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暗い森の中、一際輝く閃光が一つ。
雷となった来珂は、動き出そうと顔を見せた光弾を通り過ぎざまに一閃。
スピードを落とさぬように木を足場にしてすぐ、残りの数発の光弾が迫りくる。
気にせず来珂は膝に力を入れ屈み出すと、身に纏っていた雷からプラズマが溢れ出し、それら全てを貫いて消滅させる。
そして跳躍。
その場には残光だけが残り、当の本人は既に先程までいた場所からは、恐らく視えなくなっているところにまで跳んで来ていた。
「ふぅ……」
技能による保護の力を身に纏った上で彼女の背中に背負わされていた真里華は、目まぐるしく動く状況に少し酔いながら、周囲の光景を改めて確認する。
ここは青の創喚者が展開した結界・惑いの森。
見渡す限り続く森林は、確かに視界が惑うくらいに暗く広く。
どれだけ進んでも視界が映す光景は、認識の遅れからグシャグシャに崩れても、変わらないように見える。
この結界を張っているのを含めて相手は二組。
通常であれば厳しいところだが、雷光纏う来珂のスピードに、真里華による強化も施したのだ。
戦いなれば厳しくなるだろうが、それなら結界持続時間の終わりまで逃げ切ればいい。
そう思ってた。
だが、真里華は後ろ下斜めに振り向くと、悔しそうに顔を歪める。
「待てやオラァ!!」
(これが、結界による補正の効力――っ!)
そこにいたのは、同じように創喚者である未来を連れて、地面を疾走するアキラだった。
此方を目で捉えているのは来珂から流れる電流のおかげだろうが、だとしてもさっきまで反応できていなかったのに、近付けている理由があるとすればそれしかない。
(来珂の十八番の一つが、たった一つで優位性がなくなるなんて……っ)
このままでは追いつかれる。
来珂の取り柄は速さだけというわけではないが、だからといってそれを許す理由にはならない。
それに、時亜達の姿がないのも気になる。
時折、木々の影に紛れてエネルギー弾が襲ってくる以上、必ず近くにいるはずだ。
勝利を確信して慢心しているのかは知らないが、今のうちに手を打たなければ詰みとなる。
だがそれは――
《っ、真里華、やっぱり救援を呼ぼう。仮に彼が動けなくても、その幻衛士がいれば――》
《それは駄目だって、さっきも言ったでしょ!》
青の創喚者と緑の創喚者が挟み撃ちの形でやってくる前に、来珂には既に話したはずだ。
真里華は拓海の状態を見た時、不謹慎だがホッとしたというか、嬉しかった。
トラウマを刺激されて、当時の苦しみがぶり返してしまったのなら、誰だって身動きが取れなくなってしまうもの。
それは拓海も例外ではないと分かったから。
……だが助けを呼んだ時、その限りではなくなるのは目に見えていた。
《拓海に伝えれば確かに助けに来てくれるでしょうね。例え自分がどんな状態であっても》
今朝の登校時にあった事がいい例だろう。
何時だってそうだった。
ヒーローを諦めたと口にしていても、結局誰かが助けを必要としている時、それとなく手を差し伸べていた。
真里華が危険な目に遭いそうな時も、拓海は問題が表面化する前に解決しようとするし、してきた。
その分、どれだけ自分に皺寄せが来ても。
兄の事故の後も、外に出ることすら厳しいくらいに辛かった筈なのに、父と母を悲しませたくないからと平気なフリして、学校に通い続けていた事だってある。
《そうやって痛いのを我慢する拓海を、私はもう見たくない》
当時の彼と比べれば、今の拓海は人として当然の反応をしているに過ぎない。
……勿論、単に限界を迎えてしまっただけだろう、ということも分かっている。
だからこそ、これ以上巻き込まないようにしなければならない。
そうでなければ、拓海はいつまで経っても辛いままだ。
《言いたいことは分からないでもないけど、だとしても、このままじゃ――》
「こっちを気にせず、心でお話たァ余裕だなァ!」
気が付けば未来を下ろし、追いついていたアキラが銃槍の先をこちらに向けていた。
その切っ先に灯された火が膨れ上がっていく。
来珂一人でなら回避できるだろう。だが、夢現武闘会の仕様上そうはいかない。……ならば。
「来珂っ!」
