夢と現のクロスロード   作:佐月栄汰

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 身体強化をしたおかげでなんとか学園に辿り着けた拓海は、人目のつかない場所でそっと真里華降ろしてから共に教室へ向かい、スライド式のドアを開ける。

 

『――――――――――――――……』

 

 その瞬間、静まり返る教室。

 全員がこちらに向いて数秒後、元の体勢に戻って騒ぎ出し、疎らにだが数名は拓海達に挨拶をくれる。

 だがそれ以外の大半は、どこか気不味そうにしていて……。

 

「やあ、同志。少し遅めのご到着だね」

 

「っ――!?!?」

 

 と、ひょこっと拓海の後ろから楓が顔を出してきて、驚きから真里華が軽く跳び上がった。

 

「おう、おはよう楓」

 

 唐突に現れるのは慣れている拓海はあっさりと挨拶を返す。

 

「二人して登校とは、一体どこでナニをしていたのかなぁ?」

 

「えっ、えっ!?」

 

「茶化すな。あそこで亮と一緒に軽くトレーニングしてて、その付き添いをしてくれてただけだよ」

 

「なんだ、つまらない」

 

「つまらないて、お前なあ――」

 

 と、いつも通りの会話しながら鞄を机横に引っ掛ける。

 慣れていない真里華の反応は、可愛くて思わずほんわかとする。

 

 クラスメイト――彼の味方をしていた生徒達に、拓海は特別なにかするつもりはない。

 みんな奴の本性を知らなかったのだから、拓海と同じ被害者だろう。

 かと言って全員が全員、手のひら返して仲良くしよう、なんて言われても気持ち悪いだけだ。

 ただ気にせず、普段通りでいてくれればそれでいい。

 

(まあしばらくはこの状態が続くだろうけど)

 

 そこは時間が解決してくれるのを待つしかない。

 

「はい、皆さん、席についてくださーい」

 

 と、その時、予鈴のチャイムと共に、一人の女性が教室に入ってくる。

 スーツを着こなす、少し幼げな顔立ちをしたその女性はそのまま教卓に立つ。

 その彼女の姿に、クラスメイトは歓喜の声を上げた。

 

『くーちゃんだ!』

 

『やった、もしかしなくても担任だよね!』

 

『外れから大当たりに! 不謹慎だけど言わせて! 消えてくれてありがとうクソ野郎ども!』

 

「くーちゃんはやめなさい! 先生でしょ、せ・ん・せ・い! 後そういうこと言うの禁止!」

 

『『はーい、くーちゃん先生ー』』

 

 生徒達と気安いやり取りをしながら、全員、彼女に従って自分の席に座る。

 

「まったくもー……こほん。察していると思うけど、本日より後任としてこのクラスの担任になりました、楠木(くすのき)(そら)です」

 

 そう告げた彼女――楠木空の言葉に、小さな喝采が上がった。

 

 彼女は見ての通り、くーちゃんとあだ名をつけられるほど、人気のある教師だ。

 教師と生徒という一線をひきつつ、新米教師だからか親しみのある雰囲気があり、教師だからと偉そうにしたりしないのだから、当然の人気だろう。

 プラスとして、美少女であるのも、彼女が人気である理由の一つか。

 あの中に前担任も混じっていたので次は誰か少しだけ心配していたのだが、後任が彼女で拓海も正直ホッとしている。

 

「よろしく、と言いたいけれど、その前に。まずはじめに、話したいことがあります。

 ……皆さん。今回の件、本当に申し訳ございませんでした」

 

 そう言って、深々と頭を下げた。

 メッ! といった可愛らしく叱る姿か、笑っているところくらいしかあまり見たことないので、少しざわめく。

 一応、中心にいた拓海が、代表して「そんな、頭を上げてください」と諭す。

 

「あれに先生は無関係なんですから、むしろ新学期早々こんな騒動起こすことになってこっちが申し訳ないくらいで……」

 

