(やっと、来てくれたか……)
その一言に、求めていた味方に、亮は肩の力が抜けて安堵する。
お互いの創喚者の関係上、必然的に協力関係となるはずだ。
最後には敵になるとはいえ、協力する以上、剣呑な態度でいるわけにはいかない。
ここは創喚者のためにも、交友を深めたいところだが……。
「早速で悪いんだけど、動ける?」
「……なんとか、ってところだな」
今、その時間はわずかもない。
そう言わんばかりの問いに答えながら、一つの確信を得る。
(さっきのお客様っていうのはやはり……いや、今は置いておこう)
気にするべきなのは別にある。
特に創喚者はあのままにしてはおけない。
「わかった。なら掴まって、そのまま跳ぶから」
言われるがまま、差し伸べられた手を掴むと、体に何かが纏う感覚。
その瞬間、とてつもない勢いで手が、体が引っ張られる。
すると気が付けば、傍に斃れる拓海と彼に寄り添う真里華がいた。
体に感じた圧力から察するに、どうやらここまで引っ張られたらしい。
にしては体にかかる負担が少ないのが気になるが、今は置いておく。
「来珂っ! どうしよう、拓海が!!」
「落ち着いて真里華。今はここから逃げるのが先決。私の背中に乗って。そっちの創喚者は……」
「みなまで言うな、オレが背負う」
言われる前にカリバーンを消して、意識のない拓海を担ぎ出す。
来珂も細剣を納めて真里華を背負うのを尻目に、未だ燃え、バチバチと鳴る黒煙の元へ目線を移す。
「それで、青はどうする? 今なら
「そうだね。でもさっきの不意打ちはどれも手応えがあまりなかった。電流でもう少しは動けないと思うけど、君は――」
「……ああ、大して動けない。となると一対一とあんま変わらないし、その間にお客様が来たら全部水の泡。確実を取るなら、態勢を立て直すのが吉か」
仮に三つ巴になったとしたら、不利なこちらを先に潰しに来るのは明白だ。
現状、守りながら捌く手もないのに、そうなってしまっては目も当てられない。
「だと思う。他には?」
「ない」
残った疑問の解消、確認と返答をサッと済ませ、手を掴むと、また体をナニカが纏う。
それは柔らかく、涼やかで、心地の良いもので……。
「それじゃ、行くよっ!」
再びの超加速。
今度こそ広場から抜け出し、すると一転して、所々赤い光が差し込む暗い森が目の前に広がる。
亮達を引っ張りながらすいすいと下る彼女に、出来るだけ負担が掛からないよう、必死に追走する。
先程のような加速力はないが、それでも疾い。流れるように景色が遠ざかっていく。
「二人共、結構速めにしてるけど、大丈夫?」
「大、丈夫。勢いはあるけど、来珂の風のおかげでなんとも、ない!」
「こっちもだ」
「なら良かった」
(風、ね)
ふと視線を下げると、リボンで纏められている毛先が、薄っすらと黄緑に染まっているように見える。
察するにこの髪は、使う術の属性によって、色が変わっているのだろう。
(金髪なのは、いつも雷を使っているからか)
ともかく、これならなんとか逃げ切れそうだ。
そう思った矢先。
「――――そうは問屋は下ろさない、ってね」
聞き慣れない声と共に、足元に弾痕――にしては大きい穴が、一つ空けられる。
見上げれば、野球ボールくらいのエネルギー弾が、視界を覆いつくしていた。
それが一斉に襲いかかり、破裂する。
「【
だが、それも来珂にとっては問題なかったらしく、瞬きの間に雷を纏ったかと思えば、襲う弾も爆発も全て僅かな隙間を縫うようにして避け切る。
その時の目ぐるましい光景に、流石に酔ってしまったが……まあ、それも対価としては軽いものだ。
「一発くらいは当たると思ったんだけど……速すぎでしょ、アンタ」
先程聞いた声がする。
来珂や真里華、未来でもない女の声。
目を向けると、そこには凛々しさのある顔立ちをした女性がいた。
サイドアップテールに結び、白のメッシュを入れた長い茶髪。瞳の奥に銃のサイトマークらしきものが浮かんだ緑の鋭い目。
綺麗な体のラインが出ている、発光するラインのある白いサイバースーツを身に纏い、その上に肩、腰に円型の小さな機械をつけた、前を全開にしたパーカーとショーパンを身につけている。
手に持つのは、二丁拳銃。
それぞれ白と黒に彩った、サイバーチックな形をした大型ハンドガンで、銃身は通常のものに比べて一回りほど大きい。
「さっきぶり、と言ったところかしら? 白の幻衛士」
極めつけに、彼女はなんと宙を浮いていた。
後ろ腰に背負っている、二つの大きな菱形のユニットから推進剤を吹かせていたのだ。
その姿に、来珂は苦々しい表情を浮かべる。
「あいつが、アンタが言ってたお客様か?」
「……うん、間に合わなかったみたいだ」
「――いや、ほんと。追いつけてよかったよ」
さらに、もう一人。
空を飛ぶ彼女の背に、
髪の色は、現実ではほぼ見ない灰色。
「トキちゃん……!」
「ヤッホー、先輩。それにあに……ん? あれ、もしかして死んでる?」
「生きてなきゃ、オレはいないんだが」
「ほうほう。つまり君が兄貴の幻衛士ってわけだね。……随分なイケメンだあ。えっ、なに? 兄貴ってばこれ以上モテたい願望でもあったのかしら」
鎌掛けでもして引き出したと言わんばかりに、トキと呼ばれた少女は変な事を吐かしながら、ニヤリと笑みを浮かべる。
「まあ、別に隠しているわけじゃないし、別に良いが。そういうアンタらは緑の創喚者と緑の幻衛士だな」
「まあね、流石に分かるか。それじゃあ、言葉は不要、ってことで。やっちゃえ
「オッケー、時亜! 【スキル:バレットダンス】!」
時亜の呼び声に返事を返すと、女――美月は手に持つ銃を回し、おもむろにその場で一回転。
すると美月の周囲を囲うように、先程の光弾が複数生成される。
一定数生み出すと、ダンスの終わりのようにポーズを決めながら銃口を向けてきて、そのまま引き金を引く。
すると光弾はあちこちに飛び回り、まるで踊っているかのように一頻り舞うと、途端に銃口の向けられていた亮達に襲いかかる!