「イエス、マイマイスター!」
同じように結論付けたらしい来珂はすぐに雷を止めて振り返り、バンドで装着されている左腕の小盾を前に突き出すと、髪の色が一気に変色しだす。
金から茶へ。
彼女のいる物語において、色は宿す力の象徴。
異世界に飛ばされた後、彼女の前にだけ姿を現す星の化身より授かった、星の加護を身に受けた証。
これは劇中にある属性全てを併せ持つ彼女だけの特権を活かすべく作られた、武具の力の一端。
「【
言葉を紡ぐと小盾の三方向の枠が展開。
盾にある隙間ラインに選んだ属性の色が流れ込むと、展開された枠の間から選んだ加護の力が溢れ出し、
「ぶっ飛べェッ!!」
「【
星の力は一瞬、土塊に物質化され、さらに変換。
城の城壁を思わせる大きな盾となり、放たれた砲弾を防いでみせた。
その威力は確かに強力で、衝撃によって三メートルくらい後ろに来珂は飛ばされるが、当の盾はビクともしていない。
精々、埃がついた程度。
小盾ことシールドメイカーはその名の通り、来珂が使うならという想像。
作中の空想上の理論として存在した属性によって盾の性質を変える変換構造を実現させた、正に夢の盾だ。
そして今回、選んだ属性は土。
性質で言えばただ硬く大きな盾でしかないが、だからこそ構築をしっかりしていれば、害あるものを通さない最硬の盾となり得る。
ここがキチンと再現されているか、結界込みの砲弾を防げるか心配だったが、ちゃんとされていたので正直ホッとしている。
「……チッ!」
ふと、舌打ちが聞こえたと思えば、さらなる砲撃が盾を襲う。
一、二、三発。されども盾は揺るぎなく。
砲撃が止まった隙に来珂は近くの木を足場に踏みしめ、砲撃を続けようと迫ってくるアキラの脇腹へその大きな盾を叩き込む!
「っ、【技能】【発動】、【
「――ッ、グッ!?」
その一撃を受けて、アキラは弾かれるように飛んでいく。
だが直撃する瞬間、アキラの体を膜が覆って守った上に、わざと飛んだような印象を受けた。
恐らく、大したダメージになっていないだろう。
「来珂!」
「【属性】【
迎撃のため真里華を地面に下ろしてから、アキラを追う来珂に呼びかけると、その声に応えるように髪の色が赤く変わる。
盾が元に戻る代わりに、同じ構造で出来た細剣・ソードメイカーの刃が炎に包まれ蛇のように伸び、来珂の周りでとぐろを巻く。
「【想築・
その間にアキラは態勢を立て直しており、またしても指を切って血を刃に一塗り。
真っ赤になっていた部分は、冷めるように煙を吹いて元に戻っていく。
「――ハァッ!」
その隙を見逃さず、来珂は手に持つ柄をアキラに向けるように振るう。
すると柄に繋がる蛇腹の刃は、文字通り蛇のように不規則に動き、その
「また妙な真似しやがって!」
その頃には正常に戻った槍をアキラは軽々と振り回し、迫りくる刃から逃げ回りながら剣戟を繰り出す。
……タイミングを見計らう。
「大した曲芸だが、所詮は見掛け倒し」
炎の刃を頭上へ大きく弾き飛ばすと、空いた隙間を縫うように来珂の元へと飛び上がる。
「ただ鬱陶しいだけだ!」
そう吐き捨てながら、無防備な状態の来珂に、槍を大きく振りかぶって――
「【異能】【発動】、【
「なに――!?」
創喚書に描かれた漫画のコマをタップして、ぽそりと呟く。
すると光の輪が生成されて真里華の思い通りに動き出し、槍を振るわれる直前でアキラの四肢を縛り、その場で固定した。
この程度の束縛、結界補正があるアキラなら安々と破れてしまうだろう。
「【属性】【火】【
だからすぐに色を一つ加え、黄緑を
するとソードメイカーに風が混ざり、散らばっていた刃は纏まり、一つになる。
「【想築・
すると剣は文字通り炎の嵐となり、アキラに向けて災害を振りかざした!
「……このくらいでいいか」
その時、危機的状況の中にいる筈のアキラが笑い出す。
炎の嵐が迫りくるの光景に冷や汗を流しながら、逃げようとする様子もないのに、その口角は確かに上がっていて、
「【スヴェート】【チェムノター】、【バレル・オープン】」
「「ッ!?」」
静かに聞こえた声。
その方向は頭上、他に動く気配はなかった。
(まさかこの娘達、来珂が離れる状況を狙って――)
ずっと頭上で静かに滑空していたというのか――!?
