夢と現のクロスロード   作:佐月栄汰

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            ◆

 

 

 一方、公園から少し離れたところにある、ひと気の無い場所。

 

「助けてええええええええーーーー!!? 死ぬううううううーーーー!?!?」

 

 そこに上空へ飛ばされた二人の少女が、今まさに地面に叩きつけられようとしていた。

 

「いい加減慣れ、というか諦めたら? 折角と空中移動なんだし、どうせなら楽しんだらいいのに」

 

「無うううううーーーー理いいいいいいいーーーーーー!!」

 

 と言っても、騒いでいるのは創喚者である時亜一人。

 幻衛士である美月はすぐに慣れており、優雅に風を楽しんでいた。

 まあ、元々ちょっと家が太いだけの一般人である時亜からすれば、紐なしバンジーをしてるようなものなのだ。

 怖いに決まってる。

 

「……ん、まあでもそろそろね。――【スキル:エアロステップ】!」

 

 近付く地面を見た美月が呟いた時、不着陸まであと数センチのところで身体が跳ねる。

 共に落下してきていた時亜をキャッチしながら、ブースターを点火。

 その場でくるんと回転し、ゆっくりと着陸した。

 

「た、助かったぁ〜……ありがと、美月」

 

「お安い御用。そもそも助けるのなんて当たり前だし、アタシからすれば余裕なの知ってるでしょ」

 

「それでも怖いもんは怖いのっ」

 

「――到着だ、創喚者」

 

「ありがとう」

 

 時亜が文句を言いながら、強張る体の力を抜いた時、遅れて舞い降りるのは赤の幻衛士・サイファー。

 彼の腕に乗っていたその創喚者・楓はゆっくりと下ろされると、息を一つ溢しながら、先程感じた結界の反応に意識を向ける。

 

(……さっきのは状況からして、同志のものかな)

 

 その方向は拓海達のいたところで、来珂は傷だらけで戦うのは難しいだろうし、青の方は既に使用してクールタイム中。

 そうなれば後は消去法で拓海側になる。

 

 ――ああ、それならもうすぐ見れるかもしれない。

 

 立ち上がる彼の姿を。

 ヒーローとして在る、紫苑拓海を。

 

(同志がヒーローとして本当に立ち上がるなら、心配する必要はないだろう)

 

 それなら安心してこっちに集中できるというものだ。

 

「さて。改めて、はじめましてだね、葵時亜氏」

 

 美月が同じように抱える時亜を下ろすところを見計らって、楓は声を掛ける。

 

「ええっと、家達楓先輩でしたっけ。僕を知ってるんです?」

 

「勿論。同志……ああ、君が兄貴と呼ぶ、紫苑拓海から聞いているよ」

 

「ええ〜? 兄貴からです〜? もう兄貴ってばぁ〜」

 

 頬を染め、ニヤニヤと笑みを抑えきれない時亜に、楓は頷く。

 

「ああ、君の描く主にVRMMOを題材にした漫画《ONLINE VERSE HACK》についても聞いてるよ。

 例えば先程君が使っていたのは《エアロステップ》。

 あれは態勢を立て直す時、二段ジャンプをする時、滑空の際の微調整をする時などに相当便利で多用していることもね」

 

「あのクソ根暗め、今度ぶっ飛ばしてやるっ」

 

 何を聞いたのかを説明すると、さっきとは打って変わって時亜はプンプンと怒りを露わにする。

 しかし言葉遣いとは裏腹に本気で怒っている様子がなく、むしろ可愛さが目立つ。

 敵同士だから仕方ないというのもあるだろうが、そこからも仲の良さが窺える。

 だからこそ――

 

「それにしても馬鹿なことをしたものだ。寄りにもよって彼女を傷付けるとは」

 

「あーそれは……僕だってそうはしたくなかったけどねえ…………」

 

 そう言って、時亜はチラリと美月へと視線を向けると、美月は「いやいや」と苦笑気味に首を振った。

 

「アタシだって白の幻衛士にカラミティ撃っただけよ? 背負われてたのにあの青の幻衛士がバカスカ砲撃撃つから、あんな巻き添え喰らってたわけで」

 

