俺は作戦会議室に戻り、様々な事を聞いた。シロコが色彩に接触され、反転してしまったこと、これはきっと黒服が言っていたアヌビスの事だったんだろう。それと、新たなサンクトゥムが生まれようとしていること、時間にして俺たちに残された猶予は一日か、もっと短い。
今度は姿が見えないから直接的な攻撃も出来ないし、どうしたものか。
「“こうなってしまったのも、全部私のせいだ……みんな、ごめんね」
「…は?」
お前は何を言ってる?
「急に何故、そのような……?」
「せ、先生……!?どうして先生が謝るんですか……!」
本当にその通りだ。なんで先生が謝る?
「“私は、こうなってしまう事を知っていたから“」
「……なんだと?」
こうなる事を知っていた?先生が転生者であると言う事はまずない、それなら原作とは違う動きをした俺に何かしら聞いてくる筈、まさか、予知夢?
「“シロコの身に、不吉な出来事が起こるかもしれない事も、キヴォトスが終焉を迎えてしまうかもしれないと言う予言も、いずれ相対する、敵の警告も——全部、私は知っていたのに。私が、事態を甘く見てしまったから……」
「——それは違います。先生はご自身が出来る最善を尽くしてくれました」
二人とも辛気臭い顔をして、まだ終焉を迎えると決まった訳じゃないってのに。
「根拠のない予言であったとしても、それを告げるために私を訪ねてくださりました。こちらで打てる方策は、全て尽くしています。だからこそ「虚妄のサンクトゥム」の攻略も成功したのではありませんか。その他の事は……私たちの問題です。私が力不足なばかりに……私が、連邦生徒会長じゃないから……」
そうか…お前もカヤと同じで、連邦生徒会長の背中を追い続けていたんだな。連邦生徒会長、お前は一体どこに消えた?一体なぜキヴォトスから消えたんだ。お前を慕っている子たちはこんなにも居るのに。
「“ううん、それは言い訳にならないんだ。……私はシロコを守らなきゃいけなかった。それが——「大人」である私の責任だから“」
“また“だ。またその言葉を使うのか。先生…便利だよな。その言葉は…「大人の責任だから」…確かに先生が言えば重みはある……だが。
「先生…歯を食い縛れ!!」
「“っぐ!?“」
「海崎さん!?何を!?」
俺は先生の顔をある程度加減してぶん殴った。七神リンが先生に近付こうとするが俺が手で制した。
「…少しは頭が冷えたか。先生」
「“リジー…“」
「……お前は大人だから責任を負うべきだと言ったな?……なら。お前はただその義務感だけでシロコを“守る“と言っているのか?」
「“…!…違う、それだけは違うよ。リジー…私は義務感だけで生徒を守りたいと思ったわけじゃない“」
自分の言葉の意味を理解したか。他のやつにどう聞こえたのかは知らないが。俺からすれば、ただ義務感だけで言ってる様に聞こえた。
「貴様は事態を甘く見ていたと言っていたな?」
「“……“」
「自惚れるな」
俺自身でも驚くくらい低い声が出てしまった。静かな会議室にはそんな俺の声が響き渡る。
「貴様は救済者にでもなったつもりか?貴様は神にでもなったつもりか?……否だ。貴様はただの人間にしか過ぎない。貴様一人程度で出来ることなど知れている」
顔伏せて何も言わない先生に俺は言葉を続ける。
「貴様は自己肯定感が低く、自己犠牲の塊で無計画でとんでもない生徒バカだ。たった一発の銃弾で死んでしまう様な貴様に、これ以上の事が出来たと言うのか?」
「“…それは“」
「それに責任云々を言うのなら…それこそ俺が取るべき責任だろうが!」
「“……え?“」
先生も七神リンもポカンとした顔で俺を見る。そりゃ当然だろう?
「忘れてるかも知れないが俺は「カイザーPMC理事」だぞ。元々カイザーPMCが先生を誘拐しなければこんな事にはなっていなかった」
「“え、あ、そっか…リジーってカイザーPMC、すっかり忘れてたよ“」
おい、いやまぁ俺も確かに忘れ掛けるけどさ。
「貴様は誘拐されたにも関わらず諦めずに、シャーレの奪還に向かったではないか!そこには多くの助けがあっただろう。当然だ。それは貴様が多くの人に大切だと思われているからだ!」
先生が目を見開いて俺を見る。
「俺だってそうだ!貴様を友として認めているからこそ救援を出したんだ!それなのに今の貴様はなんだ!」
先生を立ち上がらせ真っ直ぐとその目を睨み付ける。
「フランシスへ啖呵を切った貴様はどこへ消えた!!未来を変えると言ったのは嘘か!!!」
「“いいや、嘘じゃない…ミレニアムの時にリジーに言われた、楽観的で、陳腐で、ありきたりで、希望論だったとしても。私はこんな結末は認めない!“」
先生の目に火が灯る。ふははは!やはりお前はそうでなくてはな、ムカつくぐらい楽観的で、行き当たりばったりで、無計画な生徒バカ。それがお前だ!
「ならばどうする!!口先だけで終わらせるつもりがないのならお前が今やるべき行動はなんだ!!」
「“決まってる!シロコを助けることだ!“」
「それは義務感か!それとも別の何かか!!」
「“私にとって大切な生徒だからだ!!!“」
声を張り上げている俺に負けないくらい大きな声で先生は言い切った。
「良くぞ言った!それでこそ貴様だ!ならば俺もやるべき事をするとしよう!」
俺はサンクトゥムのエネルギーがある場所に向かって流れていると言う話を聞いてある説が思い浮かんだ。それを証明するためにコンにこの会議室のPCに移ってもらいデータの解析を頼んだ。
「どうだ。何か分かったか?」
『当然です。私は優秀なAIなので、そこのピンクさんも手伝ってくれましたし想定よりも早く終わりました』
「私のこと?」
『それで解析結果なのですが。エネルギーの流れは遥か上空、75,000メートルと断定、宇宙ですね』
おっと、黒服、お前のくれたオーパーツが早速役に立ちそうだぞ。本当に宇宙に行くことになるとは。俺は黒服に電話を掛けた。
『どうされましたか?リジー』
「宇宙旅行に行く気はあるか?黒服」
『……ほう、あなたはあの兵器がどう言うモノなのかをご存知なのですか?』
「なんとなくな、あれだけのモノがただの兵器でないと言うことだけだがな。俺の予想は合っているか?」
俺がそう聞くと電話越しにクックックと笑い声が聞こえてくる。
『えぇ、大体は合っていますよ』
「ならゲマトリアも力を貸せ、探求対象であるキヴォトスが無くなるのは困るだろう?」
『そうですね。本当ならば代償を要求する所ですが。私たちとしてはあなたに恩がある。時が来れば私たちも行きましょう』
よし、これで黒服たちの協力は取り付けた。不安は残るが。それでもやるしかない。
「……先生」
「“なんだい?“」
「全員で生きて帰るつもりでいるからな。俺は……」
「“……分かってる。私だって、死ぬつもりはないよ“」
俺はこのストーリーを詳しくは知らない。だけど、俺が見つけたモノがどう言う代物なのかは少しだけ理解している。だからこそ。
−−−その言葉…信じるからな?