「オレを忘れたな?」
「しま、――、――ッァ――――!?」
頭上に意識が向いてしまった事で、気付けば輪を破り近付いていたアキラの砲撃を背中に受けて地面に叩きつけられ、また渦巻く炎嵐は霧散する。
「――っ――、くっ、【雷の、如く】ッッ!」
全身、特に背中からの痛みを無視しながら、来珂は急いで立ち上がり、すぐに属性を雷のみに切り替える。
雷による瞬間加速で、来珂は飛ぶようにこちらへと駆けてくる。
その間に見上げた先で優雅に飛んでいた美月は、元々付いていたアタッチメントを展開させ、並べ合わせた二つの銃をこちらに向けていた。
その銃口には色とりどりの、しかし黒々とした渦巻く光があり、徐々に膨れ上がっていくのが窺える。
「【フルチャージ】……撃ち抜け、【カラミティブラストⅡ】!!」
「【属性】【土】! 【想築・城壁の盾】ッッ!!」
そうして撃ち出されたのは、嵐を思わせる砲撃。
その瞬間に来珂は真里華の前に到達し、急ぎで城壁を構築する。
「構築が、甘い……!?」
しかしやはり即興の産物。
接触と同時に壁にヒビが入り、それは徐々に深くなっていく。
背中の傷も相まって、苦しそうだ。
「くっ――、でも!」
すかさず出力を上げたようで、すぐに壁は修復されるが、また崩れ出す。
修復し、崩壊し、修復し、崩壊し、修復、崩壊、修復崩壊修復崩壊修復崩壊修復崩壊修復崩壊修復崩壊修復!!
「ア、アアアアアアアアアアアアアアア――――――!!」
コアとなっている盾から異音がし出す。
圧力が来珂の左腕に負担をかけ、軋む音が耳に届くよう。
崩れて飛んでくる土塊の破片が来珂の頬や手足を掠り、傷を作る。
それでも、ただ耐える。耐えて、耐えて、耐えて――……。
「……っ、ハァ、ハァ、ッ」
体感では一時間は過ぎたようにも思える時間。
ようやく来珂を襲っていた球体は霧散する。
周囲を囲っていた筈の木々がなくなり、来珂と真里華のいる場所を除いた地面に出来たのは抉った跡。
その光景を目の当たりにしたのを最後に、結界/森が消えて、結界発動前にいた筈の現実/公園に戻ってくる。
遊具はないが、自由に遊べそうなくらいの芝生が広がっており、空には月と少しの星が夜空に輝いている。
……安堵するのはまだ早いぞ、
「ごめん、来珂。辛いとは思うけど、もう少しだけ頑張ってほしい。今は逃げないと」
来珂が限界なのは分かっている。
でもそれはつまり、相手からすればトドメを刺すチャンスなのだ。
今度は時亜が結界を発動するだろうことも考えると、これ以上は戦いになるかすら怪しい。
ここでは息をする隙もないのだから、逃げるしか選択肢はない。
幸い、と言えばいいのか。
あれだけの火力なら、チャージに多少なりとも時間がかかるはず。
問題はアキラだが……結界の補正がなくなったわけだし、一直線に逃げるくらいなら、できると考えるしかない。
「……多分、その必要はないかな」
「えっ?」
そう考えての言葉だったが、それに対して乾いた笑みを浮かべる来珂に、思わず真里華の疑問が声に出る。
すると、壁と盾が、支えを失った積み木のように崩れ落ち――
「―――――ぁ」
終わった。
次の瞬間見た光景に、真里華も確かに確信した。
そこには二発の準備をする美月と、逃げることは許さないと言わんばかりに、こちらに突貫しながら同じく砲撃の構えを取るアキラの姿があったから。
これは、無理だ。
流石に相手の攻撃を気にしながら逃げる力が、来珂に残されてるとは思えない。
(せっかく、来珂と出会えたのに……)
願いは叶えられなかった。そこは仕方ないと思う。
けれど、まだ来珂と会って数日しか経っていないのに、もうさよならはなんか嫌だ。
(私が巻き込んだのに……っ!)
それになにより、彼をそのままにして自分一人だけ抜けていく事が、真里華にはどうしても耐えきれなくて、
「――っ、来珂ぁ!」
焦燥から出る叫び声も虚しく、来珂は呆然と立ち尽くすしかなく、二人の引き金を引かれ――
「真里華ぁ――――――――!!」
真里華にとって聞き馴染んだ、大好きな声が聞こえた。