「とのことなんですけど、これが言い訳には……」

 

「ならないだろうね。まあ、身内だからそこまでだとは思うけど、拳骨一発は覚悟しとくんだね」

 

「うへぇ〜」

 

 時亜はげんなりと言った表情で項垂れる。

 力の差、ランクの差があるにも関わらず、創喚者二人の拓海が勝つような言い草に幻衛士達は疑問から眉を顰める。

 

 それは彼への信頼の表れ。

 勝つとまでは思っていないが、確信しているのだ。

 

 同志/兄貴ならやってくれると。

 

「まあ、でもこうでもしないと願いを叶えられないわけだし。それにこうして力を見せれば、兄貴も少しは周りを見たり、頼ってくれたりするかもって思ったら、ね」

 

「なるほど、随分と慕われてるものだね、彼も。……ところは私はこうして彼に任されてるけど、君は?」

 

「……僕、先輩の事キライかも」

 

「それは残念だ、私は結構君のこと気に入り始めてるのに」

 

「それはどうも――美月!」

 

「サイファー」

 

 その言葉と共に二人の幻衛士は姿を消し――瞬きのような速度で、既に得物は混じり合っていた。

 

 風ごと薙ぎ払わんと、力任せに振るわれる大剣。

 その一撃を容易く受け流し、至近距離で撃ち出される数発の弾丸。

 その弾丸を最小限の動きで避けきると、サイファーは再度大剣を振るい、また美月も同じように大剣を避け、また撃つ。

 

 振るい、撃ち、振るい、撃ち、――そうして、約五秒。

 

 幾度も繰り返された攻防は、既に数知れず。

 気付けば、この場は弾痕と小さいクレーターまみれとなっており、カタギの人にはお見せできない場所となっている。

 

「流石に場所を換えましょうか」

 

 戦いながら、美月の呟く声が聞こえる。

 心話で意思疎通していたのか、美月が後退したその時、既に時亜は創喚書に触れていて、

 

「【結界展開】! 【第三構造体・安全保護(セーフアウト)外区(ゾーン)】!!」

 

 景色が塗り替わる。

 街を思わせる風景は一変し、まるで街のテクスチャを剥がされたオブジェクトの上に立っているような、構造物の集合体が目の前に広がっていた。

 

「忘れてた? 僕らがまだ結界を張ってなかったこと。これで地の利はこっちにある上に結界補正もあるから、そっちのランクがSであっても、スペックを覆る! さらにそっちの幻衛士は見る限り、青の幻衛士以上のパワータイプ。これで僕らの勝ちは決まりだね!」

 

「……それで?」

 

 確かに色は灰色一色なのに、オブジェクトそのものは街の形を取っているようなので、距離感などの認識がしづらい。

 しかしそれだけだ。そう言わんばかりに問うと、時亜は苛立ちから口元を引くつかせる。

 

「……その余裕顔もここまでだよ! 美月!」

 

「ええ、ここなら!」

 

 地形に紛れ、結界によって強化されたスピードで、美月は右往左往と動き回り、そして――

 

「【カラミティブラスト】! 【ブラスト】、【ブラスト】、【ブラスト】!!」

 

 東西南北、四方向から放たれるは嵐の砲撃!

 取り囲むように迫りくる四つの砲弾は間違いなく、先程、来珂達を襲ったもの。

 その威力は折り紙付きだ。来珂が身を以て証明している。

 

「ふむ、高出力のエネルギー弾。嵐を内包した災害の砲弾か。なるほど、確かに当たれば一溜まりもないね」

 

 しかも渦巻く風によって体が吸い込まれているようで、サイファーは吸引に耐えるので精一杯なのか、その場から動かない。

 

 普通に考えれば、絶体絶命と言っていい状況。

 だがサイファーは、そんな状況に置かれながら、機微の少ない表情に笑みを浮かべた。

 

 ――まるで都合が良い。むしろ手間が省けたと、言うように。

 

 緩やかに、軽々と手に持つ大剣の切っ先をその球体らに向ける。

 すると大剣が真っ二つに割れ――

 

「起きろ、ジャバウォック。――御馳走だ」

 

 ■■■■■■■■■■――――――――!!