「そんなことを、生徒が気にすることじゃありません。教師が一人でも関わっていた上に、それに気付けなかった時点で教師全体の落ち度です。あのままだったら、被害者は増える一方だったのは、間違いないのですから」

 

「いやでも……この二週間、忙しかったでしょ?」

 

 そう尋ねると、やはりというか、空は顔を引き攣らせる。

 

「ま、まあ、確かにここ数日寝れてないけど……ともかく! 他にもなにかあれば、相談してください。あんなことをあって信じられないかもしれないけど、私は生徒の助けになりたいと思っている事には変わりないから。だから、いつでも頼ってくださいね」

 

「…………はい」

 

「よし。それじゃあ改めて、よろしくね」

 

 頷くと、空はようやく、嬉しそうにいつも通りの笑顔を見せてくれた。

 

「では、重い話はここまでにして。出席を取ります。赤羽さん」

 

「はい」

 

 真里華を始めに次々と名前を呼ばれていく。

 

「うん、全員いますね。それでは連絡事項をお伝えします。あの件があったことで、せっかくの新入生に嫌な思いをさせてしまいました。これで転校すると決まった子も少なくありません」

 

 だろうな、と思う。

 教師だけで八人の逮捕者が出たのだ。

 まだ問題のある教師、または生徒が残っているのではないか、そう思うと気が気でないだろう。

 

「さらに残ったとしても、この学園での新しい友達を作りづらくなってしまっている状況です。その解決策に一つ行事を繰り上げて、五月か六月に開催しようという話になりました」

 

『マジで?』

 

「マジです。では何が繰り上がったと思いますか? ヒントは準備も皆が楽しく出来る行事です!」

 

「「……………………?」」

 

 沈黙。

 拓海も真里華も、クラス全員が首を傾げる。

 

「……そう! 文化祭です!!」

 

 誰も手を挙げない状況に、空はすぐに答えを出す。

 その額には、明らかに汗をかいており、その目はなんで分からないのかと混乱しているのが見受けられる。

 

(ああ、そういう……)

 

『そういえばくーちゃん、文化祭の時妙にはりきってたよね』

 

『単純に新人だから気合い入ってたのかと思ってたけど、そっか。好きなんだ、文化祭』

 

『ってことは繰り上げの行事、文化祭になったのくーちゃんがゴリ押したからとかじゃ?』

 

「……せ、生徒みんなが楽しくできる行事だと思ったのは、嘘じゃないから」

 

 顔を赤くしながら苦しい言い訳をする彼女に、クスクスと教室各所から笑みがこぼれる。

 

 ――今この瞬間だけは、重い空気も、気まずさもなく。

 全員、共通の話題で笑っていた。

 

 

 

 

 それから数時間後。午前で授業も終わり、放課後となった教室で拓海は背伸びする。

 

 文化祭に関してだが、ひとまずクラスの実行委員だけ決まったので、明日は何をするかは決める手筈だ。

 出し物は余程面倒なものでない限りは、それなりにやって楽しむスタンスなので、割となんでもよかったり。

 なんだかんだ、去年は灰のパシリやったり楓との問題を片付けたりと一ミリも楽しむ余裕がなかったので、今年こそは楽しもうと微かに意気込んでいる。

 

「拓海ー」

 

「うぃー」

 

 と、真里華から一声かかったので立ち上がり、鞄を取って二人並んで学園を出る。

 

「文化祭かー。急だけど楽しみね」

 

「そうだな。……気早いけど、今年こそ、一緒に回ろう」

 

「! そうね、一緒に楽しみましょ!」

 

 文化祭を話題に、帰路を辿る。

 なんだかこうして、二人でゆっくり歩くのは久々な気がする。

 帰れば最低でも幻衛士がいるし、ここ最近まで警察の事情聴取が続いていたから、そのせいだろう。

 

