夢と現のクロスロード   作:佐月栄汰

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「あー、ちょっと待って! 出るなら一緒に!」

 

「え、ええ?」

 

 あの後、立ち去ろうとする未来を呼び止めた真里華は、そそくさと選び取ったレシピ本を購入して、困惑する未来も連れて三人で店を出る。

 そしてそのまま、話がてら近くの駅前公園に向かって足を進めていた。

 

「なんか申し訳ないです。帰り道に知り合いを見かけたから声かけしただけだったのに、こんなお邪魔しちゃって……」

 

「お邪魔なんて、ただのついでですから大丈夫ですよ。な、真里華」

 

「そうそう。ある程度買うもの買えたし、ちょっと休憩に公園行くつもりだったから」

 

「それなら尚更です。だって、デートですよね?」

 

「うぇっ!?」

 

 未来からの言葉に、真里華は顔を真っ赤にして妙な声を上げた。

 

「えっと、あの、その……そう見える?」

 

「ええ、まあ。端から見れば初々しいカップルが制服デートをしているように見えると思いますよ」

 

「そっかー、そう見えちゃうかー、困ったなー……えへ、うぇへへへ」

 

「……すっごい嬉しそう」

 

「ははは……あー、そういう植野さんは、何を買いにこのエリアに来たんだ?」

 

 嬉しいやら恥ずかしいやら。

 若干引き気味な未来に苦笑しながら、顔の熱さの誤魔化しついでに問いかける。

 すると未来は少し顔を赤らめ、袋を隠すように後ろに手を回す。

 

「え、えーと……下に着るものを、少し。着づらくなったので」

 

「あっ。……すいません」

 

「い、いえ……」

 

 ――やってしまった。

 気まずくなって、二人して黙り込んでしまう。

 根づいてしまったコミュ障な部分はまだまだ治りそうにない。

 

「まさかまだ大きくなってるの……? ちなみに、どんなの買ったのか聞いていい?」

 

「えっ? ああ、えっとですね――」

 

 見かねた真里華が気を利かせたのか、女子同士の会話を始め出し、自然と暇になる。

 ギクシャクした変な空気を漂い始めていて、下手に会話できなくなっていたので本当に助かる。

 

「……【選択(セレクト)】【技能(スキル)】【発動(リリース)】【身体強化TypeN】っと」

 

 とりあえず重い荷物を持ち続けるのが辛くなってきた拓海は、周囲を確認しながら宙に浮かぶ創喚書のステルスを解除。

 なんとか腕を持ち上げて文字をなぞり、身体強化を発動させる。

 すると軽くなる身体に、ホッと息を吐き、

 

(――待て)

 

 目の前に広がる、目的の駅前公園に違和感を感じ取った拓海は、周りをもう一度見渡す。

 この時間帯なら、普通いるはず。

 隅から隅まで探して、探して、探して――だが、やはり。

 

「……やっぱりおかしい」

 

「どうしたんですか?」

 

 呟く拓海に、未来が問う。真里華の機転が効いたようだ。

 後でなにか奢ろうと思うが、それはまた後で。

 今は気にするべきなのは……。

 

「いないんだよ、人が。少し前から、人影すら欠片も見当たらない」

 

「「――っ!?」」

 

 拓海の言葉に目を見開き、二人は素早く周囲を見渡す。

 どれだけ確認しても、人っ子一人いやしない。

 だが、結界を張られた様子もない。

 

(だとしたらどうやって人払いを……?)

 

 そう考えているうちに、誰もいないことを確認した二人は、途端に黙り込む。

 恐らく、幻衛士に連絡を取っているのだろう。

 

(俺も亮に連絡を――)

 

 と、心話を開こうとしたその時――

 

「ッ――――――!?」

 

 心臓が跳ねる、跳ねる!

 躰が怯え出す。

 ある方向――駅のある方へ目を向けた瞬間、恐怖が第六感のように駆け巡る。

 

 視覚には何も映っていない。誰もいないように見える。

 だが、それでも――

 

 危険、危険、危険!

 五感が叫ぶ。身体が警報を鳴らす。

 このままここにいてはいけない、今すぐ離れ逃げないと――

 

「く、そ――――――ッ!」

 

 荷物をその場で落とし、逃げる体勢に入っていた身体を無理矢理に方向転換。

 横腹を中心に引き攣っての痛みに耐えながら、悠長に創喚書を開く二人に向かって走り出す。

 

「たく――ひゃっ!?」

 

「紫苑さ――きゃっ!?」

 

 そしてそのまま、警戒する二人へ勢いよく、覆い被さるように押し倒し――

 

 頭のあったところに、一刀の刃が通り過ぎた。

 

「「――――――」」

 

 息を呑む真里華と未来を横目に、下手人へ目を向ける。

 そこにいたのは、黒いセーラー服、白いスカーフ、赤いマフラーを身に着けた少女。

 その肌、その髪を彩る純白は、無垢を体現したというに相応しい。

 

 眉一つ動かさない無表情のまま、赤い目を拓海達から逸らすことなく、彼女はその手にあるもう一本の刀を振り下ろさんとしていた。

 

「こ、の――――ッ!」

 

 それを拓海が許すはずもなく、地面に手を当て、足に力を込める。

 間もなく振り下ろされるその時、体を捻り、無防備となっている腹部へ神力の込めた脚を叩き込む!