 

 それは黒目の中央に縦長の赤い瞳孔、とぐろ巻く角、鋭く尖った鉤爪。

 そして大きく羽ばたく翼を携えた、黒く刺々しい鱗を纏う魔竜。

 

 禍々しさすら滲ませる咆哮と共に黒い怪物が剣の割れ目から飛び出し、カラミティブラストを一口で呑み込んでしまった。

 

「はっ……?」

 

「なによ、それ……」

 

 その光景に、時亜と美月は唖然とした声を上げる。

 怪物は迫りくる残った嵐弾にも喰らいつき、残さず平らげると、満足したのか大剣の中に帰っていく。

 そして割れた刀身は口を閉じ、元の大剣へと戻っていた。

 

「《悪食の童話狩り》――名をジャバウォックという。童話のように実体のないものを好物とする怪物だ。その喰ったものは、主人たるオレの糧となる。――このように」

 

 その時、サイファーの大剣を掴む手が侵食され、鱗に覆われる。

 するとサイファーの肉体に更なる変化が訪れる。

 

 黒い角に牙、瞳、そして翼。

 先程のジャバウォックを思わせる特徴が肉体に現れ、剣には嵐の如く渦巻く風が纏われる。

 正しく、竜人化といえる形態へと。

 

「『貴様達の言う通り、結界を発動されてしまえばスペック上、差が出てしまうのは見えていたからな』」

 

 だから助かった。そう言わんばかりに、サイファーは薄い笑みを深めながら、徐ろに一閃。

 なにかを感じ取ったのか、その寸前に美月は時亜を抱えて跳躍し、

 

 そこに、暴風が通る。

 

 嵐の一閃は僅かばかりの破片だけを残し、前方にそそり立っていたビルなど、オブジェクトの上半分を丸ごと抉り取ってしまった。

 

「……やっば」

 

「なんて馬鹿火力……っ。しかも天敵だなんて、本当に最悪ね」

 

「なるほど。その言い草、君の決め手のある技はすべてエネルギー弾、ということか」

 

「「――――――っ!?!?」」

 

 楓はほくそ笑んで呟くと、時亜も美月もゾッとした表情へと変える。

 小さく、聞かれないように呟いたのであろう言葉も、楓は一つたりとも聞き逃さない。

 

 会話から情報を。

 表情から人柄を。

 

 時に忍び、盗み、聞き、見て。

 時に大胆に、標的その人と相対し、話し、見合わせる。

 

 情報屋であるが故に、楓は此等を以って全てを見透かす。

 

 ――そう。彼女達自身が既に、勝てない(・・・・)と思ってしまっていることも。

 

「もう沈黙しても無駄だよ。これで君の物語はある程度読み切った。――読破(はあく)した」

 

 思わず笑みを深める。口が回る。

 自身を知って尚、歯向かってくる彼女と話すのが、思ったより楽しくて、余計なことまで口に出してしまいそう。

 

「さあ、今度は君の番だ。私の紡ぐシナリオ、存分に味わうといい。

 ああ、安心すると良い。トドメは刺さない。そこは同志の判断に任せることにしているからね。だから安心してやられてくれたまえよ」

 

「……多分、こういうときに言うんだろうね。減らず口ってさ――!」

 

 既に結果は見えている戦い。

 それでも諦めきれないのか、苛立ちからの八つ当たりのようなものなのか。

 変わらず時亜はページをめくり、美月はブースターを点火させ不規則に空・地を駆りながら、弾丸を放つ。

 

 楓はやれやれと笑んだまま首を振り、サイファーに告げる。

 

「やれ」

 

「『仰せのままに』」

 

 主の命に従って、首を傾げて弾丸を避けながら竜の翼を羽ばたかせ、サイファーは飛ぶ。

 嵐の剣を手に、未だ抗うものを叩き墜とす為に。

 

 

 

            ◇

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