「恐怖」に反転させられ、基本的に元に戻すことは不可能だと言うのが現状の我々の意見となります」
神秘は恐怖と同時に存在出来るのか。まさか黒服はそれを行うことで色彩の影響を防ごうとしていた?やり方はともかく、ゲマトリアもキヴォトスを防衛するために行動していたと言うことか。
「……私も最初は色彩に対処するためにアリウス分校へ行きました…それがあのような事に」
「過ぎた事を言っても仕方ありません。気にするなと言っても無駄でしょうが。今は色彩にどう対処するかです」
「そういうこった!」
今のは言葉通りの意味で良いんだよな?デカルコマニー。
そう思っていると会社用のスマホに連絡が入った。
「ん?もしもし、俺だ。理事だ」
『理事!探していた例のモノを発見致しました!』
「………は?」
『この事は我々と連携を取っている防衛室にも連絡するべきでしょうか?』
「あ、あぁ、頼む」
例のモノ?まさか、いや本当に存在してたというのか?砂漠の中に埋まっていた兵器が。
「……黒服、済まないが急用が出来た。こっちの方でも準備をしておくが。そっちも何か考えておいてくれ」
「…わかりました…我々の方でも何か出来ないから模索しておきましょう」
「…それとマエストロ、ミメシスをもう一つくれないか?念の為に」
「良かろう。しかし、これはあくまでレプリカ。本物よりも性能は劣る故にそれを忘れるな」
−−−マエストロの忠告を聞いてから、俺は会社へと向かう