夢と現のクロスロード   作:佐月栄汰

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 咲き、散るように舞う火花。

 撃ち出された弾丸が斬り落とされる度、武器同士が交わる度、発せられた衝撃が頬を撫でる。

 突然の楓からの心話に動揺していた拓海は、その感触でハッと我に返った。

 

「落ち着け、俺」

 

 楓をとっちめ……問い詰めるのは後でも出来るだろう。

 今は目の前のことに集中しろと、自分の頬を叩く。

 

「まずは――」

 

 そうしてぼやけた頭を振り、真里華達の方へと振り向く。

 追加で創喚したらしい、従騎士達が彼女たちを囲って、時折迫る沙良の分身の特攻を防いでくれていた。

 

「……よし」

 

 これなら、本体探しにある程度集中できる。

 身体強化の強化部を五感を中心として、この常軌を逸した戦場の渦中へ飛び込む。

 

(なにか、どこか、違いは――)

 

 接近する沙良の分身達をなんとかあしらいながら、目の前に広がる、多くの沙良達の細部を確認する。

 しかしどれだけ見比べても、やはりこれと言った違いは見当たらない。

 

「消し飛べ――――!!」

 

 そこに、炸裂するアキラの砲撃。

 その範囲内の、五名の沙良があっという間に消し飛ぶが、その穴ができた景色もすぐに元に戻る。

 

「ちょっと青バカ! 砲撃撃っといて全部消せてないじゃないの!」

 

「うっせえ、赤バカ! たった一発で全部やれるわけねェって少し考えりゃァ分かるだろうがバカが!」

 

「なんですってぇ! なら見てなさい、これからあーしがぜーんぶ消し飛ばしてやるんだから! 【武具伸張(のびろ)】ぉ!!」

 

 大声で喧嘩しながら、シグナは大剣にエネルギーを纏わせ、大きく伸びたエネルギー体の剣としてスイング!

 その大振りに巻き込まれた分身達は、吹き飛ばされながら消滅した。

 が、それでも全て巻き込むことはできず、あっという間にいなくなった分の分身が補充されてしまう。

 

「……で、なんだって?」

 

「むむむ、むー!!」

 

 荒れるように大剣を振り回すシグナに苦笑しながら、アキラは幾度も撃ち込む砲撃で、数多の沙良を吹き飛ばす。

 

「喧しい。少しは静かにできないものでしょうか」

 

「にゃはは……わたしは、賑やかでいいと思うな」

 

 騒ぐ彼等にアルアは悪態をつきながら、拓海に振り払う火の粉なり得る者達を撃ち抜き切り裂き、苦笑するナナも迫る分身達を穂先を鎖で縛られた槍で薙ぎ払う。

 

 最初に比べると傷だらけになってしまっているが、消しても消しても元の人数に戻る分身達を相手によく持ちこたえてくれている。

 少なくとも、最初にいた二〇の分身は一人残らず消えているだろう。

 

(つまり、この中に本体が混じっていることはない)

 

 考えてみれば当然だ。

 近くにいなければならない、みたいな制約がない限り、態々見つかりに来るような真似はしない。

 

「と、なれば、下から見続けても意味はない」

 

 従騎士達に課せられた制限時間も迫ってきている。

 まだ焦るほどではないとはいえ、急ぐ必要があるのは事実。

 しかし、だとしてもどうしたものか――

 

「創喚者!」

 

 額に血を滲ませた、アルアからの叫び。

 遅れて心臓部に、ゾッとする感覚。

 見れば目の前に、投げつけられた直刀が、爆発的な速度で迫ってきていた。

 

「――、【技能】【発動】【武具強化TypeD】!」

 

 咄嗟に硬くしたブレザーを盾のようにして、迫る切っ先を防ぐ。

 

「ッ、っぅ、――――あ!?」

 

 ブレザーに穴が空くことはなく、しかしその衝撃で身体ごと後ろへと足を引き摺られ、五メートルくらい先まで押されてしまった。

 ブレザーを持った腕も痺れ、震えが止まらない。

 こんなものを何度も受けてしまえば、腕の神経そのものが壊れて使い物にならなくなるだろう。

 

 だが、しかし。

 

「――これだ」

 

 更なる追撃。三方向に沙良の姿。

 周囲を軽く見渡して、一步後ろに。

 三人が束になって振り上げる一刀達を、揃ってブレザーで受け止める。

 

「ギッ、――グッ、ぅ――――!」

 

 腕が軋む。体が持ち上がる――その瞬間、盾にしたブレザーを下斜めに。

 必然的に沙良の攻撃は斬り上げるような形となり、拓海は空高く飛ばされる。

 どうにかして体勢を整えようと四苦八苦しながら、周囲に目を配り――目を見開いた。

 

《――上! 駅の上だ!!》

 

 落下する拓海をアルアに受け止めてもらいながら、アキラへと心話を送ると、アキラは壮絶な笑みを浮かべた。

 

「――上出来だ。【オレ式魔導の一番】、【強化付与(まとえ)】!」

 

 刃に血を塗り始め、アキラらしい詠唱を一つ。

 すると血はルーンルインに纏われ、燃える血の槍となる。

 そして構え、脚腰を中心に力を込める。

 

「オォ――ラ――ァア――――!!」

 

 そして繰り出すは、力を振り絞った投擲!

