「……おかしい」
『何がおかしいんですか?』
「あまりにも順調過ぎる」
今回は次元エンジンを壊す時にシロコは出てこずに、ケテルみたいなボス級の敵も存在しない。ただ敵が多いだけだった。今まで妨害して来てたのに急に来なくなったの理由はなんだ?
『制御室、破壊完了です!』
「…そうか」
あっちの方にもシロコは居ないっぽいな…相手の狙いが読めない、態とハッキングさせてるようにしか思えない。
「“リジー!シロコを見つけた!脱出するよ!“」
「分かった!」
考えるのは後にしよう、脱出してから………脱出したらあのシロコはどうなる?
俺はここから脱出した時のことを考える。自爆シーケンスを作動させたらこの箱舟は間違いなく消える。じゃあその時、彼女はどうなるんだ?
「…どうしたの?…早く脱出しよう」
『…脱出するのは待ってください』
「黒服?なぜだ?」
黒服はハッキング対策に集中していて手が離せないはず。
『一部のハッキングは撃退出来たのですが。船を動かすためのシステムが乗っ取られました。このままでは動かす事ができません』
「なに!?」
それじゃあ自爆シーケンスを作動させても逃げ出せない。エンジニア君に頼んだ脱出装置もまだ完成してないし。
『更には、「アトラ・ハシースの箱舟」の多次元解釈を「ウトナピシュティムの本船」が手助けした形になり、虚妄のサンクトゥムが再び出現しました』
「ウッソだろおい!?まさか敵の狙いは最初からそれだった!?」
『本当ならばウトナピシュティムごと掌握したかったのでしょうけど、それは阻止したのでご安心を』
それならまだ救いはある方か。自爆シーケンスを作動させずにハッキングしている相手を止めれば元に戻るよな?
「場所は第4エリアの中央だ。行くぞ、二人とも」
「ん、分かった」
「“急いで止めに行かないとね“」
「と、言う事だ。聞いてたな!俺たちは今からハッキングを止めに行く!」
通信を終えて、中央まで一気に向かう。時間との勝負だし余裕がない、サンクトゥムが出現したと言うことは守護者もまた新たに出現した。流石にもうペロロジラみたい巨体は相手出来ないぞ。
『皆さん、管理室が見えて来ました…ですが何か妙です』
「どこが変?」
『いえ…生命反応が存在しないのに、確かにそこで生きている。言葉では言い表せない、奇妙な反応をレーダーが捉えています』
生きていないのに、生きている?どう言うことだ。
『…すみません、私に分かることはこれだけです』
「いや、十分だ」
「“後は直接見て確かめるから“」
先生を後ろにして同時に中に入り込み銃を構える。そこはただ広く、管理室と言うには機器などの類は一切存在しなかった。
「敵、発見」
「……あいつがプレナパテスか」
コンには先生の近くに居るように頼んで俺とシロコで突き付ける。
「動くな!カイザーPMCだ!」
「少しでも動けば…撃つ!」
「“………“」
プレナパテスは身じろぎ一つもせず、沈黙を貫く。
「下手な事は考えるなよ。ここは既に掌握されている。ハッキングを停止して大人しく投降するんだ!」
「“………“」
俺がそう言ってもプレナパテスは動かず、いや、懐の中に手を入れる。
「動くな!これは警告だ!これ以上動けば反抗の意思ありと判断して撃つ!」
「……“我々は望む、ジェリコの嘆きを……我々は覚えている、七つの古則を“」
「その言葉…まさか!?シロコ!撃て!」
「…分かった!」
シロコと同時に弾丸を撃ち込むが、どの弾丸も意思を持っているかのようにあり得ない曲がり方をしてプレナパテスを避けていく。
「……シロコ、下がれ」
「…ん」
SGを構え、三人の前に出る。聞き間違いでなければ今のはシッテムの箱の起動パスワード、少しだけ違ったけども間違いない。
「——先生の生体認証、完了」
「“私の……名前?“」
ならば、相手にも彼女が。
「この「シッテムの箱」に常駐しているシステム管理者であり、メインOS—— A.R.O.N.A、命令待機中」
「…本当に、冗談キツいっての。黒服が言っていた事は間違ってなかったようだな。シッテムの箱と同等、いや、同じ物を相手は持ってたんだから」
ただでさえ、ここまで来るのに苦労したのに追い打ちを掛けるように出してくるなよ。
「「アトラ・ハシースの箱舟」、復旧システム起動。「シッテムの箱」の権限により、破壊された「アトラ・ハシースの箱舟」を多次元の同一存在と交代・修復します。約30分後、100%修復を想定」
「すんな!!」
思わずツッコミを入れてしまった俺は悪くないと思う。
「………箱舟に侵入した「ウトナピシュティムの本船」はハッキング不能、対処が出来ません」
「おい、今こっち見たよな!スルーすんな!」
明らかにこっちを見たぞ。目線が合ったからなこの野郎!