 

「ほむむっ!?」

 

 妙な声を上げながら、盛大に飛んでいき、気が付けば態勢を整えていた彼女は綺麗に着地する。

 あの様子から見るに、わざとふっ飛ばされたか。

 それでもある程度の距離はある。

 

 ひとまず、最初の危機は脱した。

 あらかじめ身体強化しておいてよかった、と安堵する。

 

「……助かりましたが、とりあえず退いてくれません?」

 

「ああ、ごめん」

 

 ちょっと苦しげに言う未来と、固まったまま動かない真里華に一言謝って、体を起こす。

 同じように起き上がる二人の無事を確認して(約一名少しの間ロボットみたいな動きしてたが)、改めて目の前の少女と向き合う。

 

「聞いていた通りの鉄壁。聞いていた通りの愚直。

 思っていたよりはやるようですが、創喚者でありながら自身に身体強化を施すとは、あたしからすればただの愚か者ですね。

 ああ、それとも自殺志願者だったりしますか?」

 

「……返す言葉もないが、流石に不謹慎が過ぎる。その口の悪さどうにかならないのか?」

 

「失敬、嘘はつけないタチでして」

 

「余計、悪いだろ……誰から聞いたか知らないが、お前は幻衛士で間違いないな」

 

「ご明察、と言っておきましょう。黄の幻衛士、水無月(みなづき)沙良(さら)。これから貴方達を狩るものです――【影跳び】」

 

 彼女――水無月沙良は影を踏みしめるとかき消されたように姿を消し、そしてすぐ別の影の下に現れる。

 それを繰り返すことで、どこからどこに現れるのか予測不可能となる。

 

 恐らくこれは能力の類ではなく、忍術。

 技に近しいものだから、拓海の危機感知に反応したのだろう。

 さっき見えなかった理由もこれだと推測する。

 

 影に潜む忍術に、逆手に持つ直刀と脇差の二本に籠手などから察するに、彼女の物語は現代にも存在する忍者――くノ一の話と言ったところか。

 

「っ! 【技能】【発動】【身体強化TypeS】!!」

 

 警戒の為、周囲を見渡す。

 すると真里華の後ろの影から飛び出す沙良を目の当たりにした拓海は、瞬時にスピード型の身体強化に切り替え、跳躍!

 何かされる前に沙良を蹴飛ばす。

 そのまま追うが、すぐに彼女は近くの影を踏み消える。

 

 またすぐ影から飛び出して振るわれる凶器から体を反らし、ブレザーを裂かれながら拳を打つが、これもひらりと躱され影へと潜り込まれてしまう。

 

「チッ、やっぱ駄目か」

 

 思わず舌打ちを一つ。

 難は逃れたが、やはり後手に回る。

 危機感知があっても、真っ向から挑む以外に選択肢のない拓海では相性が悪い。

 

(亮達も、多分まだ来ないだろうし……)

 

 なにせ周囲はまだ明るい。

 能力を使って移動していれば速いだろうが、それだと人目についてしまう可能性が高い。

 そうなれば助けに来るどころでなくなるし、普通の交通方法でやってくるだろう。

 となればまだまだ時間がかかるのは間違いない。

 

「だったら!」

 

 時間稼ぎの為に、拓海は創喚書に手を伸ばし、

 

「ほむほむ、なるほど、聞いていた通り」

 

「視界に入らなければこうも無防備なのですね」

 

 ――前と後ろから、同じ声がする。

 前には、さっきのように影から沙良が現れている。

 なのに後ろを見れば、そこにも確かに沙良の姿があった。

 

「――――――」

 

 予想不可能、回避不可能。

 振り下ろされる二刀。

 それはブレることなく、紫苑拓海を刈り取って――

 

「やらせねェ」

 

 そこに、拓海の後ろに、大槍が降る。

 直後に降り立った男は、その大槍を回収すると前にいた方も穿ち、二人の沙良は霧のように散っていった。

 

「――無事、みてーだな」

 

 上着を腰に巻く、細めながら筋肉質な男――青の幻衛士・アキラは振り返り、未来の、ついでに拓海達の無事な姿を見て、安堵の笑みを浮かべた。

 

「あ、アキラさん!? ど、どうして」

 

「そりゃ創喚者、どんな理由であれ、女一人出歩かせるってーのはこのゴジセー危険だっつー話だからな。邪魔しない程度に見張ってたンだよ」

 

 少し前に腹が鳴り、渡されていた小遣いで腹ごしらえしている途中でこちらの心話を受け取って、今に至るという。

 

「それは……すいません、余計な手間をとらせてしまったみたいで」

 

「良いって、創喚者の言うことも分かっからよ。つっても……」

 

 途端、若干げんなりした様子でアキラは周りを見渡す。

 

「お話、おわりました?」「なぜ待たないといけないのか」「創喚者からの指示とはいえ」「退屈ですねえ」

 