 風を切り、直線上にいた沙良達を抉り飛ばし、その人壁に風穴が開けた。

 

「フッ――――――!」

 

 その後を追うため、跳躍。

 風穴が埋まる前に通り過ぎ駅へと目を向ける。

 するとそこには確かに沙良の姿があり、彼女に向かって投げつけられた血槍は、一足先に目標へと辿り着く。

 

 散々翻弄してくれた礼だと言わんばかりに勢いの増した槍は、沙良の身体を穿つ――!

 

「良くも見つけてくれましたね」

 

 そう思った次の瞬間、それは彼女の背に浮かんでいた五本の刀によって防がれた。

 分身達にはない、五の浮遊刀。

 それらがただの刀でないのは遠目から見ても明白だった。

 幻衛士すら溶かす血を纏う槍を受け止められることも鑑みるに、恐らく曰く付き。

 見分けるのには、これ以上ない証拠となる。

 

「正直、あの【影分身】の山に埋もれるだけだと思っていました」

 

「そりゃァ、嘗めすぎだ、なァ!!」

 

 追いついたアキラが弾き飛んだルーンルインを掴んで薙き、それを沙良はふわりと跳んで避ける。

 互いに着地、からの激突!

 

「……、どうやら、そのようですね」

 

 鍔迫り合いながら素直に認める沙良に、アキラは怪訝そうにして――拓海達を覆っていたはずの、周囲を囲う分身の軍勢を見て顔を顰めた。

 

「では敬意を評して、本来の戦いをしましょう。正直、影分身は便利ですがあたしの好みではなかったので、ちょうど良かった」

 

 互いの武具を弾き合い、沙良は三歩後ろに。

 刀を持ったまま、その手で印を組む。

 

「さて、ではその前に、余興を一つ。――【分身変化(へんげ)】【苦無砲】」

 

 分身達が小さく飛び上がり、変化する。

 その身は沙良のものから、文字通り大きな苦無へと。

 それらは全てアキラ……ではなく、拓海達へと切っ先を向けていて――

 

「なっ――」

 

「【(しゃ)】!」

 

 アキラが絶句する中、総勢二〇の巨大苦無が放たれた!

 豪、と唸るように風を切る。

 迫るそれは、撃鉄を打った弾丸のよう。

 

 迎え撃つ暇などない。間に合わない。

 逃げろ、背を向けて走れと、身体が言っている……!

 

「ッ!」

 

 降ろされていた拓海はアルアと並んで走り出す。

 シグナ、ナナもそれぞれ創喚者を担ぎ、降り注ぐ鉄の雨から一心不乱に逃げ惑う。

 他従騎士達は迎え撃とうと試みるが、一、二個しか壊す事は叶わず他の苦無が着弾、圧死する。

 

「良く逃げますね。ですが、上だけ見ていていいのですか?」

 

「手前こそ、余所見してンじゃねェ――――ッ!」

 

 駅から降り、アキラの猛攻をふわりと躱しながら、再び印を組む。

 地面に突き刺さっていた筈の苦無が再び浮き上がり――撃ち出されたその切っ先は、拓海の方へと向けられていた。

 

 迫る、迫る、迫る!

 身体が警告する。

 こちらに迫りくる三つの黒い物体は、容易くこちらの命を押し潰すと。

 しかし大きさが大きさ故に、いつものように避けられない事も確信していた。

 

 藻掻くように回避行動を取る――が、やはり間に合わない。

 そうして拓海に向かって着弾する直前、その間に割り込んできたアルアは、なんとかコールブランドを以て防ぐ。

 

「っ、く――ぁあア――――!?」

 

 しかし受け止めることが叶わず、後ろにいる拓海共々吹き飛ばされてしまった。

 数メートル先の地面に転がる。

 身体強化もあり、攻撃そのものはアルアが受け止めてくれたので、大したダメージはない。

 

「無事、ですか。創喚者」

 

「あ、ああ、俺は。……だけど」

 

 体を起こし、空を見上げる。

 そこには嘲笑うように、見下すように、苦無達が漂っていた。

 周囲の真里華、未来達も似たような状況に陥っている。

 ――しかも。

 

「……時間切れ、ですか」

 

 粒子を吐き出し、アルアの四肢が薄れ始めていた。

 その光景に、拓海の血の気が引く。

 それ即ち、他の従騎士達も退去が始まっている事を意味する。

 アキラのいる未来はともかく、このままでは拓海と真里華は無防備になる。

 しかし、にも関わらず当のアルアに暗い色はなく、どこか安心した――信頼の色が顔に出ていて、

 

「まったく、遅いですよ、少尉」

 

「悪かった」

 

 ――その時、待っていた人の声がした。

 

 バチバチッッ!!