「…想定よりも進んではいないけど。それでも定められた運命は変えられない。キヴォトスは予定通り、終焉を迎える……私の——先生」
「……はぁ、そうだよな。そりゃそうだわ…反転したシロコ、シッテムの箱、アロナ…なら、プレナパテスは別の時間軸の先生だって分かる事だよな」
でもそれなら全部に説明が付く、なぜゲマトリアの場所を知っているのか、なんでウトナピシュティムをハッキング出来たのか。どうしてシロコがもう一人存在するのか。
「全部、別の時間軸からやって来たんだとしたら全部に納得がいく」
「“リジー、どうしてアロナの事を?“」
「さて、なぜでしょう?」
もうこれ答えを言ってるようなもんだけどな…せっかく隠し通してきたのに。
「今まで…「カイザーPMC理事」が先生の味方になる事なんてなかった。どの時間軸でもカイザーPMC理事は、先生と敵対して…退場する」
「“…リジーが……敵?“」
「思い当たる事はあるんじゃないか?先生、俺はアビドスの借金相手だぞ」
「“あ…そっか、そう言うことか“」
俺はなんとか信頼を得ることが出来たから左遷される事が無かったけど、そもそも俺の存在自体がこの世界にとってのイレギュラーだ。
「こうして対面して、コンの言っていた意味が分かった。先生…プレナパテスは既に死んでいる…生物として生命活動を停止している」
「“……死んでいる?“」
さっきから確認をしているが何度スキャンしても同じ結果、あいつの生命反応は無い。だったらなんで動けているんだ?
「ええ、そう——先生を殺したのは、私だから」
「…なんだと?」
「……え?」
「そうしたら、先生は「色彩の嚮導者」になった。これは、恐らく「色彩」の影響だろうね」
シロコが先生を殺した?あのシロコが?……変だな、何か違う。シロコは嘘を言ってない…だけど何かが違う、なんだこの違和感は。
「ふざけ、ないで––––––!!!」
「しまった!シロコ!落ち着け!」
自分の中にある違和感を探っていたらシロコがもう一人のシロコに攻撃を仕掛けていた。
「そんなの、信じない——!!世界を滅亡させて、先生を殺す?そんなわけない!!」
完全に攻撃を読まれてる。あれじゃあどれだけ撃っても当たらないぞ。
「先生を殺して、あなたの存在の道具としての利用?」
「私が、そんなことするわけ–––––!!」
相手のシロコが銃と弾き飛ばし、銃を突き付けて引き金を引く前に、俺が彼女に向かって蹴りを食らわせるが、蹴りが当たる前に後ろに後退されて空振りになった。
「シロコ、少し落ち着け」
「……ごめん」
『シロコさん、相手はあなたよりも経験が多いです。なので私たちと連携して戦いましょう』
「ん、二人とも…ありがとう」
かと言って、俺が相手をして勝てるかと言われたらこれもまた厳しいんだよなぁ。隙がない。
「…あなた…本当に邪魔、どうしてその子を庇うの?あなたもその子に殺されるのに」
「お前こそ何を言っている?定まった未来だとか運命だとか言ってるが。このシロコがそんな事する筈がない。もちろんお前だってそんな事をする筈がない」
「……実際先生は死んだ。私が殺したから」
違和感の正体が分かったぞ。彼女の目だ。まるで殺気を感じない…むしろ諦めの感情しか見えない。
「信じられんなぁ、全くもって信じられん。いつもチャリで砂漠を走って、銀行強盗しようとしたり、何を考えているのか分からないくらいのマイペース…だが友達思いで、大切なモノの為に何でもする。それが俺の知っている「砂狼シロコ」と言う生徒だ」
「……」
「何か間違っているか?」
−−−俺の問いかけに、彼女が答える事はなかった