 灰達の件については一旦終わったが、夢現武闘会がある。

 これから先、こんな風に二人だけの穏やかな時間は滅多に取れないかもしれない。

 そう思うと、なんだか惜しいというか、このまま帰るのはもったいなく思えてきた。

 財布の中身は潤沢。

 なんなら数ヶ月分ある生活費からいくらか持ってきている。

 なら――

 

「そうだ、拓海。今日は昼ご飯どうするの? 拓海が当番だけど、良かったら私が――」

 

「いや、今日は外食にしよう」

 

「……へ?」

 

「ほら、前に行くって言ってた買い物、その荷物持ちしろって話。忙しくていけなかっただろ? やっと時間空いたし、せっかくだからこのままいかないかって思うんだけど……」

 

 思いきってそう話を切り出してみると、真里華はポカーンと口を開けたまま固まる。

 なんだろう、やはり急だっただろうか?

 

「ふ、二人だけで?」

 

「そのつもりだけど……嫌なら別に――」

 

「い、行く!! 来珂にも待っててって連絡する!!」

 

 引き下がろうとしたところを食い気味に返事をする真里華に少し引いてしまったが、その返答を聞いてすぐ口元が緩む。

 

「……それじゃあ、行こうか」

 

「うん!」

 

 というわけで予定変更。

 適当に食べてて、と亮に心話を送って怒鳴られつつ、エリア移動の為に専用モノレールへ乗り込む。

 

(帰りに土産でも買ってやるか)

 

 向かう先は東北の店舗エリア。

 共用・男性・女性に区分分けされた店がいくつか建ち並んでおり、洋服や飲食は勿論、様々なジャンルの品物を取り扱っている。

 即ち、このエリアはそのものショッピングモールと言っていい。

 そこには当然、本などのサブカルもあるので、拓海もたまにではあるが暇つぶしに来たりしている。

 

 モノレールが止まり、駅を出る。

 目の前には様々な大きな建物が広がっているが、まずは腹ごしらえ。

 適当な店に入って腹を幾分か満たし、まずは真里華が前から買おうと思っていたというものを求めて、日用品メインの店舗街へ足を進める。

 そこでフライパン、亮用の茶碗、皿にコップなどを購入。

 今使っているフライパンは取っ手がガタガタで焦げも取れにくくなってきていたし、亮の食器は基本父が使っていたものを代用していた。

 買う暇なくて時期逃した感覚があったので、正直助かる。

 

 それから衣服用品店に向かい、まず女性側から見始める。

 色々と物色して「んー」と唸る真里華の後ろをついて回る。

 

「拓海はどっちがいいと思う?」

 

「え? えー……」

 

 ふと、こうして問われ、少々悩むというか困ってしまう。

 選択肢として選ばれているのは青いチュールスカートと黒いフレアスカートの二つ。

 服装のセンスに自信などないが、どっちも似合いそう、というか絶対似合うだろうし見てみたい。

 

 が、どちらか一方だけということで考えて……

 

「こっち、かな?」

 

「ん、ありがと。こっちなら……」

 

 と、選ばなかった青いスカートを戻すと、上の服を選び出し、先程のスカートと組み合わせては戻す。

 それを繰り返し、二〇分くらいだろうか。

 そのスカートと装飾らしきものをいくつか選び取ると、試着室に入ってしばらく。

 周りの視線が気になって俯いていると、カーテンの開く音がしたので顔を上げる。

 

「じゃーん。どう?」

 

「――――――」

 

 ―――思わず息を呑む。くるりと一回転した真里華は、いたずらっ子のような笑みを見せた。

 先ほどの黒いフレアスカートは勿論として、上はブレザーを脱いで着ていたシャツを露にした上でネクタイを外して紺色の細いリボン。

 これだけでも真里華の魅力二割増しになってたというのに、極めつけに白いリボンで長い髪を後ろでまとめた上に、しかも伊達眼鏡までかけていて、どこかの誰かさんを彷彿とさせる。