「二人共ごめん、ちょっと荒れるよ――!」
逃げる、逃げる。
流石のスピードだ、この量を容易く避けている。
だがそれでも帰路に着くには至らない。
なぜならその襲いかかるタイミングに一貫性はなく、動きづらいからだ。
しかも出口へ向かおうとすれば美月がスーッと先回りし、舞う光弾とは別の銃弾を飛ばしてきて、ろくに進めない。
「くっ……! そこを、退いてッ!」
「ツレないこと言わないでよ、折角始まった祭り、初日からうんと楽しまなきゃ! 【異能】、【発動】! 追加の【スキル:バレットダンス】!」
「そういうことだから、あんた達には悪いけど、このまま踊ってもらうわ!」
美月の光弾に速度が増し、また時亜によって同じ量の光弾が追加される。
一瞬の隙すらくれない。
このままでは明達が追ってきてしまうだろう。
なにか打開の一手はないかと、そう記憶を探ろうとした、その時。
(――きた、これなら!)
亮の中で眠っていたものが、起き上がってくる。
これと、使う力を選べば、なんとかなりそうだ。
その力も、こういう時に使うのは最初から決まっている。今までもそうだったから。
だが今、使うための手は空いていない。
「悪い、創喚者!」
「えっ、ちょっ」
「た、たくみーーーー!?」
なので一言断って、拓海を上に放り投げる。
そして右手を左腰へ伸ばし、ナニカを握り、カラドボルグを抜刀する。
「【魔弾】【装填】、【属性:炎】!
即座に魔力を弾に変えると、爆発弾を複数放ち、光弾と接触。
爆発して周囲の弾も巻き添えにする。
「【弾丸変換】! 【幻弾】【装填】」
爆風で前が見えなくなったところで、さらに変換する。
それは拓海が出したファントムハンドの大元たる力。魔獣が宿す、精神を騙し、犯す《妖力》。
それが今、形を変えて、一発の弾丸となり、
「【
妖力で出来た、拡散弾がバラ撒かれる。
だが、それが彼女らに届くことはなく、その手前辺りでさらに細かく散らばり、粒子となって周囲に漂った。
そこでカラドボルグを消し、落ちてきた拓海をキャッチする。
《口は閉じて、心話に切り替えてくれ。今あいつは別のものを見ているが、流石に声は誤魔化せない》
幻影やこれは所謂、幻影・幻覚を見せるチャフ。今彼女らは、動き回っている来珂を観ているはずだ。
爆煙が晴れてみると、ちゃんと効いてるようで、彼女はリョウ達がいる方向とは別の方へ向いて、銃を構えている。
《これの効果時間は三〇……だったんだが、十秒しか保たなそうだ。いけるか》
《ニ秒もあれば十分!》
その言葉に安心して再び手を掴み、来珂がバチバチッ! と電流を鳴らすと、ハッと我に返るように美月が亮達の方を向く。
「待ちなさ――」
「遅いッ!」
そう、遅い。
そんな言葉を聴いた時には、既に森を抜けていたのだから。
「今から、私の言うところに向かって。そこなら――」
後ろから聞こえる叫びを背に、言われた通りに足を運ぶ。
真里華の言う、人のいない一軒家。
自分たち幻衛士を引き連れて訪れても問題ない、安全な場所へと。
■
その頃、あの広場にて。
「――! やっと、かァッ!!」
体の痺れが無くなるのが分かった青の幻衛士・アキラは、ルーンルインを振るい、黒煙を払う。
右、左と周囲を見渡すが、彼等の姿は既にない。
「チッ、奴等め、逃げやがったか」
「ええ、貴方を吹き飛ばした後、すぐに」
そう言って、立ち上がるアキラへ未来が近寄ってくる。
その表情はケロッとしており、先程、悲痛な叫びをあげた少女には見えない。
「追うか、創喚者」
「いえ。白の幻衛士のあのスピードです。もう間に合わないでしょう。こちらも消耗していますし、仕切り直しが賢いです」
確かに的を得ている。
あのままやっても消耗戦になって、回復して黒の創喚者・幻衛士まで割り込んできては勝てるものも勝てない。――が。
「それだけじゃねェだろ?」
「……暫くすれば痕跡すら残さず元に戻るとはいえ、これ以上気に入った場所が荒れるのは気分が悪いでしょう」
目を背け、ため息交じりもう一つ口にする。
後一つくらい、それこそ最初の理由もあるだろうが、まあ良いだろう。
今言っても仕方ない。
「なるほど? だが、そうすれば」
「ええ、そうですね。このままでは結局ニ対一になって不利になります。なので、行きましょうか」
そう言って、未来は亮達が出ていったであろう、出入口へ歩み出す。
「あ? 行くって何処にだよ」
聞くと足を止め、振り返る。
そして笑みを浮かべた未来はアキラに向かって、チョキチョキと二本指をハサミのように動かす。
「お出迎えに、です」