 雷が迸り、約十の苦無が消し炭になる。

 さらに拓海の前を滑り込むように降り立つ男が一人。

 双剣を持ったまま、腕を組むように構え――瞬きの間に、その腕がブレる。

 構えを解く。苦無達に変化はない。

 しかしそこに目もくれず、亮はついたゴミを払うように、剣を軽く振るい、

 

「――――――散れ」

 

 ――次の瞬間、残った苦無達が粉々に砕け散った。

 

 その剣技に名はない。

 子供の頃に考えたものではなく、戦場の最中に編み出した剣技故に、技を付ける暇がなかったから。

 しかしあらゆる力を行使して高速で剣を振るい、多くの敵に向け斬撃を飛ばしまたは斬るこれは、彼にとっても奥義と呼べる。

 足を止める必要があるが、こういう時や、大多数いる戦場ではめっぽう役に立つから、重宝していた。

 

「無事、だな」

 

「うん、間に合ったみたい」

 

 かくして苦無は全て砕かれ、現れた男と女――亮と来珂はそれぞれ創喚者の安否を確認してホッと肩の力を抜いた。

 

「本当にギリギリですが。少尉、くれぐれも」

 

「……分かってるよ」

 

「ならよろしい。では創喚者、少尉。私はこれにて。また必要な時はぜひ呼んでください」

 

 一言二言口にして、アルア達残った従騎士達は姿を消し、それを見届けた亮と来珂は沙良に向かい合う。

 

「黒、それから白の幻衛士ですか。自身の創喚者を放って一体どこでなにをしていたのやら」

 

「放っとかれたのはこっちの方だよ、真っ白いお嬢さん」

 

「あらそう。まあ、そこはあたしには関係のない話ですね。それより幻衛士が三人揃ってしまいましたか」

 

「ああ、もうアンタ達に勝ち目はない。投降してくれると、ありがたいが」

 

「まさか、そんな自害するような真似するわけがないでしょう」

 

 翼のように、沙良の背に浮かんでいる五本の刀が広がる。

 

「幻衛士が三人。相手にとって不足なし。――故に。

 我が剣にて踊りなさい」

 

 跳躍。沙良の背に浮かんだ五刀が翼の役割を担い、影に惑いながら不規則に飛び回る。

 そして頭上から落下するように現れ、双剣構える亮へと迫り――

 

「やめなさい」

 

 飛来する小さいものが沙良を撃ち抜き、地面に叩き落とした。

 

 一体、なにが――突如として起こった出来事に呑み込めないでいると、沙良の隙を突こうと動き出していた幻衛士達にも飛んできて、それを弾き飛ばす。

 

 偶然、その一つが拓海に向かってきたので、咄嗟にキャッチして確認する。

 

「――これは」

 

 それはなんの変哲もない、ただの五百円玉だった。

 周りを確認すると転がってくる、それら全ても同じ硬貨。

 物的証拠的には、これが飛んできていた物体の正体となる。

 

 と、なると――

 

「五百円玉、いやコイン、を飛ばす……羅漢銭、か?」

 

 羅漢銭とは、正確には指弾というその技術を用いた暗器の一種だ。

 暗器である理由は、言うまでもなくその隠蔽力。

 だが、専用のコインを日本にはほぼないだろうし、なにより武器としての殺傷能力が低いので、実際に使う人は少ないだろう。

 

「だとしたら」

 

 こんなもったいないことをする人、こんなマイナーな武術を使う人を、少なくとも拓海は一人しか知らない。

 

「……まったく。人の命令を聞けない幻衛士を持つと苦労しますわ」

 

 沙良の後ろ。即ちモノレール駅の方から一つの影。

 悪態をつきながら現れたのは、敬遠されそうなくらい端麗な顔立ちをした、まさに高嶺の花を体現したような美女だった。

 

 今未来の着ているものと同じ鳳姫女学院の制服、のワンピースをドレスとして使うためか、ブレザーとネクタイの代わりに学園指定の赤と黄ラインの入ったショールを羽織っている。

 そこには通常の制服にない冠のアクセントを加えられており、ふわふわと柔らかそうなウェーブのかかったブロンドの髪と翡翠の瞳によく似合っている。

 

「……やっぱり、そういうことなのか」

 

 そしてその手には、やはり見覚えのある黄色の本があり、その姿に未来が目を見開いた。

 

「会長……!?」

 

「あら、みーちゃんまでいらっしゃるのね。その本の色からして青の創喚者、と言ったところでしょうか。お話ししたいところですが、今は」

 

 相変わらずのあだ名を付ける癖のある彼女は、逸れていた目をこちらに向ける。

 

「……しかし沙良から聞いた時はまさかと思いましたが、本当にたっくんだったなんて」

 

「それはこっちの台詞だよ、えっと……ここは黄の創喚者って呼ぶべきなのか?」

 

「そのままでいいですわよ。わたくしも黒の創喚者なんて呼びたくないですし」

 

「それなら遠慮なく。じゃあまず――おかえり、リア姉」

 

「ただいま、たっくん」

 

 そう言って彼女――四葉ナタリアはハツラツとした笑みを見せた。





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