 するとそこにはさっきアキラが消した筈の沙良の姿があった。

 ――あちらにも、こちらにも。

 一人、二人、三人――ザッと見て二〇名ほどの水無月沙良が、拓海達を囲んでいたのだ。

 

「これらは全て分身、か。たく、よりにもよって、いきなりこんな厄介なのに狙われるたァな。これだけの人数を一気に相手にするのは流石に骨が折れる。――創喚者ども、特にシオン」

 

 唐突に名指しで声をかけられた拓海は、ビクリと震える。

 

「な、なんだよ」

 

「手前等には本体探しを頼みてェ。露払い? はしてやっからよ」

 

「アキラさん、そういう小手先は苦手ですから……」

 

「そういうこった。だから頼むぞ。あっ、人手がくれると助かる」

 

 話が終わったと思ったら途端に襲いかかる分身達を一蹴しながら、アキラはニヤリと笑みを向ける。

 

「無茶言いやがって……」

 

 無理難題を押し付けてきやがったアキラとかいう阿呆に、滅茶苦茶文句を言いたいが、ひとまず先に人手についてなんとかしよう。

 そもそもアキラが来る前から呼び出すつもりだったのだから。

 

「【選択】【従騎士(エスクワイア)】【創喚】」

 

 文字をなぞる。

 選び取った文字は、亮以外の人物名。

 幻衛士と共に戦う従者たる従騎士となる者。

 亮と共に物語を駆け抜けた、メインヒロインが一人。

 その名は――

 

「【アルア・シュバルツァー】!!」

 

 唱えれば、神力の雫は人の形を取り、構築されていく。

 しかしそのタイミングでアキラの守りから抜け出した沙良が拓海の前に姿を現す。

 構築中の従騎士諸共、沙良は拓海の首を撫でるように、短刀を振るい、

 

「――へえ」

 

 寸前のところで、三つ編みに編み込まれた黒髪銀眼の、ワンピース型の軍服を着た少女が形を成す。

 創喚されていきなりにも関わらず、彼女は手にあるハンドガン――AMTハードボーラーの銃身を用いて、その一撃を防いでみせた。

 

「従騎士・アルア・シュバルツァー、ここに創喚しました。創喚者、命令を」

 

「時間稼ぎを。それから、数減らしを頼む」

 

了解(ヤー)

 

 拓海からの命令を受けた彼女――アルアは、そう呟くと目の前の沙良を引き寄せ、その勢いのまま投げ飛ばす。

 身悶える沙良を、アルアは屠畜場に送られた家畜のように片手で取り押さえ――

 

「では、まず一人」

 

 もう片手にある、亮の持つものと似た直剣(アーティファクト)・コールブランドで淡々と胴を切り落とし、消滅させた。

 

「流石……」

 

 亮の傭兵としての生き方と戦い方を教えた師匠的存在でもあるのだから、当然と言えば当然。

 なのだが、その彼女の強さの再現がされているか不安だったので、内心ホッとする。

 

(これなら、大丈夫そうだ)

 

 従騎士を一度に創喚できる数は四人。

 だが拓海は、これ以上創喚する気はなかった。

 まだこの辺りの機能の扱いに慣れていないのに、複数人従騎士を呼び出したところで指示が回るとは思えない。

 

 拓海自身、創喚者であっても前衛であるのもそうだし、アキラに沙良本人を探すことを任された以上、前に出て探す必要がある。

 正直、他にも便利な従騎士がいるのだが、そうなると指示にかかりっきりになる可能性がある。

 他に思考を割くと、どっちつかずになって集中出来なくなると思ったから、アルア個人の強さに頼りたかったのだ。

 

「「【従騎士】【創喚】!」」

 

「【ナナ・アストレア】!」

 

「【シグー・N・ルード】――シグナさん!」

 

 その時、便乗する形で真里華はナナという優しそうだが見るからに王女さまな風貌をした槍を持つ栗毛色の二つ結びにした髪の少女を、

 未来はシグナという大剣背負った活発そうな小柄な赤髪短髪の少女を創喚。

 そしてそれぞれの獲物を手に構え――同時に分身達の動きが止まる。

 静寂が――緊迫した空気が、周囲を包む。

 

 ――なにか一つ。

 きっかけ一つあれば、その僅かな静寂があっという間に終わりを告げると確信する。

 

《急にすまない、言い忘れていたことがあったので端的に伝えよう》

 

 と、額に汗を滲ませた時、突如として楓から心話が送られてきてくる。

 

《悪い、楓。こっちは今それどころじゃ――》

 

《同志、君の従姉、帰ってくるみたいだよ》

 

「…………はっ?」

 

 思わず心話ではなく、実際に声が出てしまう。

 その声を合図に、幻衛士達は弾けるように跳ぶ。

 

《い、何時?》

 

《確か、今日の昼頃……ああ、つまりもうとっくに過ぎてるね!》

 

《おま――》

 

 なんでそんな大事なことを今言うんだ――!?

 そう文句を思おうとするが、その前にアキラ達は沙良達とぶつかり合い――乱戦が始まった。

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