 

「……えっと、拓海?」

 

「っ、あ、ああ、うん。その、なんというか……とにかく、似合ってる。可愛い、よ」

 

「っ、そ、そう? それなら、よかった」

 

 ただただ見惚れ、拙く淀んだ拓海の感想に、真里華はにへらと表情を崩した。

 

『ありがとうございましたー』

 

 しばらくして、元の制服に着替えなおした真里華と共にレジへ向かって支払い、お釣りと服の入った袋を受け取って店を出る。

 

「ごめんね、払ってもらっちゃって。今度返すから」

 

「いいって。急に話を振ったのは俺だし、プレゼントってことにしてくれ」

 

 貯めた小遣いの範囲だし、このくらいの見栄くらい、男として貼らせてほしい。

 それにあの姿の真里華を何度でもみたいと思ったからこそなのだから、個人的にはむしろ安いくらいだ。

 

「……分かった、ありがとう。よし、それじゃ、次は拓海の番ね」

 

「え、俺も?」

 

「そう、俺も。だって拓海、この時期のは特に最低限のものしかないでしょ? それは私的にちょっといただけないので、これを期にある程度買ってもらおうと思います。

 ちょっと時間かけるから覚悟するように」

 

「あー……お手柔らかにお願いします」

 

「それは無理な相談ね」

 

 可愛くも恐ろしい笑みを浮かべた真里華は、拓海の手を取ってそのまま男性側に移動し、拓海の衣服を見繕い始める。

 アウトドア系、スポーツ系、ミリタリー系、カジュアル系、たまに可愛い系などなどなど――

 

 ――そして、かれこれ一時間。

 

「……………………」

 

 これ着てあれ着て、としばらく着せ替え人形となっていた拓海は、ぐったりと店の中にある椅子に座り込む。

 

 あれから四、五着ほど購入した後の現在、二人は娯楽品専門ストリートにある本屋に来ていた。

 料理が趣味となった真里華は、レパートリーを増やしたいとのことで、今目の前でレシピ本をじっくり見ている。

 

「拓海はなにか見ないの? 前探してるのあるって言ってたわよね?」

 

「あー……今回はいいかなあ。ここに創世記の本がないのは確認済だし、それよりも今は亮の話を書くのに集中しようと思ってるから」

 

「なるほどねー」

 

(まあ、もうほぼ終わりかけだけど)

 

 夢現武闘会の事もあるし、本探しは一旦中断だ。

 ヒーローという夢をもう一度追いかけ、これから起きるであろうことを小説風に日記に記す労力を考えると、他の事に時間を割く暇はない。

 

「次、どんなの書こっかなあ〜」

 

 が、それで小説を書くことをやめるつもりはない。

 そんな想いを込めたぼやきを吐き出す。

 

 亮が前言ったように本を書くことで色々と誤魔化していた節があったことは否めない。

 けど、それでも趣味は趣味。好きで書いていることに変わりない。

 現に今、次書く小説のジャンルを考えるだけでも少しワクワクする拓海がいて――

 

「あれ、紫苑さん?」

 

「――ん?」

 

 その時、聞き覚えのある女性の声。

 振り向くと、そこには手提げ袋を持った、天使を思わせるほど真っ白な制服を着た少女。

 

(――あの制服は)

 

 彼女の着る服を制服とする鳳姫女学院は、いわゆるお嬢様学校だ。

 娘に箔をつける為。

 娘関係での繋がり・伝手を増やす為。

 はたまた本人が可愛い制服を着たいが為。

 

 多くの著名人の娘が、県内県外問わずその学園にやってくるという。

 

「植野さん?」

 

「どうも。奇遇です、ね……すいません、お邪魔しました」

 

 そんな制服を着た少女――植野未来は、近くの真里華をみて気まずそうにして、そこにいた。

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